79 / 193
5.モルバーン学園(一年生編)
5-8.闘技場にて
しおりを挟む
アレグサンダーは私を街に連れ出した。
今日は退屈な一日になりうだと口にしそうになるのを飲み込んでいると、闘技場のVIP席に案内された。
どうやら、そこで俺達は優雅に人が戦うのを見学するという事になるそうだ。
黙って試合を見ていると大きな歓声が沸き上がる。
本日のメインイベントである、ハイオーク3体VS奴隷剣士チャンピオンの戦いらしいが、奴隷を戦わせると言うのが趣味が悪すぎる。ついでに気分も悪い。
「いやぁ、間に合って良かったよ」
「そうだな、あの奴隷剣士強いのか?」
「まぁ、ここのチャンピオンだからね、強いだろう」
「じゃあ賭けにならないんじゃないか?」
「そうだな、だが、あくまでチャンピオンを引き立てるイベントだから良いだろう、賭け事の本番はこの後の対人戦だよ」
ハイオークの体格は奴隷剣士の2倍を超えている。
それが3体というのは、厳しい戦いになりそうだと思っていた。
だが、それは奴隷が剣技を取得していなければの話だ。
「さぁ、試合が始まるぞ!」
その言葉と同時に観客の歓声はさらに音量を増した。
どうせなら自分で戦った方が楽しいのだが、これだけの観客の前でこの格好で戦う程、常識を捨ててはいない。
剣士の方はと言えば、ハイオークの一撃が地面を叩くと破片が飛んで剣士の頭に当たった。
それで軽い出血をしていたが、剣士はそれを受けて不敵な笑みを浮かべた。
「なんだか、バトルジャンキーみたいなやつだな」
「ああ、だからこそ強いんだ、そろそろ一匹目を倒すぞ」
「ほう」
攻撃の余波でダメージが入るのなら、単純に攻撃を避けるだけというのは悪手となる。
どうするのかと思えば、相手の股下を潜り抜けると同時に急所を切り裂いた。
それがどれだけエグイのかは、男性ならわかるのだろう。
元男だっただけに、俺にも分かる。
魔物だとしてもあれは相当痛いはずだ。
「エグイ攻撃するな」
「あれで一匹目は戦闘不能だ、次のはどっちのを倒すんだろうな」
その後は、あれよあれよと流れ作業かってくらいな勢いで終わった。
会場こそ盛り上がっているが、俺は全然盛り上がれていない。
一方的な試合ってのはまぁ、さほど面白いモノではないのだ。
だが、剣士もVIP席へのアピールを忘れず手を振って来る。
それに対し手を振り返すのがVIP席の義務で、それがない場合、つまらない試合だったとされ、奴隷は処分される。
めんどくせえ上に酷い話だ。
「どうだ、面白かっただろ?この席は事前に予約しないと取れないんだぞ」
「そうなのか、それは苦労をかけたな」
「それに、そろそろ持って来てくれるはずだ」
「何を───」
確認しようとした所でノックの音が鳴り、入って来たのは使用人と、恐らくは支配人だ。
使用人が大きなホールのチョコケーキを運んでくるのをじっと見守った。
どうして闘技場のVIP席でケーキなのだ?と、疑問に思いながらも何の祝い事なのかと過去の記憶を掘り起こすが全く心当たりがない。
「誕生日が近いはずだろ?そのお祝いさ。聞けば人に作ってばっかりで、スイーツを貰う事は無いって言うじゃないか、たまには受ける側に立つのも良いだろうと思ってね、まぁ俺は作れないから、王宮の料理人に作らせたよ。なんでもルグランジの方で特別な時に作られた門外不出のスイーツらしいが、それを見よう見まねで作ったらしい」
