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第3章 冒険者育成学園ー1年目前期編ー

第5話 夢見る少女と対人戦

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「これより、模擬戦を始めます。バリアの消失率が四十%を超えた時点で負けとなります。一人一回は参加するように」 

 そう話を切り出したのは、歴史と模擬戦などの審判を担当しているサウス先生です。

 彼女は長いカールした薄い紫色の髪を持ち、肩から背中にかけて優雅に流れています。初老でありながら、その艶やかな髪と落ち着いた紫色の瞳は、深い知恵と経験を物語っています。

 彼女の顔には微笑み皺が刻まれ、目は鋭くも優しさを湛えています。服装はエレガントなローブで、薄紫色のレースや刺繍が施され、手には古びた金の指輪が輝いています。

 今日は、ハンターと戦闘になった時にきちんと対処できるように、模擬戦をするみたいです。

 『ハンター』とは、冒険者ギルドの規範から外れた者たちを指す特異な存在です。通常の冒険者とは一線を画し、彼らはしばしば禁忌を犯し、規律やルールを無視することで知られています。

 ハンターたちは、個々の利益を追求するために違法な手段を用いることも厭わず、そのためにギルドからは危険視されています。彼らの行動は予測不能であり、時にはギルドや冒険者たちにとっても脅威となることがあります。一般の人々にとって、ハンターは恐怖の対象であり、彼らの存在は陰鬱な噂や都市伝説として語り継がれています。

 そして最近、個々で動いていたハンターたちが、集団行動を取り始め、『ハンターギルド』として活動を始めたとの噂があります。
 これからハンターギルドとの衝突が増えると想定されています。ハンターは殺さずに戦闘不能にして、ギルド警備隊が捕まえるようです。ハンターは戦闘に手練れの人物が多く、クオリティの高い戦闘スキルが求められます。

 模擬戦は番号順に行われました。そして、最後の一組はアリアと席の後ろのメイという気弱な女の子です。

「お、お手柔らかにぃ……」と、途切れかけた声で言葉を使うメイに、アリアは元気よく「私はアリアだよ! よろしくお願いします!」と答えながら、ペコリとお辞儀をしました。

「魔法はかけました。いつでも開始してください」

 アリアは杖を両手で構えながらメイに走って近づきました。すると、メイは声を荒げながら「こ、降参します!」と言いました。

 周りからは「ちゃんと戦えー!」や、「やる気あるのかー!」などの野次が聞こえてきました。

「まあ、やむを得ないでしょう。メイさんの不戦敗ということで。学園長からの指示で一人一回ずつは戦うよう指示はされていましたが、どうしても苦手な人はいます。今回だけ特別に良しとしましょう」

「すみません、ありがとうございます」

 メイはサウス先生に頭を下げると、クラスメイトの所へと向かいました。

「わーい! 勝ったー!」と、アリアは大喜びです。

 そのままクラスメイトの所へ戻りました。

「まだ少しだけ時間があります。暴れ足りない人は遠慮なく言ってください。色んな人と戦うのはいい経験になります」

 サウス先生の言葉にゼルとメルジーナが反応し、フィールドにやってきました。

 そして、対戦相手を見たゼルは「俺様と戦っても恥をかくだけだぜ? やめときな」とメルジーナに言いました。

「今日こそあんたに勝って、私が目指す道は間違ってないってことを証明するわ!」
「まあいい、本物の貴族と成り上がり貴族の違いを見せてやるぜ」

「ゼル様やっちゃえー!」
「本物の貴族の力を見せつけてくださーい!」
「メルジーナ様も頑張ってー!」
「メルジーナちゃんファイトー!」

 ゼルとメルジーナの声援が飛び交います。

「俺様は精霊を使わないでやる。お前は全力でこいよ」

 その言葉にメルジーナは怒りを露わにします。

「馬鹿にしないでよっ! 私だって強くなったんだから!」
「ふんっ。なら、俺様に全力を出させてみろ」
「後悔させてやるんだからっ!」

 サウス先生は二人に魔法をかけました。

「では、いつでもどうぞ」

 ゼルは手を招くジェスチャーをして、メルジーナを挑発しました。

「もう! あったまきたー! 行くわよ! はぁぁっ!」

 メルジーナはすぐさま抜刀し、ゼルに斬りかかろうとします。

 ゼルは抜刀せず、その場で立ち尽くしています。

「くらいなさいっ! 炎の剣ーーんっ!?」

 ゼルはメルジーナの剣の持ち手である右手首を掴みました。

「左腰に付けてある剣は飾りか? まだあの日の出来事がお前を縛っているのか? それとも俺程度に本気を出すまでもないってか?」

 言い終えるとゼルは、抜刀し素早い剣撃をメルジーナに入れました。

「いたっ!」

 シールドバリアのシールドが割れる音共にメルジーナは吹き飛んでしまいました。

 ゼルは倒れているメルジーナに剣を突き立てました。

 悔しそうな表情を浮かべ、涙を流すメルジーナにゼルは突き立てていた剣を高く掲げました。

「まともに自分の強みも扱えない。ビビって武器も満足に使えないお前がっ! 俺を倒せる訳がないだろ。よっぽど昔のお前の方が張り合いがあったぜ。お前がレオン伯爵や英雄王に憧れるのも、目指すのも勝手だが、今の自分も守れないやつが誰も守れやしねーよ。ーー弱いお前と戦ってもつまらん」

