上 下
33 / 50
第3章 冒険者育成学園ー1年目前期編ー

第18話 夢見る少女と琥珀の虎との決着

しおりを挟む
「あぁ! 橋がない!」

 目の前の橋が切り落とされ、行き止まりになっていました。

 そして、先ほどの二人が追いついてきました。

 怒りに震えたグレッファが言葉を放ちます。

「さて、もうお前らに逃げ場はない。僕たちから奪った商品も返してもらうぞ」

「嫌だ!」

 アリアは即座に否定します。

「楽しい鬼ごっこも、もう終わりよ、お嬢ちゃん。大人しく降参しなさい」

 リリーシャはスペアの靴に履き替え、戦闘の準備は万全な様子です。

 アリアは「降参しないよ。私の方が強いもん!」と言い、杖を構えました。

「口だけは達者だなぁ! リリーシャ、必殺技の準備をしろ」

「分かったわ」

 最初に動いたのはグレッファでした。自慢のスピードでアリアの背後を取ろうとしますが、アリアはそれに即座に反応しました。

 グレッファの拳を右手で受け止め、左手で持っている杖で顎を強打します。

「ぐおっ。またもや、僕の顔を!!! 許さん、いててて」

 アリアは、掴んだグレッファの右手に力を込め、そのまま持ち上げて地面に叩きつけました。

「ガハッ!」

「覚悟しなさい!」

 アリアはリリーシャからの攻撃を警戒しながら、グレッファを森の中に投げ入れました。

「ブーストエンジン改! ギアチェンジ!」

 リリーシャがそう叫ぶと、彼女のブーストシューズが変形を始めます。踵とつま先の部分が入れ替わり、円形の砲台が現れました。

「死んでも恨まないで頂戴ね。『エナジーバーン』発射まで、十秒前!」

 アリアは内心、『ちょっとやばいかも?』と焦り始めました。自分一人なら避けられるが、自分が避けてしまうと、後ろのみんなに当たってしまいます。少し迷った後、受け止める覚悟を決めました。

 そしてカウントダウンが終わり、放たれようとした瞬間、森の中から「『飛翔風』!」という声が響き、激しい風が巻き起こります。リリーシャはその風に吹き飛ばされました。

 森の中から現れたのはゼルでした。

「あ! ゼルだ! 助けてくれてありがとう!」

 ゼルは「勘違いするな。別にお前を助けたわけじゃない」と冷たく言い放ちました。

「そうなんだ。でもありがとう」
「俺様たちの邪魔になるな。子どもたちに怪我をさせるんじゃねえぞ」

 アリアは素直に頷き、子どもたちを守るように後ろへ下がりました。

 しかし、その時、「僕の邪魔をするなぁぁっ!」と怒り狂ったグレッファが再び襲いかかってきました。けれども、その瞬間、別の人影が現れ、彼を地面に叩きつけました。

 その人物は、以前洞窟内でメルジーナを助けてくれたフードを被った男でした。深い紺色のフードを頭に被り、その下からはサファイアのように澄んだ目が冷静に周囲を見渡しています。フードの隙間からは、淡い水色の髪がちらりと覗いており、その身軽な動きと相まって、まるで忍者のような印象を与えます。

「あ! いつも高い所にいるお兄さんだ!」

 アリアはその男の姿を何度か見かけていたようで、親しげにそう声をかけました。

「お兄……さん?」と、忍者のような風貌の人物が戸惑いながら返します。

「なんだ貴様たちは! 僕たちの商品を横取りしに来たのか!」

 怒りを露わにするグレッファに対し、ゼルは冷静な口調で応じます。

「お前たちは、ハンターギルド『琥珀の虎』だな。そして、指名手配中の『グレッファ・デビローゼ』と『リリーシャ・アンジャレル』。お前たちをギルド警備隊に引き渡す」

「ふんっ、あたしたちがそう簡単に捕まると思ってるのかい? 任務はもう少しで完了するんだ」

「俺様に捕まるのが任務か? よく分かってるじゃないか」
「調子に乗ってんじゃないよ! 坊ちゃんも、たっぷり可愛がってあげる!」

 リリーシャはジグザグに移動しながら、素早くゼルに接近します。

 ゼルは左手で剣の柄をしっかりと握り締め、右手の親指と中指で剣の棟をつかむと、切っ先に向かって指をスライドさせながら静かに言いました。

「来い、火の精霊サラマンダー! 精霊剣技、『業炎剣・バーナーブレイド』!」

 ゼルが呼びかけると、可愛らしい姿をした火の精霊サラマンダーが現れ、嬉しそうに笑いながらゼルの剣に炎を纏わせました。

「ふんっ、大したことをするのかと思えば、ただの炎を纏った剣か。そんなもの、いくらでも見たことがあるわ。珍しくもないわね」

 リリーシャが不敵な笑みを浮かべて言い放ちますが、ゼルは鼻で笑いながら「それはどうかな?」と答えます。

 ゼルが剣を一振りすると、炎の斬撃が飛び出し、リリーシャに向かって迫ります。リリーシャはそれを蹴り飛ばそうとしますが、斬撃が彼女の足元で高音を立てて爆発しました。

「くっ……ブーストシューズが……!」と靴の損傷を気にしている間に、ゼルはすかさずリリーシャの胸を狙い、剣を突き出します。

 リリーシャは素早く体を逸らして避けますが、ゼルはそれを見越していたかのように彼女の首元を掴み、そのまま地面に叩きつけました。

「ガハッ!」

 ゼルは剣を地面に突き刺し、「『天地衝』」と冷静に呟きます。

 ゼルを中心に三方向へ衝撃波が走り、地面に大きな穴が空き、リリーシャはその衝撃で突き上げられました。

 リリーシャが再び地面に落ちてきた瞬間、ゼルの攻撃はさらに続きます。

「精霊術コンボ、『飛翔風』!」

 割れた地面から強風が巻き起こり、リリーシャはさらに高く上空へと投げ出されました。

「い、いやぁー!」

 ゼルは剣を納め、フードの男に視線を向けます。

「加勢は必要か?」

「いえ、大丈夫です。もう終わりです」

 フードの男がそう答えると、リリーシャが空から落下してきました。しかし、彼女は既に気を失っており、反応はありません。

 その時、グレッファが再び襲いかかろうとしましたが、フードの男は冷静に人差し指と中指を立て、「『忍法・杭薙喰血くいなぐち』」と呟きました。

 瞬く間に、男はグレッファの背中に二つの特殊な杭を打ち込みます。その杭は破裂し、グレッファの背中から血飛沫が飛び散りました。彼が近づく間もなく、フードの男は目にも留まらぬ速さで一閃します。

「あ……あぁ……」

 その場に力なく倒れ込むグレッファ。彼とリリーシャは、無抵抗のまま紐で厳重に拘束されました。

 ゼルたちの活躍により、琥珀の虎を無力化することに成功しました。

 ゼルはフードの男にお礼を述べます。

「あなたのおかげで、無事に子どもたちを救出できました。ご協力、本当にありがとうございます」

「いやいや、僕は特に何もしてないよ」

「あなたって、もしかして……」

 ゼルが何かを言いかけると、フードの男は「さすがにバレちゃったか」と、頭を抱えました。

「忍者に憧れている人ですか? コスプレがよく似合ってますね」

「ち、違うよぉ! コスプレじゃないってば!」

 その時、一報を聞きつけたグスタフとルフォンがその場に現れます。

「なんだぁ? もう終わっちまってるじゃねーか。急いできたのに損したぜ」

「グー君がチンタラしてるからだよっ!」

「しょうがねーだろ、歩きにきーんだから」

 ルフォンはメルジーナたちにも聞こえるように、「みんな、ありがとう! お疲れ様! ハンターギルドと子どもたちは私たちが連れて行くから、君たちは試験に集中してねー!」と元気よく言いました。

 その後、ルフォンはゼルに近づいて話しかけます。

「あー! ゼル君様だぁ! やっぱり君が全員倒しちゃったんだねっ! すごいすごーい!」

「ゼルでいいですよ、エンジェ先輩。あそこに寝ている役立たずとは違いますから。それに、あそこにいた忍者のコスプレの方が助けてくれたんです」

「ん? 忍者のコスプレの人? どこにいるの?」

 ゼルが手を置いた場所には、誰もいませんでした。

「あれー? おかしいなぁ。さっきまでは確かにいたんだけどなぁ」

 こうして、ハンターギルドとの対決に決着がつきました。そして、実力考査も無事に終了しました。

 内容は先生たちが隠した宝箱を見つけるという簡単なものでした。

ーー放課後ーー

 アリアは学園長に手紙を渡そうと、再び学園長室を訪れました。

 ノックをしても反応がないため、諦めて帰ろうとしたその時、アリアの背後に大きな影が映りました。

 振り向くと、そこには疲れ切った学園長が立っていました。

「あ! 学園長! ママから手紙を預かっているの」

「アリア……ヴァレンティン……。魔道具……」

 不気味に微笑む学園長に、アリアは驚きます。

「学園長、どうしたの? 体調でも悪いの?」

 アリアの問いかけに、学園長はハッと我に返りました。

「あら、ごめんなさいね。あなたのお母さんのメディのことを思い出していたの。早速、手紙を預かりましょう」

「ママの話、聞きたい!」

 アリアは学園長に手紙を渡しました。

「後でゆっくり読ませてもらうわね。それと、あなたのそのペンダント……見せてもらえるかしら?」

「これ? いいよ!」

 学園長は鼻息を荒くし、恐る恐る手を伸ばしました。

 しかし、ペンダントに触れる直前、突然それが緑色に光り始め、暴れるように揺れ出しました。

「ぐあぁぁっ! な、なんだこの光は! なぜ抵抗するんだぁっ! なぜ我を拒むっ!?」

 アリアもその輝きに目を伏せます。

 光が消えると、そこには冷や汗をかき、息を切らしている学園長がいました。

「なに、今の? 学園長、大丈夫?」

 アリアは学園長を心配そうに見つめます。

「だ、大丈夫ですよ……ううっ、すみません、今日はこれで失礼します。また明日」

「また明日ね! お大事に!」

 きつそうな学園長を見送ったアリアは心配しつつも、手紙を無事に渡せたことで少し安心した様子でした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました

mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。 ーーーーーーーーーーーーー エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。 そんなところにある老人が助け舟を出す。 そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。 努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。 エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

番を辞めますさようなら

京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら… 愛されなかった番 すれ違いエンド ざまぁ ゆるゆる設定

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

処理中です...