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第二章 戦争に駆り出されます

第18話 逃げちゃおう

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 戦争はスレン王国の負けで終わった。

 負ければ功績も何もないので兵は消沈し、王都の人々もまるでワールドカップ予選で敗退したかのようにガッカリしている。

 でもこれですべてが終わりというわけじゃない。

 戦争なんてものは一度くらい負けても、次にやって勝てばいいのだ。

「さてと、なにはともあれ領地ダダリに帰ろう」

 荷物持ちを解放された俺はンーッと伸びをしながらそうつぶやいた。

 ちなみに、遠く離れていても領地のステータスはいつでも確認することができる。

 ステータスを見るとちょうど建設を命じていた『魔法研究所』と『 ほこら』が完成したようだから、次の魔境攻略からは領民に魔法を使わせて戦うことができるぞ。

「おーい! 待ってよアルトっち~!」

 さて、俺が帰路へ着こうと城を出て行った時だ。

 名を呼ばれたので振り返ると、ステラが例のごとく駆けてくる。

「ありえんしー。なに帰ろうとしてんの?」

「別に、俺の勝手だろ」

「ひどーい、この戦争が終わったらデートするって約束したじゃーん」

「あ?……ああ、あの死亡フラグみたいな手紙か」

「何それ、意味わからんしー」

 約束したって言われても、あれは一方的に手紙で言われただけで俺は良いとも悪いとも返事していないのだけど……それを言ったらさすがに可哀想に思われて、俺はため息をついて言った。

「やれやれ、しょうがねえな。メシでも食いにいくか?」

「行く行く~!」

 そう言って俺の腕にぴょんとしがみつくステラ。

 まあ、結構可愛いところあんだよな。

 王都の道はよくわからないのでエスコートは適当であったが、あの 母娘おやこの家の方角だけは避けて、商店が多い雰囲気の道を選んで向かう。

 女の子は甘いモノが好きだろうという単純な考えでガレット屋でふたつ購入して、クレープのように道端で渡して一緒に食べる。

「ヤバぁ! ド庶民みたいじゃーんww 一度やってみたかったんだぁ」

 そう言えばコイツ、ライオネ領のお嬢様だった。

 全然そんな感じしないけど。

 その後、おふくろ、弟、嫁たちへのおみやげを買いがてら雑貨屋を見てまわる。

「えー、マジー? アルトっち既婚者だったの……?」

 買い物の流れで「地元に嫁がいる」ことを伝えるとステラは一瞬ショックを受けた様子だったが、

「……でも、逆に考えれば二人も三人も一緒じゃーん。アタシもお嫁さんにしてよー」

 とすぐに立ち直る。

「そういうワケにはいかないだろ。お前のオヤジさんライオネ領主だし。俺嫌われてるみたいだから許さねえと思うよ?」

「えー、パパなんてカンケー無いってー。威張りんぼうだし、最近臭いしぃー」

「お前さ、オヤジにはやさしくしとかなきゃ後悔するぜ。自分より先に死んじまうんだから」

「ぁ……」

 ステラはハっと目を見開いて、父のない俺の顔を見つめる。

「……ゴメン」

「いいよ。ちょっと説教っぽくなっちまったな」

 と、ちょっぴりしんみりした話になった時である。

「探したぞ、アルト!」

 天下の往来でなにやら大声で俺の名を呼ぶ声が聞こえて振り返ると、全身鎧の女騎士が仁王立ちしてこちらを睨んでいた。

「ナディア? こんなところでどうしたんだ?」

「どうしたもこうしたもない。そなた、よもや約束を忘れたのではあるまいな?」

「約束?」

「とぼけるな! 戦争が終わったら立ち合う旨、約束したではないか!」

 なんつーか、この世界の女は自分で願望を述べたらもう約束が成立したと思い込んでしまうヤツばかりなのだろうか?

「ちょっと、なんなんですかぁ? ありえなくなーい?」

 俺が途方に暮れていると、横からステラがスカートひるがえして進み出る。

「アタシら今デート中なんですけどぉ。邪魔しないでくれますぅー?」

「で、デートだと!?」

 デートという言葉に一歩たじろぐ鉄仮面の女騎士。

「ちょーウケるw 人の恋路を邪魔するやつはスライムの角に頭ぶつけて死んじまえ……ってことわざ知らないんですかぁ??」

「ぐぬぬぬ……」

 おお、意外にもステラが優勢だ。

「やむをえん。ここは引き下がろう……しかし、アルト。デートが終わるころ私はまた来るからな。その時はきっと立ち合うのだぞ! よいな?」

 そう残してナディアは走り去って行ってしまった。

「あー、面倒くせー」

「アルトっち。逃げちゃおう」

 すると、ステラがそう耳打ちをする。

「マジ、モテすぎるのも考えものだよねー。あの女につきまとわれて困ってるんでしょ?」

 なんか誤解があるようだが、逃げるという意見には大賛成だ。

「でも……あの人、王都騎士団の 有名ユーメイな人なんだぁ。王都はあの人の庭みたいなもんだから普通に逃げてもつかまっちゃうね」

「じゃあどうすりゃいいんだ?」

「アタシに考えがあるから、来て」

 こうして彼女は茶髪のポニーテールを舞わせて、俺の手を引いて行った。


 ◇


 ステラに連れて来られたのは、王都にあるライオネの『王都領館』であった。

 大きな領主たちは地元に領地を持っているが、王都に滞在するときの館も持っている。(ウチにはないけど)

 その王都領館の中は、大使館や藩邸のように治外法権があり、城の兵であっても簡単には介入できないのだった。

「あのさ、逃げるのはいいけど、この格好になんの意味があるんだ?」

 俺は赤いチェックのスカートにフリルの入ったブラウス、長いストレートヘアーという姿に着せ替えられていた。

 スースーするスカートの中には、赤いリボンの白パンティすら 穿くことを強いられている。

「ヤバぁ! 激カワだしー♡」

 ほっぺにチュッチュッとキスしてくるステラ。

「よせよ、街中で」

「いいじゃーん。女同士なんだからぁw」

「女同士じゃねえだろ!」

「……女同士ということにしておいて。ここから」

 ふいに真剣な面持ちになったステラは、俺の手を引いてライオネの王都領館へ入って行った。

「おお! おかえりなさいステラ」

 すると、あの黒ひげライオネ領主がこれを迎える。

 や、ヤバくね?

「おや、そちらの子はなんだい?」

「あー、アタシのトモダチ。アルトリアちゃんっていうんだぁ」

「お前が友達を連れてくるなんてめずらしいな。むう、可愛い子じゃないか」

 マジか。

「ねえ、パパぁ。アタシもうかったるいんだけどぉ。先にライオネに帰っていていい?」

「どうしたのだ。王都で新しい剣を買ってほしいと言っておったのに」

「アルトリアちゃんと地元でお泊り会をしたいの。ねー、いいでしょう?」

 そう娘に言われるとダメとは言えないらしく、ライオネ領主は馬車を用意してくれた。

 ヒヒーン……!

「お嬢さん、どうかステラと仲良くしてやってください」

 俺とステラが二人で馬車に乗ると、ライオネ領主にそんなふうに声をかけられる。

 声を出したらまずいのでニッコリ笑顔を作り会釈で応えると、馬車は王都を発車した。

 やれやれ、やっと領地に帰れそうだ。
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