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第2章 王都グラハナシルト・生活編
第1話 夢見る少女、王都に到着する
しおりを挟む暴竜ジャリラを討伐して、三日が経ちました。
アリアは約束した日時にシュルトトレインに来ていました。
「やあやあ、アリアさん。待っていたよ」
そう声をかけてきたのはシュルト市長でした。
「あ、市長! こんにちは!」
「こんにちは。お待たせして悪かったね。整備をして点検した結果、やはり途中までしか送れそうにない。力になれず申し訳ない」
申し訳なさそうに謝るシュルト市長にアリアは笑顔で答えます。
「そんなことないよ! 色々大変だったのにありがとう! 本日はよろしくお願いします」
アリアは深々と頭を下げました。
シュルト市長は「大丈夫だよ。じゃあ行こうか」と優しく接してくれました。
そして、少し歩いた所に小さな小屋がありました。
「少しここで待っててくれるかい?」
「うん!」
シュルト市長はその小屋に入っていきました。少し経つと、小さな袋を持って小屋から出てきました。
「心許ないと思うが、旅や学園生活の足しにしてほしい。竜討伐の報酬だよ」
そう言って大金を渡しました。
中身を見たアリアはそのままシュルト市長に突き返しました。
「気持ちは嬉しいけど、これは受け取れません! ママがギルド会館を通した依頼の報酬と学園から受け取る支援金以外、お金は受け取っちゃダメって!」
「そうか。分かった。これならいいかな? シュルトトレインの無期限の運行券だ」
「送ってもらえるだけで嬉しいから大丈夫だよ!」
アリアはそう言いましたが、シュルト市長は続けます。
「学園には長期休暇があるからね。実家に帰ることもあるでしょう。ここからでも、かなりの距離があるから、歩いて帰るのは困難だとは思う。だからその時にこれを使って欲しい」
「ふむふむ、なるほど。それは考えてなかった。頂きます! ありがとうございます!」
アリアは運行券を受け取りました。
「では、早速向かおうか」
「はい! お願いします!」
アリアは小さな一台のトロッコ列車に乗りました。車内の座席は二つあり、窓がない簡単な屋根だけの簡単な作りになっています。
その車体には、魔法が付与された魔道具が付いており、それが原動力のようです。車体の外装は、街のシンボルが紋章に刻まれており、存在感を放ちます。
「狭くてごめんね。ちゃんとした車両が壊れてしまってね……。今はこれしかないんだ」
「大丈夫だよ! 私、トレイン初めてだから楽しみ!」
「それは良かった。この車両について説明するね。この車両は魔力で動くんだ。そこにあるリモコンに上と下の二つのボタンがあるよね? それは車両に付いている前後の魔道具と繋がっているんだ。前へ進みたい時は上のボタンを、減速、後退したい場合は下のボタンに魔力を付与するんだ。スピードの出し過ぎには気をつけてね」
説明を聞いたアリアは恥ずかしそうに答えます。
「えへへ。私、魔力が全然ないから、目的地まで魔力が持たないかも?」
「なら、私が同行しよう」
「お願いします!」
シュルト市長はアリアと向かい合う形で、トロッコ列車に乗り込みました。
「では……」
「しゅっぱーーーーつ!」
シュルト市長が言いかけると、アリアがそれを遮り、そう叫びました。
シュルト市長は微笑み、魔力を込めました。すると、車輪から魔法陣が映し出され、列車はゆっくりと走り出し、徐々に加速していきました。
洞窟を抜けると、そこには自然豊かな森や美しい景色がありました。その場所は風通しが良く、アリアは顔を出して大はしゃぎしました。
「はやーい! 風が気持ちいい!」
「それは良かった。ここから見る景色は凄いだろう?」
「うん! 森が小さく見える! ところでシュルト市長は、なんでこんなにお金持ちなの?」
シュルト市長はアリアに自分のことについて色々と話してくれました。
元々は無名の鉱山だったこの場所で、数十年前、冒険者だったシュルト市長は、たまたま立ち寄った今の鉱山で魔道具の材料である魔道石や、クオンの材料の円虹板《えんこうばん》などの採掘に成功しました。王都グラハナシルトで換金を数年繰り返したことで、大金持ちになったそう。そこでまずは近くの村の土地を購入し、徐々に大きくしていき、今のシュルトシティを作ったということでした。
シュルト市長は若い頃、魔物との戦いや冒険者としての人間関係の構築が上手くいかず、挫折感と劣等感を感じていていました。そして、大金を手に入れた後、そのまま冒険者を辞めたそうです。
今は冒険者とは違う道を進んだけど、自分が挫折して後悔したからこそ、若い子たちが目標や夢に向かって行く姿を見てると、できる限りの支援をしてあげたい。夢は諦めずに突き進んで欲しいと願っているようです。
そして、トロッコ列車に揺られて数時間が経ちました。
山を周回するトロッコ列車はついに、終盤を迎えます。
頂上付近で一度停まると、作業員が声を掛けてきました。
「シュルト市長、お疲れ様です。どちらへ?」
「グラハナシルトへだね。1番下まで送っておくれ」
「いいですが、まだ作業が終わってませんよ?」
「構わないよ。行けるところまでで大丈夫だよ」
作業員は「分かりました」と頭を下げて、レールを手動で変更しました。そして、トロッコ列車はゆっくりと降り始めました。
そのまま進んでいると、レールの先にトロッコ列車が線路を進むと、前方に巨大な岩がそびえ立ち、道をふさいでいるのが見えます。
「減速をするから捕まってて」
シュルト市長はそう言うと、コントローラーの下のボタンを押して減速を始めた。
そして、キキーーっとブレーキ音が辺りに鳴り響き、巨大な岩の少し前で止まりました。
「申し訳ないが、ここまでだ。後はここを真っ直ぐ進んでいると、目的地の王都まで辿り着くよ」
「ありがとうございます。十分助かりました! お世話になりました!」
アリアはペコリと頭を下げました。
「命あってこその冒険者だ。命と友は大切にね」
「うん! 市長も体に気をつけてねー! バイバーイ!」
アリアは手を大きく振りました。シュルト市長も小さく手を振ってくれました。
ーそして、一年と数ヶ月の月日が流れましたー
「着いた! ここが……王都グラハナシルト!」
王都グラハナシルトは、シュルトシティよりも壮大な城壁に囲まれた都市です。城壁は高くそびえ立ち、厚い石の壁が力強く守りを固めています。壁の上には砲台やバリスタなどが常備されています。
理由は、すぐ近くに立ち入り禁止エリアがあり、そこからたくさんの魔物が王都を襲ってきます。魔物が近づいてきたらすぐに防衛できるようにです。
その城壁の内側には、立派な城や華麗な建造物が並び、街の中心には壮麗な王宮があり、その周りには広大な庭園や美しい彫刻が点在しています。
王都の中心に堂々と存在感を放つ建物があります。それがグラハナシルト冒険者育成学園です。他の育成学園と比較して高度な育成や支援が受けられるとして大人気です。
街のあちこちには活気ある市場や商店があり、人々が賑やかに行き交っています。太陽が輝き、風が心地よく吹き抜ける、活気あふれる王都の風景が広がっています。
アリアは王都を見て回りました。
最後にギルド会館で手続きを済ませた後、飲食店の近くを通りかかると、アリアと同い年くらいの黒髪の少女が周りを警戒しながら、路地裏に入っていくのを見てしまいました。
「あの子どうしたんだろう? 行ってみよー!」
女の子の表情が気になったアリアはその人たちの後をつけることにしました。
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