165 / 193
6.モルバーン学園(二年生編)
6-3.王都にて
しおりを挟む
進級して数日たったある日、店主である私は商業ギルドから緊急招集を受けた。
商業ギルドを訪れると会議室に通され、そこには商業ギルドの長、ロレンツォが不敵な笑みを浮かべて私を見ていた。
その目線は舐める様であまり気持ちの良い物ではない。
ロレンツォは30代半で商業ギルドのトップに昇りつめた異常な権力欲を持っているという。
「陛下・・・私どもは国王だからといって特別扱いはしません」
「それで構わない」
「では、現状のレシピを開示してもらえますか」
「ん?なぜだ?商業ギルドに渡す必要が何処にあるのかわからん。私は商業ギルドに入った覚えはないぞ」
「王都で商売する以上、商業ギルドには所属して頂きます、でないと商売を認められません」
「ああ、わかったわかった、百歩譲って所属はしよう。だが、レシピの開示は分からん」
「今後の商業の発展の為ですよ。個人の利益よりも国の発展の為だと思ってください、国王ならおわかりになられますよね」
「まぁ、別に隠している訳ではない、うちの店で講習会を開く事としよう。今度の休息日の前後で考えておこう」
「ちっ・・・、わかりました、それで結構です」
少しだけ不満そうだがロレンツォはそこで引いてくれた。
ところが案の定、講習会の当日に再び呼び出された。
メンドクセエ。
「小麦なんてどこで手に入れてるのですか!材料は流通は商業ギルドを通してもらわなければ困る!」
「何言ってるんだ、講習会に来た奴にはある程度作れる程度の量を配布してやっただろ。材料は自力で揃えやがれ」
「そもそも小麦なんてダメ麦を作ってる農家はいませんよ!嘘のレシピを教えたのではありませんか?」
「嘘なんて言ってねえよ。小麦は駄目な麦じゃねえよ。今からでも生産すればいいだろう」
「じゃあ、陛下は何処から手にいれているのですか!まさか輸入とか言わないですよね、輸入するなら商業ギルドを通してもらわないと困ります!」
「ギャンギャンとウルセエ奴だな、輸入じゃなく国内で作ってるに決まってるだろう」
「だったら生産地を開示してください!」
「それを教える義理はねえ。勝手に調べればいいだろ」
せこい事を言うつもりは無いが、妻が広めようとしたのを妨害しておきながら今更仕入れたいと言うのはふざけた話だ。
しかも、アングレードにある在庫なんて、王都中で使われ始めればすぐさま底をつくだろう。
当面はある程度、手持ちを放出してやるしかないと思っていたし、教えた所で手に入る訳ではない。
「手持ちの小麦は格安で融通するというのは講習会に来た者には説明済みだ、それで問題あるまい」
「ならばその小麦を全てこちらで預かりましょう。不当に値段を吊り上げられては困りますから」
「何を言ってるのか分からんな、そんな事より小麦の生産を斡旋した方がいいのではないか?」
「それができれば苦労はしないんですよ!」
「それをどうにかするのが商業ギルドの役割だろ!甘えんな!」
農作物で頑なに生産してこなかった物をいきなり入荷できるはずがない。
時期的な話をすれば生産さえしていれば2カ月後くらいに収穫期を迎える。
そこから4カ月ほど置いてから新たな小麦の育成が始まるというサイクルになる。
アングレードでは今となっては周期が半年ズレた種があるので、年に2回収穫時期があるのだ。
これから小麦を育成する農家からすれば猶予が半年ある訳だが、収穫までは1年半もかかるのは当然の事だ。
農家が新たに農地を確保するなり、ライ麦畑を潰すなりして、半年後に生産を始めねばならない。
もっと言えば、そういうふうに領主か商業ギルドが要望を出して回る必要がある。
そして問題として、ライ麦の種まきは今が旬でもうじき終わる頃合いになる。
つまり、ライ麦畑を潰すとなると今の蒔いた作業が無駄になるわ気だから、納得できる者はいないだろう。
「越冬栽培の農家を探せばよかろう?それなら種植え時期がずれているから」
「そうか、その手があったか!」
ライ麦の種まきは、種まきの時期が2種類存在する。
それを失念していたのだろう。
「じゃあそう言う事で、失礼するぞ」
「待ってください、今て持ちの小麦はどれくらいあるのですか、あと、あなたの入手先の生産量は?」
「さてな、それを聞いてどうするんだ」
「我々は生産調整する立場にあるのです、それが出来なければ国民が食に困る事になるのですよ!」
「食に困ると言っても、食べれないのは白パンだけだろう?黒パンを引き続き食べればいいじゃないか。なにもかも白パンに切り替えれば良いというものではないぞ。なんせ白パンよりも黒パンの方が日持ちするからな」
ロレンツォが苛立ちを机にぶつけた音が耳を刺激する。
さらに小さく「小娘が!今に見ていろ」なんて呟いた。
少々苛め過ぎたかと思いながらもギルドを後にする。
そして、その夜の内に事件は起きた。
店が襲撃されて荒らされた。
ただ、そこに現れた人物によって、犯人を撃退したのは不幸中の幸いだった。
結果的に、小麦の在庫が少し奪われたが、店の営業には問題ないレベルだった。
*
「カロリーナ様、お久し振りです。いや、陛下と呼ぶべきですかな」
「リーダーか、呼び名なんてなんでもいいよ。それで王都まで何しにきたんだ?」
「ルグランジは落ち着いてるので、こちらの用心棒として来ました。交渉事も任せてください」
「ああ、頼りにしてる。あ、そうだ、部下の何名かをアングレードに派遣してほしいんだ」
「あんな小さな村に何の用で?」
