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第2章 王都グラハナシルト・生活編
第4話 ディアルバスの実験
しおりを挟む僕は白銀の魔王ディアルバス! どこにでもいるごく普通のナイスガイな魔王さっ! 僕の他に三人の魔王がいるらしいんだけど、見たことがないんだよねー。まあ、僕が一番強いんだけどね! 知らないけど。
バークベアーを討伐されて一ヶ月が経った頃、僕は仲良くなったギルド会館職員の女性とパラソル付きのおしゃれなテーブルのカフェで、仲良く仕事のことや最近の出来事についてお喋りをしていた。
この子は僕に魔物に襲われた所を助けられたと勘違いをしていて、一定の信頼を貰っている。
情報を得るためとはいえ、人を騙していると思うと僕の良心が痛む。
「へぇー。ギルド会館の仕事ってそんなこともするんだね。知らなかったよ」
「そうなんですよ。変わったバークベアーがギルドに運ばれた時はびっくりしましたよ! 体は大きいし、話を聞いた限り、炎を吐いたとか! ーーあ! すみません、私ばかり話して! つまらない……ですよね?」
僕は顔を横に振って答える。
「そんなことないよ。炎を吐くバークベアーとか聞いたことないから、すごく興味深いよ。そのバークベアーはどうなったの?」
「元々死骸でやってきて、ギルドマスター立ち合いの元、解剖をやったらしいです。まあ、詳しいことは教えてもらっていませんが、ギルドはこのバークベアーを『魔種』と名付けたらしいですよ」
(魔種……いい響きだ。魔王の魔力を与えたのが魔種なら、魔王を喰らって強く生存できれば、魔王の魔力を受け継ぐ王の魔族で『王魔《おうま》種』とかどうだろうか? うーん。僕のネーミングセンス最高じゃないか!?)
「魔種って名付けられたんだね。それと、ギルドマスターが立ち会うなんて珍しいこともあるんだね」
「そうなんですよ! お忙しい中わざわざお越しくださったんです。我々ギルドのトップですから忙しいはずなのに」
やっぱりギルドマスターは忙しいのかー。人間社会の仕組みや組織図が分からないから適当に言ったけど合ってた。
「優しいんだね」
「ギルドマスターはとても厳しい方とは聞きますがどうなんでしょうね?」
「いや、君がだよ。目上の人にそんなことを言えるのは君が優しい人だって証拠だと思うな」
「そうですかね? ありがとうございます」
(あれ? 違ったかな? 人間には優しい人、気遣いができる人とか言っとけばいいと思ったんだけどなぁ。まあいいや)
僕が優しい視線を送ると彼女は微笑んだ。そんな時間を過ごしていると、一人の女性が横から声を掛けて来た。
「あ、ニアっち! お? 彼氏さんと一緒だったなぁ!」
「シューちゃん! この人はそんなんじゃないよー! 冒険者の方だよ。最近知り合ったの」
(へぇぇ。ずっと喋ってたお姉さんの名前は、ニアッチさんって言うのか、初耳ー。後から来たピンク髪のお姉さんが、シューチャンさんって言うんだぁ。一応、覚えておこう。そういえば、『人間は相手の名前を大切にしてる』って本に書いてたな。ここは僕も名乗っておこう)
「シューチャンさん初めまして。僕はディ……アルバ! アルバって言うんだ! ニアッチさんにお世話になってまーす!」
(流石にディアルバスって名乗らない方がいいと思って誤魔化しちゃった!)
僕が名乗るとシューチャンさんは、あははーっと笑いながらニアッチさんの肩を叩いた。
「ニアっちぃ! アルバさんって変わりすぎて面白いね!」
「シューちゃんも変わってると思うよ? でも、確かに。アルバさんってかなり変わってますね。うふふ」
なんで笑われたのか分からないけど、僕も笑い返しておこう。
「あはは。よく言われるよー」
「ですよねー!」
本にも『笑い合えるっていい関係!』って書いてたからいっか! 僕を周りから見ても普通の人間に見えてるんじゃない? さすがは僕だ。
こうして三人でカフェで雑談を重ねた。
楽しい時間はあっという間だった。
夕暮れ時、空は深いオレンジ色に染まり、太陽は西の空に優しく沈み始めていた。これ以上情報が聞き出せそうにないと判断した僕は解散を切り出す。
「楽しい時間だからもっと話をしたかったけど、これからちょっと用事があってね……」
僕の言葉で意味を察した二人からは笑顔は消えたが、静かに頷いてくれた。
ニアッチさんは別れが惜しいのか、悲しそうな顔をして言った。
「そう……なんですね。分かりました。楽しい時間をありがとうございました」
「時間経つの早かったねー」
シューチャンさんの言葉の後に、僕は「楽しかったよ!」とだけ答えた。
シューチャンさんはニアッチさんの肩をバシッ! と叩いて言った。
「アルバさん、また今度ご飯にでもどうかな? 勿論この三人で」
なんで今叩いたんだろう? と疑問に思いながらも僕は答える。
「うん、もちろんいいよ。時間ができた時、またギルド会館に顔を出すよ」
シューチャンさんは「約束だよ!」と言いながら親指を立てて前に突き出した。
その意味はよく分からなかったけど、僕は頷いた。そして、この場のお支払いはシューチャンさんが出してくれた。僕が全部出すと言ったのにシューチャンさんが次回お願いと言ってきたんだ。彼女は策士だと思った。
そして、僕は二人が見えなくなるまで見送った。
二人は職場の同期の関係だった。ギルド会館で管理している古の魔道具の効果と所持者の情報はまた今度。シューチャンさんが来た後は、そんな話ができる雰囲気ではなかったからね。
僕が魔族ってことを見破られる可能性もあったから。でも、二人と話して分かったことは二人は大した実力はないってこと。
だから、安心してまた会える。僕はゆっくりマイペースに仕事をこなす。
そして、僕はザラハが待つ洞窟の中へと向かった。薄暗く狭い洞窟で二人で住んでいる。今日手に入れた情報をザラハと共有した。
そして、これから僕の実験が始まる。僕が実験したいのは、僕の言うことを聞く強い魔物の作成と絶命した際、場に残らない魔物の作成。
強くても僕の言うことを聞いてくれなきゃ作る意味がないし、その場に残ってしまったら、人間に持っていかれて色々研究されても厄介だからね。実際、サファイアスが作った魔物が人間の手に渡って認知され、『魔種』として名付けられた。
その魔種とやらの作り方は、サファイアスが自分の魔力を魔物に注いた時、苦しみながら爆発する個体と苦しんでいたが最後まで爆発せず、その場で暴れだした個体がいたとザラハが教えてくれた。
ザラハが見ていただけでも、複数体の魔種が解き放たれているっていうことだ。個体差なのか注ぐ魔力量によって変わってくるのか、魔王の魔力を注いだ物を捕食した場合はどうなるのか、色々実験しないといけない。これから忙しくなるね。はははっ!
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