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第二章 戦争に駆り出されます

第16話 女だから

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 御前試合は城の闘技場で行われた。

 パン! パン!

 景気づけの空砲が空に響く。

 観覧席にはニーナ女王以下城の重鎮や領主たち、騎士団や近衛兵、兵士など千名以上が集まっている。

 俺はそんな闘技場の控室で出番を待っていた。

「そなたの実力、とくと見せてもらうぞ」

 そして、何故か俺サイドの介添え人には女騎士ナディアがついている。

 まあ他に知り合いがいないのだからありがたいんだけどさ。

「ところであんた……」

 俺は中身は美人の、全身鎧の女をしみじみ眺めて尋ねた。

「その鎧、いつも装備してんの?」

「当然だ」

 鉄の顔がキラーンと光る。

「大変だろ? 普段は脱いでおけば?」

「仕方あるまい。この姿でないと皆が私だとわからぬからな」

 それはそもそもいつも全身鎧でいるからじゃ……

 と言いかけた時。

ひがぁし~! アルト~・ダダリ~・ドワ~イド~!」

 アリーナの方から審判の声が聞こえてくる。

「おお。そなたの名だな」

「やれやれ、行かねえと」

 俺はため息をつくとナディアと共に東のゲートからアリーナへ入場した。

 ワー! ワー! ワー!

 うッ、意外に盛り上がってやがる。

 なんだか年末の格闘技イベントに出てるみたいだ。

「私はここで黙って見ているからな」

 と言ってナディアは東側のセコンドに着く。

 彼女が持っているはずの手拭てぬぐいを場にほうれば、こちらの降参ということになるのだが……

「あれ? ナディア。手拭てぬぐいは?」

「置いてきたぞ。そなたには必要ないだろうからな」

 黙ってタオルも投げないんじゃあなんのためのセコンドだよ……

西にぃし~! ステ~ラ~・ライオネ~・グレ~アム~」

 さらに相手方の呼び出しが響く。

 ステラ?

