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3.王宮

3-1.アバークロンビー家

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 俺はブラックドラゴンのヴァンデに乗って公爵家の庭に降り立った。
 明日は1の日、それに合わせの帰省なのだが俺としては面倒極まりないだけだ。
 願わくばヴァンデの背中に乗って世界中を飛び回りたいものだ。

「よしよし、ありがとうなヴァンデ、また頼むよ」
『グワァァァァ!』

 魔力を指先経由でヴァンデに流し込む。
 ヴァンデはそれを食事とし喜んでくれる。
 結局、俺以外の誰にも懐かないなんて考えもしなかった。
 俺が死んだらどうなるのだろうかなんて、少し心配になる。

 俺の到着を知って屋敷からわらわらと人が出てくる。
 ここの使用人たちもヴァンデに慣れたのか、居るのがさも当たり前かの様に近寄って来た。

「「お嬢様、お帰りなさいませ」」
「今帰ったぞ、父よ」
「お帰り、カロリーナちゃん。リーナ食堂に送ったドレスを受け取ってくれたのだな、似合ってるぞ」
「丁度、学院にも行きたかったから、丁度良かったよ。ありがとな」
「それにしても、食堂を始めると聞いて驚いたよ。詳しい話は中でしようじゃないか」
「ああ、そうだな。おっとデライラ(※メイド長)、これお土産だ、皆で食べてくれ」
「ありがとうございます、まぁ、突然団子!これ私も好きなんですよ!」
「それは良かった」

 そうして屋敷の中に入り廊下を歩いてる最中にグレッグとあいさつを交わす。
 そして重大な事を知らされた。

「ウィリアム・フィッツロイ様が来られています」
「何!?どうしてそうなる?」
「お嬢様が1カ月間も恋文を無視し続けた結果でございましょうな。痺れを切らしてやってきた訳ですよ。なんとも御労しい」
「そう言えば忘れていた、あぁ悪い事をしたな」
「そうでなくても、お嬢様は死んでいた期間……コホン……昏睡状態にあった期間がありましたから、心配だったのでしょう」
「世間一般ではそんな事になってたのか」
「そうです、死んだことは隠され生き返った時には奇跡の生還として国内中に大々的に報じられたのですよ」

 どうりで学院での俺の知名度が高い訳だな。
 俺は貴族の事はとんと感心が無かったので、気にしてなかったがこれからは多少なりとアンテナを広げないといけないのだろう。

「それもう一つ」
「まだあるのか!?」
「ブレイク様、お嬢様の兄上様がお帰りになっておられます」
「客が多いな!」
「月に一度の御帰省に合わせたのかと」

 ちなみに、俺が死んだ事自体を知っているのは父親とグレッグと一部の使用人だけらしい。
 周りには記憶喪失という設定になっているのだとか。
 ここにきて面倒な事が2つ…いや、3つか、先ずはスイーツからか!?

 ダンダンっガッ。
 と言った感じ(?)に、アップルパイを作る。
 あとは20分待てば出来上がりと言う段になって、兄がやって来た。

「良い匂いだな、早く食べさせろよ」
「兄よ、もうすぐ出来上がるから待ってくれ。父と一緒に食べよう、ついでにウィリアムも呼ぼう」

 アップルパイは5ホールも焼いたんだ、使用人たちの分も残るだろう。
 と、思ってたさ。

 いざ実食となり、父、ブレイク、ジェイク、ウィリアムと揃い、一斉に食べ始める。
 結構大きく作ったはずなのに、一人4分の1切れも食べやがる。
 流石に食べすぎだろうと思っていたが、全員が1ホールは自分の物だと主張を始めた。

「まてまて、俺、味見してないのだが」
「また作ればいいだろう」
「あ、はい、そうですね」

 だが、そこで弟が遠慮してくれて1ホールが浮いた。
 しかも、「はい、あーん」とか言いながら、自分の分を半分程俺にくれる。
 マジ、弟天使だわ。娘の次くらいに愛おしいな。
 ついつい撫でまくってしまった。もぐもぐしながら。

「兄よ、そんなに食べると太るぞ」
「勉強で頭を使うから、これ位の甘さが丁度いいんだよ」
「だがホールは食べすぎだ」
「他の奴らと、頭を使う量が違うんだ、これくらい食べないとばててしまうのだよ」

 むぅ。
 自分の主張を曲げない奴め……。
 少し眼鏡がずれるのも気にせず食べ続けてやがる。

「父よ、それだけ食べると病気になるぞ、少しは自重しろ」
「ヤダヤダ!これはパパのだもん!ずっと保存して眺めるんだもん!」
「いやいや、食えよ、生もんだぞ」
「ちゃんと保存魔法使うから大丈夫だもん!}

 むぅ。
 駄々っ子め……。

「殿下……」
「僕の!」
「殿下……」
「寂しかったんだからな!これくらいいいだろ?」

 むぅ。負けた。

 *

「爺や、残った1ホールを使用人の皆で分けてくれ」
「ヤダヤダ!これ僕のだもん!」
「殴るぞ?」
「ほっほっほ、冗談ですよ冗談。ですが、流石に人数で割れませんな」
「そうだなぁ、ホールにしたのは失敗だったか」
「もう3ホール作るのはどうでしょう」
「それもそうか……、それで爺やはどれくらい食うつもりなんだ?」
「1ホ……」
「年を考えろって、お前に死なれたら困るんだからな」
「お嬢様……(きゅんっっ♡)」

 そう言えば、1の日は明日だった。
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