 そう言い終えるとゼルは大きなため息を吐いて、その腕を振り下ろしました。

 しかし、彼の振り下ろした剣はメルジーナに届くことはなく途中で止まっていました。

「なにっ?」
「メルジーナちゃんは弱くない! 強くて優しいもん!」

 ゼルの攻撃を止めたのはアリアでした。

「なんだ田舎娘。俺様はこの貴族の恥を再教育してやっているだけだ。お前はこいつの姿を見て、カッコ悪いとは思わないのか?」

「思わない! メルジーナちゃんは、いつもみんなのために頑張ってるの知ってるもん!」

「アリアさん……」

「俺様から見たら見るに耐えん姿だ。成り上がり貴族でも貴族と同じ扱いをされる。それが今の制度だ。俺様はこいつに貴族として恥ずかしくないように教育してやっているんだ。感謝くらいしてほしいぜ。あぁ、常識のない田舎娘には理解できるはずもないか」

「私は貴族とかよく分かんないけど、友達がこんな目に合っているのを見てられないもん!」

「そうかそうか、なら特別にこの俺様がお前を教育してやろう。ビーリス様に対しての無礼にもムカついてるしな」

 そう言うとゼルは剣を引っ込めようとします。

「お、おい、いい加減剣を離せ」

 アリアの力が強くて抜け出せないようです。

「嫌だ。メルジーナちゃんに謝るまで離さない」

 ゼルは両手で掴み全体重を掛けて引っ張りますが効果はありません。

「くっ、何なんだお前は。馬鹿力すぎるだろ」

 メルジーナは起き上がると、アリアに向けて言葉を使います。

「アリアさん、もう手を離してあげて。気持ちだけで嬉しいわ。悔しいけどそいつの言う通りよ。不甲斐ない私が悪いの。いつかあいつに勝って自分の道で強くなったところを見せつけてやるんだから」

「分かった!」

 アリアは剣を離すとゼルは後ろに思いっきり尻もちをついてしまいました。

「あだっ!」
「「ゼル様!」」

 ゼルを慕う者たちは心配して駆け寄ってきました。

「ゼル様ご無事ですか?」
「あいつら酷いですね! 直ちに処刑しましょう!」
「「そうだそうだ!」」

 ゼオンとフレッシュの言葉に複数の生徒が賛同します。

「ただ尻もちついただけだ。そこまでしなくてもいい」
「いやいや! 次の貴族になられるゼル様を怪我させたんですよ!? 処刑してゼル様の恐ろしさを教えてやりましょうよ!」
「しつこいぞフレッシュ。あいつらはいつか俺様が鍛え直してやる」

 フレッシュの言葉に彼は汚れた手をはたきながらそう言いました。

「は、はぃぃ」

 そして、アリアはメルジーナに手を伸ばし彼女を立たせてあげました。

「アリアさんありがとう。大丈夫? 手、怪我してない?」
「なんともないよ!」

 二人は笑い合っていると、アリアとメルジーナを囲むように一部のクラスメイトが武器を構えていました。

 貴族の権力に怯えてか、一般家庭出身の生徒たちは誰も止めようとはしません。

 メルジーナは殺気を感じてか、アリアの前に出て、「アリアさんは関係ないわ」と言いました。

 殺伐とした空気が流れている中、サウス先生が重い口を開きます。

「ゼル・カイセドリー君、あなたがガーネットさん、ヴァレンティンさんに行ったこの行為は立派な規律違反です。これ以上の問題行動を起こせば、規則に乗っ取り、『学園調和監査局』に報告させていただきます。あなたにとって、学園調和監査局に報告されるのはまずいのでは? ちなみに今日の模擬戦は記録を残すよう、学園長に申しつけられているので、しっかり証拠も残っています」

「ゲェッ!? 学園調和監査局ぅ!?」

 サウス先生が言った『学園調和監査局』とは、ゼルの父親であるバロン侯爵が提案したもので、学園内の秩序と調和を維持するために設立された組織です。この局は貴族と一般生徒が共存する学園で、貴族が職権濫用や権威を振りかざすことを防ぎ、公正な環境を提供することを目的としています。

