上 下
100 / 193
5.モルバーン学園(一年生編)

5-28.

しおりを挟む
 少し憂鬱になっていた。
 甘い物が足りない。
 食事量も減らしているせいか、少し短気になりつつあった。
 そんな情けない状況に兄、ブレイクがやって来た。

「久しぶりに、一緒に食事をしないか」

「ん、いいな、話すのも久しぶりじゃないか。今日の取り巻きは?」

「今日は遠慮してもらったよ。妹の為だからな」

 そうして、二人で食事をとりながら些細な話で場を和ませた。
 最近、父が寝不足て倒れたという話は驚いたが、第一王女と弟のジェイクの仲が良いという話は少し嬉しくもあった。
 食事は終り話を続けたが、何か物足りないと言い出した。

「また、作ってほしいな。カロリーナの作るスイーツが食べたい」

「いいけど、フライパンを振る事すら大変なんだ。手伝ってくれるか?」

「それくらいならいくらでもやるぞ」

 あまりにも嬉しそうに言うのだから、何か作るしかない。
 調理場の一角を借りて材料を確認し、調理を下ごしらえを始める。

 桃が余っていたので水と砂糖とレモン汁で煮て一旦冷やす。
 卵白に砂糖を加えて泡立て、クリームが完成。これも一緒に冷やす。
 卵黄にふるった薄力粉を入れてよく混ぜ、クリームの一部を混ぜ合わせた。
 四角い枠に流し込み、ゆっくり焼いて少し冷やして、四角く薄めのスポンジの出来上がりだ。
 その上に、残りのクリームを乗せて冷やした桃を乗せる。
 後は丸く包んで、桃のロールケーキの完成だ。

「冷やしたり焼いたり忙しいな」

「いやあ、魔法が全く使えないから助かる」

「俺は料理器具じゃないぞ」

「わかってるって」

 適当なサイズに切り分けて、二人で一切れずつ食べた。
 久しぶりのクリームの甘さに全身が喜んでいる。
 甘い物はやっぱりいいモノだ。

「あ、ダイエットしてたんだった!」

「じゃあ頭を使えよ。お前も俺並みに頭が良いんだからさ、きっと大丈夫だ」

「そうだな、そうするか。余った物は生徒会にでも持って行くか?」

「ああ、そうした方がいい。俺が食べたらまた怒るだろ?」

「そうだよ、いつも食べすぎなんだよ」

「ははは」

 そう言えば、王妃様から王都にも出店しないかというお誘いがあったな。
 正直そんなのは面倒だから、レシピを譲渡して勝手にやれと言いたくなる。
 だが、王妃様のご要望であれば、そういうのを残すのも手だな。

「そうだ、この王都にスイーツの店を出店したいのだが、良い場所や従業員の手配を手伝ってくれないか」

「よし!任せな!」

「じゃあオーナーは、兄様な」

「よし!任せ・・・ん?いや、この国に居る間はカロリーナもやれよ。俺は代理オーナーって事で」

「それでいいなら、いいけど」

 その話を生徒会室に持ち込んで話し合った。
 中でも2年女子が乗り気で、家の使用人や伝手を紹介すると言い出した。
 桃のロールケーキを食べればその気持ちになるのは分かる。
 その紹介した人物経由で自分の家でも食べれる様にしたいのだろう。
 まぁ、レシピ流出は構わない。
 それだけで生計を立てようという気はないからな。

 桃のロールケーキはオルドリッジ様も一緒に召しあがって頂ける事になった。
 何故か手に平に汗をかくほどに緊張する。

 その時、「美味しいですか?」と聞けばあの性格からして「美味しい」と答えるだろう。
 横に立って、じっと見ていても同じだ。
 気を使って美味しいと言われるのは本意じゃない。
 だからと言って、感想は聞きたい。

 俺は迷いながら桃のロールケーキを渡してすぐに傍から離れた。
 すぐに2年女子との話で出店場所の検討に入ったせいで、何か言いたげなオルドリッジ様が言えずにいた。
 その日、生徒会の業務終了し、皆が寮に戻ってゆき、オルドリッジ様と二人きりになる。
 その状況で「そろそろ帰る?」と聞けばオルドリッジ様は「ちょっと話がしたいな」と言い出した。

