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第六章 魔境の奥で
第53話 よし、怒られないな
しおりを挟むマギル族たちは俺を集落へ運ぶと、広場らしき中央に放り出し、その周りを踊りながら回った。
「ててて。くそぉ、なにがしてーんだよ」
縛られた俺は何とか顔を上げて様子をうかがう。
女族長は広場の正面の一段高くなった玉座っぽいものに腰掛け、優雅にほおづえをつき、小麦色の脚をムッチリと組んで、こちらを睥睨していた。
やがて男たちの踊りが終わると、女族長の命令で俺はまた運ばれていく。
「qwEや!」
そう怒鳴られ、やっと蔦の縛を解かれたかと思えば、岩穴の入口に丈夫な竹の格子がはめられた部屋へ放り込まれた。
おそらく牢屋なのだと思われる。
まあ、ただ牢屋というだけなら壁抜けで終わりだが、外には屈強な見張りがいた。
正直、生死を問わなければコイツら全員ぶっ殺すこともできるんだけどさ。
マギル族とは魔境の攻略上仲良くしておきたいから、できれば乱暴なことはしたくない。
なんとか話し合いで誤解を解きたいんだけど……
「モシモシ、オマエ」
そう考えていた時、ふいに牢の外から声をかけられる。
え? つーか、わかる言葉じゃん?
ハッとして牢屋の外を見ると、そこには腰蓑姿の痩せた爺さんがこちらをのぞき込んでいた。
「オマエ、西ノ人ネ?」
「あ、ああ! あんた、言葉がわかるのか?」
「ウン。若イ頃、冒険者ヤッテタ。大体ワカルヨ」
助かったー!
そう思って、俺は自分がスレン王国の子爵で、こちらには冒険に来ただけだと説明する。
「だから何も集落へ危害を加えたりするつもりはないんだ。爺さんからあの女族長へそう説明してくれねーか?」
「ウーン。別ニイイケド、多分アンマリ意味ナイネ」
「なんで? 意味ないことねーだろ?」
「パール様ハオマエヲ生贄ニスルオツモリダ。皆、オマエヲ悪魔ノ落トシ子ダト思ッテイルカラ」
生贄!? そんな!
「爺さん、なんとか助けてくれよ」
「可哀想ダガドウシヨウモナイ。生贄ノ儀ハ三日後ノ夜ダカラナ。悪ク思ウナ」
そう言って爺さんは行ってしまった。
つーか何しに来たんだあの爺さん。
……でもまあいいさ。
そっちがそういうつもりなら、こっちも考えがあるってもんだ。
◇
そもそもマギル族の集落の東には、オークたちの勢力があるはずだった。
TOLでのクエストではすぐにマギル族と仲良くなってオークを攻めるのを手伝ってもらうって流れだったはずなんだけど……
俺を生贄にするっていうんなら仲良くもクソもねーじゃんか。
殺られる前にひと暴れするしかない。
でも、どうしてゲームと違う展開になっちまったんだろーなぁ。
ドンドコドコドコ、ドンドコドコドコ……!!
三日後の夜。
新月の空にエスニックな太鼓の音が響く。
「オイ、オマエ。立テ。儀式ガ始マルゾ」
唯一言葉の通じる爺さんが言う。
マジでこの爺さん、クソの役にも立たねーな。
この3日間どうにか族長に生贄の件を考え直してもらえないか伝えてくれって頼み続けたんだけど、どーにもならんかったのよ。
俺は再び蔦で縛られ、牢屋から出されると、集落の広場の方へ連れて行かれた。
広場にはキャンプファイヤーのような大きな焚火がたかれ、太鼓や笛が鳴り、その周りを若い男女が踊り狂っている。
そこで壇上の女族長が立ち上がって言った。
「ナry%ー!!」
女族長は炎へビシっと指をさし、裸の乳房の揺れで首飾りが爛ときらめく。
どうやら俺はあの焚火で炙られるらしい。
「やれやれ、仕方ねーな」
黙って炙られるわけにはいかない。
やはり暴力。
暴力はすべてを解決する。
そう意を決し、焼かれる前にマギル族の人々を焼いてしまおうと『ほのお』を詠唱しようとした時だった。
ガオオオオオオ……!!
ふいに月の無い空に魔物の雄叫びが轟く。
かと思えば、集落の民家が二、三破壊され、瓦礫の煙から歪な巨躯がドスドスとあらわれた。
豚鼻に毛むくじゃらの魔物。
オークである。
それも20匹以上の群れを成していた。
集落を攻めにきたのだろう。
「yfq々@ー!」
「〃rS~!」
今まで陽気に踊っていたマギル族の人々はおののき、悲鳴を上げつつ逃げ惑う。
「ヒイイイ、魔物ダ……」
「おい、爺さん。逃げる前に縄ほどいてけよ!」
そう言うが、爺さんは腰を抜かしてしまっていた。
「本当マジしょーがねえなあ! ほのお!!」
そこで俺は魔法の炎で蔦を焼き払う。
ごおおおおお……!
その火は俺の身体を自由にし、同時に迫るオークの群れの最前列を炙った。
「もう一発だ。オラッ! ほのお!」
魔法を二発直撃した個体はバタバタと倒れる。
残ったヤツらの敵意が俺に向く。
オークは一匹ごとならそれほど強くないが、まだ10匹以上いるのだけが厄介ポイントだ。
MP切れであとは物理で叩くしかねーし。
俺は亜空間から鋼鉄の剣を取りだし、オークの群れへ向かって駆け出した。
9、10、11匹と屠っていくとさすがに剣の切れ味が悪くなってきたので、亜空間から代えの剣を出してまた斬っていく。
はーはー……よし、あと4匹だ。
一匹、二匹、三匹……あれもう一匹はどこへ行った?
「wやげあkhy!」
「るWSU;!!」
そう思った時、マギル族の人たちの悲鳴があがる。
振り返ると、最後のオークの牙が女族長へ噛みつきかかるところだった。
いけない……
「おらッ! これでも喰っとけよ」
間一髪。
女族長に食いかかるオークの口に剣を刺しこむ。
最後の一匹は倒れ、敵は全滅した。
オオオオ……!!
同時にあたりは歓声に包まれる。
多分みんな喜んでるんだろう。
よくわかんねーけど、これで生贄にはされずにすみそうだな。
「vFZ≫れ」
ん? 目の前の女族長が何か言ったぞ。
相変わらず何言ってるかわかんねーけど魅力的な釣った目がジッとこちらを見ている。
言葉が通じないので、代わりに戦いの熱量のまま彼女のまる出しの乳房をむにゅりとつかんでみせた。
「zpyhr……♡」
よし、怒られないな。
そう確認すると、俺は女族長の若く健康的な小麦色の肢体を”お姫様だっこ”のように抱え、集落の民家の一つへ連れていくのだった……
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