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5.モルバーン学園(一年生編)
5-62.
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冒険者一行は保健室で夜を明かす事となり、学園祭は拝火の儀というクライマックスに突入しようとしていた。
巨大な焚火に学園祭で使用し廃棄する飾りとかを次々と放り込み、燃やしていった。
俺は言われた通りにオルドリッジ様とダンスを踊るつもりで焚火のある場所に向かったのだが、そこにオルドリッジ様の姿は無かった。
少し前にダグラスがブヒトニーを確保したという話を耳にしていた。
もしかすると尋問でもしているのかもしれない。
焚火から離れ、少しぼーっとして火を眺めていると娘がウィリアムと踊っている姿が見えた。
二人は少し照れ臭そうにしながらも、まんざらでもないという表情で落ち着いたリズムの曲に乗っていた。
それを見つめていると娘が遠くに行ってしまいそうで、目頭が熱くなってきた。
「まだ、9歳なんだけどな・・・」
娘が親離れするにはまだ早いと言いたいところだが、当の親が姿を消して中身はこんな幼女となってしまった以上、それを言う訳にはいかない。
俺が卒業して結婚する2年と数カ月後と言えば娘は12歳になる頃で、その歳でもう簡単に会えなくなると考えると漠然とした寂しさを感じる。
「結婚の延期はできんのかなぁ・・・」
できもしない事を嘆いているのは間違いなく、未練のせいなのだ。
娘の成長を見たい。
娘の相手を見極めたい。
娘が結婚するところを見たい。
娘が・・・・!!!
娘は誰にもやらん・・・。
なんて言えないよな。
「はぁああああああああああああ」
オルドリッジ様は何処で何をやっているんだ!
俺がこんな寂しい思いをしているのも、全てはオルドリッジ様が約束をすっぽかしたからだ。
それさえなければ、俺は───
「待たせたな」
「オルドリッジ様───随分と遅い到着だな、今流れてる曲で終わりだぞ」
曲はチークダンス向けではなく、アップテンポな曲に変わっていた。
それは最後の曲を意味していたのだ。
「はは、そんな筈がある訳ないだろ」
バチンッと指を鳴らすと、唐突に曲調が変わり、スローテンポに切り替わる。
もしもの事を考え、演奏者に事前に頼んでいたのだろうか。
それは兎も角、手を差し伸べられてダンスのお誘いを受けた以上、断る事は出来ないのだ。
「まったく、遅いんだよ」
言い訳の一つもしたら引っぱたいてる所だった。
まぁ、日が落ちている間の俺に叩かれたところで、痛くもかゆくもないだろうがな。
引っ張り上げられるように立ち上がった俺の腰に手を回し、ゆっくりとリードするように躍る姿は、なんというか落ち着く・・・とでも言うべきなのだろうか。
最近あった嫌な事など忘れ、ここに来てくれた事に喜びを感じている俺はコイツに惚れているとでもいうのだろうか。
踊るといっても殆ど抱き着いているようなものだ。
ゆっくり躍りながら、オルドリッジ様は俺を見つめていた。
俺もそれにつられてオルドリッジ様を見ていたのだが、焚火の優しい灯に照らされ優しい表情に少しばかり鼓動が早くなる。
妻と初めてデートした時の鼓動が今再び起こっているのだが、それを肯定する勇気はなかった。
恐らくはオルドリッジ様との初めてのダンスに緊張しているのだ。
それで鼓動が早くなっているに過ぎないのだ。
たぶん。
俺が恋なんてするハズがない──
これは義務だ。
これは義務だ───
これは義務だ───
「最近、冷たかったのは、やはりあれか?」
「あれは・・・もういいよ、もう二度と突っ込まないって約束するならな」
「・・・まぁ、突っ込むべきは別の穴だしな、約束するよ」」
「ハッキリ言うなよ・・・恥ずかしい」
目を閉じてもリードは続く。
ただ、流れに任せ。
ただ、身を任せ。
ただ、コイツに頼った。
結局のところ、俺は娘さえ幸せになれるのであれば、俺自身はどうでも良いのだ。
だって、本来愛すべき相手は、もうこの世にいないのだからな。
この心の空白をコイツは埋めてくれるのなら別だがな。
───いかん、妻の事を考えると、どうにも変な考えになってしまう。
柄にもなく、なんというか・・・ああっもうっ、俺は乙女かよっ。
俺が変な思考で勝手に混乱しているところに、そっと耳打ちされた。
「ブヒトニーの裏にはこの国の宰相がいるようだ」
「へぇ・・・じゃあ俺は殴り込めばいいのか?」
「まぁ待て、まだ追い詰めれる程十分に証拠が揃っていない。相手の目的も分からんから、証拠掴むまで少し待つんだ」
「ああ・・・そうなのか」
宰相なんて年取った口うるさい老害程度にしか思っていなかった。
奴は竜騎士団設立時からの因縁の相手で、何かにつけて俺に難癖をつけてきた。
尤も、この体になってからは関わった事すらないがね。
もしもその復讐が出来るなら願ってもない話だ。
*
「カロリーナ、何か悪い事考えてるだろう?」
「なぁに、ちょっとした復讐劇を思いついただけさ」
「何か考えがあるなら、事前に言うんだぞ」
「どうしてだ?これはこの国のトラブルだ、オルドリッジ様の手を煩わせる事は無い」
「カロリーナは勘違いをしているな。俺はお前の事を思って言ってるだけだ、お前が心配なんだよ、カロリーナ。お前がする事を知りたいんだよ、カロリーナ。お前から目が離せないんだ、カロリーナ」
「お・・・おう・・・(なんか怖えーよ)」
巨大な焚火に学園祭で使用し廃棄する飾りとかを次々と放り込み、燃やしていった。
俺は言われた通りにオルドリッジ様とダンスを踊るつもりで焚火のある場所に向かったのだが、そこにオルドリッジ様の姿は無かった。
少し前にダグラスがブヒトニーを確保したという話を耳にしていた。
もしかすると尋問でもしているのかもしれない。
焚火から離れ、少しぼーっとして火を眺めていると娘がウィリアムと踊っている姿が見えた。
二人は少し照れ臭そうにしながらも、まんざらでもないという表情で落ち着いたリズムの曲に乗っていた。
それを見つめていると娘が遠くに行ってしまいそうで、目頭が熱くなってきた。
「まだ、9歳なんだけどな・・・」
娘が親離れするにはまだ早いと言いたいところだが、当の親が姿を消して中身はこんな幼女となってしまった以上、それを言う訳にはいかない。
俺が卒業して結婚する2年と数カ月後と言えば娘は12歳になる頃で、その歳でもう簡単に会えなくなると考えると漠然とした寂しさを感じる。
「結婚の延期はできんのかなぁ・・・」
できもしない事を嘆いているのは間違いなく、未練のせいなのだ。
娘の成長を見たい。
娘の相手を見極めたい。
娘が結婚するところを見たい。
娘が・・・・!!!
