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5.モルバーン学園(一年生編)
5-84.バーランド近海にて
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敵の目論見が凡そ分かってきた。
このままだとアレグサンダーはクーデターの首謀者として殺される。
その過程で現国王も殺害され、王弟のウエスター侯爵が王位に就くという算段なのだ。
この流れだと、ウィリアムの命も危うい事になる。
アレグサンダーも助けてやりたいところだが、その方法が思いつかない。
実際そこまでする義理があるのかという疑問もある程で、この事は優先度を下げざるを得なかった。
しかし、夜中の俺が出来る事と言えばこうして精神体を飛ばす事だけ。
夜が明けるまで、状況が悪化しない事を祈るばかりだ。
もうこの二人から情報を得るものはなくなったと判断して帰ろうとした時、ウエスター侯爵の話し相手が妙な反応を示した。
「おや?侵入者ですかな」
「なに!?どこだ!」
「焦る事はありません、もう捕らえたも同然ですから」
なんの事を言っているのかと思っていたが、どうやら捕まったのは俺のようだ。
気が付けば動けなくなっていたとは笑うしかなく、どうやら相手の方が一枚上手と言う事か。
気になるのは精神体にダメージを入れる事ができるのか、その場合どうなるのかだ。
尻尾を連れてきていれば無理矢理に逃げ出す事は出来るのだろうが、残念ながら置いて来てしまった。
壁抜けとかするには尻尾があると不便なのと、今日はもう痛い思いをしたくなかったせいで、判断を間違えたようだ。
さて、どうなるのかと固唾を飲んで相手の動きを待った。
「ふふ、侯爵の横に居るのは分かっているのです、姿を現すがいい!」
「なんだと!」
何を言っているのかわからんが、俺は今、入口の前に居る。
明後日の方向に居ると思われている以上、俺の場所がバレた訳ではないのかブラフなの判断しきれないでいた。
「不届き者も焦って動けない様ですな、空間封鎖の魔導具があってよかったでしょう」
「そんな物があるのか、それはどの様な物だ」
「これはですね、一定範囲の空間に居る何等かのスキルを発動している者を足止めする事ができ、また、そのような者が近くにいる場合に淡く光るようになっているのです」
「なら、その空間のどこにいるのかも、その魔道具で判るのだな。このへんか?このへんか??」
侯爵は何かを触るようにくねくねと動くのだが、当然そこに俺はいないのだから触れるはずがない。
それどころか、精神体を触れるなんて一言も言ってないのだから、ただ拘束されているだけと言う事になる。
それであれば俺は拘束を解かれるのをぼーっとまつまでで、こちらにとっては何のデメリットもない訳だ。
もとより足は地についておらず、プカプカ浮いている以上、立ち続ける辛さもないのだから、いつまでも待つ事ができる。
むさい男の会話を聞き続けなくてはならないというのは、些か拷問かもしれんがそれも仕方がない事だ。
「あの、実はは場所は当てずっぽうでして、この部屋の中にいるとは限らないのです」
「なんだと・・・使えそうだと思ったが、とんだ役立たずだな!」
「ですが、こうやって部屋の中を手探りで探せばどこかで捕まえれるやもしれません、いなければ隣の部屋だと思って忘れましょう」
「それなら、お主がやれ、次期国王がやる事ではないわ」
「はっ、承知しました!」
暫くして彼らは探すのを諦め、この部屋には誰もいないと信じたのか、普通に会話をするようになった。
さらに少し時間が経つと魔力が切れたのか魔導具が停止したのか動けるようになった。
ただ、その間の会話が問題だった。
どうやらモルバーン学園にて生徒が立て籠もり、戦闘に発展しているらしい。
そのモルバーン学園には竜騎士団が生徒側に肩入れし、さらにウィリアム王子とブリジット姫まで合流しているようだ。
ブリジット姫は兎も角、ウィリアム王子の生存はウエスター侯爵にとって都合が悪く、学園の攻略が終わらない事に苛立ちを覚えているのだった。
タイムリミットは、このクーデターが終わるまでに最低でもウィリアム王子の抹殺だと言いたいのだろう。
その状況を打開すべく、クーデター側が切り札を投入するという事を言っていた。
さて、俺はこの状態に手をこまねいて見ているだけでいいのだろうか。
バーランド王国の貴族である以上、陛下をお助けしに行くのが道理であるのは明らかだ。
だが、陛下の現在地が特定できない。
どうやれば陛下の場所が分かるだろうか───
聖騎士団の詰め所で聞き耳を立てていれば或いは・・・いや、その詰め所が分からん。
じゃあ、アレグサンダーに会って説得をするか───
捕まる可能性も有るかもしれないが、逆にアレグサンダーを人質にするという手がある。
いっその事、アレグサンダーを誘拐するのもアリかもしれん。
どうせ、アレグサンダーは担ぎ上げられただけで、自身で何かしたわけではないだろう。
主犯が宰相と言うのは明白で、アレグサンダーは今まで幽閉されていた以上、根回しすら出来なかったハズだ。
もし王宮に忍び込むのであれば、夜の方が都合がいい。
それも、説得しなくてはならないのだから精神体ではなく生身の体で行かなくてはならない。
正直、魔操糸術で縛り上げて強引に連れてきてから説得したいところだが、精神体で魔操糸術を使うと何故か切れ味が増してしまうらしく手加減が全くできていない。
つまりは、下手をするとアレグサンダーを輪切りにしてしまうかもしれないという話だ。
なんとも恐ろしい話だ。
*
「オルドリッジ様、そういう訳でいってくる」
「は?」
「いや、だから、わかるだろ?」
「説明をしろ、説明を」
「ちょっと王宮まで、王子の説得をしてくるよ」
