38 / 69
第五章 王都事変
第38話 報告
しおりを挟むジョブは割り振ったし、命令も出した。
毎回こういうとき俺自身も何か作ったり働いたりできないもんかと思うのだけれど、モノを作るにせよ、畑を耕すにせよ、専門のジョブでやっている領民たちには足元も及ばない。
そりゃ彼らは生活をかけて毎日大半の時間その職のことをやり、考え、過ごしているのである。
むしろ、むやみに素人が手伝おうとすると邪魔になってしまう。
けっきょく俺ができるのはジョブを与えて命令することだけ。
それが領主ってものなのかもしれんけどさ。
またしばらく放置ゲーかなあ……
などと思っていたときである。
「若! ただいま戻りましたでやんす!」
ジョブ『忍者』のリッキーが王都から戻って来たのだ。
ちなみに忍者は盗賊からの派生ジョブだが、ここまで進化しているのはコイツだけである。
それから王都へ行っていた女商人のプルルも一緒だった。
プルルとタルルの商人兄妹は小切手の処理とナディアのお供として王都へ行っていたが、先だって兄のタルルだけが帰って来ていた。
そして今日、リッキーに連れられて妹のプルルも帰ってきたわけだが、やはりナディア自身は帰ってこない。
気になるところだが……
とりあえずリッキーの話を聞くか。
「それにしても、けっこう時間がかかったな」
「コトがコトでやんすからね。それに他に調査することもあったでやんす」
「他に?」
「塩戦争のことでやんすよ」
リッキーはこの前の戦に参加していない。
それでもベネ領との事を知っているのは、世間であの戦いのことが話題になっているからだそうな。
「へー、マジかぁ」
話題になっているというのでイイ感じで目立ってるのかと思ったが(実際、一時は塩の包囲網によく対抗したと評価を得かけていたらしいが)、しかし、リッキーが調べたところ今では「悪評」に傾いているんだと。
「なぜに……!?」
「ライオネの領主でやんすよ。若の勝利についてヤツがあることないことケチをつけて各領主たちのところを回っているんでやんす」
ライオネの領主の主張はこうだ。
『ダダリは正式な宣戦布告をしておらず、ふいを突いてベネ領を奇襲した。かくのごとき横暴でもって他の領地を奪わんとするは過剰なまでの領土欲のあらわれである。反乱というのは古来よりこのようなならず者によって引き起こされるのだ』
うわー、ずいぶんな言いようだなあ。
こりゃたぶん、今度は『アイツらはヤベーヤツで反乱を起こす気だ』と喧伝して、その討伐という大義でダダリを攻めようと考えているんじゃねーかな。
シンプルだが、こうした“政治”をやられると俺には対抗できない。
TOLにはそんなものなかったしな。
まあ、俺ができることは領地レベルを上げて、西からの守りを固めていくことだけだ。
ライオネもこの風評だけを根拠に今すぐに攻めて来るなんてことはできないだろうしね。
「それで本題でやんすが……」
さて、続いてリッキーは頼んでいた『王都の様子』について話しだした。
これがまたヤベー話だったのである。
スレン王国がバサム共和国に負けたあの戦争の後。(※俺がステラにボコられたあと荷物持ちで参加したヤツな)
王都は不穏な空気にみまわれていた。
それは共和化を求める市民運動の高まりである。
市中ではかねてより下級貴族や法律家が『身分制度の廃止』の思想を掲げて、一部市民から熱烈な支持を受けていたらしいのだが……
そもそも王権が弱体化していた中でさらに戦争で負けたということもあり、運動は市民の不満を糧に勢いを増していった。
市民たちが“解放隊”と称して武器庫を襲撃したり、勝手に非公式な”議会”をしたてて王制廃止の決をとったりなどして大変な騒ぎになっていたんだってさ。
ステラが王都へ行けなかったというのもこうした事変が理由だろう。
そして状況は急激に差し迫っていき……
ついに”解放軍”がニーナ女王を連行。
市内の『ダンカン塔』に幽閉してしまったのだそうだ。
「うわー、そりゃヤベー話だなあ」
俺はつぶやいた。
「ずいぶんのんびりとした反応でやんすねえ」
「だってさ、そこまで大きな話だと俺には何にもできねーだろ?」
そう気だるく言って頭をポリポリかいていたのだが、
「領主様! 何を他人事のように……ッ!」
そこで口を開いたのは女商人のプルルだ。
一瞬誰の言葉かわからなかったくらい攻撃的な口調である。
「あぁ? ナニお前?」
「……」
急に生意気な口をきくので圧をかけるが、プルルはこちらをキッと睨んだままだ。
なんだよ……
そもそもプルルは身分は低いが芯の強い少女で、兄のタルルに次いで成長有望な商人系ジョブ。
そんな彼女が細い肩を震わせ、涙さえ浮かべているのでマジビビる。
「ど……どうした? 怒ってんのか? 泣いてんのか?」
「……ッ、どうもこうもありません! 女王様の連行は、ちょうどナディア様が領主様との結婚のお許しをいただきに上がっていた時なんですよ!」
へえ、タルルからは女王となかなか謁見できないって聞いていたけど、やっと会えたのか。
でも……
「それってまさか……??」
「そのまさかでやんす。女王様と共に、ナディア様もダンカン塔に幽閉されているでやんすよ」
リッキーがプルルの涙を拭いてやりながら説明を継ぐ。
そ、そんなことが。
てっきり、ナディアはやっぱりもともとの騎士、武人の生き方に戻りたくなって、俺と結婚するのなんて嫌になったんだと思っていた。
それならそれで仕方ないっつーか、俺がとやかく言うことはできないって思ってたけど……
「グスン……無礼な口を叩き申し訳ございませんでした。なんなりとご処罰ください。でも……ナディア様はようやく女王様との謁見が叶い、これで領主様と結婚できるととても喜んでいたのです。あのときのお顔が、私、忘れられなくて……」
「……そうか」
俺は剣を抜いた。
そして、刃こぼれの無いことを確かめると刀身をカチンと鞘に納めて言う。
「ご苦労だったな、プルル。後のことは俺にまかせてお前はもう帰って休め」
「領主様……」
こうして俺は再び王都へ向かうことになるのだった。