 夕日はもう落ちて、薄暗くなりつつ窓の外。
 長椅子の真横に座ったオルドリッジ様は俺に顔を見つめていた。

「もしかして、日本という国に心当たりはあるか?」

「ありません」

「実は、あのスイーツだが、その国があった世界の食べ物だ。俺は自国の聖女が作るというそれを食べた事がある、桃なんて物は入ってなかったが似たような物だった。別に知っているからと言って関係が変わる訳じゃないし特別扱いする訳じゃない、正直に答えてくれないか」

「それでしたら、このレシピを教えてくれた方がそうなのではないでしょうか」

「いるのか!その人は何処に?」

「あ、あの、もう亡くなっています」

「・・・そうか、残念だ」

「どうしてそこまで、異世界人を欲しているのですか」

「彼らは未知の技術を持っているからだよ、俺達が信じられない様な物を知っているんだ」

「その聖女に聞けば良かったのでは?」

「行方不明になったんだよ。そう言う知識を求める者達から逃げ出したのだろう、いや、一部の者は拷問をしてでも聞き出そうとしたのかも知れない」

「それって何年前で何歳くらいだったお方ですか?」

「年齢はわからないな、俺も子供の頃だったから記憶はあやふやだが大体10年以上前の話だ」

「へぇ・・・、オルドリッジ様にも子供の頃があったのですね」

「なんだ、化物みたいな扱いをするなよ」

 その聖女が何処に行ったのか、行方不明になる程、何をされたのかは気になった。
 この国でもそういう人物が現れると聞いた事がある。
 いま、噂の大聖女もそうなのかもしれない。
 それを知ったら、オルドリッジ様はどうするのだろうか。
 少し怖いが興味がある話だ。

 *

「ところで、顔が近くありませんか」
「そろそろ練習していた方がいいだろう?丁度二人きりだからな」
「何の練習・・・・ん・・・・んーんーんー!」
「暴れるな、婚約式でもするんだから少し離れておけ」
「だからって舌を入れなくたって!」
「舌を入れるのが我が国の流儀だ、諦めろ」
「ん-!!!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

危険な森で目指せ快適異世界生活!

ハラーマル
ファンタジー
初めての彼氏との誕生日デート中、彼氏に裏切られた私は、貞操を守るため、展望台から飛び降りて・・・ 気がつくと、薄暗い洞窟の中で、よくわかんない種族に転生していました! 2人の子どもを助けて、一緒に森で生活することに・・・ だけどその森が、実は誰も生きて帰らないという危険な森で・・・ 出会った子ども達と、謎種族のスキルや魔法、持ち前の明るさと行動力で、危険な森で快適な生活を目指します!  ♢ ♢ ♢ 所謂、異世界転生ものです。 初めての投稿なので、色々不備もあると思いますが。軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 誤字や、読みにくいところは見つけ次第修正しています。 内容を大きく変更した場合には、お知らせ致しますので、確認していただけると嬉しいです。 「小説家になろう」様「カクヨム」様でも連載させていただいています。 ※7月10日、「カクヨム」様の投稿について、アカウントを作成し直しました。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

スキル【海】ってなんですか?

陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
スキル【海】ってなんですか?〜使えないユニークスキルを貰った筈が、海どころか他人のアイテムボックスにまでつながってたので、商人として成り上がるつもりが、勇者と聖女の鍵を握るスキルとして追われています〜 ※書籍化準備中。 ※情報の海が解禁してからがある意味本番です。  我が家は代々優秀な魔法使いを排出していた侯爵家。僕はそこの長男で、期待されて挑んだ鑑定。  だけど僕が貰ったスキルは、謎のユニークスキル──〈海〉だった。  期待ハズレとして、婚約も破棄され、弟が家を継ぐことになった。  家を継げる子ども以外は平民として放逐という、貴族の取り決めにより、僕は父さまの弟である、元冒険者の叔父さんの家で、平民として暮らすことになった。  ……まあ、そもそも貴族なんて向いてないと思っていたし、僕が好きだったのは、幼なじみで我が家のメイドの娘のミーニャだったから、むしろ有り難いかも。  それに〈海〉があれば、食べるのには困らないよね!僕のところは近くに海がない国だから、魚を売って暮らすのもいいな。  スキルで手に入れたものは、ちゃんと説明もしてくれるから、なんの魚だとか毒があるとか、そういうことも分かるしね!  だけどこのスキル、単純に海につながってたわけじゃなかった。  生命の海は思った通りの効果だったけど。  ──時空の海、って、なんだろう?  階段を降りると、光る扉と灰色の扉。  灰色の扉を開いたら、そこは最近亡くなったばかりの、僕のお祖父さまのアイテムボックスの中だった。  アイテムボックスは持ち主が死ぬと、中に入れたものが取り出せなくなると聞いていたけれど……。ここにつながってたなんて!?  灰色の扉はすべて死んだ人のアイテムボックスにつながっている。階段を降りれば降りるほど、大昔に死んだ人のアイテムボックスにつながる扉に通じる。  そうだ!この力を使って、僕は古物商を始めよう!だけど、えっと……、伝説の武器だとか、ドラゴンの素材って……。  おまけに精霊の宿るアイテムって……。  なんでこんなものまで入ってるの!?  失われし伝説の武器を手にした者が次世代の勇者って……。ムリムリムリ!  そっとしておこう……。  仲間と協力しながら、商人として成り上がってみせる!  そう思っていたんだけど……。  どうやら僕のスキルが、勇者と聖女が現れる鍵を握っているらしくて?  そんな時、スキルが新たに進化する。  ──情報の海って、なんなの!?  元婚約者も追いかけてきて、いったい僕、どうなっちゃうの?

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

子持ち専業主婦のアラサー腐女子が異世界でチートイケメン貴族になって元の世界に戻るために青春を謳歌する話

きよひ
ファンタジー
 主人公、シン・デルフィニウムは帝国の有力な公爵家の長男で、眉目秀麗な魔術の天才。  何不自由なく人生を謳歌してきた彼は、実は現実世界で専業主婦をしていたアラサーの腐女子が異世界転移してしまった姿だった!    元の世界へ戻るために提示された条件は、ただ一つ。 「この世界で成人するまで生きること」    現在15歳。この世界の成人まであと3年。  なんとしても平穏無事に学生生活を終えたいシンであったが、学校の入学式でこの国の皇太子とトラブルを起こしてしまい...!?  皇太子に説教したり、乙女ゲームのヒロインのような少女と仲良くなったり、仲良くなる生徒が美形ばかりだったり、BL妄想をしたり、微笑ましく友人の恋の応援をしたり学園イベントに参加したり。    異世界のイケメン貴族ってとっても楽しい!    大人が学生たちを眺めながら内心ツッコミ、でも喜怒哀楽を共にして。  ドタバタほのぼのとゆるーく学生生活を送って卒業し、成人して元の世界に戻りたい物語。 ※主人公は恋愛に参加しません※ ※BLの物語ではありませんが、主人公が腐女子設定の為、BLを妄想したり、登場人物の行動をBL的に楽しむ描写があります。 ※BLだけでなくGLを楽しむ描写もある予定です。 ※実際の恋愛は男女のみの予定です。 ※メインではありませんが戦闘描写、流血描写がある時は注意書きします。

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

駄女神の玩具箱ーどうして、お前はそんなに駄目なんだ?-

バイブルさん
ファンタジー
 これは、異世界で双子の娘の父親になった16歳DT-女神に魔法使いにされそうですー のサイドストリー的なものです。  ですので、本編を読まれていない方はバックブラウザーをお勧めします。  気になる方は、本編をお読みになられてから、是非お越しください。  ここから読まれてる方用。所謂、処方箋のようなモノ(笑)  これは、雄一と出会うまでのシホーヌのお話を最初にして、終わった後、北川家一同の本編に書けないというか、書くと本編の流れが纏めきれなくなるから、バイブルがグッと堪えて、堪えて、我慢を越えて、ドバァと出した後先考えてないお話になりますので、時系列、知らない、あの状態の時にこんな事やってたとかおかしいとかの苦情も受けません(笑)  真面目な方はお読みになられない事をお勧めします。  なので、2章の辺りの話をしてたのに突然、1章の話をしたりしだすので、色々諦めてお読みください(笑)

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

処理中です...