上 下
57 / 193
4.迷宮都市ルグランジ(再び)

4-9.

しおりを挟む
 学校の設計図が完成した日、晩飯を食べている時の話だ。
 ディーナが猫耳をピクピクと可愛らしく動かしながら俺に抱き着いて来た。

「リーナちゃん、リーナちゃん」
「ディーナが甘えてくるなんて珍しいな」
「私の方がお姉さんだからっ、甘えてなんかないですよ」

 そうはいいつつ、頭をなでてやると、嬉しそうにする。
 可愛い奴め。

「リーナちゃんは、最近アニータとばかり仲良くしているよね」
「そんな事ないぞ」

 いや、傍からはそう見えても仕方がないか。
 冒険がしたくて迷宮都市に来たと言うのに、何故か設計に明け暮れる日々。
 学校の設計と並行して、この食堂の立て直し案、屋敷の新築設計も平行して進めていた。
 そのデスクワークの疲れをアニータがマッサージでほぐして貰っている。
 できれば、前世の時にやってほしかった程だ。

「女の子相手にエッチな事してるって本当?」
「ぶふー!」

 断じてそんな事は無い。
 この体でそんな事したら、色々と申し訳が立たない。
 そんな事は結婚して子作りをする時にしか許さないと言いたい。
 落ち着こうと飲み物を口に含んだ時、

「しかもリーナちゃん受けだって聞いたけど」
「ぶはー!」
「もー、服濡れちゃったー」
「あああ、すまない、今日はもう終わりだったよな。一緒に銭湯行くか」
「うん!」

 *

 カポーンと何処からともなく聞こえる音は銭湯の音。
 そんな音が鳴る様な仕組みはない。
 だが、地下迷宮のキャンプでも聞こえていたよな。
 不思議な話だ。

 そこに何故かアニータまで混ざった。

「お姉さん、今日も気持ち良くする?」
「今日は大丈夫だ。アニータもゆっくり浸かって疲れを癒してくれ」
「そう、気持ち良くできない、アニータ残念」
「じゃあ、アニータちゃん、私にその気持ち良くさせる方法教えてくれない?」
「私、役に立つ?」
「うん、私と一緒に、リーナちゃんを気持ち良くさせてあげようね」
「まかせて!」

 二人が仲の良く話してるだけと思って会話の内容まで気にしてなかった。
 気が付けば、誘われるがまま俯せにさせられ、マッサージが始まる。
 娘相手の時にもそうだったが、構って貰える事が嬉しくて我儘でも何でも聞いてしまう。
 自主的に行動しているのであれば、それに従ってしまう。
 それが親という物なんだ。

 そしてどうしてこうなったと言った感じに、アニータの指導の元、ディーナが俺の背中をマッサージしている。
 それがまた気持ち良い、それはアニータの指導の上手さなのか、ディーナの飲み込みが早いのか、何れにせよ俺は思わず変な声を漏らしてしまう。

「んふ・・・・」
「お姉さん、気持ち良くなってる、この声出るトコ、探すように押す」
「うん、やってみるね」

 きもちいいと思う場所を、何度も何度も押されると、頭がぼーっとしてくる。
 体がビクッと激しく反応し、一気に力が抜けてしまった所でアニータが変な事を言い出した。

「ここから、第二段階の、スペシャル、奥義教える、まずお姉さんを、仰向けにする」
「はい、こうですね」

 ゴロンと転がされた時点で気が付いた。
 ナニータの目が獣を狩る時の様に鋭い目つきになっていると言う事を。
 この場合、獲物は俺なのか。

「アニータ?これから何をしようってんだ?」
「豊胸マッサージ」

 豊胸と聞いて胸その物が皆無に等しいこの体にどれだけの意味があるのかと考えはしたが、ないよりは有った方が良いに違い無いのだ。
 大人しく従っていれば、多少なりと膨らんでゆき、女らしくなれば父も安心するであろう。

 そしてそのマッサージが始まった。
 耳の後ろから始まり鎖骨、脇の下と言った胸にあまり関係の無い場所だ。
 最初はくすぐったいと思ってたが、徐々に慣れていくと気持ち良くなり、なんだか変な気分になってゆく。

「ちょ、ちょっと待ってくれ、そろそろ何か変な感じになって来てる」
「だめ、これから、もっと気持ち良くなる」
「ディーナ!アニータを止めろ!」
「ディーナ、止めるの良く無い、お姉さんの為、気持ち良くする」
「リーナちゃん御免!」
「うおおお、背中を揉む様に前を揉むんじゃない!やめろおおお」