「そうか、気を付けていってく・・・なんだと!?」
「いいじゃねえか、こまけえ事を気にするなよ」
このままだとアレグサンダーはクーデターの首謀者として殺される。
その過程で現国王も殺害され、王弟のウエスター侯爵が王位に就くという算段なのだ。
この流れだと、ウィリアムの命も危うい事になる。
アレグサンダーも助けてやりたいところだが、その方法が思いつかない。
実際そこまでする義理があるのかという疑問もある程で、この事は優先度を下げざるを得なかった。
しかし、夜中の俺が出来る事と言えばこうして精神体を飛ばす事だけ。
夜が明けるまで、状況が悪化しない事を祈るばかりだ。
もうこの二人から情報を得るものはなくなったと判断して帰ろうとした時、ウエスター侯爵の話し相手が妙な反応を示した。
「おや?侵入者ですかな」
「なに!?どこだ!」
「焦る事はありません、もう捕らえたも同然ですから」
なんの事を言っているのかと思っていたが、どうやら捕まったのは俺のようだ。
気が付けば動けなくなっていたとは笑うしかなく、どうやら相手の方が一枚上手と言う事か。
気になるのは精神体にダメージを入れる事ができるのか、その場合どうなるのかだ。
尻尾を連れてきていれば無理矢理に逃げ出す事は出来るのだろうが、残念ながら置いて来てしまった。
壁抜けとかするには尻尾があると不便なのと、今日はもう痛い思いをしたくなかったせいで、判断を間違えたようだ。
さて、どうなるのかと固唾を飲んで相手の動きを待った。
「ふふ、侯爵の横に居るのは分かっているのです、姿を現すがいい!」
「なんだと!」
何を言っているのかわからんが、俺は今、入口の前に居る。
明後日の方向に居ると思われている以上、俺の場所がバレた訳ではないのかブラフなの判断しきれないでいた。
「不届き者も焦って動けない様ですな、空間封鎖の魔導具があってよかったでしょう」
「そんな物があるのか、それはどの様な物だ」
「これはですね、一定範囲の空間に居る何等かのスキルを発動している者を足止めする事ができ、また、そのような者が近くにいる場合に淡く光るようになっているのです」
「なら、その空間のどこにいるのかも、その魔道具で判るのだな。このへんか?このへんか??」
侯爵は何かを触るようにくねくねと動くのだが、当然そこに俺はいないのだから触れるはずがない。
それどころか、精神体を触れるなんて一言も言ってないのだから、ただ拘束されているだけと言う事になる。
それであれば俺は拘束を解かれるのをぼーっとまつまでで、こちらにとっては何のデメリットもない訳だ。
もとより足は地についておらず、プカプカ浮いている以上、立ち続ける辛さもないのだから、いつまでも待つ事ができる。
むさい男の会話を聞き続けなくてはならないというのは、些か拷問かもしれんがそれも仕方がない事だ。
「あの、実はは場所は当てずっぽうでして、この部屋の中にいるとは限らないのです」
「なんだと・・・使えそうだと思ったが、とんだ役立たずだな!」
「ですが、こうやって部屋の中を手探りで探せばどこかで捕まえれるやもしれません、いなければ隣の部屋だと思って忘れましょう」
「それなら、お主がやれ、次期国王がやる事ではないわ」
「はっ、承知しました!」
暫くして彼らは探すのを諦め、この部屋には誰もいないと信じたのか、普通に会話をするようになった。
さらに少し時間が経つと魔力が切れたのか魔導具が停止したのか動けるようになった。
ただ、その間の会話が問題だった。
どうやらモルバーン学園にて生徒が立て籠もり、戦闘に発展しているらしい。
そのモルバーン学園には竜騎士団が生徒側に肩入れし、さらにウィリアム王子とブリジット姫まで合流しているようだ。
ブリジット姫は兎も角、ウィリアム王子の生存はウエスター侯爵にとって都合が悪く、学園の攻略が終わらない事に苛立ちを覚えているのだった。
タイムリミットは、このクーデターが終わるまでに最低でもウィリアム王子の抹殺だと言いたいのだろう。
その状況を打開すべく、クーデター側が切り札を投入するという事を言っていた。
さて、俺はこの状態に手をこまねいて見ているだけでいいのだろうか。
バーランド王国の貴族である以上、陛下をお助けしに行くのが道理であるのは明らかだ。
だが、陛下の現在地が特定できない。
どうやれば陛下の場所が分かるだろうか───
聖騎士団の詰め所で聞き耳を立てていれば或いは・・・いや、その詰め所が分からん。
じゃあ、アレグサンダーに会って説得をするか───
捕まる可能性も有るかもしれないが、逆にアレグサンダーを人質にするという手がある。
いっその事、アレグサンダーを誘拐するのもアリかもしれん。
どうせ、アレグサンダーは担ぎ上げられただけで、自身で何かしたわけではないだろう。
主犯が宰相と言うのは明白で、アレグサンダーは今まで幽閉されていた以上、根回しすら出来なかったハズだ。
もし王宮に忍び込むのであれば、夜の方が都合がいい。
それも、説得しなくてはならないのだから精神体ではなく生身の体で行かなくてはならない。
正直、魔操糸術で縛り上げて強引に連れてきてから説得したいところだが、精神体で魔操糸術を使うと何故か切れ味が増してしまうらしく手加減が全くできていない。
つまりは、下手をするとアレグサンダーを輪切りにしてしまうかもしれないという話だ。
なんとも恐ろしい話だ。
*
「オルドリッジ様、そういう訳でいってくる」
「は?」
「いや、だから、わかるだろ?」
「説明をしろ、説明を」
「ちょっと王宮まで、王子の説得をしてくるよ」
「そうか、気を付けていってく・・・なんだと!?」
「いいじゃねえか、こまけえ事を気にするなよ」
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