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3.王宮
3-4.
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ブリジット様と一緒に遊ぶ事、3時間半。
「ふわぁ~~」とあくびをし始めたのを見て、王妃様にお眠の時間が近いと伝えた。
すると通されたのは、王妃様の寝室だ。
もはや豪華なんて言葉では足りない程の内装に圧倒されながら、俺はベッドにブリジット様を寝かせようとした。
だが、ブリジット様の手は俺の服を掴んだまま離れない。
王妃様の「そのまま一緒に寝てあげて」という優しいお言葉に従う事にした。
大海原かと思えるほどに大きいベッドの中、俺と王女は夢の中で遊んでいたのだ。
*
もぞもぞ。
シーツの中で誰かが動いた。
ブリジット様が起きたのかと思っていると、シーツから顔をだしたのは陛下だった。
控えめに言って、陛下に夜這いされてるような状況だ。
そしていつもながら威厳がないなぁ、なんて思ってしまう。
「おぉ?妻じゃなかった、お主はカロリーナではないか」
「はい、王妃様の指示に従い、王女殿下と共にお昼寝させて頂いておりました」
「そうか、お主も大変じゃったな、聞いておるぞ。記憶が不完全な状態らしいではないか」
「はい、私と陛下は以前から顔見知りだったのでしょうか」
陛下は目をつぶり少し考え、何かを決めた様に目を見開いた。
「よし、これから親睦を深めようではないか」
「はぁ、何をするのでしょうか」
「聞けばお主、奇妙なスイーツを作ると言うではないか」
「はぁ、奇妙かは分かりませんが、スイーツ作りは趣味です」
「ならば厨房に行こうぞ!」
「ブリジット様は…」
「外に待機しているメイドに預ければよい、ささ、行くぞ」
なにがなんだか、あれよあれよと連れ出され、気づけば厨房、クッキングタイムが始まる。
もちろん料理人も何人か居た。
王宮料理人の前で調理しろって結構難題じゃないか?
こちとら、妻に聞いたレシピしか知らないんだぞ。
しかも料理人は皆こっちを睨んでいる。
当然だろう、自分の職場に小娘が入り込んで良い気はしない。
陛下さえいなければ、追い出す所だろう。
だが、陛下に言われたのであれば作らざるを得ない。
俺はとっておきの物を作る事にした。
ナッツ類を細かい粉状にしてふるにかけながらオーブンを温めておく。
少し甘くしたメレンゲを作り、ふるいにかけたナッツ類を加え、混ぜまくる。
シートの上に出来たものを垂らしてゆく。
均一の半円状の物をいくつも作り、オーブンで焼く。
その間にチョコと生クリームでガナッシュクリームを作る。
焼き上がった半円二つを抱き合わせ、中にガナッシュクリームを挟めば出来上がりだ。
「出来上がりました、どうぞ」
「陛下、しばし待たれよ、我らが毒見をします」
「いらないんじゃが~、まぁ、わかった、頼んだ」
毒見を申し出たのは料理人だ。
どうやらこの菓子を見た事が無いらしく、見た目すらも観察しながら一口で食べた。
毒だと警戒するのなら、1個まるまるじゃなくて半分だけにしとけよな。
「これは……!甘い……しかし、なんだこれは?さくっとふわっとして溶けてなくなる、不思議で面白い食感だ」
「もう食べても良いかの?」
「はい、毒はありませんでした、これはんと言う菓子かね」
「ホワイトマカロンと言います、以前知り合い(妻)に聞いたのですが、どこの地方の菓子かまでは知らないのです。食紅とかあれば、色んな色にできますよ」
「私も見た事も聞いた事がありませんな、陛下はご存じありませんか」
「もーぐもぐもぐもぐ、もーぐもぐもぐもぐ、うん?何かの?コレ、気に入ったぞ!んーまいっ」
妻は結局、どこの出身かすら教えてくれなかったのだよな。
遠い、東の島国だとは言っていたが、そんな国、伝説でしか聞いた事がない。
王宮料理人が知らないのであれば、本当にこの国では出回ってない菓子だと言う事になる。
妻は本当に不思議な人だったと、懐かしさに更けていた。
「あ、それ砂糖の塊みたいなものですから、あまり食べすぎない方が健康の為ですよ」
全部食べ切りそうな勢いだった陛下と料理人はピタリと手がとまった。
家で作れば取り合いになるのは目に見えるな。
ところでこれで親睦が深まるのだろうか。
王の意図がいまいち分からない。
*
「帰って良い?」
「なんじゃと!?これから夜通し息子の暴露話をするんじゃなかったのか!?」
「え、なにですかそれ」
「あれだけいつも楽しみにしておったのに、今となっては興味なしかの」
「それとお菓子作りとどんな関係が……」
「夜通しの話にはお菓子が必要じゃろ?」
「食べきりそうになっていましたよね???」