 *

 気持ち良すぎて力が抜けて身動きが取れなかった上に銭湯で湯冷めで少し風邪っぽい症状が出て来た。
 銭湯の併設しておいた臨時宿泊室のベッドで横になってスビっと少し覗き出ていた鼻水を戻した。
 すると申し訳なさそうにディーナが寄り添ってきた。
 添い寝という状態に娘を思い出してしまう、そして優しくしたいと思ってしまうのも親の性だろう。

「リーナちゃん、ごめんね」

 少し申し訳なさそうに言うディーナの頭を撫でて、問題ない事を伝えた。

「私ね、リーナちゃんともっと仲良くなりたくて、ついあんな事を」
「気にするな、俺達は十分、仲が良いじゃないか」

 そう言っても、ディーナの表情は曇ったままだった。
 何かを思い詰めて、今回の事に繋がったと思えば彼女もまた何かしら心の傷があるのかも知れない。

「もしかして、店で何か嫌な事があったか?」
「ううん、リーダーさんやみんな親切だよ」
「じゃあ、好きな人が出来たとかか」

 その言葉にディーナはピクッと反応する。

「ほほう、好きな子ができてしまったか、相手はどんな奴なんだ」
「でも、受け入れてくれないと思うし・・・、私、親無しだし」
「親無しなんて関係ないだろ、ディーナの親は確か・・・」
「うん、迷宮で死んじゃった」
「それって確定なのか?実は死んでないとか考えられないか?迷宮って安全地帯もあるんだぞ」
「そうなの?」

 そうか、それなら俺が迷宮に籠る目的が増えてしまったな。

「じゃあ、俺が探してやる。特徴とか教えてくれよ」

 *

「カーティス・・・聞いてくれ」
「どうしたんですか」
「安請け合いしちまった。迷宮内で人探ししたいんだ、今すぐ迷宮に行こう」
「そろそろ1の日ですよ、帰らないでいいんですか」
「ああああ、そうだったあ」
「それに、人探しなら何もカロリーナ様が潜る必要は無いですよね」
「うん?ああ、ギルドに人探しの依頼出せばいいのか」

 少し多めの懸賞金を掛けて待つ事にした。
 こういうのは多すぎるとダメらしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす

初瀬 叶
恋愛
『本の虫令嬢』 こんな通り名がつく様になったのは、いつの頃からだろうか?……もう随分前の事で忘れた。 私、マーガレット・ロビーには婚約者が居る。幼い頃に決められた婚約者、彼の名前はフェリックス・ハウエル侯爵令息。彼は私より二つ歳上の十九歳。いや、もうすぐ二十歳か。まだ新人だが、近衛騎士として王宮で働いている。 私は彼との初めての顔合せの時を思い出していた。あれはもう十年前だ。 『お前がマーガレットか。僕の名はフェリックスだ。僕は侯爵の息子、お前は伯爵の娘だから『フェリックス様』と呼ぶように」 十歳のフェリックス様から高圧的にそう言われた。まだ七つの私はなんだか威張った男の子だな……と思ったが『わかりました。フェリックス様』と素直に返事をした。 そして続けて、 『僕は将来立派な近衛騎士になって、ステファニーを守る。これは約束なんだ。だからお前よりステファニーを優先する事があっても文句を言うな』 挨拶もそこそこに彼の口から飛び出したのはこんな言葉だった。 ※中世ヨーロッパ風のお話ですが私の頭の中の異世界のお話です ※史実には則っておりませんのでご了承下さい ※相変わらずのゆるふわ設定です ※第26話でステファニーの事をスカーレットと書き間違えておりました。訂正しましたが、混乱させてしまって申し訳ありません

スキル【海】ってなんですか?

陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
スキル【海】ってなんですか?〜使えないユニークスキルを貰った筈が、海どころか他人のアイテムボックスにまでつながってたので、商人として成り上がるつもりが、勇者と聖女の鍵を握るスキルとして追われています〜 ※書籍化準備中。 ※情報の海が解禁してからがある意味本番です。  我が家は代々優秀な魔法使いを排出していた侯爵家。僕はそこの長男で、期待されて挑んだ鑑定。  だけど僕が貰ったスキルは、謎のユニークスキル──〈海〉だった。  期待ハズレとして、婚約も破棄され、弟が家を継ぐことになった。  家を継げる子ども以外は平民として放逐という、貴族の取り決めにより、僕は父さまの弟である、元冒険者の叔父さんの家で、平民として暮らすことになった。  ……まあ、そもそも貴族なんて向いてないと思っていたし、僕が好きだったのは、幼なじみで我が家のメイドの娘のミーニャだったから、むしろ有り難いかも。  それに〈海〉があれば、食べるのには困らないよね!僕のところは近くに海がない国だから、魚を売って暮らすのもいいな。  スキルで手に入れたものは、ちゃんと説明もしてくれるから、なんの魚だとか毒があるとか、そういうことも分かるしね!  だけどこのスキル、単純に海につながってたわけじゃなかった。  生命の海は思った通りの効果だったけど。  ──時空の海、って、なんだろう?  階段を降りると、光る扉と灰色の扉。  灰色の扉を開いたら、そこは最近亡くなったばかりの、僕のお祖父さまのアイテムボックスの中だった。  アイテムボックスは持ち主が死ぬと、中に入れたものが取り出せなくなると聞いていたけれど……。ここにつながってたなんて!?  灰色の扉はすべて死んだ人のアイテムボックスにつながっている。階段を降りれば降りるほど、大昔に死んだ人のアイテムボックスにつながる扉に通じる。  そうだ!この力を使って、僕は古物商を始めよう!だけど、えっと……、伝説の武器だとか、ドラゴンの素材って……。  おまけに精霊の宿るアイテムって……。  なんでこんなものまで入ってるの!?  失われし伝説の武器を手にした者が次世代の勇者って……。ムリムリムリ!  そっとしておこう……。  仲間と協力しながら、商人として成り上がってみせる!  そう思っていたんだけど……。  どうやら僕のスキルが、勇者と聖女が現れる鍵を握っているらしくて?  そんな時、スキルが新たに進化する。  ──情報の海って、なんなの!?  元婚約者も追いかけてきて、いったい僕、どうなっちゃうの?

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚

水魔沙希
ファンタジー
モブに徹していた少年がなくなり、転生したら乙女ゲームの悪役になっていた。しかも、王族に生まれながらも、1歳の頃に誘拐され、王族に恨みを持つ少年に転生してしまったのだ! そんな運命なんてクソくらえだ!前世ではモブに徹していたんだから、この悪役かなりの高いスペックを持っているから、それを活用して、なんとか生き残って、前世ではできなかった事をやってやるんだ!! 最近よくある乙女ゲームの悪役転生ものの話です。 だんだんチート(無自覚)になっていく主人公の冒険譚です(予定)です。 チートの成長率ってよく分からないです。 初めての投稿で、駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。 会話文が多いので、本当に状況がうまく伝えられずにすみません!! あ、ちなみにこんな乙女ゲームないよ!!という感想はご遠慮ください。 あと、戦いの部分は得意ではございません。ご了承ください。

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

西からきた少年について

ねころびた
ファンタジー
西から来た少年は、親切な大人たちと旅をする。

転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界に彩りを

なつのさんち
ファンタジー
前世から引き継いだ記憶を元に、男女比の狂った世界で娯楽文化を発展させつつお金儲けもしてハーレムも楽しむお話。 二十九歳、童貞。明日には魔法使いになってしまう。 勇気を出して風俗街へ、行く前に迷いを振り切る為にお酒を引っ掛ける。 思いのほか飲んでしまい、ふら付く身体でゴールデン街に渡る為の交差点で信号待ちをしていると、後ろから何者かに押されて道路に飛び出てしまい、二十九歳童貞はトラックに跳ねられてしまう。 そして気付けば赤ん坊に。 異世界へ、具体的に表現すると元いた世界にそっくりな並行世界へと転生していたのだった。 ヴァーチャル配信者としてスカウトを受け、その後世界初の男性顔出し配信者・起業投資家として世界を動かして行く事となる元二十九歳童貞男のお話。 ★★★ ★★★ ★★★ 本作はカクヨムに連載中の作品「Vから始める男女比一対三万世界の配信者生活:オタク文化で並行世界を制覇する!」のアルファポリス版となっております。 現在加筆修正を進めており、今後展開が変わる可能性もあるので、カクヨム版とアルファポリス版は別の世界線の別々の話であると思って頂ければと思います。

処理中です...