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第三章 弱小領地の防衛

第26話 約束だからな

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 ついに女騎士ナディアと一対一の勝負をすることになってしまった。

「やれやれ。じゃあ庭へ出よう」

 俺はため息をつくとソファから身を起こし、静かに外へ出る。

 ひょおおお……

 乾いた風に舞う不穏な砂埃すなぼこり

 少し曇ってきたか?

 そんなふうに空を見上げていると、女騎士も長い金髪を風になびかせながら、鉄兜てつかぶとを小脇に抱えて家の外に出てくる。

「アルト。とうとうこの時が来たようだな」

 彼女はその鉄兜てつかぶとをかぶり、武人らしく堂々と胸を張った。

 曇天の鈍い光がアーマー金属質メタリックな乳房をなめらかに輝かせている。

「まあ、俺はあんまり気のりしないんだけどな……」

「あんたッ! そんなこと言うもんじゃないよ!」

 決闘の前に、おふくろは俺の両肩に手を置いてそう叱咤しったする。

「男なら一度受けたものは頑張んなさい」

「おふくろ……」

「それにナディアちゃん、Fカップだって(小声)」

「な、なんだよその情報!」

 ッたく、おふくろめ。

 そんなことで俺がやる気になるとでも思ったか。

「アルト。準備はよいか?」

「おう! やってやるぜええええ!!」

「むむッ、急にただならぬ気迫……」

 後退りする女騎士。

 俺は砂時計をひっくり返して「さあ来い!」と(意味のない)構えを取った。

 この砂時計の砂がすべて落ちるまでナディアの攻撃を避けつずければ俺の勝ちだ。

「その前にもう一度約束せよ。一太刀でも入れれば、そなたも剣を取ると……」

「ああ、約束する」

「ではゆくぞ!」

 ナディアはつるぎを抜いたかと思えば即座に間合いを詰めてきた。

 速ッ!?

 っていうか見えねえ!

 ヒュン……

 しかし気づけば俺の身体は自動的オートマチックに動いており、つるぎは空を切っていた。

「さすが……やるな。私の剣を身のこなしだけで避けるとは」

 えー(汗)

 身躱みかわしの技能のおかげで自動的に避けれたけど、そのすさまじい剣速の攻撃が迫りくる恐怖と言ったらジェットコースターの比じゃなかった。

「では本気でゆくぞ。稲妻剣と呼ばれた私の剣を受けてみよ!」

 え、今のは本気じゃなかったの?

 わッ……

「やああッ!」

 続いてナディアはその雷のようなスピードの剣撃を、連続で繰り出していく。

 ヤバイ、いくら身躱みかわしの技能があっても、これだけ速いんじゃ処理速度的なものを超えちゃうんじゃ……

 ヒュン、ヒュン、ヒュン……!

「ぎゃああ! うわ、うわああああ……!」

 結論から言えば技能はちゃんと機能した。

 彼女の攻撃を俺はすべて避け、一撃も喰らうことはない。

 だが、その避けはあくまで自動的に行われるため、メチャクチャ酔う。

 俺の意志に関係なく、右へ左へ上へ下へありえない動きで剣を避けてしまうものだから、マジ吐きそうだ。

 うぷッ……だ、ダメだ。

 もう降参しよう……

「タイムアップ! 砂がすべて落ちたよ!!」

 その時、おふくろの声が響く。

 え? 終わり?

「ま、負けた……完敗だ。まさか本当に全ての攻撃をかわしてしまうとは」

 と言って膝を着く女騎士。

 俺が勝ったのか。

 ってことは、この女騎士は俺の嫁になるということ。

 でも……

 ちょっと気がひけるな。

 まあ、技能がズルっぽいとかは思わんよ?

 技能も実力のうちだからな。

 ただ、ナディアはナイト爵。

 一代限りの爵位ではあるが、その立場を捨てて無理やり俺の嫁にさせるのはどうにも気が引ける。

 あれだけの剣を会得するのには並ならぬ努力を要したろうし、結婚したくもない相手と結婚させられて、それをすべてフイにしてしまうのはどうにも可哀想だ。

「なあ、ナディア。俺が勝ったら嫁に来るって約束だったけど、条件次第で勘弁してやってもいいぜ」

 俺はコホンと咳払いして続ける。

「俺との闘いはこれで最後。二度と決闘を望まないと約束してくれたら嫁にならなくていいよ。これまで通り友達でいよう」

「なにイ?」

 しかし、鉄仮面は俺を睨み、わなわなと肩を震わせていた。

「そなた! そこまでして勝ち逃げがしたいのか!!」

「え、いや……」

 そういうワケじゃなくて、もう面倒なだけなんだけど……

「私はまだ強くなる。そして、きっとリベンジするのだ。そなたと結婚する以上、また闘ってもらうからな!」

「ま、マジかぁ(汗)」

 面倒くせー……と思ったけど、え、何?

「ナディア、お前。本当に俺と結婚するのか?」

「……約束だからな」

 そう言う彼女の顔はまだ鉄兜てつかぶとにおおわれていて、どんな表情をしているのかはわからなかった。

 さて。

 それはそんな決闘騒ぎがひと段落ついたちょうどその時である。

「若ーッ! 大変でやんす!」

 また忍者のリッキーがやって来て盛んに騒ぐ。

「大声出すんじゃねえよ。こっちは疲れてんだ」

「そんなこと言っている場合じゃねえでやんすよ! ラ……ライオネが、ライオネが、兵を引き連れてやってきたでやんす!」

「なんだと?」

 俺はさすがに飛び上がった。

「冗談じゃねえ、ガゼット領と連チャンかよ(泣)」

 そう泣いてもいられないので、リッキーを先頭に、みんなで西のほりの方へ走った。

 すると、本当にライオネの領主が兵を引き連れてそこまで来ているではないか。

 俺は握り拳をギュっとして尋ねる。

「ライオネの領主! 何をしに来たんだ!」

「ワッハハハハ、そう警戒するでない。ワシらは援軍に来たのだぞ」

 そう言って宝石だらけのマントをひるがえすライオネ領主。

「援軍だと?」

「そうだ。さる筋から『ガゼット領がダダリを攻める』という情報を得てな。これは遺憾いかんだと思ったのだ」

 その情報ダダ漏れなんだな。

「しかし、我々が来たからにはもう大丈夫。キサマらは領地の奥へ逃げておれ。我々があのけしからん侵略者ガゼット領軍を殲滅せんめつしてみせようぞ」

 でも、これは面倒だ。

 援軍という善意を装っている分、そう簡単に無下むげにはできない。

「ライオネ領主殿。ご苦労であったな!」

 その時、黙っている俺の代わりに全身鎧の女騎士が勇ましく答える。

「あ、あなたはナイト爵ナディア・エルゾーナ殿……?」

「いかにも。ところで貴公のおっしゃったガゼット領の件だが、彼らならばすでに敗走したそうだ」

「なんとッ!?」

 馬上のライオネ領主は目を見開く。

「援軍ご苦労であったがすでに戦いは終わったのだ。即座に兵を引かれよ。さもなければライオネも侵攻軍として城へ報告することになろう」

「ぐぐぐぐ、まさかナディア殿が応援に来ていたとは……引き返すぞ!」

 ライオネ領主はそう指令し、兵を引いて行った。


 ◇


「では、風呂へ入ってくる……」

 家へ帰るとナディアはさっそく汗を流しに行った。

 やれやれ、さすがに疲れたぜ。

 俺はゆっくりソファへ寝転がる。

「兄ちゃん。お疲れさま」

 そんなところへ、末弟のラムがやって来た。

「おう、お疲れ。そう言えばラム。お前、戦争の後どこ行ってたの?」

「うふふふ……別に。村で遊んでただけだよ」

 コイツは今やダダリで一番レベルの高い剣士なんだけど、なんやかんやまだ子供なんだよな。

「それよりコレ、返すね」

 ラムはそう言って鋼鉄の剣を俺へ手渡す。

 鋼鉄の剣はまだ一本しかないので、ガゼット領が攻めて来た時にラムへ装備させていたのだった。

「兄ちゃん。僕、強くなるよ。強くなって……兄ちゃんを守るんだ」

「……そうか」

 ふふ、可愛い弟だ。

「だからね、兄ちゃんを殺そうとするヤツはみーんな殺しちゃうんだ♪」

「あははは、おっかねえな」

 俺がガシガシと頭をなでてやると、ラムはまるで天使のようにほほ笑むのだった。

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