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36.公国での生活

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『内緒の内緒の話、誰にも言っちゃ駄目よ』

『うん、なになに?』

『今日ね、ある男の子と約束したの』

『どんな約束?』

『将来の約束。それ以上は内緒』

『・・・そうなんだ・・・ふ~ん・・・』

『どうしたの』

『私との約束は?』

『約束?』

『馬鹿っ馬鹿っ、大っ嫌い!』


 ───酷い夢を見た。

 これが本当にあの時の話なら10年前の時点で約束を忘れていた事になる。
 結局、私が呪われたのはただの自業自得だった。
 でも、どうせ見せるなら、肝心な約束の内容の所を見せて欲しかった。

 公国では王宮内に部屋をお借りする事になった。
 その上、昨夜は私の部屋にエリザベスが忍び込んできた。
 移動だけで10日もかかって疲れているというのに、同じベッドで寝たいと我儘を言ってきた。
 恨んでいるのか懐いているのか、どちらかにして欲しい。
 夢の内容から考えて、実際はどちらもなのかもしれない。

 私に抱き着いたまま、未だに夢の世界を彷徨っている彼女に妹の様な感覚を覚える。
 それは双子の姉の感覚が、同い年の相手と妹を重ねているに過ぎない。
 結局、遠く離れてもアリアナの事が気になっていた。

 エリザベスの頭を撫でながら昔もこんな事をしていたのかと考えていた。
 もししていたのなら何か思い出すかもなんて甘い希望は脆くも崩れ去り、結局の所、何も分からないままだった。

「エリアナ・・・」

「おはよ」

「約束、思い出しました?」

「───ごめん」

「そう、仕方ないわ、今日は一日中、一緒に行動する事、いいわね」

「はいはい」

 彼女がこういう事をする以上、ヒントになっていると思う。
 それが何かは今はわからない、きっとそのうち思い出す。
 そう信じたい。

 それから、職務の時間は同室で本を読み、食事は仲良く二人で食べた。
 気分転換の外出はありきたりに、本屋を周り、カフェに寄る。
 子どもの頃にこんな事をしているとは思えないにしても、それなりに満喫していた。

 2日目にして、教会の方から声がかかった。
 大聖女の“祈祷”を見たいというのだ。
 仕方なく教会についてゆくとエリザベスも付いて来た。

 教会でいつもの様に祈祷すると相変わらず眩い光が教会全体を包んだ。
 ふと、大司教様の事を思い出す。
 あちらでの祈祷はサボりになるけど、よかったのかなと。
 今更な事を考え、仕方ないと片づける。

 それでまさか、降臨しちゃうとはね。
 大聖堂の女神像に。

「もしや、エリアナ様ですか」

 大司教様が私を見つめて感涙を流す。
 彼にはまだ一度も降臨した姿を見せた事が無かったのだから無理もない。

「はい、私です、公国からでもここに繋がるのですね」
「握手してもらってもよろしいでしょうか」
「はい、どうぞ」

 何故握手なのかと思いつつ、手を差し出すと両手で有難そうに握り返す。
 徐々に人が集まる中、我も我もと行列が出来る。
 キリがない。
 そろそろ帰ろうかと考え、最後にお祈りを捧げる事にしたけど、どんな農作物があったのか忘れていたので健康を祈っておくことにした。
 不思議な事に目をつぶって祈っていたのに、俯瞰した建物の輪郭と人の輪郭が見える。
 そこにモヤがかかる人が居て、気持ち悪いと感じる。
 モヤに集中するとそれは消えた。
 それと同時に声を上げる人が居た。

「儂の腰痛が消えた!」

 他の人も大なり小なりと調子が良くなっているみたいな事を言い出している。
 そんな些細な奇跡を他所に、時間だから戻る事を告げた。
 そうすると、大司教様が耳打ちしてきた。

「現在、戦況は膠着状態にあるそうです、また降臨して頂ければ情報をお教えしますよ」

 自身の体に戻ると、心配そうにするエリザベスの姿が目に入った。
 彼女に心配をかけたと謝罪しながら、何事も無かったかの様に、公国の暮らしに戻った。

 戦況を知った所で、私に何が出来るのかと頭を巡らせながら。
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