「な、なんのことかの??儂、ちょっと用事がっ、そうじゃ、これから勇者が謁見に来るんじゃった」
「うげっ」
「ふわぁ~~」とあくびをし始めたのを見て、王妃様にお眠の時間が近いと伝えた。
すると通されたのは、王妃様の寝室だ。
もはや豪華なんて言葉では足りない程の内装に圧倒されながら、俺はベッドにブリジット様を寝かせようとした。
だが、ブリジット様の手は俺の服を掴んだまま離れない。
王妃様の「そのまま一緒に寝てあげて」という優しいお言葉に従う事にした。
大海原かと思えるほどに大きいベッドの中、俺と王女は夢の中で遊んでいたのだ。
*
もぞもぞ。
シーツの中で誰かが動いた。
ブリジット様が起きたのかと思っていると、シーツから顔をだしたのは陛下だった。
控えめに言って、陛下に夜這いされてるような状況だ。
そしていつもながら威厳がないなぁ、なんて思ってしまう。
「おぉ?妻じゃなかった、お主はカロリーナではないか」
「はい、王妃様の指示に従い、王女殿下と共にお昼寝させて頂いておりました」
「そうか、お主も大変じゃったな、聞いておるぞ。記憶が不完全な状態らしいではないか」
「はい、私と陛下は以前から顔見知りだったのでしょうか」
陛下は目をつぶり少し考え、何かを決めた様に目を見開いた。
「よし、これから親睦を深めようではないか」
「はぁ、何をするのでしょうか」
「聞けばお主、奇妙なスイーツを作ると言うではないか」
「はぁ、奇妙かは分かりませんが、スイーツ作りは趣味です」
「ならば厨房に行こうぞ!」
「ブリジット様は…」
「外に待機しているメイドに預ければよい、ささ、行くぞ」
なにがなんだか、あれよあれよと連れ出され、気づけば厨房、クッキングタイムが始まる。
もちろん料理人も何人か居た。
王宮料理人の前で調理しろって結構難題じゃないか?
こちとら、妻に聞いたレシピしか知らないんだぞ。
しかも料理人は皆こっちを睨んでいる。
当然だろう、自分の職場に小娘が入り込んで良い気はしない。
陛下さえいなければ、追い出す所だろう。
だが、陛下に言われたのであれば作らざるを得ない。
俺はとっておきの物を作る事にした。
ナッツ類を細かい粉状にしてふるにかけながらオーブンを温めておく。
少し甘くしたメレンゲを作り、ふるいにかけたナッツ類を加え、混ぜまくる。
シートの上に出来たものを垂らしてゆく。
均一の半円状の物をいくつも作り、オーブンで焼く。
その間にチョコと生クリームでガナッシュクリームを作る。
焼き上がった半円二つを抱き合わせ、中にガナッシュクリームを挟めば出来上がりだ。
「出来上がりました、どうぞ」
「陛下、しばし待たれよ、我らが毒見をします」
「いらないんじゃが~、まぁ、わかった、頼んだ」
毒見を申し出たのは料理人だ。
どうやらこの菓子を見た事が無いらしく、見た目すらも観察しながら一口で食べた。
毒だと警戒するのなら、1個まるまるじゃなくて半分だけにしとけよな。
「これは……!甘い……しかし、なんだこれは?さくっとふわっとして溶けてなくなる、不思議で面白い食感だ」
「もう食べても良いかの?」
「はい、毒はありませんでした、これはんと言う菓子かね」
「ホワイトマカロンと言います、以前知り合い(妻)に聞いたのですが、どこの地方の菓子かまでは知らないのです。食紅とかあれば、色んな色にできますよ」
「私も見た事も聞いた事がありませんな、陛下はご存じありませんか」
「もーぐもぐもぐもぐ、もーぐもぐもぐもぐ、うん?何かの?コレ、気に入ったぞ!んーまいっ」
妻は結局、どこの出身かすら教えてくれなかったのだよな。
遠い、東の島国だとは言っていたが、そんな国、伝説でしか聞いた事がない。
王宮料理人が知らないのであれば、本当にこの国では出回ってない菓子だと言う事になる。
妻は本当に不思議な人だったと、懐かしさに更けていた。
「あ、それ砂糖の塊みたいなものですから、あまり食べすぎない方が健康の為ですよ」
全部食べ切りそうな勢いだった陛下と料理人はピタリと手がとまった。
家で作れば取り合いになるのは目に見えるな。
ところでこれで親睦が深まるのだろうか。
王の意図がいまいち分からない。
*
「帰って良い?」
「なんじゃと!?これから夜通し息子の暴露話をするんじゃなかったのか!?」
「え、なにですかそれ」
「あれだけいつも楽しみにしておったのに、今となっては興味なしかの」
「それとお菓子作りとどんな関係が……」
「夜通しの話にはお菓子が必要じゃろ?」
「食べきりそうになっていましたよね???」
「な、なんのことかの??儂、ちょっと用事がっ、そうじゃ、これから勇者が謁見に来るんじゃった」
「うげっ」
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