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第1章 夢見る少女の旅立ち編

第1話 夢見る少女の旅立ち

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「アリア! ただいま帰りましたー!」

 ジュニアスクールから帰ってきたアリアは、元気よく挨拶しました。ジュニアスクールからアリアの家までは歩いて約二時間。もう夕方の十八時を過ぎています。

「アリア、おかえりー! 早かったわね。卒業おめでとう!」

 アリアを出迎えたのはお母さんのメディでした。メディとアリアは顔つきがとても似ている。まるで写し鏡のよう。

「ママ、ありがとう! ステータスの鑑定もらったよー! 見て、見てー!」
 その結果を見たメディは微笑みながら言いました。

「まあ、すごいステータス! さすがは私の子ね」
「すごいでしょ! あのね、ママ、私……!」

「アリア? 今日は遅いんだから先にお風呂入っておいで。その後にご飯にしましょ!」

 アリアが何かを言いかけると、メディはそれを遮るかのように口を挟みました。

「分かった! 先に入ってくるねー!」
「うん。行ってらっしゃーい」

 メディは小さく手を振り、アリアがお風呂場に向かうまで見送りましたーー

「ごめんね、アリア……。私だってアリアの気持ちは大事にしてあげたいけど……。あなたには危険な目にあってほしくないの……」と、小さく呟いた。

 メディは一人で葛藤していました。娘の気持ちは大事にしたい。けれど、大事な娘を冒険に出して危険な目にあってほしくない。ただ、当たり前の母親の気持ち。

 冒険者は危険であり、最悪命を落とす可能性だってあります。そして、アリアは戦闘経験もなく、戦闘の基本や自分の身の守り方も知らない。

 世間を知らないアリアは詐欺にあったり、傷つく可能性があること。それも全て母である自分が教えなかった責任もずっと感じていました。

 メディは複雑な気持ちのまま料理の支度を始めました。

「お風呂から上がったよー! わぁー、カレーのいい匂い!」

「ふふっ。うちで取れたジャガイモとニンジンを使ったカレーよ! 冷めないうちに食べてねっ!」
「いただきまーす!」

 アリアはカレーをフーフーしながら食べ始めた。
「ママの料理全部美味しい!」

「ふふーん! ママの愛が入ってるからね!」

 美味しそうに食べる娘を、頬をついて見守るメディに気づいたアリアは「ママどうしたの? 私の顔にカレー付いてる?」と聞いた。

「そんなことないわよ。ゆっくり噛んで食べるのよ」と優しく微笑んだ。

「ふぅ。食べたー! ご馳走様でした!」
「お粗末さまでしたぁ」

 片付けがひと段落ついたアリアは椅子に座り、メディに質問を投げかける。

「ねぇ、ママ。パパはいつ冒険から帰ってくるの?」
 
「うーん。いつだろうねー? どうしたの? 急に」
「最近見てないなーって」

「そうだね。アリアが小さい頃に会ったのが最後だったもんねっ」

「うん! 私も冒険に出たらいつか会えるかな?」
 
 娘の言葉に胸を痛めるメディは、「今日、鑑定士さんに何て言われたの?」と尋ねた。

「魔法職より剣士職のほうが合ってるとか、魔法使いは名乗る程度しかできないって言われた。でも、私は魔法使いになることを諦めたくないって言ったの」

 その言葉に強張った顔を解いたメディは、ずっと胸に仕舞い込んでいた思いを口に出し、「アリアはこれからどうしたいの?」と再び尋ねた。

 アリアは天に杖を掲げるようなポーズを取り、「私の夢は魔法使いになること! あの聖なる魔法使いのような! ママ、私ね。色々なことを勉強したいから冒険に出たいの! 魔力が少なくても練習すれば魔法は使えるんだし、いつかはなれるよ! きっと」

「そうだよね。魔法使いはアリアの夢だったもんね。そっか……」 メディはアリアを抱きしめながら続けた。「ご、ごめんねアリア。私のせいで。ママが不甲斐ないせいで……。本当にごめんね……」

「えぇ!? なんでママが泣くのー? ママのせいじゃないよー!?」 アリアは照れた顔を見せてメディに抱きついた。

「エヘヘッ。なんだか恥ずかしいなー。ママ、今日は一緒に寝よ?」

「えぇ。いいわよ」

 こうして二人は眠るまで夜な夜な語り合った。

「んーーーーーっ。よく寝たー。あれ、ママは?」

 朝起きたアリアは大きく体を伸ばす。隣で寝ていたはずのメディがいないことを確認すると、寝室を後にした。

「リビングにもいない……。畑かな?」

 そう独り言を呟いたアリアは外へ飛び出した。

「アリアおはよう。よく眠れた?」

 声を掛けてきたのは、麦わら帽子を被り畑仕事の真っ最中のメディだった。

「おはようママ! 眠れたよー! 私も手伝うー!」

「じゃあ、この野菜の種を植えてくれる?」

 アリアはメディから渡された数種類の野菜の種の袋を受け取りました。

「任せて! 水汲みは行かなくてもいいの?」
「今月分はあるけど、そろそろ足りなくなるかも?」

「じゃあ、種まきしたあとに汲んでくるねっ!」

 アリアと母親のメディは二人で自給自足の生活を送っています。家に水道が通っていないので、近くの川まで水を汲みに行き、料理には薪を燃やしています。もちろん電気は通っておらず、夜はランタンに似た魔道具を使っています。

「アリアは優しいね。でも無理はしないでね?」
「無理してないよ? こうやってママと畑仕事をするのも楽しいからっ!」

 朝の作業を終え、お昼ご飯も食べ終わった頃、アリアの前にニ着の洋服を持ったメディが現れました。

「じゃーん! これなーんだ?」
「何その服ー! きれーい。そして可愛い!」
「でしょぉ。冒険に出るなら最低限の身だしなみは整えないとね。ボサボサの髪もちゃんと直さないとね」
「それ着ていいの!?」
「ママのお下がりでよければね?」

 アリアの内心はワクワクしていました。いつものボロシャツから一転して、初めてのオシャレな服に身を包むことができる喜びに満ちていました。

「髪の毛も整えてあげるからおいで」
「うん!」

 アリアはメディに髪を解かれながら、その煌びやかな服に着替えました。すると、生まれ変わったような輝くアリアの姿がそこにありました。

「わぁー! 可愛い! ママありがとう!」
「いいのよ。あとこれもあげなきゃね」

 メディは用意してあった杖をアリアに見せました。
「この服と杖はね、昔ママが冒険者をやっていた時の物なの。本当は新品を買ってあげたいけどそんなお金がなくて……こんなものでごめんね」

「そんなことない! 嬉しいよ! でも冒険に出ていいの?」
「いいのよ。でも約束してほしいことがいくつかあるの。その約束を守れるなら冒険に出てもいいわよっ」
「分かった! なになにー?」

 メディはアリアといくつかの約束を交わしました。

 一つ目は、危険なことはしない。危険を感じたらすぐに逃げること。
 二つ目は、王都にある『グラハナシルト冒険者育成学園』を三年間通って色んな勉強をすること。
 三つ目は、困っている人を助けてあげること。ハンターギルドは危ないから関わらないこと。
四つ目は、信頼できるお友達を作ることなどでした。

 メディは他にも細かいことまで約束させていました。

 アリアはそれを全て快諾しました。

 この数日の間、アリアは多くのことを学びました。魔物料理や魔道具の使い方、受け身の取り方など。

 そしてアリアの旅立ちの日がやってきました。

「ママ。色々教えてくれてありがとう! 冒険者学校で色々学んでくるね!」

「えぇ。たくさん学んで、たくさん苦労して、たくさんの景色を見てくるのよ。お金は使いすぎないようにね。あと、魔道具は魔力を使うから、あんまり無理な使用は避けるようにね!」

「うん! 気をつけるよ!」

「あとこれ、学園にママの知り合いのカイアスさんって人がいると思うから渡してほしいの」

 アリアはメディから一枚の手紙を預かりました。

 手紙の内容はメディ本人にしか分かりません。

「うん! 分かったよママ! 行ってきます! 離れていてもずっと、ずーーっと、大好きだよっ!」
「ママもアリアのこと、ずっと大好きよ。愛してるわ……アリア。元気でね」

「また休みの日に帰ってくるね! 行ってきまーす!」
「行ってらっしゃーい!」

 メディはアリアが見えなくなるまで、手を振り続けました。

 見届けた後、メディは空を見上げました。

「ごめんね……あなた。約束、守れなくて。でも私には無理。だって、魔法使いはアリアが小さい頃からの夢だったもの。親の私が、あの子の未来を否定するのは私には耐えられない」

 メディの涙が頬を伝いました。

「ふふっ。冒険好きは誰に似たのかしら。やっぱり血は争えないわね。色々心配だけど、私とあなたの子なんだから、きっと大丈夫よね。私たちが信じてあげないと」

 空には虹がかかり、母は娘が安全な旅を続けられるようにと願いました。

 こうして、一人の魔法使いを夢見る少女の冒険が幕を開けました。

 「あら! いけないっ! アリアにお金の使い方を教えるの忘れてたわっ!」
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