ルグランジの方で出したのは俺だ。
年が変わったお祝いに作って、一部を客にも振舞ったのだが、手間とコストが釣り合わず気が向いた時にしか作っていない。
それにこの国では年が変わったからと言って祝う風習はない、あるのは嫁の生まれた国の話だ。
「もうそんな頃合いか。どこかの国では誕生日を祝うらしいね。それを真似たのかな」
「そんな国があるんだ、俺は知らなかったよ」
「なんでもケーキを食べてた後にすき焼きを食べるらしい、あれ?逆だったかな」
「・・・ケーキ?すき焼き?ってなんだ?それはどんなものなんだ?」
不思議な事を言う、ケーキを持って来ておいてケーキを知らないと言うのだ。
そこで気づいた。
俺はチョコケーキだと思い込んでいた物はチョコケーキではないと言う事に。
「じゃあ・・・これは何というスイーツなのだ?」
「いや、俺も良く知らん」
*
「もぐもぐもぐもぐ・・・」
「どうだ?うまいか?うまいか?どうなんだ!」
「・・・・いや、美味しいよ」
「そうだろうそうだろう、ああ、よかった。ちょっと焦ったぞ」
「(だが、これ、一体何だろう。本当に何なんだコレ!)」
今日は退屈な一日になりうだと口にしそうになるのを飲み込んでいると、闘技場のVIP席に案内された。
どうやら、そこで俺達は優雅に人が戦うのを見学するという事になるそうだ。
黙って試合を見ていると大きな歓声が沸き上がる。
本日のメインイベントである、ハイオーク3体VS奴隷剣士チャンピオンの戦いらしいが、奴隷を戦わせると言うのが趣味が悪すぎる。ついでに気分も悪い。
「いやぁ、間に合って良かったよ」
「そうだな、あの奴隷剣士強いのか?」
「まぁ、ここのチャンピオンだからね、強いだろう」
「じゃあ賭けにならないんじゃないか?」
「そうだな、だが、あくまでチャンピオンを引き立てるイベントだから良いだろう、賭け事の本番はこの後の対人戦だよ」
ハイオークの体格は奴隷剣士の2倍を超えている。
それが3体というのは、厳しい戦いになりそうだと思っていた。
だが、それは奴隷が剣技を取得していなければの話だ。
「さぁ、試合が始まるぞ!」
その言葉と同時に観客の歓声はさらに音量を増した。
どうせなら自分で戦った方が楽しいのだが、これだけの観客の前でこの格好で戦う程、常識を捨ててはいない。
剣士の方はと言えば、ハイオークの一撃が地面を叩くと破片が飛んで剣士の頭に当たった。
それで軽い出血をしていたが、剣士はそれを受けて不敵な笑みを浮かべた。
「なんだか、バトルジャンキーみたいなやつだな」
「ああ、だからこそ強いんだ、そろそろ一匹目を倒すぞ」
「ほう」
攻撃の余波でダメージが入るのなら、単純に攻撃を避けるだけというのは悪手となる。
どうするのかと思えば、相手の股下を潜り抜けると同時に急所を切り裂いた。
それがどれだけエグイのかは、男性ならわかるのだろう。
元男だっただけに、俺にも分かる。
魔物だとしてもあれは相当痛いはずだ。
「エグイ攻撃するな」
「あれで一匹目は戦闘不能だ、次のはどっちのを倒すんだろうな」
その後は、あれよあれよと流れ作業かってくらいな勢いで終わった。
会場こそ盛り上がっているが、俺は全然盛り上がれていない。
一方的な試合ってのはまぁ、さほど面白いモノではないのだ。
だが、剣士もVIP席へのアピールを忘れず手を振って来る。
それに対し手を振り返すのがVIP席の義務で、それがない場合、つまらない試合だったとされ、奴隷は処分される。