娘は誰にもやらん・・・。
なんて言えないよな。
「はぁああああああああああああ」
オルドリッジ様は何処で何をやっているんだ!
俺がこんな寂しい思いをしているのも、全てはオルドリッジ様が約束をすっぽかしたからだ。
それさえなければ、俺は───
「待たせたな」
「オルドリッジ様───随分と遅い到着だな、今流れてる曲で終わりだぞ」
曲はチークダンス向けではなく、アップテンポな曲に変わっていた。
それは最後の曲を意味していたのだ。
「はは、そんな筈がある訳ないだろ」
バチンッと指を鳴らすと、唐突に曲調が変わり、スローテンポに切り替わる。
もしもの事を考え、演奏者に事前に頼んでいたのだろうか。
それは兎も角、手を差し伸べられてダンスのお誘いを受けた以上、断る事は出来ないのだ。
「まったく、遅いんだよ」
言い訳の一つもしたら引っぱたいてる所だった。
まぁ、日が落ちている間の俺に叩かれたところで、痛くもかゆくもないだろうがな。
引っ張り上げられるように立ち上がった俺の腰に手を回し、ゆっくりとリードするように躍る姿は、なんというか落ち着く・・・とでも言うべきなのだろうか。
最近あった嫌な事など忘れ、ここに来てくれた事に喜びを感じている俺はコイツに惚れているとでもいうのだろうか。
踊るといっても殆ど抱き着いているようなものだ。
ゆっくり躍りながら、オルドリッジ様は俺を見つめていた。
俺もそれにつられてオルドリッジ様を見ていたのだが、焚火の優しい灯に照らされ優しい表情に少しばかり鼓動が早くなる。
妻と初めてデートした時の鼓動が今再び起こっているのだが、それを肯定する勇気はなかった。
恐らくはオルドリッジ様との初めてのダンスに緊張しているのだ。
それで鼓動が早くなっているに過ぎないのだ。
たぶん。
俺が恋なんてするハズがない──
これは義務だ。
これは義務だ───
これは義務だ───
「最近、冷たかったのは、やはりあれか?」
「あれは・・・もういいよ、もう二度と突っ込まないって約束するならな」
「・・・まぁ、突っ込むべきは別の穴だしな、約束するよ」」
「ハッキリ言うなよ・・・恥ずかしい」
目を閉じてもリードは続く。
ただ、流れに任せ。
ただ、身を任せ。
ただ、コイツに頼った。
結局のところ、俺は娘さえ幸せになれるのであれば、俺自身はどうでも良いのだ。
だって、本来愛すべき相手は、もうこの世にいないのだからな。
この心の空白をコイツは埋めてくれるのなら別だがな。
───いかん、妻の事を考えると、どうにも変な考えになってしまう。
柄にもなく、なんというか・・・ああっもうっ、俺は乙女かよっ。
俺が変な思考で勝手に混乱しているところに、そっと耳打ちされた。
「ブヒトニーの裏にはこの国の宰相がいるようだ」
「へぇ・・・じゃあ俺は殴り込めばいいのか?」
「まぁ待て、まだ追い詰めれる程十分に証拠が揃っていない。相手の目的も分からんから、証拠掴むまで少し待つんだ」
「ああ・・・そうなのか」
宰相なんて年取った口うるさい老害程度にしか思っていなかった。
奴は竜騎士団設立時からの因縁の相手で、何かにつけて俺に難癖をつけてきた。
尤も、この体になってからは関わった事すらないがね。
もしもその復讐が出来るなら願ってもない話だ。
*
「カロリーナ、何か悪い事考えてるだろう?」
「なぁに、ちょっとした復讐劇を思いついただけさ」
「何か考えがあるなら、事前に言うんだぞ」
「どうしてだ?これはこの国のトラブルだ、オルドリッジ様の手を煩わせる事は無い」
「カロリーナは勘違いをしているな。俺はお前の事を思って言ってるだけだ、お前が心配なんだよ、カロリーナ。お前がする事を知りたいんだよ、カロリーナ。お前から目が離せないんだ、カロリーナ」
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