「少し面倒事になりそうなんだよ」
商業ギルドを訪れると会議室に通され、そこには商業ギルドの長、ロレンツォが不敵な笑みを浮かべて私を見ていた。
その目線は舐める様であまり気持ちの良い物ではない。
ロレンツォは30代半で商業ギルドのトップに昇りつめた異常な権力欲を持っているという。
「陛下・・・私どもは国王だからといって特別扱いはしません」
「それで構わない」
「では、現状のレシピを開示してもらえますか」
「ん?なぜだ?商業ギルドに渡す必要が何処にあるのかわからん。私は商業ギルドに入った覚えはないぞ」
「王都で商売する以上、商業ギルドには所属して頂きます、でないと商売を認められません」
「ああ、わかったわかった、百歩譲って所属はしよう。だが、レシピの開示は分からん」
「今後の商業の発展の為ですよ。個人の利益よりも国の発展の為だと思ってください、国王ならおわかりになられますよね」
「まぁ、別に隠している訳ではない、うちの店で講習会を開く事としよう。今度の休息日の前後で考えておこう」
「ちっ・・・、わかりました、それで結構です」
少しだけ不満そうだがロレンツォはそこで引いてくれた。
ところが案の定、講習会の当日に再び呼び出された。
メンドクセエ。
「小麦なんてどこで手に入れてるのですか!材料は流通は商業ギルドを通してもらわなければ困る!」
「何言ってるんだ、講習会に来た奴にはある程度作れる程度の量を配布してやっただろ。材料は自力で揃えやがれ」
「そもそも小麦なんてダメ麦を作ってる農家はいませんよ!嘘のレシピを教えたのではありませんか?」
「嘘なんて言ってねえよ。小麦は駄目な麦じゃねえよ。今からでも生産すればいいだろう」
「じゃあ、陛下は何処から手にいれているのですか!まさか輸入とか言わないですよね、輸入するなら商業ギルドを通してもらわないと困ります!」
「ギャンギャンとウルセエ奴だな、輸入じゃなく国内で作ってるに決まってるだろう」
「だったら生産地を開示してください!」
「それを教える義理はねえ。勝手に調べればいいだろ」
せこい事を言うつもりは無いが、妻が広めようとしたのを妨害しておきながら今更仕入れたいと言うのはふざけた話だ。
しかも、アングレードにある在庫なんて、王都中で使われ始めればすぐさま底をつくだろう。
当面はある程度、手持ちを放出してやるしかないと思っていたし、教えた所で手に入る訳ではない。
「手持ちの小麦は格安で融通するというのは講習会に来た者には説明済みだ、それで問題あるまい」
「ならばその小麦を全てこちらで預かりましょう。不当に値段を吊り上げられては困りますから」
「何を言ってるのか分からんな、そんな事より小麦の生産を斡旋した方がいいのではないか?」
「それができれば苦労はしないんですよ!」
「それをどうにかするのが商業ギルドの役割だろ!甘えんな!」
農作物で頑なに生産してこなかった物をいきなり入荷できるはずがない。
時期的な話をすれば生産さえしていれば2カ月後くらいに収穫期を迎える。
そこから4カ月ほど置いてから新たな小麦の育成が始まるというサイクルになる。
アングレードでは今となっては周期が半年ズレた種があるので、年に2回収穫時期があるのだ。
これから小麦を育成する農家からすれば猶予が半年ある訳だが、収穫までは1年半もかかるのは当然の事だ。
農家が新たに農地を確保するなり、ライ麦畑を潰すなりして、半年後に生産を始めねばならない。
もっと言えば、そういうふうに領主か商業ギルドが要望を出して回る必要がある。
そして問題として、ライ麦の種まきは今が旬でもうじき終わる頃合いになる。
つまり、ライ麦畑を潰すとなると今の蒔いた作業が無駄になるわ気だから、納得できる者はいないだろう。
「越冬栽培の農家を探せばよかろう?それなら種植え時期がずれているから」
「そうか、その手があったか!」
ライ麦の種まきは、種まきの時期が2種類存在する。
それを失念していたのだろう。
「じゃあそう言う事で、失礼するぞ」
「待ってください、今て持ちの小麦はどれくらいあるのですか、あと、あなたの入手先の生産量は?」
「さてな、それを聞いてどうするんだ」
「我々は生産調整する立場にあるのです、それが出来なければ国民が食に困る事になるのですよ!」
「食に困ると言っても、食べれないのは白パンだけだろう?黒パンを引き続き食べればいいじゃないか。なにもかも白パンに切り替えれば良いというものではないぞ。なんせ白パンよりも黒パンの方が日持ちするからな」
ロレンツォが苛立ちを机にぶつけた音が耳を刺激する。
さらに小さく「小娘が!今に見ていろ」なんて呟いた。
少々苛め過ぎたかと思いながらもギルドを後にする。
そして、その夜の内に事件は起きた。
店が襲撃されて荒らされた。
ただ、そこに現れた人物によって、犯人を撃退したのは不幸中の幸いだった。
結果的に、小麦の在庫が少し奪われたが、店の営業には問題ないレベルだった。
*
「カロリーナ様、お久し振りです。いや、陛下と呼ぶべきですかな」
「リーダーか、呼び名なんてなんでもいいよ。それで王都まで何しにきたんだ?」
「ルグランジは落ち着いてるので、こちらの用心棒として来ました。交渉事も任せてください」
「ああ、頼りにしてる。あ、そうだ、部下の何名かをアングレードに派遣してほしいんだ」
「あんな小さな村に何の用で?」
「少し面倒事になりそうなんだよ」
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる