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5.モルバーン学園(一年生編)

5-52.

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 学園祭当日となった。
 基本的な話になるが、学園祭に来るのは王族貴族階級だけだ。
 ただ、特例としてフェルレイク学院みたいな平民向け学校の生徒やその関係者もやって来る。
 あとは、外国の重要人物、有力商人なんかも王国の貴族連れられて来る事があるらしい。

 そういえば娘に学院の文化祭に誘われていたのに、うっかり忘れて行き損ねた事を思いだす。
 色々有り過ぎたのだよ・・・。

 そんな後ろめたさがあるというのに、当日、娘がやってきてキッチンを手伝うと言い出した。
 娘の料理が食べれるという事にテンションが有頂天を突破し、舞い上がってしまった。
 が、話は変な方向に進展する。
 何を考えたか、その事にディーナが異議を唱えたのだ。

「カロリーナちゃんは私の作った料理を食べるの!」

「カロリーナ様は私のを食べて頂きます!」

「「ならば勝負よ!」」

 そうして始まった、料理対決。
 父からの直伝料理を披露する娘 対 俺からの直伝料理を披露するディーナ。
 どっちも俺じゃねーか。

 二人が作ったのは同じ料理。
 どちらも、紅茶に合う料理としてクッキーを作る。
 しかも短時間調理対決として制限時間は10分しかない。
 店としては素早く提供し、お土産にも持たせて大量販売するのを目標としている。
 クッキーは王都では一般ではなく、市井でも売られていない。
 めずらしいからこそ売れると考えているのだが、クッキーという名称が一般的ではない為、名前だけで売るのは困難を極める。
 そこで考えられた店名が『ラミレス王国ゆかりのの出来立てクッキーのお店』だ。
 どうやら消えた聖女が同じレシピを知っていたらしく、それならそちらを元祖とすべきだという話になった。

 二人は、短時間なりに工夫を考えていた。
 紅茶の葉を入れたり、バターの分量を増やしたりと、なにやら試行錯誤を短時間で行っていた。
 その研究時間はたったの1時間、実質の調理時間は5分で出来るレシピだ。
 二人は俺好みの味を導き出し、クッキーを焼き上げた。

 最初にディーナが作った物を食す事にした。
 出来上がったのは基本に忠実だが、上部に砂糖がまぶしてあり、じゃりじゃりした食感が味わえる。

「んぐ・・・もぐもぐ・・・これは!バターをふんだんに使い、より一層の濃厚さをアピールしているが、それを上部に乗せた砂糖が完璧なる甘味へと昇華させているのだ・・・ディーナ、恐ろしい娘!」

 次は娘、フランチェスカが作ったクッキーを食す事になったが。
 色は少し薄めの仕上がりの上、どことなくレイモンの香りがしているのだ。

「んぐ・・・もぐもぐ・・・これは!一口食べただけで判る。柑橘類の皮を練り込んで爽やかでフルーティーさを前面に推し出し、酸味が甘味を引き立て、より完璧な甘味へと昇華させている!フランチェスカ、恐ろしい娘!」

 腕を上げたな・・・とは直接言える筈がない。
 なにせ、この体では娘の手料理を食べた事などないのだから。
 だが、今回ばかりは娘に軍配が上がった。
 それは依怙贔屓ではなく、純粋に洗練された味付けに仕上がっていたからだ。

 ここ数年で覚えたレシピを研鑽し、お店で賄いとして振舞っていたディーナの成長も目覚ましいものがあったが、それ以上に俺が子供の頃に教えたきりの俺のレシピ・・・いや、母親のレシピをフランチェスカが俺好みに調整し続けた結果だ。

「どっちも美味しかった。甲乙つけ難く勝敗をつけるにも迷いはあった。それでもあえて軍配を上げるとすれば、フランチェスカさんのクッキーですね」

「やったあ!!」

 周りから惜しみない拍手が巻き起こり、他の者も食べたいと申し出てきた。
 結果、二人のクッキーを一緒に提供する事となり、帰り際には投票箱に見立てた二つの箱のどちらかに一票を投じてもらう事になった。
 量産体制はキッチン担当が五人になった事で十二分だったが、途中で食欲魔人と言われているモニカが看板を背負い、校内を巡回する事となった。
 出来立てのクッキーの香ばしい匂いを振り撒きながら、もぐもぐと実に美味しそうに食べるその姿に誰もが涎を垂らし看板に書かれた目的地を目指した。
 中で食べる事がメインだと考えていたのだが、気づけば長い行列ができており、それを分散させるためにお土産用のクッキーを出張販売するようにした。
 モニカが食べながらねり歩き、ガタイの良いケリーが大量のクッキーを運び、二人一組で販売する形式に切り替えた。

 が、それも混雑を招く結果となってしまった。

 食べた者が店では他のメニューがある事を聞きつけ、店の行列がさらに増えてしまったのだ。
 他の提供しているものと言えば、コーヒーゼリーにプリンにサンドイッチ程度だが、それも市井にすら無いものだった。
 残念ながら、サンドイッチは材料が速攻で尽きて戦力外となり、次にコーヒーゼリーがゼラチン不足で陥落、最後の砦はプリンのみとなっていた。

「大変です・・・・材料が圧倒的に足りないわ!!!」

 ミアが青い顔をして俺に報告してきた。
 分厚い眼鏡の奥に見えるその瞳には、どれくらいで品切れになるのかが見えていると言いたげだ。
 売り切れというのは出店側としては一時的な商機の喪失というだけでなく、あそこは在庫が少ないというマイナスイメージを植え付け、今後の客足を鈍らせるという事態に陥りかねない。と、普段眠そうにしているグリフィンが言っていた。

 そんな状況で元気が有り余るポーリーンが仕入れを任せて欲しいと志願してきた。
 執事喫茶としては同じ一年生の手配した使用人が頑張ってくれている。
 その中、俺とミアが中心となって上客に対応していたのだが、ここにきて問題が発生する。

 ウィリアム第二王子の登場である。

 *

「久しぶりじゃないか」
「その、彼女はいないのか?」
「彼女とは?ああ、大聖女様か?俺は姿を知らないから来てても分からんよ」
「あ・・・そうか、えっと、フランチェスカさんは居るかな」
「ああ、呼んでこようか?」

 娘を呼びに行くと娘は王子様が面会に来た事に焦ったのかウィリアムを大急ぎで外へ連れ去りどこかに行ってしまった。
 一体何が起きたのだろうか。
 父ちゃん、気になります。
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