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31.神聖力の暴走(ウィルター視点)
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エリアナの神聖力が暴走してしまった。
10年前にもあった事だ、
あの時は呪われた直後に頭が割れそうだと痛がった時に神聖力を暴走させていた。
その後、大司教様により暗示をかけて頂き、私の存在を消すと言う記憶操作を試みた。
お陰であの事故が起きなくなった。
考えるにエリアナに掛けられた呪いは『第一王子ウォルターの事を想う』と発動すると思われる。
迂闊だった。
この部屋は、まさに私の部屋だ。
彼女もそれを覚えていた。
忘れて思い出す事がないと思ったから連れてきた。
まさか自力で暗示を突破してしまうとは思いもよらなかった───
10年前、私の周りに毒殺未遂が度重なり、非常に窮屈な思いをしていた。
庭園でたまたま出会った私とエリアナは恋愛とは程遠い、純粋な友達になった。
庭園で隠れる様に会い、時にこの部屋にも連れてきた。
友達のいない、私にとって彼女は唯一、かけがえのない存在となっていった。
だが、楽しい日々というのは割とあっさり壊れる物だった。
彼女が呪われ、神聖力の暴走を引き起こし、それが事件となってしまった。
その状況にふさぎ込んでいた私もついには呪われた。
そうして自分の名を名乗ろうとする度に頭が割れそうに痛くなった。
実際、言葉にすらできていない有様だった。
そして、エリアナと会う事を禁じられた私は、表向きは王家から廃嫡されたと言う事にされた。
私が表立って動く事で彼女が辛いを思いをする。
それが耐えられなかったからだ。
それなのに、今また、彼女に辛いを思いをさせてしまった。
「エリアナ!ウィルターの事だけを考えろ!他の事は考えるな!」
彼女を取り巻く風の勢いで吹き飛ばされそうだ。
一歩前進する度に体が引き裂かれてしまいそうになる。
それでも進むしかない、彼女を助ける為に。
「エリアナ!気をしっかりもて!」
彼女の神聖力が破壊に転じ、部屋の天井をぶちやぶって開放的にした。
空から降り注ぐ太陽は彼女だけを照らすかの様に、光の柱を顕現している。
その光の柱に手を差し込む。
他者を拒む焼ける様な痛みが走った。
それでも私は助けなくてはならない。
もう、友達だからだとは言わない。
「誓い合ったあの約束を果たすまで、君を放すものか!」
手を伸ばすも彼女の場所ははるかに遠い、それだけ光の柱が大きい。
10年前とは比べ物にならない規模の暴走に、焦りながらも歯を食いしばって光の柱の中に入った。
細かく鋭利な刃物が体を引き裂く様だった。
対魔防に特化した服も、徐々に崩壊を始めた。
あまり長くはもたない。
「エリアナ!お願いだ!目を開けてくれ!」
光の柱の中は轟音が響いていた。
その声が届くのも半ば諦めていた。
だが、彼女は目を見開いて、こちらを見て、涙を溢す。
もう、あの時と同じ事をするまでだ。
残る力を振り絞り、光の柱の中心地である彼女の元まで進もうとした。
中心地の近くは更に抵抗が凄まじく、一歩進む事も困難を極める。
だが、諦める訳にはいかない。
「エリアナ!」
「ウィルター!」
ついに彼女も私を認識し、手を刺し伸ばしてきた。
手と手が触れあい、絡め合う。
彼女を引寄せ、ようやく抱きしめる事が出来た。
「わたし、どうして、こんな事に」
「私の事だけを考えろ、ウィルターの事だけを!」
唇を重ねた。
舌を絡め、彼女の思考を根こそぎ奪い去る。
私だけを見てもらう為に。
彼女は蕩ける様な表情をして私を挑発した。
会う事すら我慢していた10年間。
魔女を殺めて回る為に書物を探し、運命的な再会を果たした。
だが、彼女は運命だとは思っていないだろう。
だからこそ、これが運命だと思わせなくてはならない。
唇同士が離れ、透明な糸が垂れた。
彼女の首筋に強めのキスをする、零れる声と共に光の柱は徐々に収まってゆく。
徐々に耳元に舌を伝わせ、耳たぶを齧る。
まるで楽器の様に反応して声が出る度、光の柱は弱まり、そしてついには消えた。
落ち着いた。
だが、私はその行為を続けた。
瓦礫だらけの部屋の中、天蓋のあるベッドは奇跡的に無事だった。
そこに連れて行くと、彼女は私を抱きしめた。
胸の谷間に顔を埋められ、彼女が私を受け入れようとしていると思った。
私もそれに応えようと、抱きしめ返した。
だが、それは治療の光を発動させようとしただけだった。
暖かい光につつまれ、傷だらけの手足が治ってゆく。
彼女の神聖力は相変わらず心地良い。
「も、もう大丈夫ですね、ありがとうございました」
「エリアナ」
「なんでしょう」
「───好きだ」
「あの・・・」
「私の事は嫌いか」
「そうじゃなくて・・・それは嬉しいのですが・・・」
「なんだ、言ってくれないか」
「この大惨事、すぐに人が来ます、そろそろ離れてください」
「あ・・・ああ、そうだな」
