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6.モルバーン学園(二年生編)

6-31.プルサウンにて

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 マサムネは光の柱が敵軍を包み込んだのをじっと見つめていた。
 勝てなかった相手が圧倒的な力によって葬られるのかと思いきや、その光は徐々に薄まってゆく。
 敵軍は混乱しダメージこそ受けたが、潰走する程には至っていなかった。

「倒せてない・・・」

「そのようだな」

「あれって、師匠がやったんじゃなかったんですか?もしやあの巨大なドラゴンが?」

「いや、あれは私じゃないし、ファーヴニルでもないぞ。ファーヴニルはむしろ自分でやってみせろと言っていた程だ。あ、ファーヴニルってのはあのでかいドラゴンの事な」

「じゃあ、あの光は一体誰が」

「そんな事より、あの軍を叩くぞ」

「それが、力が出なくて・・・」

「・・・お前もか」

「え?」

 まぁ、マサムネが戦えないのならば、私がやってしまっても良いって事だよな?

「師匠?」

 久しぶりに手加減なしに暴れて良い相手。
 実際、人間相手ってのは何年振りだろうか。
 楽しい楽しい虐殺の時間が始まる。

「弟子の仇は俺が取───」

 そう言った瞬間にズドーーン!という大きな音と衝撃波が伝わってきた。
 その光景にマサムネと私は唖然としてしまった。
 ファーヴニルが着陸した場所というか、足が地に着いた場所は敵軍のど真ん中。
 敵軍のおよそ八割が一瞬で消滅した事になる。

「私の獲物があああああああああああああああ!!!!」

 部隊というものはおよそ30%の損耗を受けると全滅と言う。
 それが50%ともなると壊滅、100%で殲滅と言うのだが、現状を的確に表現するのであれば壊滅状態。
 一般的に壊滅状態ともなれば再編成で体制を整える事もままならないという状況に陥る訳だ。
 暴れたいところではあるが、殲滅戦は弱いもの苛めしてるみたいで嫌なんだよな。
 それに、生き残りは蜘蛛の子を散らすようにバラバラの方向に逃げ出していて、最早軍隊としての体を成していない。
 当たりの話だが、この巨大なドラゴン相手に逃げ切れたものではない。
 だが、それが色々な方向に逃げているれば、誰かは助かる可能性が出てくるとでも思ってか。
 いや、実際は単純に最も距離の取れる方向に逃げ出しただけなのだろう。
 実際、こちらも殲滅を目指す訳ではないのだから、放っておけば良いのだ。

 ファーヴニルも自重だけで倒せる敵はつまらないと言って、背中に乗せた者達を降ろして帰ると伝えてきた
 降ろす場所が敵地の真ん中という配慮の無さだったが、かなりの実力者ぞろいであるからして問題は無いかと思えた。
 それに実質的には壊滅しているのだ、最早戦いにもなるまい。

「もう、あれは放っておいても大丈夫だろう。マサムネ、砦にいくか?」

「師匠、裏切り者のグショネンの仲間が砦の中に居るんだ!」

「わかった。中に入ろう」

「でも、門を開けてくれないんだ」

「上からならフリーパスで入れるだろ?」:

 私よりも図体のでかいマサムネを抱きかかえ、尻尾に乗っかり浮遊する。
 悲壮感にまみれていたマサムネが興奮したのか、少しマシなツラになった。
 そして、砦の最上部に私達は降り立った。

「侵入者め!」

 私達を見てそう叫んだ兵士達がいた。
 敵意をむき出しにして、私達に向かって剣を抜いて構えている。

「この国の勇者を前に侵入者とは何事か!」

「勇者だろうと、ここは皇帝リーシュナル様直轄の砦だぞ!何人たりとも入れる訳にはいかぬ!!」

「そうかい、じゃあ通行するにはどうすればよかったのかね」

「皇帝リーシュナル様の許可が必要だ」

「だが、皇帝リーシュナル様は───」

 亡くなったと言えばどうなるか、最悪、この砦を放棄しかねない。
 この国の重要機密をうっかり口に出しそうになったが、ここは黙っておくのが正解だろう。
 だが、その時、マサムネがが兵士に食ってかかる。

「お前!どうして門を開けなかった!!」

「あ、あの時は敵が目の前に来ていてだな」

「だから、俺を見殺しにしたのか!!」

「上官がそう判断したんだ、だから仕方がなかったんだ───」

 奇妙な感覚だった。
 兵士の吐く息が赤く見える。
 一瞬はドラゴンブレスでも吐くのかと思ったが、その答えはすぐに分かった。

『───必要な状況になれば思い出す』

 ファーヴニルに言われた通り、思い出すように知識が出てくる。
 魔力抵抗の低い相手であれば集中して視るだけで言ってる事の真偽か分かってしまう。
 これは『審美眼』と言い、自白剤要らずで嘘を見抜く自動発動魔法の一種だ。
 その名の通り、本来の使い方はこんな残念な用途ではなく、美の本質の見極め。
 何を美しいと思うかは私の主観ではなく世界の主観なのだから歴史や希少性も加味される。
 それもこれも、この体に流れるドラゴンの血のなせる技なのだろう。

 さて、目の前で堂々と嘘をつかれ、それが分かってしまうというのはどうにも気分が悪い。
 とはいえ、これを説明したとして裏付けがないのでは信じて貰える保障はない。
 根拠もなく嘘を指摘したところで、ただの暴論でしかない。
 その点をどうしようかと考えていると、マサムネが突っかかっていった。

「じゃあ、その上官を出せよ!」

「上官は先ほど伝令に行った、今はいない」

 またもや赤い息が出ていた。
 ならば上官という存在自体が怪しいものだ。

「敵が目の前に来ているのに伝令?妙な話だな」

「し、仕方ないだろう!そう判断なされたのだ!」

「ならば現時点での最高位は誰になる」

「わ・・・私だが」

「上官不在の場合に、その時点での最高位の者に権限は委譲し、判断は委ねられるのではないか?」

「お前みたいなガキに何が分かる!」

 兵士は私に向かって殴りかかろうとする。
 加齢に避けようとした所、マサムネが───

「危ない!」

 庇って殴られた。
 そして吹き飛ばされ、私を巻き込んで倒れる始末。
 まぁ、女を庇ったまでは褒めてやらんでもないが、せめて二次被害は出さないでほしいものだ。

「そのガキが余計な事を言うから悪いんだからな」

 反撃のつもりかマサムネが体当たりするも、兵士はビクともしない。
 それ程までにマサムネの力は制限されてしまっているのだ。
 そんな状態に呆れた私はクソでかい溜息を漏らしつつも、口角は上がっていた。

 *

(戦場から砦に移動中の馬車チーム)

「リリー殿、エリー殿は子供達をお守りくだされ。その他の者は敵を掃討しつつ砦に向かえ!歯向かう者に手加減は要らん」
「わかったのだわ」「わかったのね」「ハッ!」
「バッキンガルム侯爵様、私はカロリーナ様の元に向かいます!」
「ミザリー殿、頼みましたぞ」
「・・・さて、ちょっとでも数を減らすか」
「バッキンガルム侯爵様!背後から新たな敵の騎兵軍団が!このままでは追いつかれます!」
「仕方がない、お前らは先に行ってろ。アイツらは俺が食い止める」
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