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15.仮面舞踏会(前編)

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「レッド、仮面が似合っていますね」
「やめてください、照れ臭い」
「大丈夫ですよ、騎士爵は持っているのでしょう?」
「ええ、一応」
「では、その爵位に負けない様な振る舞いをしてくださいな」
「それは気を付けますが、あまり私の目の届かない所に行かないでくださいよ」
「──わかってるわ」

 レッドはダンスは苦手だからと言う理由で最初は拒んでいた。
 仮面舞踏会ではダンスを踊る必要はなく会話が楽しめれば良いと言う話が多い。
 それでも、マスクをしても正体がバレている程の有名人や、美貌がにじみ出ている人はその限りではない。
 引く手数多にダンスに誘われるそうだ。

 レッドのエスコートで馬車を降り、招待状を渡して会場入りする。
 招待状もイニシャルしか書いていないし、受付け係しか見ない為、その時点で誰かというのはわからない。
 とはいえ、聖女と名が知れている以上、私はマスクしても殆どの人は気づいてしまう。
 それを見て見ない振りをするのが、仮面舞踏会だと言うのに。

 会場に入ると豪華なシャンデリアが目に入る。
 さすが、遊びに金の糸目をつけないブキャラン侯爵だ。
 彼は舞台の傍で参加者が揃うのを待っていた。
 既に何杯か飲んでいるみたいで、口はまろやかになっているみたい。

「これはこれは、綺麗なご令嬢様、今夜はお越し頂きありがとうございます」
「こちらこそ、ご招待にあずかりまして、誠にありがたく存じます」

 テンプレ的な挨拶をした上で彼は腕を差し出した。

「最初の相手に私を選んでいただけないでしょうか」
「ええ、喜んで」

 主催者からのお誘いは断りづらい。
 一度躍ってしまえば、後は疲れたなりの理由を付けて断ってゆけばいい。
 序盤に流れている曲はスローワルツで、ダンスに自信の無い私向けの選曲だった。

「では」

 手をとり会場の中央の方に移動する。
 そこで注目をあまり浴びたくないものの、基礎に従ってダンスに集中していた。
 それなりに足が温まってきた頃に彼は口角を上げて話した。

「いつものを奥の部屋に用意しておりますよ、このまま行きますか?」
「───ええ」

 その返事をして、すぐに曲が終了し、私は奥の部屋に案内される。
 さも当たり前かの様に長いソファーに座るように強要された。
 そこに座ると真横に座られ肩を抱かれ体を密着させられた。
 妹はこの侯爵とどんな関係を築いてきたのか気になると同時に、馴れ馴れしさに苛立ちを覚えた。

「いつもの物はどうしたの?」
「まぁ、慌てるなよ、先ずは一杯飲んでからだろ?」
「───そうね」

 ワインをグラスに注がれ、それを渡された。
 量としては少な目で、その程度なら酔わないと思っていた。
 少し舐める程に一口飲むと、甘い果実酒だった。
 喉の潤すのに丁度良く、アルコールもさほどの量ではないのは、今回に限って言えば有難い。
 残りを一気に飲み干すと、少し酔った振りをした。

「これ美味しいですね、でも今日は体調が優れないせいか、酔いの回りが早いみたいです」
「そうかい?じゃあいつものを出そうか」

 そして出されたのは水晶玉だった。
 柔らかそうで小さい敷物に鎮座した水晶玉は、次第に何かを映し出した。
 しばらく何が映し出されるかと思っていれば、誰も居ない個室が映し出されている。
 個室に有るのは、大き目のベッドと鏡台だけだった。

「さて、何に賭けます?」
「───ちょっと何にするか決めかねますね、お先にどうぞ」

 賭けの対象が分からない私はルールの説明求めたら変に思われると考えた。
 先に賭けてくれれば、なんとなく分かると思っていたのだ。

「では、手堅く正常位に賭けましょう」
「えええ?」
「おや、意外でしたか?では後背位にしましょうか。流石に騎乗位は無いでしょうからね」
「あ、あの、じゃあ、正常位で・・・」
「では、賭けは成立で、暫くはワインか食べ物でも頂きましょう、すぐに入りますから」

 そうして待っていると、ワインの他におつまみが幾つか運ばれて来た。
 それを少し口にしていると、水晶玉が映す部屋に男女一組が入って来る。
 声まで聞こえないせいで何を言っているかわからないが、男性が女性を口説いている様に見える。
 そして、男性がおもむろに女性のドレスを脱がせた。
 さらにベッドに押し倒し、性行為の前段階を始める。

「愛撫が長いと退屈ですな、媚薬で十分に濡れているでしょうに」
「全てのワインに入れているのですか?」
「ええ、貴女の飲んだものにも入っていますよ。少しは体が温まって来たでしょう?」

 言われると、あそこにじわっと来るものがある。
 まさかとは思うけど、妹は関係を持った事があるとか言わないよね?

「まぁ、今日は勝たせて頂きますよ、久しぶりに楽しみたいですからね」

 そして水晶玉に映っている部屋の方は、ついに行為が始まってしまった。
 当然、こんなシーンを見るのは初めてで、うっかり食い入る様に見てしまう。

「ああ、やはり正常位ですか、そちらが1ポイント先取ですね。あと4ラウンドあります、負けませんよ」

 水晶玉はまたもや誰も居ない別の部屋が映し出された。
 今度は騎乗位と言ってみると、侯爵は後背位を選んだ。

「大きく出ましたね」
「勝負は時の運ですから」

 しばらくして部屋に入って来た男女は、女性がリードしていた事に侯爵は焦った。

「これは!大穴が来ててしまいましたか!」

 その後、女性リードでそのまま騎乗位が行われて、侯爵は悔しがった。

「これで、6対0、あと3ラウンドですか・・・まさかこんな事になるとは・・・」

 それからゲームは続き、5ラウンド終わった時点で、7対3で終了した。
 後背位は3点、騎乗位は5点、正常位は1点、それ以外はドローだそうです。
 酷く趣味の悪い賭け事です。最低すぎる。

「完敗です、残念ですね、今夜こそ抱けると思っていたのに」
「───残念ですね」
「では賞金50ゴールドです、お持ち帰りください」
「ありがとうございます」

 その賞金を10ゴールド硬貨5枚を私の手の平に並べると、その手を上下から包み込む様に触った。
 そして熱い眼差しのまま、侯爵は呟く様に口を開く。

「抱かせて頂ければ、こんな事をせずとも贅沢をさせてあげますのに、貴女はいつになったら婚約破棄をして頂けるのでしょうか」
「───今は、まだ無理ですわ」
「そうですか、誠に残念でございます」

 そうして手を引っ張られ立ち上がろうとした時、少しふらつき倒れかけた。
 それを侯爵は支える様に抱きしめ、私を支える。

「危ない、足元にはお気をつけて」

 先ほどから体が熱い。
 味わった事の無い程の感覚が込み上げてきている。
 それは、私を焦らせるのに十分な、感覚だった。

「少々、媚薬を入れ過ぎてしまいましたかな」
「侯爵様・・・」

 今の今まで自力で立てない程になっているのに気づいていなかった。
 カーテンで隠れていた部分を開くと、そこにはベッドがある。
 侯爵は私をベッドに寝転がせ、舌なめずりをしたのだ。
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