彼女から離れた途端に壊れたドアから衛兵の話声が聞こえた。
関係を進めるには早急過ぎたのだろうか・・・。
10年前にもあった事だ、
あの時は呪われた直後に頭が割れそうだと痛がった時に神聖力を暴走させていた。
その後、大司教様により暗示をかけて頂き、私の存在を消すと言う記憶操作を試みた。
お陰であの事故が起きなくなった。
考えるにエリアナに掛けられた呪いは『第一王子ウォルターの事を想う』と発動すると思われる。
迂闊だった。
この部屋は、まさに私の部屋だ。
彼女もそれを覚えていた。
忘れて思い出す事がないと思ったから連れてきた。
まさか自力で暗示を突破してしまうとは思いもよらなかった───
10年前、私の周りに毒殺未遂が度重なり、非常に窮屈な思いをしていた。
庭園でたまたま出会った私とエリアナは恋愛とは程遠い、純粋な友達になった。
庭園で隠れる様に会い、時にこの部屋にも連れてきた。
友達のいない、私にとって彼女は唯一、かけがえのない存在となっていった。
だが、楽しい日々というのは割とあっさり壊れる物だった。
彼女が呪われ、神聖力の暴走を引き起こし、それが事件となってしまった。
その状況にふさぎ込んでいた私もついには呪われた。
そうして自分の名を名乗ろうとする度に頭が割れそうに痛くなった。
実際、言葉にすらできていない有様だった。
そして、エリアナと会う事を禁じられた私は、表向きは王家から廃嫡されたと言う事にされた。
私が表立って動く事で彼女が辛いを思いをする。
それが耐えられなかったからだ。
それなのに、今また、彼女に辛いを思いをさせてしまった。
「エリアナ!ウィルターの事だけを考えろ!他の事は考えるな!」
彼女を取り巻く風の勢いで吹き飛ばされそうだ。
一歩前進する度に体が引き裂かれてしまいそうになる。
それでも進むしかない、彼女を助ける為に。
「エリアナ!気をしっかりもて!」
彼女の神聖力が破壊に転じ、部屋の天井をぶちやぶって開放的にした。
空から降り注ぐ太陽は彼女だけを照らすかの様に、光の柱を顕現している。
その光の柱に手を差し込む。
他者を拒む焼ける様な痛みが走った。
それでも私は助けなくてはならない。
もう、友達だからだとは言わない。
「誓い合ったあの約束を果たすまで、君を放すものか!」
手を伸ばすも彼女の場所ははるかに遠い、それだけ光の柱が大きい。
10年前とは比べ物にならない規模の暴走に、焦りながらも歯を食いしばって光の柱の中に入った。
細かく鋭利な刃物が体を引き裂く様だった。
対魔防に特化した服も、徐々に崩壊を始めた。
あまり長くはもたない。
「エリアナ!お願いだ!目を開けてくれ!」
光の柱の中は轟音が響いていた。
その声が届くのも半ば諦めていた。
だが、彼女は目を見開いて、こちらを見て、涙を溢す。
もう、あの時と同じ事をするまでだ。
残る力を振り絞り、光の柱の中心地である彼女の元まで進もうとした。
中心地の近くは更に抵抗が凄まじく、一歩進む事も困難を極める。
だが、諦める訳にはいかない。
「エリアナ!」
「ウィルター!」
ついに彼女も私を認識し、手を刺し伸ばしてきた。
手と手が触れあい、絡め合う。
彼女を引寄せ、ようやく抱きしめる事が出来た。
「わたし、どうして、こんな事に」
「私の事だけを考えろ、ウィルターの事だけを!」
唇を重ねた。
舌を絡め、彼女の思考を根こそぎ奪い去る。
私だけを見てもらう為に。
彼女は蕩ける様な表情をして私を挑発した。
会う事すら我慢していた10年間。
魔女を殺めて回る為に書物を探し、運命的な再会を果たした。
だが、彼女は運命だとは思っていないだろう。
だからこそ、これが運命だと思わせなくてはならない。
唇同士が離れ、透明な糸が垂れた。
彼女の首筋に強めのキスをする、零れる声と共に光の柱は徐々に収まってゆく。
徐々に耳元に舌を伝わせ、耳たぶを齧る。
まるで楽器の様に反応して声が出る度、光の柱は弱まり、そしてついには消えた。
落ち着いた。
だが、私はその行為を続けた。
瓦礫だらけの部屋の中、天蓋のあるベッドは奇跡的に無事だった。
そこに連れて行くと、彼女は私を抱きしめた。
胸の谷間に顔を埋められ、彼女が私を受け入れようとしていると思った。
私もそれに応えようと、抱きしめ返した。
だが、それは治療の光を発動させようとしただけだった。
暖かい光につつまれ、傷だらけの手足が治ってゆく。
彼女の神聖力は相変わらず心地良い。
「も、もう大丈夫ですね、ありがとうございました」
「エリアナ」
「なんでしょう」
「───好きだ」
「あの・・・」
「私の事は嫌いか」
「そうじゃなくて・・・それは嬉しいのですが・・・」
「なんだ、言ってくれないか」
「この大惨事、すぐに人が来ます、そろそろ離れてください」
「あ・・・ああ、そうだな」
彼女から離れた途端に壊れたドアから衛兵の話声が聞こえた。
関係を進めるには早急過ぎたのだろうか・・・。
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