506
お気に入りに追加
1,209
あなたにおすすめの小説
ゲーム中盤で死ぬ悪役貴族に転生したので、外れスキル【テイム】を駆使して最強を目指してみた
八又ナガト
ファンタジー
名作恋愛アクションRPG『剣と魔法のシンフォニア』
俺はある日突然、ゲームに登場する悪役貴族、レスト・アルビオンとして転生してしまう。
レストはゲーム中盤で主人公たちに倒され、最期は哀れな死に様を遂げることが決まっている悪役だった。
「まさかよりにもよって、死亡フラグしかない悪役キャラに転生するとは……だが、このまま何もできず殺されるのは御免だ!」
レストの持つスキル【テイム】に特別な力が秘められていることを知っていた俺は、その力を使えば死亡フラグを退けられるのではないかと考えた。
それから俺は前世の知識を総動員し、独自の鍛錬法で【テイム】の力を引き出していく。
「こうして着実に力をつけていけば、ゲームで決められた最期は迎えずに済むはず……いや、もしかしたら最強の座だって狙えるんじゃないか?」
狙いは成功し、俺は驚くべき程の速度で力を身に着けていく。
その結果、やがて俺はラスボスをも超える世界最強の力を獲得し、周囲にはなぜかゲームのメインヒロイン達まで集まってきてしまうのだった――
別サイトでも投稿しております。
異世界転生!俺はここで生きていく
おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。
同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。
今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。
だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。
意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった!
魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。
俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。
それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ!
小説家になろうでも投稿しています。
メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。
宜しくお願いします。
女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう
サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」
万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。
地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。
これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。
彼女なしの独身に平凡な年収。
これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。
2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。
「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」
誕生日を迎えた夜。
突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。
「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」
女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。
しかし、降り立って彼はすぐに気づく。
女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。
これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。
W職業持ちの異世界スローライフ
Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。
目が覚めるとそこは魂の世界だった。
橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。
転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・
気がついたら異世界に転生していた。
みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。
気がついたら異世界に転生していた。
普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・
冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。
戦闘もありますが少しだけです。
上流階級はダンジョンマスター!?そんな世界で僕は下克上なんて求めません!!
まったりー
ファンタジー
転生した主人公は、平民でありながらダンジョンを作る力を持って生まれ、その力を持った者の定めとなる貴族入りが確定します。
ですが主人公は、普通の暮らしを目指し目立たない様振る舞いますが、ダンジョンを作る事しか出来ない能力な為、奮闘してしまいます。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる