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5.モルバーン学園(一年生編)

5-38.ラミレス王国王都にて

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 前王の弟って前王弟とでも言うのだろうか。
 それともただの王族か。
 兎に角、その様に地位の高い者がこの国にも居る。
 そしてその者はスマートな体格のなオルドリッジ様とは違い、豪胆で理想の筋肉のつき方をしていた。
 オルドリッジ様がこの国を留守にしている間、国を纏めてくれているのがこの方だ。
 とはいえ本来は軍属、重要な案件はだいたい保留状態にするらしく、そのせいでオルドリッジ様が多忙を極めている。
 さらに三万の騎士の話も舞い込み、オルドリッジ様への負担が増えているという状況だ。

 そんな訳で今日もオルドリッジ様とは別行動となっているが、一対一で会わせるあたりオルドリッジ様が抱く信頼というのが伺い知れる。

「はじめまして、テルフェイア・サンチェス様」

「ようこそ、カロリーナ嬢、今はまだアバークロンビーだったか。どうやらアンタは悪いヤツでは無さそうだな」

 ぶっきらぼうに何を言うかと思えば人の良し悪しを判別された。
 この判別は俺から醸し出す雰囲気からくるものか、それともそういうのを見分けられる技能を持っているかだ。

「そんな事がわかるのですか?特殊な技能でも?」

「まぁそんなところだ、悪い奴はそういう匂いがする。権力に媚びようとしてれば顔に出る、金にがめつい奴は姿勢に出るもんだ」

「つまり、経験と言う事ですか」

「そう思ってくれていい。アンタからは令嬢と言うよりは戦士か何かを感じるんだが気のせいかね」

「そんな、深窓の令嬢を捕まえて、戦士とは少々失礼が過ぎません?」

「そうだったな、失礼した」

 ガッハッハーと高らかに笑う感じはとても憎めない感じがした。
 見た目もそうだが、目に傷を負った後があるあたり、生粋の前線指揮タイプ武官なのだろう。
 ああー・・・すごくお手合わせ願いたい。

「クックック、そう焦るな。こっちに嫁いできたらいくらでも相手をしてやるからな」

「ふふ、分かりますか」

「アイツの手紙にはお前さんの事ばかり書いてるからな」

「へぇ・・・それっていつ頃から、私の名前が出てきましたか?」

「たしか1年前くらいだったか?迷宮攻略している面白い令嬢が居るって、筆が乱れるくらい興奮してたぞ」

「はははは、そんな時から知られてたのですか」

「ああ、結構調べ上げて婚約者がいると知った時は、それなりに落ち込んでおった」

「へ、へええ~、そのあたりもっと詳しく聞きたいです」

「ああ、構わんぞ、手紙を持って来てやろう」

 その手紙を読んでいくと、どうにかして俺とアレグサンダーと別れさせようとしているが綴ってあった。
 その上で口説き落としたいと馬鹿正直に書き連ねてある。
 それはもう、気の毒な程だ。

 現状から考えても見れば変だと思える事はいくつかある。
 あれから、革命軍が全く音沙汰がない事。
 そもそも革命軍が俺をターゲットにしていた事。
 それと、虐めで目を刺されそうになった時、オルドリッジ様が現場に現れた事。
 もしも、それが全てオルドリッジ様の手によって引き起こした事件であるならどうなるか。
 彼に犯行は可能かどうかはさておき、全てが彼の都合の良い筋書きストーリー通りに動いているとすればどうだ。

 ・・・。

 だとして、何の問題がある?

 今に至ってこの婚約が俺に何のメリットとデメリットがあった?

 アレグサンダーと別れる事となった・・・これは望んでいた事だ。

 苛めから解放された・・・これはよくわからん、プラスマイナス0かもしれんし、恩に着る話かもしれん。

 首輪で非力になった・・・これは一時的・・・に解消した事だ、気にする事ではない。

 バーランド王国の海軍力が強化された・・・これは感謝しかない。

 オルドリッジ様と婚約した・・・俺が認める程に面白いと思う相手となら、この体も本望だろう。

 他に何かあったか?
 若干、現在のアレグサンダーの境遇には同情するものがあるし、王妃様と離れる事は寂しい限りだ。
 マイナス思考の感情を引きずる事が苦手なせいか、恨み辛みと言った感情が長続きしない。
 能天気だと言われればそれまでだが、現状、何の不自由もないし、不満もないのだ。

「まぁ、頑張って頂けたという事ですね」

「なんだ、気に入らないとか思わないのか?やり方があくどいとか、腹が立つとか!」

「ありませんね、そこまでして手に入れたいと思って頂けたなら、光栄な事ですよ」

「そうか・・・・・ぷっ」

「?」

「わっはっはっはっは」

 唐突に笑い出したテルフェイア様にキョトンとするしかなかった俺はその笑い声が収まるまで何故笑われたのかを考えるに費やした。
 ところがそんな笑える話が何処にあったのか、とんと見当がつかないのだ。
 思わず首をかしげてしまうと、テルフェイア様は一言「すまん」と謝った。

「実は最初の手紙以外は、全部執事の捏造した物だ」

「はぁ、最初と言うと、迷宮攻略してる面白い令嬢の話ですね」

「そうだ、いくつかのトラブルがあったのは聞いていたからな、その原因が全部アヤツのせいだったらどうするかと思って、少し疑いたくなる様な文面にしたのだ」

「成程、思い通りにいかなかったみたいですね」

「うむぅ、結婚前に喧嘩の一つくらいはしとくべきだと思ったのだがな、作戦は失敗した」

「した事はありますよ?口喧嘩ですが」

「ほう、どっちが折れた?」

「えーと・・・口説きなおされました」

「わっはっはっは、アヤツもやるなぁ」

 まるでオヤジと話している様な感覚だった。
 年齢的には前世の俺よりも十と少し上だろうか。
 その懐かしさにもっと話していたいと思う程に、楽しんでいた。

 *

「ところで、彼はこの国で結婚相手の候補はいなかったのですか?」
「居たと言えば居たなぁ、まぁ大昔の事だから気にする事ではない」
「私、気になります!」
「いやいや、本当に、気にするな。まぁ話すとしてもシラフで話せる内容ではないな」
「じゃあ飲みますか」
「お?」
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