 なんか女みたいな名前のヤツだなぁと、思ったすぐ後だ。

 西のゲートからまさしく栗毛の女の子が入ってくるので、ちょっと固まってしまう。

「まさか、あの子が俺の相手?」

 プリーツ・スカート型のアーマーに、JKを彷彿とさせる溌剌はつらつとした太もも。

 その後ろには、セコンドらしき角刈りの四十男がついている。

「ねーえー、師範ー」

 ステラとかいう少女はセコンドの男へ言った。

「相手、弱そうじゃない? 超ウケるんですけどぉ(笑)」

「ええ。しかしお嬢様、油断だけはなさらぬよう」

「もう、パパも師範も心配しすぎだって。アタシってば『十年に一人のイツザイ』なんでしょー?」

 なんかナメた女だな。

「それでは御前試合を開始する」

 審判がそう宣言すると、会場に銅鑼ドラがシャラランと響き渡った。

「ちょ、ちょっと待てって! 女が相手なんて聞いてねえから」

「バーカ。問答無用じゃん?」

 ステラはプリーツ・スカートをひらめかせながらダッシュで間合いを詰め、機敏な動作で木刀を振り下ろしてくる。

「やーッ!」

 肩に攻撃を喰らった。

・HP226/229

「いいぞー!」

「やれー!」

 ファーストアタックに沸く会場。

 勝負はセコンドから手拭てぬぐいが放られるか、審判に止められるまでだ。

 仕方ない。

 何発か攻撃を喰らって気絶したフリをしよう。

「ヤバぁ。コイツ全然よわよわじゃーんw」

 こちらがサンドバッグを決め込むと、ステラは二発、三発、四発、五発と木剣を打ち込んでくる。

 でも痛覚耐性があるので全然痛くないし、HPにも全然余裕だけどな。

「どうしたのだ! 打て、打つのだアルト!」

 黙っていると言っていたはずのナディアが妙にセコンドじみているけれど、彼女のタオル投入は期待できない。

「こらー! 情けないぞ!」

「女の子にやられっぱなしかよ」

「それでもトルティの息子かぁ!」

 ただし見た目には単に俺がボコられているだけなので、会場には野次が飛び交うようになる。

 オヤジには悪いけど仕方ねーな。

 そして、少女の剣を20発ほど喰らってから、俺は「うわー……」とKOされたフリをする。

「そ、それまで!」

「ヤバぁ、こいつマジ萎えるわー。クソザコじゃーん」

 会場一斉のブーイングの中、少女剣士ステラはプリーツ・スカート型のアーマーをひらめかせながら俺を見下す。

「じゃ、師範。あとはコイツの面倒、ライオネのみんなでみてやってよ。ぷぷぷッ(笑)」

「かしこまりました。お嬢様」

 そう言って気絶したフリの俺を引きずり、四十男へ手渡すステラ。

 それを見た審判があわてて止めに入る。

「待ちなさい。彼をどこへ?」

「見てたでしょ。こいつマジ豆腐根性だから。叩きなおしてやった方がよくない?」

 すると、会場からは「そーだそーだ!」「やっちまえ!」という声が多数を占め、審判も引き下がってしまう。

 こうして気絶したフリをした俺は西ゲートの方へずるずると引きずられていくのであった。

「おう、おめえら。ちょっといいか」

 ライオネ領サイドの控室に引きずられていくと、そこには四十男の門弟らしき強面こわもての男衆がたむろしていた。

「師範。お嬢様はどうしたんすか?」

「勝利されたからな。まだ観客の拍手に答えているよ。それよりコイツだ」

「なんすかコイツ?」

「お嬢様の試合相手さ。あんまり骨がねえから叩きなおしてやれってよ」

「ひゅー♪」

「さすがステラお嬢様だぜ! わかってるぅ」

 どうやらこいつら、敗者である俺を今一度ボコって楽しもうとしているらしい。

 ろくなもんじゃねえな。

「おら! いつまでのびてんだ……て、えっ?」

 俺を気絶から覚まそうと頬を叩こうとした男の手を、実は気絶していない俺はパシっとつかんだ。

「やれやれ。いいのか? 俺は男には容赦しねえぞ」

「くっ、こしゃくな!」

「やっちまえ!!」

 こうして一斉にかかってくる男たち。

 だが、別に普通に殴り返すし、成人男性の十倍以上の『ちから』をもって投げ飛ばすこともできる。

 相手は師範を合わせて1、2、3……7人か。

 殺さないようにだけ気をつけて倒していく。

 ええと、見たところあのふざけたお嬢様より強いのは師範だけかな。

「ば、バカな……こんなことが……」

 最後にその師範もボディで沈めた時。

 アリーナの方でひときわ大きな歓声があがるのを聞く。

 やれやれ、早いうちに退散するか。

 そう思って顔を上げた時だ。

「え……何? 意味わかんないんだけど……??」

 アリーナから引き返して来たお嬢様と目が合ってしまった。

 こうして見ると意外にぱっちりとした魅力的な目をしていて、唖然と開かれた口には愛嬌がある。

 俺はため息をつくと、少女の背後の壁へドンッと手を突いて言う。

「誰にも言うな。オヤジにもだ」

 そう残して、俺はライオネ領サイドの控室から走り去って行くのだった。


 ◇ ◆ ◇


「ねえ、師範……どういうこと? 超絶意味わかんないんだけど??」

 ステラはやっと目を覚ました師範にそう問いただした。

 他の門弟たちはまだ気を失ったままだ。

「ヤツです。私も含めて全員アルトにやられました」

「ありえないって。だってアイツはクソザコ……」

「いえ、ヤツは強い。強いなんてもんじゃない。まるで世界の仕組み上、なにか特別に優遇されているかのような。事実、私も一撃でやられたのです」

 師範はさすがにステラより強い。

 その師範がここまで言うのだから、彼女の混乱は深まるばかりだ。

「ちょっと待ってよ。さっき私がボコしたの見てたでしょ? だったらなんで全然やり返してこなかったの??」

「おそらく……」

 角刈り師範は苦虫を噛みしめるように続ける。

「それは、お嬢が女だからとしか……」

「……ッ!」

 女だから?

(そんな理由で何十発も殴られ続けたとか……)

 それも、気を失うまで。

――誰にも言うな。オヤジにもだ――

 ふと、ささやく彼の野性的な瞳を思い出した時、胸の中で赤い実が弾けた。

(あッ……♡)

 反射的にプリーツ・スカートの太ももがモジモジとせわしなく擦り合わされる。

 自分の身に何が起こったかわからない。

 心臓は聞こえるほど鼓動を打ち、息は乱れる。

「お嬢様?」

「ふ、ふん! なにアイツ。超ありえんし……♡♡」

 そう言ってツカツカと去って行く少女の頬は燃えるように紅潮していた。
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