上 下
59 / 193
4.迷宮都市ルグランジ(再び)

4-11.アバークロンビー家にて

しおりを挟む
 帰りたくはなかったが、仕方なく帰って来た。
 デライラに土産の亜空巻を渡す。
 亜空巻は竹の包みに巻かれたもち米を灰汁に付けた物で、ぷるんぷるんした食感が特徴だが、これ自身に味は無く、きな粉と餡蜜をかけて食べるのが一般的で伝統的な郷土菓子だ。

「懐かしいわぁ、これ好きなのですよ、ありがとうございます」
「それは良かった、皆で食べてくれ」

 そうして中に屋敷の入ると、廊下にグレッグが待機していた。

「お嬢様、今回は来客多数です」
「またか、今度は誰が来てるんだ?」
「陛下、王妃様、第一王女殿下、第二王子殿下、ブレイク様でございます」
「それで、父が出迎えに来ない訳か」
「左様でございます」
「今日会っておいた方が良いのは誰だ」
「陛下と王妃様でございましょう」

 一番面倒な相手じゃないか。
 堅苦しい。

 客室に案内してもらい、俺がノックした。
 中から陛下の気の抜けた声がして、中に招き入れらた。

「お久しゅうございます、陛下」
「うむ、元気そうでなによりじゃ。前回はバタバタしておったからの、落ち着いて話せなかったのが残念じゃった」
「養女騒ぎで他貴族が騒いでいましたからね」

 義姉、セシリアの事だ。
 父が主体になり結構な時間をかけて話し合ったらしい。
 その事に多少の負い目はあったが、縁組を決めたのは父なのだから最早俺の関わるシーンではない。
 そのあたりが大変だったと言う話を、呪詛の様に書かれた愚痴の手紙で連絡を受けていた。

「良く帰って来たな」
「父よ、少し痩せたか」
「はは・・・少しな」

 父が俺を見て声を掛けて来た。
 だが、見た目が可愛そうなくらいやつれてしまっていた。
 仕方がないから、今日と明日、両方スイーツを作ってやるか。

「そんな事より、王女殿下の相手を変わってくれないか」
「わかった。ブリジット様、私と遊びましょう」
「うんっ、おねーたんだー」

 最後の謁見の時に、王女殿下は寝ていたので、俺との面識は誘拐前まで遡る。
 それなのに俺の事を覚えてくれただけで、嬉しい限りだ。

「ブリジット様、何をして遊びましょうか、お絵描きとかやりますか?」
「するする~~」

 お絵描きは描いている間とくに相手をしなくてもいいので便利なんだよな。

「カロリーナ、ちょっと相談があるのだけど」

 王妃様の言葉に俺は頷く。

「実は、アレグサンダーが何人かにプレゼントを渡していたみたいなの」
「何か問題があるのですか?」
「その相手の子の何人かが、不幸な目に合ってるみたいなのよ、人によっては意識不明になってるみたい」

 セシリアの付けていた髪飾りもそうだったが、呪われていた理由までは分かっていない。
 アレグサンダー殿下の様子からして、わざと渡した物ではなかった様だったが・・・。

「その事に殿下は何と?」
「わからないと言っていたわ。アクセサリーも貰い物で誰からかは覚えていないと」
「一つくらい覚えてるでしょうに」
「それがどうしても思い出せないそうなのよ」

 だからと言ってどうして俺に言うんだ?
 まさか俺に解決しろとでも言うのだろうか。

「カロリーナも何か貰っていたでしょう?少し心配になってね。大丈夫だった?」
「アクセサリーのどれがソレかわからないですね、今度探してみます」
「それはそうと、今日は何をつくるのかしら?」

 結局スイーツ目当てで来たらしい。
 王妃様が王女様を抱きかかえながら陛下と共に厨房に行った。
 父も兄も弟や、第二王子までもぞろぞろと厨房にあつまり、一体の騒ぎなのかという状況になる。
 俺はそんな状況を忘れたい一心で、調理を始めた。

 牛乳を温め、玉子を入れて解きほぐし、砂糖を入れてさらに混ぜる。
 小さな容器に小分けにしていれると、その容器ごと弱火の魔法でじっくり温める。
 それとは別に砂糖を弱火魔法で煮詰め、色が濃くなった所で水を混ぜて容器に被せるように掛ける。
 最後に冷却庫に収めて冷えるまで待機だ。

「あっためたりひやしたり忙しいのう」
「でも手順は単純だわ」
「もう食べてよいのか?」
「はやくたべたーーい」
「甘い物なら思考する俺に相応しい」
「僕の分もあるかな」

 みんなそれぞれの反応を示すが、疲れた俺への労いを誰もしてくれないんだよな。

「まぁ、冷え切るまで待て。60個あるから使用人含めて一人一個な、今度はホントに一人一個までだからな!絶対だぞ!」

 *

「あーん、ぱくっ、あまーい、うえのぱりぱり美味しいー」
「そうね、これは上品で美味しいわ」
「うん、美味い!これはなんという料理なのかの?」
「たしか、プリンと言うそうだ」
「ほう、プリンか。ラッセル(コック長)、手順は覚えたか?」
「はっ、何時でも作れる様に精進いたします」
「ねぇ、王都にスイーツ店出してくれないかしら?」
「はは・・・考えておきます」

 そんな従業員、余ってねーよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。 帝国歴515年。サナリア歴3年。 新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。 アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。 だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。 当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。 命令の中身。 それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。 出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。 それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。 フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。 彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。 そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。 しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。 西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。 アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。 偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。 他サイトにも書いています。 こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。 小説だけを読める形にしています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

スキル【海】ってなんですか?

陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
スキル【海】ってなんですか?〜使えないユニークスキルを貰った筈が、海どころか他人のアイテムボックスにまでつながってたので、商人として成り上がるつもりが、勇者と聖女の鍵を握るスキルとして追われています〜 ※書籍化準備中。 ※情報の海が解禁してからがある意味本番です。  我が家は代々優秀な魔法使いを排出していた侯爵家。僕はそこの長男で、期待されて挑んだ鑑定。  だけど僕が貰ったスキルは、謎のユニークスキル──〈海〉だった。  期待ハズレとして、婚約も破棄され、弟が家を継ぐことになった。  家を継げる子ども以外は平民として放逐という、貴族の取り決めにより、僕は父さまの弟である、元冒険者の叔父さんの家で、平民として暮らすことになった。  ……まあ、そもそも貴族なんて向いてないと思っていたし、僕が好きだったのは、幼なじみで我が家のメイドの娘のミーニャだったから、むしろ有り難いかも。  それに〈海〉があれば、食べるのには困らないよね!僕のところは近くに海がない国だから、魚を売って暮らすのもいいな。  スキルで手に入れたものは、ちゃんと説明もしてくれるから、なんの魚だとか毒があるとか、そういうことも分かるしね!  だけどこのスキル、単純に海につながってたわけじゃなかった。  生命の海は思った通りの効果だったけど。  ──時空の海、って、なんだろう?  階段を降りると、光る扉と灰色の扉。  灰色の扉を開いたら、そこは最近亡くなったばかりの、僕のお祖父さまのアイテムボックスの中だった。  アイテムボックスは持ち主が死ぬと、中に入れたものが取り出せなくなると聞いていたけれど……。ここにつながってたなんて!?  灰色の扉はすべて死んだ人のアイテムボックスにつながっている。階段を降りれば降りるほど、大昔に死んだ人のアイテムボックスにつながる扉に通じる。  そうだ!この力を使って、僕は古物商を始めよう!だけど、えっと……、伝説の武器だとか、ドラゴンの素材って……。  おまけに精霊の宿るアイテムって……。  なんでこんなものまで入ってるの!?  失われし伝説の武器を手にした者が次世代の勇者って……。ムリムリムリ!  そっとしておこう……。  仲間と協力しながら、商人として成り上がってみせる!  そう思っていたんだけど……。  どうやら僕のスキルが、勇者と聖女が現れる鍵を握っているらしくて?  そんな時、スキルが新たに進化する。  ──情報の海って、なんなの!?  元婚約者も追いかけてきて、いったい僕、どうなっちゃうの?

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚

水魔沙希
ファンタジー
モブに徹していた少年がなくなり、転生したら乙女ゲームの悪役になっていた。しかも、王族に生まれながらも、1歳の頃に誘拐され、王族に恨みを持つ少年に転生してしまったのだ! そんな運命なんてクソくらえだ!前世ではモブに徹していたんだから、この悪役かなりの高いスペックを持っているから、それを活用して、なんとか生き残って、前世ではできなかった事をやってやるんだ!! 最近よくある乙女ゲームの悪役転生ものの話です。 だんだんチート(無自覚)になっていく主人公の冒険譚です(予定)です。 チートの成長率ってよく分からないです。 初めての投稿で、駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。 会話文が多いので、本当に状況がうまく伝えられずにすみません!! あ、ちなみにこんな乙女ゲームないよ!!という感想はご遠慮ください。 あと、戦いの部分は得意ではございません。ご了承ください。

子持ち専業主婦のアラサー腐女子が異世界でチートイケメン貴族になって元の世界に戻るために青春を謳歌する話

きよひ
ファンタジー
 主人公、シン・デルフィニウムは帝国の有力な公爵家の長男で、眉目秀麗な魔術の天才。  何不自由なく人生を謳歌してきた彼は、実は現実世界で専業主婦をしていたアラサーの腐女子が異世界転移してしまった姿だった!    元の世界へ戻るために提示された条件は、ただ一つ。 「この世界で成人するまで生きること」    現在15歳。この世界の成人まであと3年。  なんとしても平穏無事に学生生活を終えたいシンであったが、学校の入学式でこの国の皇太子とトラブルを起こしてしまい...!?  皇太子に説教したり、乙女ゲームのヒロインのような少女と仲良くなったり、仲良くなる生徒が美形ばかりだったり、BL妄想をしたり、微笑ましく友人の恋の応援をしたり学園イベントに参加したり。    異世界のイケメン貴族ってとっても楽しい!    大人が学生たちを眺めながら内心ツッコミ、でも喜怒哀楽を共にして。  ドタバタほのぼのとゆるーく学生生活を送って卒業し、成人して元の世界に戻りたい物語。 ※主人公は恋愛に参加しません※ ※BLの物語ではありませんが、主人公が腐女子設定の為、BLを妄想したり、登場人物の行動をBL的に楽しむ描写があります。 ※BLだけでなくGLを楽しむ描写もある予定です。 ※実際の恋愛は男女のみの予定です。 ※メインではありませんが戦闘描写、流血描写がある時は注意書きします。

処理中です...