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10.出会い

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 お父様に止められた調査を私は続けていた。
 妹の男体化の手がかりを見つけるには、とある書物が足りない。
 そんな場合はどうするか。
 市井に買いに行けばいいのですよ。

 眼鏡装着よーし!変装よーし!外套よーし!
 いざ行かん、本屋心の拠り所へ!

 勿論、一人で行くような不用心はせず、私のお付きのボディーガードのレッドがついて来る。
 彼は市井に溶け込めるほど平凡な顔立ちなのに、いざ格闘となると一流の腕利き。
 まぁ、騎士団の団長ですからね。
 本気を出すときはオールバックにするらしく、たまにしか見れないのですがその時は中々女子受けする顔立ちなのです。
 今回みたいに市井に出る場合、ちゃんと平民の服装を用意するあたり頭も回る様です。

「レッド、今回もよろしくね」

 レッドは私がエリアナでアリアナの成り代わりをしている事を説明してあります。
 先日の事件から、不義を働くとは到底思えませんからね。

「はい、お嬢様は必ず守り通して見せます」

 私達の住んでいるのは王都の中でも貴族ばかりが集まる東区域。
 書店が多く並ぶのは中央区、そこに向かうのには公爵家の馬車を利用する。
 そうしてたどり着くのは中央区の端っこ。
 公爵家の家紋が入った馬車となると目立つので、目立たない広い場所に置いてく感じです。
 後は辻馬車か徒歩で移動となる。
 大体は行は徒歩で色んな店を立ち寄りながら、帰りは荷物が多いので辻馬車といった具合。

 本屋と言っても、露店で本を並べてるだけの店もあれば、建物の一階をまるまる本屋としてる店、3階建て全てが一つの本屋、大きな建物の中に複数の本屋が入ってるなんてケースもある。
 掘り出し物の本なんて有れば最高なんだけど、その日によって当たりはずれはあるものですね。

 12件目の時点で6冊の興味深い本を入手し、露店タイプの13件目の品ぞろえを眺めている所、探していた本が出て来た。
 それは『現役魔女年鑑 王国歴292年度版』、おおよそありとあらゆる魔女が乗ってる年鑑で、今回の性別を変える呪いを得意とした魔女を探すなら、必須と思われる本。
 今は299年なので7年前の物ですが、魔女が早々増える訳でもないので、問題はないでしょう。

「おじさん、これください」
「おやじ、これをくれ」

 同じ本を指差しているのは外套を着てフードを深く被る成人男性。
 お互いに、それなりに怪しい恰好なのは間違いない。
 つまりはお互いに目立ちたくないという事情がある訳ですね。

「こまったな、これ一冊しかないんだよ」
「俺はこれが無いと困るんだ、同額を貴女にも払うから譲ってくれないか」
「困りましたね、私も必要としているのですよ、勿論、趣味などではありません」

 相手の男性は、ため息をついて呆れる様に言葉を投げ捨てた。

「はー、こういう時、淑女ならば男性に譲るものなのだがな」
「あら、レディーファーストの精神を存じない紳士が居るとは思いませんでした」
「はは、言うじゃないか」
「当然の事を言ったまでです」

 そんな言い争いが始まるかもしれない空気を察してか、レッドが助言をした。

「お嬢様であれば、必要な情報は2、3日で読み切れるのではないでしょうか。ならば4日後に譲る約束をするのはどうでしょう」
「流石、レッドね。いいアイデア」

 改めて男性に向かって、その提案をする。
 お代はこちらで支払い、数日後に公爵家まで受け取りに来て欲しいと伝えた。

「ザザーランド公爵・・・もしかしてエリアナか」
「私の事を存じて──」
「お嬢様、お下がりください!」

 レッドが二人の間に割り込んで警戒を強める。
 私の事を知っていると言う事は、その魔女年鑑を使って何かする可能性があると考えたみたい。

「レッド!落ち着いて!話が先よ」
「すまない、そちらが警戒するのも無理はない」

 男性は武器を持っていない事をアピールしながら少し距離を取っていた。
 その時、風によってフードがめくれる。
 その姿に見覚えがあると思えば、風船王子にどこから似ていた。

「条件はそれでいいが、そちらに行く訳にはいかない。4日後に、ここの近くの茶店で落ち合うのはどうだろうか」
「ええ、そちらがそれでいいのでしたら」
「あーよかった。喧嘩が始まるかと思っちまったよぉ」

 こうして欲しかった物が手に入った訳ですが、あの男性が私の名前を知っている理由が気になったせいでそれ以降はあまり店を周る気にならなかったのです。
 どこかで見た事あるのですよねぇ・・・。
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