 監査局は、学園の規律とルールを遵守させるために、定期的な監視と調査を行います。貴族が自身の地位を利用して不当な行為を行った場合、即座に監査局によって取り締まられます。この取り締まりには、厳格な戒めと処罰が含まれており、違反者は大人の貴族からの戒めを受けることになります。

 監査局は、学園全体の調和を守るために、あらゆる規律違反を厳しく取り締まります。これにより、すべての生徒が公平で安全な学習環境を享受できるよう努めています。

「ゼル・カイセドリー君を慕っている二人、武器を構えて二人を囲っているあなたたちもそうです。この行為に加担したと認識し、報告させてもらいますよ」

「ご勘弁をーー」
「すみませんでしたー!」
「私はそんなつもりじゃ……」

 集団の生徒の中から、様々な声が飛び交ってきました。そして、その声は散り散りとなり加担していない生徒の方へと戻っていきました。

「サウス先生、お手を煩わせ申し訳ありません。私が不甲斐ないせいで」
「先生すごーい!」

 二人の言葉にサウス先生は頷きました。そして、言葉を続けます。

「この授業が終わり、教室に戻ってもこのような行為を続けるようであれば、私は遠慮なく学園調和監査局に報告させていただきますので、肝に銘じておきなさい」

「「「はい」」」

「行きましょうゼル様」とフレッシュが言うと、ゼルとゼオンは三人でその場を去ろうとします。

 そして、メルジーナとアリアを横切ろうとした時に下まぶたを引き下げ、舌を思いっきり出して去っていきました。

「何あれー! 顔芸ってやつ? 面白ーい!」
「アリアさん、あれは真似してはいけません!」

「以上で模擬戦を終わります。教室に戻って次の授業に備えるように」

 こうして、模擬戦が終わりました。

 
その夕方、学園長室では……

「学園長、本日の全生徒による模擬戦はどうみますか?」

 シャーリーの言葉に学園長は答えます。
 
「やはり注目すべきはゼル・カイセドリーですね。彼の動きは素晴らしいです。無駄のない動き、相手を躊躇なく叩き潰す姿勢、どれもクオリティが高いです。我々との戦いで厄介な人物となりうるでしょう。欲を言えば精霊の力とやらを見てみたかったですね」

「確かに。まだ実力が未知数なのは怖さはありますね」
「あと、メディ・ヴァレンティンの娘であるアリア・ヴァレンティンの戦闘シーンを見れなかったのは残念極まりありません。我々の脅威になるのか判断したかったのですが。シャーリーさん、次は三年生の戦闘を見ましょう」

「分かりました。少々お待ちを」

 シャーリーは学園長?の指示に従い、プロジェクターを利用し、録画していた三年生の模擬戦を再生します。

「やはり、どの貴族も厄介な存在ですね。見てくださいこのルフォン・エンジェの回復支援。あの傷がすぐに癒えました。それに比べて……グスタフ・ブラッドリーと来たら、ノコノコ私の部屋に忍び込んで捕まるとは……情けないですねぇ」

「はははっ。確かに。前からコソコソ何かやっていましたが、バレてないと思ったんですかね? 本日の模擬戦にも不参加扱い、これが生徒親衛隊司令官とは……笑わせる」

「黙れ! てめぇら何者だぁ?」

 そこには光の鎖で首と手足を縛られ、拘束されたグスタフの姿がありました。体の自由を奪われている彼は、助けを求めることもできません。

「何者とは? 私は生徒会長のシャーリー・ブラウンですよ?」

「嘘つけっ! 本物のシャーリーは俺にペコペコしてんだよ。それにお前からは魔力を感じない」

「はははっ! なるほどぉ! それは知りませんでした」

 学園長?は立ち上がり、グスタフの近くに寄ります。

「フフッ。本当に貴族の能力を使うことができない様子ですね。この魔法は邪神の力を消すことができるらしいですよ。やはり、あなた方は邪神の仲間なのですか?」

「あぁ? なんのことかさっぱりだ」

「白ばくれるのですか? 我々は邪神の居場所を知りたいだけなのですよ。お答え頂けないのですか?」

「俺の知ったこっちゃねぇな」と強気のグスタフです。

 シャーリー?はグスタフに近づくと不気味な笑みを浮かべ、グスタフの下顎を人差し指で持ち上げ話をします。

「まあ、我々の存在に気づいたことだけは、素直に褒めて差し上げましょう。あなたの体はいずれ使えそうなので、今はこのままにしてあげます。そこで眠っている本物の学園長とお眠りなさい『スリープ』」

「くっ、クソッ……タレ……」

 シャーリー?の魔法でグスタフは眠ってしまいました。

 学園長?はアリアの生徒名簿を見ながら言います。

「さて、そろそろ奪いに行きましょうか。我々の女神が欲しがっている、アリア・ヴァレンティンが所持するペンダントとブレスレットを。ーーフィフィッ。フィーフィッフィィ」
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