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21.魔女の招待

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 側室になれと言われた次の日、私は市井に出向いた。
 大好きな本でも読んで現実を忘れたい。
 そう考えていたのに、足が向いたのは茶店だった。
 いつの間にかウィルターに会いたいと思っていたみたいだ。
 もしかすると、駆け落ちを願う様になっていたかもしれない。

 だが、そこに茶屋にウィルターは現れなかった。
 言付けもしていないのだから、当然だ。
 私は適当な席に座り、『いつもの』と言って頼んだ。

 この国はエリアナを必要とせず、アリアナを必要としている。
 私がいなくなっても困らない筈だ。

 そもそも呪いで男性化した妹の事を隠す事自体がおかしい。
 公表すればいい。
 保守派がやった。全ては保守派が悪い、と。
 そして、弾圧すればいい。
 元に戻せと脅せばいい。
 戻せなければ、聖女としての活動は出来ないと言えばいい。

 今や公爵家にはそれだけの力がある。

 父は今、併合した侯爵領の整理で王都に居ないから言えていない。
 帰ってきたら絶対言う。
 そしてこの生活から脱出するんだ。
 少なくとも、風船王子と会わないで済む様にしたい。

 少し頭を冷やそう。

 考えがネガティブに振りすぎている。

 目をつぶり天を仰いでいると、カチャッとテーブルに何を置く音がした。

「今日はおひとりなのですね」
「え、ええ」

 今日はレッドを連れてきていない。
 不用心だとしても、どうなっても構わない。
 エリアナがどうなろうと悲しむ人なんていないのだから。

「これ、言付けです。あの人から」
「え──」

 ウェイトレスから渡されたのは小さなメモだ。

『月末まで待て。必ず救い出す』

 私を?どうやって?

「ラブレターですか?何だか嬉しそうですね」
「違います・・・いえ、そうかもしれません」
「そうだ、聞きました?最近、魔女が次々と殺されているって話、名付けて魔女連続殺人事件、こわいですね~」
「いえ・・・・知りませんでした」
「噂ですけどね。ほら、例の侯爵家処刑があったでしょう?あれも魔女絡みらしいですよぉ」
「─────がはっ」
「えええ、大丈夫ですか」
「えっと、息をするのを忘れちゃいました」
「あはははは、なにそれえ」

 父は──
 妹の呪いを本気で解こうとしている?
 魔女の目星がついていると言う事・・・?
 それとも、魔女を手あたり次第・・・?

 まだ、魔女連続殺人事件が父の犯行だと決まった訳じゃない。
 父にはついて行けないと思ったけど、もう一度信じてみようと思った。
 妹の呪いを解いてもらえれば、解放される。

 私は茶店を出て、帰路についた。
 途中、気になる本屋があったのもスルーして・・・ちょっとだけ寄って行こう。

 店舗型のそのお店の本棚は見上げる程高く。
 中は驚くほど奥に続いている。
 こんなところに本屋があったかな?という曖昧な記憶で少し警戒しそうになったけど、二階には錬金術と呪いに関する本のコーナーがあると書いてあり、警戒心はどこへやら、私は気にせず上がってしまった。
 そんな夢みたいなコーナーがあるんだから行くしかない、仕方ないよね。

 二階は薄暗く、とても本を立ち読みできる環境には無かった。
 紫に光る灯が本のタイトルを照らし、私を誘った。
 じっくりとタイトルを確認していくと持っていない本ばかりで、蒐集家も大喜びしそうな本が並んでいる。
 この店、最高過ぎる!なんて思いながら眺めていると、周りを取り囲まれている事に気が付いた。

「エリアナ・エジャー様ですね」
「・・・・ええ」
「奥の部屋に来ていただけないでしょうか」
「あなた達は?」
「先ずは奥の部屋へ」

 仕方なく付いて行った。
 そこには丸い小さなテーブルがあり、周りにはフードで顔が見えない人物が3人座っている。

「お座りください」
「それで、自己紹介はして頂けないのですか」
「私達の事は、“魔女”とだけ、名乗っておきましょう」
「・・・その魔女さんが、私にどの様な話があるの?」

 正面に座る魔女は言った。

「我らと協力関係を結んで頂けないか」

 左に座る魔女が言った。

「我々は今、命の危機に直面しております」

 右に座る魔女が言った。

「それを止めれるのは、貴女様しかおりません」

「あなた達を助けるそのメリットは何ですか」
「それは、呪いを一つ解除しましょう」
「自分たちでしでかした事を交渉材料にするって良い度胸ですね」
「・・・それもそうですな、では何を望みで?」
「口外しないから、呪いへの対処法を教えなさい、解除方法もね、あと名前くらいちゃんと名乗りなさいよ、お願いする立場なんでしょ」

 一瞬の沈黙があってすぐ、最初に私を取り囲んだ魔女が声を上げた。

「言わせておけば偉そうに、好き放題言いやがって、呪い殺してやる!」
「!!」

 魔女は手を大きく上げ、呪文を唱え始める。

「来たる北方の精れ──」

 そんな悠長に詠唱されると、うっかり蹴りを入れてしまい彼女の腹部が直角に曲がる。

「グホォッ!」
「馬鹿ね、目の前で呪う奴が何処にいるのよ」

 すると正面に座っていた魔女が話し出した。

「全くその通りでございます、しかしこれで助かったのは、そこの魔女の方でございますな。貴女様には強力な呪いがかかっております、あのまま死ぬような呪いを掛ければ自分に跳ね返っていたでしょう」

 私も呪われていたとは・・・、道理で魔導具が反応する訳だ。

「呪われているって気づくものなの?」
「ええ、魔女であれば、ですが若い者にはそれが分からんのです」
「それで呪われない為には何をすればいいのよ、教えてよ」
「仕方ありませんねお教えしましょう───」

 それはそれはとてもとても面倒な工程を必要としていた。
 満月の夜に天月干しをしたユニコーンの角を粉末にし、聖水で粘土状にして好きな形でオーブンで焼く。
 それを合わせ鏡の間に10日間置いて増えたら、増えた方を砕いて元の方の影が消えた事を確認する。
 元の方を取り出し、聖水に浸し10日放置したのち、びしょびしょの状態でそれを生け捕りにしたドラゴンの額に張り付け10日間放置する。
 それでようやく呪いをはねのける効果が3年間続くアクセサリーの完成。

「そして、これが完成した呪いよけアクセサリー、なんと今なら19ゴールド」
「買った!」

 ノリと勢いで買ってしまった。
 嬉しさのあまり、さっそく首に掛けてみる。

 パリーン

「あ、あの、壊れたんだけど」
「あ・・・それ、呪われてない人用なんです・・・」
「クーリングオフは?」
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