めんどくせえ上に酷い話だ。
「どうだ、面白かっただろ?この席は事前に予約しないと取れないんだぞ」
「そうなのか、それは苦労をかけたな」
「それに、そろそろ持って来てくれるはずだ」
「何を───」
確認しようとした所でノックの音が鳴り、入って来たのは使用人と、恐らくは支配人だ。
使用人が大きなホールのチョコケーキを運んでくるのをじっと見守った。
どうして闘技場のVIP席でケーキなのだ?と、疑問に思いながらも何の祝い事なのかと過去の記憶を掘り起こすが全く心当たりがない。
「誕生日が近いはずだろ?そのお祝いさ。聞けば人に作ってばっかりで、スイーツを貰う事は無いって言うじゃないか、たまには受ける側に立つのも良いだろうと思ってね、まぁ俺は作れないから、王宮の料理人に作らせたよ。なんでもルグランジの方で特別な時に作られた門外不出のスイーツらしいが、それを見よう見まねで作ったらしい」
ルグランジの方で出したのは俺だ。
年が変わったお祝いに作って、一部を客にも振舞ったのだが、手間とコストが釣り合わず気が向いた時にしか作っていない。
それにこの国では年が変わったからと言って祝う風習はない、あるのは嫁の生まれた国の話だ。
「もうそんな頃合いか。どこかの国では誕生日を祝うらしいね。それを真似たのかな」
「そんな国があるんだ、俺は知らなかったよ」
「なんでもケーキを食べてた後にすき焼きを食べるらしい、あれ?逆だったかな」
「・・・ケーキ?すき焼き?ってなんだ?それはどんなものなんだ?」
不思議な事を言う、ケーキを持って来ておいてケーキを知らないと言うのだ。
そこで気づいた。
俺はチョコケーキだと思い込んでいた物はチョコケーキではないと言う事に。
「じゃあ・・・これは何というスイーツなのだ?」
「いや、俺も良く知らん」
*
「もぐもぐもぐもぐ・・・」
「どうだ?うまいか?うまいか?どうなんだ!」
「・・・・いや、美味しいよ」
「そうだろうそうだろう、ああ、よかった。ちょっと焦ったぞ」
「(だが、これ、一体何だろう。本当に何なんだコレ!)」
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
追放幼女の領地開拓記~シナリオ開始前に追放された悪役令嬢が民のためにやりたい放題した結果がこちらです~
一色孝太郎
ファンタジー
【小説家になろう日間1位!】
悪役令嬢オリヴィア。それはスマホ向け乙女ゲーム「魔法学園のイケメン王子様」のラスボスにして冥界の神をその身に降臨させ、アンデッドを操って世界を滅ぼそうとした屍(かばね)の女王。そんなオリヴィアに転生したのは生まれついての重い病気でずっと入院生活を送り、必死に生きたものの天国へと旅立った高校生の少女だった。念願の「健康で丈夫な体」に生まれ変わった彼女だったが、黒目黒髪という自分自身ではどうしようもないことで父親に疎まれ、八歳のときに魔の森の中にある見放された開拓村へと追放されてしまう。だが彼女はへこたれず、領民たちのために闇の神聖魔法を駆使してスケルトンを作り、領地を発展させていく。そんな彼女のスケルトンは産業革命とも称されるようになり、その評判は内外に轟いていく。だが、一方で彼女を追放した実家は徐々にその評判を落とし……?
小説家になろう様にて日間ハイファンタジーランキング1位!
※本作品は他サイトでも連載中です。
【完結】やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「俺の愛する女性を虐げたお前に、生きる道などない! 死んで贖え」
これが婚約者にもらった最後の言葉でした。
ジュベール国王太子アンドリューの婚約者、フォンテーヌ公爵令嬢コンスタンティナは冤罪で首を刎ねられた。
国王夫妻が知らぬ場で行われた断罪、王太子の浮気、公爵令嬢にかけられた冤罪。すべてが白日の元に晒されたとき、人々の祈りは女神に届いた。
やり直し――与えられた機会を最大限に活かすため、それぞれが独自に動き出す。
この場にいた王侯貴族すべてが記憶を持ったまま、時間を逆行した。人々はどんな未来を望むのか。互いの思惑と利害が入り混じる混沌の中、人形姫は幸せを掴む。
※ハッピーエンド確定
※多少、残酷なシーンがあります
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2021/07/07 アルファポリス、HOT3位
2021/10/11 エブリスタ、ファンタジートレンド1位
2021/10/11 小説家になろう、ハイファンタジー日間28位
【表紙イラスト】伊藤知実さま(coconala.com/users/2630676)
【完結】2021/10/10
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
クソガキ、暴れます。
サイリウム
ファンタジー
気が付いたら鬱エロゲ(SRPG)世界の曇らせ凌辱負けヒロイン、しかも原作開始10年前に転生しちゃったお話。自分が原作のようになるのは死んでも嫌なので、原作知識を使って信仰を失ってしまった神様を再降臨。力を借りて成長していきます。師匠にクソつよお婆ちゃん、騎馬にクソデカペガサスを連れて、完膚なきまでにシナリオをぶっ壊します。
ハーメルン、カクヨム、なろうでも投稿しております。
錬金術師カレンはもう妥協しません
山梨ネコ
ファンタジー
「おまえとの婚約は破棄させてもらう」
前は病弱だったものの今は現在エリート街道を驀進中の婚約者に捨てられた、Fランク錬金術師のカレン。
病弱な頃、支えてあげたのは誰だと思っているのか。
自棄酒に溺れたカレンは、弾みでとんでもない条件を付けてとある依頼を受けてしまう。
それは『血筋の祝福』という、受け継いだ膨大な魔力によって苦しむ呪いにかかった甥っ子を救ってほしいという貴族からの依頼だった。
依頼内容はともかくとして問題は、報酬は思いのままというその依頼に、達成報酬としてカレンが依頼人との結婚を望んでしまったことだった。
王都で今一番結婚したい男、ユリウス・エーレルト。
前世も今世も妥協して付き合ったはずの男に振られたカレンは、もう妥協はするまいと、美しく強く家柄がいいという、三国一の男を所望してしまったのだった。
ともかくは依頼達成のため、錬金術師としてカレンはポーションを作り出す。
仕事を通じて様々な人々と関わりながら、カレンの心境に変化が訪れていく。
錬金術師カレンの新しい人生が幕を開ける。
※小説家になろうにも投稿中。
邪神降臨~言い伝えの最凶の邪神が現れたので世界は終わり。え、その邪神俺なの…?~
きょろ
ファンタジー
村が魔物に襲われ、戦闘力“1”の主人公は最下級のゴブリンに殴られ死亡した。
しかし、地獄で最強の「氣」をマスターした彼は、地獄より現世へと復活。
地獄での十万年の修行は現世での僅か十秒程度。
晴れて伝説の“最凶の邪神”として復活した主人公は、唯一無二の「氣」の力で世界を収める――。
私を虐げてきた妹が聖女に選ばれたので・・・冒険者になって叩きのめそうと思います!
れもん・檸檬・レモン?
ファンタジー
私には双子の妹がいる
この世界はいつの頃からか妹を中心に回るようになってきた・・・私を踏み台にして・・・
妹が聖女に選ばれたその日、私は両親に公爵家の慰み者として売られかけた
そんな私を助けてくれたのは、両親でも妹でもなく・・・妹の『婚約者』だった
婚約者に守られ、冒険者組合に身を寄せる日々・・・
強くならなくちゃ!誰かに怯える日々はもう終わりにする
私を守ってくれた人を、今度は私が守れるように!
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
魔王が最弱でスライムが最強の世界!?
クソニート
ファンタジー
ある日突然死んでしまったサタン。死ぬ寸前に、もっと生きたいと願った。すると願いが叶ったのか暗い空間の中で一人の美少女悪魔と出合い魔界へと転生?する。
しかし、そう甘くはない異世界転生?。
美少女悪魔によって突きつけられた条件・・・それは――
「俺が魔王!?」
自分が魔王となる事だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる