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第3章 冒険者育成学園ー1年目前期編ー

第7話 夢見る少女と天才美少女科学者ソフィア

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 課外授業二日目、アリアとメルジーナは暗い洞窟の中を探検しています。

 一日目のアリアとメルジーナは二人で協力して、魔物を狩ったり、薬草を摘んだり、料理を作ったりと充実な一日を過ごしていました。何事にも慣れているアリアを見て、メルジーナは感心を受けていました。

 それもそのはず、アリアは約一年一人で旅をして慣れていたので、このくらいは余裕です。メルジーナは勉強や魔物狩りは出来ても、魔物を解体したり、料理はできませんでした。料理もアリアが作った物を二人で分け合って食べています。

「探検、冒険、楽しいなー! この先には何があるんだろう?」

 アリアは松明を持ってどんどん先に進みます。

「アリアさーん! 迷子だけにはならないでくださいねー!」

 メルジーナの問いかけに、アリアは元気よく、「分かったー!」と答えました。

「メルジーナちゃん! 別れ道と下る階段があるよ?」
「アリアさんはどちらに行きたい?」

「んー、ーー下! お宝があるかも!」
「じゃあ、地下に潜りましょっ! お宝見つけましょうね!」

「レッツゴー!」と右腕を大きく上げ、アリアは先に階段を降ります。

 洞窟内は静寂に包まれていましたが、その静けさは突然の轟音によって打ち砕かれます。

「爆発!? アリアさん! 奥へ早く逃げて!」

 爆発音が洞窟の壁に反響し、耳をつんざくような音が響き渡る。巨大な火花が飛び散り、暗闇の中に一瞬の光が炸裂します!

 岩壁が崩れ始め、粉塵が舞い上がり、視界が急速に遮られます。揺れる地面に足元が不安定になり、頭上からは崩れた岩が次々と落ちてくる。

「アリアさーーーん!」メルジーナが叫びましたが、その声も爆発の轟音にかき消されました。

 熱と圧力の波が押し寄せ、身体が吹き飛ばされるような感覚がメルジーナを襲います。

「ゲホッゲホッ!」彼女は息をするたびに喉に砂が入り、目を開けることすら困難です。辛うじて壁に身を寄せ、体を守ろうとする。

 やがて、爆発の音は次第に収まり、静寂が戻ります。しかし、洞窟内には爆発の爪痕がくっきりと残され、視界はほとんど無く、危険な状況が続いていました。

「くっ、岩が邪魔でアリアさんのところへ行けない」

 崩れ落ちた岩が二人の通路を塞ぎました。岩の崩壊が二人の間に立ちはだかり、互いの姿が見えなくなっています。

「メルジーナちゃん! 大丈夫? メルジーナちゃーん!」

 階段の下にいたアリアは無事のようです。

 音が響き渡り、少し経ってメルジーナから返事がやってきます。

「アリアさん。私は無事よ。アリアさんは?」
「私はなんともないよー! この岩壊していいかな?」
「アリアさんの力で岩を砕いたら岩雪崩が起きて二次被害に広がるわ! 一旦別行動を取りましょう! アリアさんはそのまま階段下に行って安全を確保して! 私は助けを呼んでくるわ!」
「分かった! お願い!」

 メルジーナは手探りしながら、入口の方へ向かいました。

 アリアは彼女の言葉通りに先に進みました。

「メルジーナちゃん、大丈夫かな」と心配そうに呟くアリア。

 階段を下り終えたアリアは道なりに進んでいくと、開けた場所があり、そこには灯りが見えました。

 その場所は、壁一面に一つの物語のような壁画が描かれています。天井には二つの羽が生えている一人の女性が絵がかれています。その女性は長髪で緑色の髪をしており、目からは涙をこぼしています。        
 そして、壁画いっぱいに、人々がたくさんの道具らしき物を差し出しているような絵がありました。

「わぁっ、すごーい! 綺麗。たくさん絵があるー。ーーあれ? 誰かいる」

 アリアは、壁画を記録している少女に出逢います。

「こんにちは! 私はアリア・ヴァレンティン! よろしくね! あなたは?」

「ふむ? アリア・ヴァレンティンということは、一年生の推薦組かね?」

 その少女は綺麗な金髪で長い髪を背中まで垂れ流しており、トパーズのような温かみのある輝きを放つ目で、身丈の合わない大きい白衣を着ています。

「うん! そうだよ! なんで知ってるの?」
「私はソフィア・ローレンス。みんなからは天才美少女科学者ソフィアちゃんと呼ばれている。そして、天才美少女研究者でもある。ゼルが君のことを話していたからね」
「ゼル? 聞いたことある名前だけど誰だっけ?」

 アリアはゼルのことをあまり覚えていないようです。

「三人組の小さい方だ。ほら、あの黒髪ショートで口癖が、『俺様は貴族の息子だぜ! 俺様は偉いんだ!』っていつも言っている奴だ」

「あぁ! いた気がする! ソフィアちゃん声真似上手いね!」
「あいつのことで褒められても嬉しくないが、私もアリアと同じ教室の生徒だ。まあ、一度たりとも出席したことはないがな」

「学園に来ないの?」
「私のメインは学業ではなく、科学の実験と研究だ。私はそれを許されている。何せ私は天才美少女研究者だからな」
「すごーい!」

 ソフィアはアリアと同じクラスの女の子で、ゼルの父が一目置いている存在です。頭が良く、とても切れる人物のようです。

「私はすごくて天才なのだよ。アリアはあれだね、よく分かってるじゃないか」
「えへへっ、ソフィアちゃんはなんの研究しているの? この壁画を調べてるの?」

「うむ。私は遺跡調査もしている。ここにある壁画は魔道具の起源を示唆しているものと思われる。上を見たまえ」

 ソフィアはそう言うと、天井の緑色の髪の女性を指を刺しました。アリアも指が刺す方を見ます。

「あの女性の耳に注目するんだ。耳が長いだろ?」
「うん、長いね!」
「あれは、今は全滅した種族のエルフだ。そして、壁一面に描かれている人間が何か持っているだろ? あれが魔道具になる物と私は考えている。そして、女性のエルフの涙が、地面の絵にも落ちてるだろ?」

 次は涙が落ちた先の地面の絵を指差します。

「ほんとだ! これも魔道具?」
「半分正解だ。涙が落ちた先の魔道具は緑色に光っているだろ? これは強力な魔道具と言われている、『古の魔道具』という物だ。この古の魔道具は普通の魔道具と違って、人や動物、魔物に大きな影響を与える物が多いと言われている。中には世界の秩序を歪ませることができる物もあるとかね」
「例えばどんなのがあるの?」

 ソフィアはカバンの中にある一枚の資料をアリアに見せました。

「私が手にしているのは、『悪心吸瓶あくしんきゅうびん』と言う古の魔道具だ。人の悪い感情などをその人物から取り出して貯蓄する魔道具だ」

 そこにはソフィアの研究結果が記されていました。

 この古の魔道具を使うと、人間のマイナスの感情、例えば、怒りや悲しみなどの感情だ。それらの感情がなくなり、優しい人になってしまう。それだけ言うと聞こえがいいかもしれないが、貯めた負の感情を別の人に移し替えることができるため、人格が変わる人もいる。

①:人から負の感情を奪い、マイナスエネルギーとして貯めることができる。
②:マイナスエネルギーを別の人物へ送ることができる。
③:そして、負の感情が感情という名の器が満タンになると、その人物は爆発して亡くなってしまう。

「怖い魔道具だね。何のために作ったんだろ? それと、普通の魔道具と古の魔道具の見分け方ってあるの?」

「これが古代にあった魔道具の力さ。とても恐ろしい物だ。私は興味があるがね。ーー見分け方は簡単さ、魔力を付与した時や魔道具の効果が発動する時に、緑色に光る性質があるんだ。理由はエルフの涙の成分が関係していると私は考えている。まあ、そのエルフが絶滅した噂があるから真相は闇の中だ。だから私は色んな遺跡を調査をしてみて回っている。いつか真実に辿りつくためにね」

「わぁ、そうなんだー! とっても面白いね! エルフの涙って緑色に光んだ!」

 ソフィアの話を聞いたアリアはとても興味がありそうです。

「そうだろそうだろ? アリアはあれだね、見る目があるねーーっと楽しいお話は一旦お終いにしよう。ではアリア、後ろにいる魔物の討伐を頼む。私は天才美少女科学者故、非戦闘員なのだよ」

「ブルルッ」

 遺跡の奥から現れたのは、『角魔獣 ブルホーン』です。アリアたちより二回り大きい四足型の魔物で、鋭い目で敵を威嚇し、目の横には二つの鋭利な角を持ちます。鍛えられた大きな体で全てを破壊してしまう、危険度三に指定された魔物です。

