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4.迷宮都市ルグランジ(再び)

4-14.ルグランジ地下迷宮より(3フロア目)

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 次の日、俺は早速迷宮に潜った。
 ストレスを発散するかの如く、殆どの敵を倒して倒して倒して倒して倒して倒しまくった。
 カーティスがおっかない感じに付いて来るが殆ど会話もせずにどんどん進み、キャンプ地にたどり着いた。

 ここのキャンプ地には安宿の温泉なしばかりだった。
 気分が優れない時に温泉で発散できないというのは、俺の神経をさらに逆撫でした。

 宿を出てキャンプ地を散策すると、猫科獣人族の人物を見つけた。
 痩せすぎと言う程ではないが、そこそこ痩せていた、だいたい30台後半といった感じだ。
 俺はその人物を呼び止めて質問した。

「あんた、娘はいるかい?」
「わからないんだ」
「どうしてだ」
「記憶がないんだ、名前すらもわからない」
「そうか、ここで何をしている」
「果物を取って生きている、地上に戻る事も叶わないのさ」

 ディーナの父親の特徴に一致する点ばかりだったが、これをディーナに会わせるべきか悩んだ。
 だが、人違いの事も考え、娘の事を伏せて、本人確認させるのが一番だと結論づけた。

「あんた、読み書き計算はできるかい?」
「ああ、それは問題ない、もしかして雇ってくれるのかい?」
「そうだな、今は人材が欲しい所だ、高待遇で雇ってやるよ」
「では後は帰り方でだな、実は俺は逃亡奴隷になってしまったんだ」
「逃げ出したのか?」
「いや、そうではないのだが、奴隷になってすぐに主人と生き別れたのだが、結局主人が死んでしまった」
「ほう、そんな事が分かるのか」
「この腕輪がそういう情報を教えてくれた、奴隷として雇用してくれないか」
「いいだろう、これならリールも要らないしな」

 腕輪に俺の血を垂らし、奴隷の再契約を成した。
 そして、リールを使って3人で地上に戻った。

 そこから、食堂に行き、飯を食わせた。
 その間に、ディーナに父親かどうかを確認する。

「同族の人だけど、違う」
「そうか、早々、都合よく簡単に見つかる訳がないな」

 結局、彼は本当に赤の他人でだった。
 そして隷属契約はそのままにして欲しいと懇願される。
 その上で、この食堂で働きたいと言ってきた。

「そんなに働きたいのか?隷属したままがいいって感覚も良く分からないのだが」
「アンタは奴隷の楽さ知らないからそういうんだ。奴隷はな、主人以外の言う事を聞かなくていいし、誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われてしまうんだ。ダメなんだよ、一人で静かで生きてはいけないんだ、奴隷だと責任も何にも無いんだぜ?最高じゃないか?」
「わからん、兎に角働くというのであれば、リーダーの指示に従ってくれ」

 その指示を与え、俺は再び迷宮に戻った。
 あのまま、訳の分からない主張を聞いていると、殴りそうになっていたからだ。
 イライラが止まらない。
 もっともっともっともっと、何かを斬らないと収まらない!

 そうして、半日もせずに気づけばエリアボスの部屋の前に居た。
 重いドアを開くと、そこには巨大で赤い牛人間の姿があった。

「これは、ジャイアント・レッドミノタウロスですな、今回も一人で討伐ですか?」
「ああ、すまんな、出番を奪ってしまって」
「いえ、御武運を」

 近づくと、グモーなんて変な鳴き声を上げ、俺に巨大な斧を振りかざしてきた。
 苛つきすぎた俺は剣技よりも高速に剣を振り、ボスの両腕を落とし、そのまま首も跳ねた。
 せめて2フロア目くらいの強さであれば良かったんだがな。

「宝箱が出た、中身鑑定してくれないか」
「倒すの早すぎですよ!承知しました、どれどれ、この、ちょっと大きい壺は、『性誇張温泉の壺』効能は、男性はより男性らしく、女性はより女性らしくなるとありますね・・・ごくり。ほかにも傷の治療、リラックス、健康促進等々の効果があるそうです」
「なんだ、それ・・・ごくり」
「早く帰りませんか?セーフエリアに行きましょう」
「お、おう、そうだな、銭湯のをそれに入れ替えちまおう」

 そうして、たった半日で戻って来た。
 それから、銭湯は温泉に代わり、俺は日がな一日温泉に浸かる事にした。
 今まで薪を燃やして沸かしていた労力が無くなった事も大きく、従業員も喜んでいたが、それ以上に温泉は気持ちが良い物だった。
 これまでで最高の掘り出し物だと思える程に。
 お陰で、イライラしていたのがすっかり解消されたのだ。

「ディーナ、もしかして胸が大きくなってないか?」
「あ、そうなんです、ちょっと制服が窮屈になっちゃって困るんですよね」
「そんなのは作り直し得てもらえ、リーダーに言えば衣服店につれてってくれるさ」
「そうですね。お願いしてみます」

 胸が・・・か。
 羨ましい限りだ。
 俺の体の方は、ちーっとも変化しないんだ。
 どうなっているんだろうな?

「それよりだ、あの獣人族は働いているか?」
「程々には働いていますよ、読み書き計算できますから、リーダーさんも重宝している様です」
「まぁ、それならいい」
「ただ・・・」
「ただ?」
「どうも、私は気に入られたみたいで、時々怖い感じがするんです」
「そうか、それなら、一人で行動しない様にするんだな、あと何かあれば俺に言え」

 その言葉が嬉しいのか、屈託のない笑顔でお礼を言われた。

「それにしても父親は見つからんなぁ、一応、ギルドに依頼は出したから、見つかればここに来るはずだよ」
「それなんですが・・・」
「どうした?」
「お父さん見つかっても、ここに居ていいですか?」
「父親次第じゃないか?」
「それでもなんです、私、ここが良いんです」

 何かここを離れたくなり理由でもあるのだろうか。
 もしかすると、前に言っていた、好きな奴の事か・・・。

「ああ、それはこちらも願ったり叶ったりだ、父親には俺から説得しよう。父親もここで働きたいなら雇うぞ」
「ありがとうございます」

 さっき以上に嬉しそうだ、それほどまでの物があるのかね、ここには。
 それよりも、好きな人がどうしたいかだろう?なんて言いそうになったが、すこしばかり気が早いと思い、言葉を飲み込んだ。

 そういえば、一度ここの食堂で働くと、養子に行きたくなくなるという噂がある。
 冗談だろう?

 *

「おい、えーと、奴隷のお前、名前を忘れていたんだったな、まだ思い出せないのか?」
「そうだよ、何か付けてくれるか?」
「じゃあ、そうだな、トリスタンでどうだ」
「なんだか、カッコイイじゃないか、どういう意味なんだい?」
「労働者・・・かな」
「あっはっはっは、まんまだな、まぁいい気に入った、ありがとうよ」

 うるさいって意味もあるんだがな。

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