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6.モルバーン学園(二年生編)

6-19.廃墟ダンジョンにて

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 ダンジョンの出口に向かう途中でモンスターパラダイスに遭遇した。
 コア破壊後にセーフティーエリアが生成されるも一時的なものでしかなく、落胆する結果となってしまった。
 その事を残念そうに兄が口にだした。

「結局、永続的なセーフティエリアは2フロア目のやつだけか」

「採掘するには1フロア目の方が使いやすいのだがな、なかなかどうして運がない」

「なんじゃ、セーフティエリアが無くて困っておるのか」

「もしかしてアウセンザイターはセーフティエリアの生成についても詳しいのか?」

 アウセンザイターは鼻で笑いながらその問いに答えた。
 なんでも一時的なセーフティエリアが生成された時に、とある種を植え付ければ良いと言う。
 その種はダンジョン内でボスなどから出ると言う話だ。

「種?もしかしてこれの事か?」

 ポケットに入っていた種を取り出すと、アウセンザイターはそれを奪い取ると地面に落とした。

「やっぱり違ってたか」

「いや、この種であってるぞ。今植えたからすぐにでも鉱物などが生成されるじゃろて」

 アウセンザイターの言う事は正しく、そう言っている間にも鉱物や植物が生成された。
 それと同時に私の体から一気に力が抜けて行く。
 恐らく外では日が沈んだのだろう。
 タイミングが良かったと言うべきだった。
 だが、他の者に力がない事を知られたくはない。

「これで私達の目的は達した事になるな。ちょっと疲れたから後の戦闘は任せて良いか?」

「一人だけサボろうとしているのだわ」
「楽したがるのは子供の証拠なのね」

 正直に言えばアウセンザイターに打ってもらった剣を持つこと自体辛いのだ。
 その上歩き続けるのも苦難も苦難、背負った荷物も放り出したいくらいだ。
 双子はそんな私の発言に不満を述べるが、兄は気を使って荷物と剣を持ってくれると言ってくれた。
 身内びいきと言えば聞こえはいいが、兄はそれ以上の感情をもって私に対応する。

「なんだ?おんぶもしてやろうか?ほら」

 そう言って背を向け、しゃがむ兄。
 さすがにそれは恥ずかしくて抵抗があった。

「そこまでではない、持ってもらえるだけ嬉しいよ」

「昔はいっぱいおんぶしてたのにな、大きくなったと言う事か」

 以前のカロリーナはそんなに甘えていたのか。
 ここにきて本当の兄妹の関係、カロリーナの面影が出てくる。
 もう存在すらしない魂の情報に私の心にチクりと針を刺されたような感覚でいた。

「仕方がない兄だな、少し甘えてやるから戦闘になったら降ろすんだぞ」

 仕方なくおんぶされてやった。
 兄の背は狭かった。
 おんぶしてもらったなんて前世の父が最後だと、少しばかり懐かしい感覚に落ちいる。

 父はどうしているだろうか。
 母が亡くなってから、私を置いて冒険者になってそれっきり。
 年齢的にも死んでいてもおかしくないからと、居ない者と考えるようになっていた。
 そんな風に思い出したら、懐かしんでしまうではないか。

 もう一度会いたいと───

「おきろ、カロリーナ、着いたぞ、そろそろ起きろ」

 ふと気が付いた時には、ダンジョン外に出ていて、周りは夜の景色だった。
 寝ていた事には驚いたが、兄は私を背負ったままダンジョンを抜け出せたこともまた驚きだった。
 アウセンザイターの姿は既になく、久しぶりの王都を堪能した後にベマオスに向かうと言っていたらしい。
 ダンジョンはリールが使えるようにして、一般に開放すると言う話で進み、発光性のクリスタルの採掘を主体に生産職が入る事となるそうだ。
 先の海戦での戦死者をダンジョン内で弔う・・という方針となり、近くに石碑も作られると言う。
 そして、父に結果を報告した時、何故か私のダンジョン出禁が決まった。

「なぜだ!私の活力、生きがい、人生そのものだと言うのに何故、私が入れないんだ!」

「女王という立場を忘れてはならん、何かあった時に連絡がつかないのが問題なのだ。それに聞いておるぞ、気を失う程に体力を消耗していたとな」

「兄がチクッたのか!あいつ・・・!」

「そう言うな、これも兄妹の愛だ。それよりも、直近で起きた問題に対応せねばならん、まずは意見を聞こうか」

 その問題と言うのは小国プルサウンが我が国に保護を求めてきた事だ。
 軍事大国ソルレーンをバックに我が国に宣戦布告をしかけてくるという噂はどこにいったのやらだ。
 そして、女王である私に直接面会を申し込んできたのだ。
 それもプルサウンの首都で行う事を条件としていた。

 それを多くの貴族が私の婚姻を間近に控えて危機感を抱いたプルサウンが寄り添ってきたと喜んでいる。
 軍部もまた、ただ単に相手が平伏してきたと高笑いする始末だ。
 そしてプルサウンに向かう事になったのだが、問題はその際に10人程度と人数制限を設けられた事だ。
 軍部や貴族は大勢で行っては彼らの申し出を信用していない事となると受け入れるようにと言ってきた。
 要は殆ど無防備な状態で相手を信用して行けというのだ。

 軍部の本音としては裏切りがあって私が殺されたとしても、戦争をする口実になって丁度良いといったところだろう。
 貴族からすれば、他の公爵家を差し置いて私がトップに立つのが気に食わないとかそんなところだ。
 だが、ファーヴニルの存在により、直接害をなす事も出来ず、遠回しに排除できれば儲けものと思われたようだ。
 父はその事に不満の漏らすが、私はそれを受けて立つ事にした。

 実際な所、攻めるタイミングを伺っていただけに、この申し出はしてやられたという感じはある。
 助けを求められ、それを断れば不名誉を国が被る事になるので、断れない事を前提に申し出てきたのだ。

 *

「父よ、即席で動かせる軍勢はどれくらいだったかな?」
「プルサウンが戦場になるとして、2日で到着できるのが騎兵五千と言った所だ、攻めてくるなら対応できるのは歩兵が2万といったくらいだな」
「たしか、ラミレスも同規模の備えがあると言っていたな」
「そこに期待するのもどうかと思うぞ」
「しかしまぁ、面倒な申し出をしてきたものだな、正面からやり合った方が楽しそうだったのだが」
「それはそれで、被害がなく同盟が組めればそれに越した事はないだろう」
「それでソルレーンが黙ってれば最高なんだがな」
「それな」

──────────────────────────────────
 明けましておめでとうございます、今年も宜しくお願いいたします。
 リアルが落ち着くのは今月末くらいかな。
 そのうちまた、毎日更新できればと思います。
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