「分かったー! あれを倒せばいいんだね!」
「うむ、サポートはするから頼んだ。奴の力の源は角だ。あれにヒビでも入れたら弱体化する」

「グオォォ」とブルホーンは雄叫びを上げながら、アリアに突進してきます。

「力勝負なら負けないもん!」とアリアは杖を置いて、突進してきたブルホーンの角を両手で受け止めました。

「ブルルッ!」
「すごい力! でも私もまだまだ本気じゃないよー! えーーいっ!」

 アリアがさらに力を入れると、ブルホーンの角はミシミシと音を立て始めます。

「杖を所持していたから魔法使いだと思ってたが、アリアはあれかね? 脳筋系なんちゃって魔法使いかい?」
「違うよぉー! 私は魔法使いになりたいの!」

 ソフィアは「しかし、アリアから感じる魔力は微々たるものだ」と小声で言いました。

 そして、カバンから透明な瓶を取り出しました。中には薄緑色の液体が入っています。

「アリア。やつを眠らせることができるが、必要か?」
「ううん、いらなーい! もう倒せる!」

 そう言ってアリアは、ブルホーンの前脚を蹴り上げます。

「えーっい!」とその勢いをつけたまま右側に押し倒しました。

 ブルホーンの右角が壊れ、「グオォォン」と弱々しい鳴き声を上げました。

 杖を持ったアリアはそのまま飛び上がり、技を放ちます。

「いっくよー! 『脳天カチ割り杖殴り』!」

 バキッ!と左角が壊れてしまい、そのまま頭全体が潰れてしまいました。この一撃はアリアの得意技です。

「ふぅ。ソフィアちゃん、終わったよ!」
「あ……あぁ……。ご苦労様」と引き気味のソフィアでした。 

「えへへっ。ーーそうだ! メルジーナちゃん大丈夫かな? みんなと合流できたかな?」
「ほぉ、メルジーナもここに来ているのか? あれかね? 先ほどの大きな音は魔物の音ではなく、何かが爆発した音だったのかね?」

 アリアは、なぜこの場所に辿り着いたのか、そのいきさつを丁寧に説明しました。

「ふむ、なるほど。では、君たちはその爆発に巻き込まれて、アリアはここに迷い込んだ訳か。その現場を見てみよう」

 アリアはソフィアを連れて、自分が先ほどまでいた階段下に案内しました。 

 ソフィアは岩を触ってみたり、匂いを嗅いでいました。

「この爆薬の匂いは、一般的に売られているもので間違いないだろう。そして、アリアの話を信じて階段の近くで爆発が起きたと仮定すると、崩れた岩の形や大きさから爆弾の数は少ないが、崩れやすい場所を選んでいることが分かる。よって、この爆発は計画的に練られたものだろう」

 ソフィアは爆弾の匂いや岩の大きさで、この爆発が計画的犯行と判断しました。

「へぇ、ソフィアちゃんそんなことも分かるんだぁ、天才だね!」

「私は天才だからね。何か分からないことがあれば私に聞いてくれたまえ。さて、調べものも終わったことだし、メルジーナと合流するとするか。私に着いてくるといい」

「うん!」

 こうして、ソフィアの案内で洞窟から出ることに成功しました。

 そして、アリアとメルジーナは無事、合流することができました。

「アリアさんごめんなさい。私、洞窟内で気絶していたみたいで。目が覚めたら顔はフードでよく見えなかったけど、水色の髪をした男性の腕の中だったの。それで、『ここで待ってるといい』と言われて五分くらい待ってたら、アリアさんたちがやってきたの。本当にごめんなさい」

「気にしないで! メルジーナちゃんが無事で良かった! 私はソフィアちゃんに助けられたから大丈夫だったよ」

「全く、メルジーナは私がいないと本当にダメだね」

 ソフィアはメルジーナを突きながらそう言いました。

「メルジーナちゃんはダメじゃないよ?」
「もっとしっかりしてくれるといいがね」

「ソフィア……アリアさんを助けてくれてありがとーーっ!」とソフィアに抱きつきました。

「おい、くっつくな。涙と鼻水で私の白衣が汚れるだろっ!」
「私もーっ!」そう言ってアリアも二人に抱きつきました。

「思春期の学生というのはあれかね? 感情が昂ると
くっつかないと死んでしまうのかい?」

「うぅん。怖かったよぉ」

 ソフィアに抱きついて離れないメルジーナでした。

 そして、木の上からガサガサッと音が聞こえてきました。

 アリアはその方向を見つめました。

「フードの人? あの人って……」

「アリアさんどうかしたの?」
「ううん、何でもないよ! 課外授業の続きをしよう!」

 こうして、ソフィアを加えた三人で残りの時間を過ごすことになりました。
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