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第一章 小さな領地を相続しました
第4話 みんなには内緒よ?
しおりを挟む……ったく。
俺も領主になったとは言え16歳の若造。
同年代の連中、とりわけ女たちからはまだまだナメられているようだ。
一体、威厳ってヤツはどうやったらつくんだろうかね?
死んだオヤジはいつもムスッとして威張ってたけど、あれももう無理矢理に男の背伸びってヤツをしてナメられねーようにしていたんだよな。
39歳までの前世がある身としてはそんなオヤジのヤセ我慢がよくわかったが……
もとはフニャフニャ現代日本男性の俺にはそんな真似はできそうもない。
ゲームじゃ『威厳』なんてステータスはなかったしね。
俺がオヤジにしてやれることはそのゲーム知識で領地を強くすることだけだ。
……さて。
進化させなければならないジョブがまだひとつ残っている。
工作者だ。
工作者の育成は、TOL(テリトリー・オブ・レジェンド)において序盤の必須行動である。
だから150人という最も多い人数をクラフターとして育てたのだった。
レベル8に達したクラフターには五つの選択肢がある。
A 木工……木を伐り加工する。
B 石工……石を切り加工する。
C 大工……建築をする。
D 土木技師……土木工事をする。
E 焼き物師……土や粘土から陶器を作る。
F クラフター……据え置き。
今、進化できるクラフターは150人中29人。
この29人を以下のようにする。
木工を3人。
石工を3人。
大工を12人。
土木技師を8人。
焼き物師を3人。
クラフターは、他にもさまざまなモノづくり系ジョブの基礎になるのだけれど、一定の条件をクリアしなければ解放されないものが多い。
例えば、鍛冶屋を育てるには金属資源を手に入れなければならないし、糸師、布師、服飾師を育てるには農地で綿などを栽培しなければならない。
これらの条件をクリアするためにも魔境を攻略する力が大事なのだが……
その力を上げるのに必要になるのが『施設の建設』である。
「というワケで、領地に訓練所を建てたいんだ」
俺は大工の棟梁を任せたフンベルトにそう頼んだ。
「そりゃ領主様にそう頼まれりゃ、やらねえワケにはいかねえがよ」
フンベルトはねじり鉢巻きをギュッと締めなおして言った。
「しかし、どこに建てる? このダダリには平らな土地があまりねえ」
それは彼の言う通りだ。
ダダリ領内の地図は以下である。
【ダダリ領】
―――――――――――
◎◎林林川林林林林
◎◎■■川林林林林
林△■■川✕林林林
林△△■川✕✕林林
林△△■川✕✕✕✕
―――――――――――
◎……領主の館
■……ジャガイモ畑
△……領民たちの家屋
✕……荒地
領土の中央を川が走っていて、全体的に森林におおわれている。
さらには南東方面は起伏の激しい荒地で、岩や石で凸凹しているのだ。
しかし、逆に言えば整地さえ行えば領内にもまだ土地の余力があるということである。
「というワケで、今回はここの土地を使おうと思う」
俺は次に土木技師のリーダーであるパズーへ以下の地図を見せた。
―――――――――――
◎◎林林川林林林林
◎◎■■川林林林林
林△■■川☆☆林林
林△△■川☆☆林林
林△△■川✕✕✕✕
―――――――――――
☆……建設予定地
「この☆印の土地を『さら地』にして欲しいんだ。頼めるか?」
「わかりました」
そう答えてパズーは地図を持って行った。
よしよし。
こうして整地をすれば土木技師たちのレベルが上がる。
そこに建設をすれば大工のレベルが上がる。
訓練所が建設されれば、剣士や武道家などの戦闘職のレベルが上がる。
そして。
彼らのレベルが上がれば、俺の能力値も上がるのだ。
今回のジョブ進化までで変化した俺自身のステータスが以下である。
―――――――――
領主レベル:1
称号:転生領主
HP:7→21
MP:0
ちから:4→12
まもり:2→9
魔法:――
特殊技能:ステータス見
授与可能ジョブ:▽
―――――――――
このように領民のレベルがあがったり、領地の整地や施設建設をするだけで、俺のステータスはジワ伸びする。
領地を育てて領主自身も強くなるというのはこういうことだ。
「さてと。日も暮れてきたし、今日はこんなところかな」
そうつぶやいて俺は館へと足を向けたが、そんな帰り道の林の中でのことだ。
「ねえ!」
呼びかけられて振り返ると、女狩人のリリアが走ってやってくる。
「あ? なんだよ。まだ文句があるのか?」
「ち、違うの。そ、その……」
リリアはふんどしの股間をモジモジさせながらこう続けた。
「……さっきはみんなの前で怒ったりしてごめんなさい」
「え!?」
ペコッと頭を下げるリリア。
「なんだ、そんなことか。別に気にしていないよ」
「本当に?」
「ああ。説明したらちゃんとわかってくれただろ?」
「あ……ありがとう!」
そう答えるとリリアは首をかしげるように微笑んで、ショートヘアを凛と揺らした。
まあ、こうして見るとけっこうカワイイ顔してんだよな。
「じゃあお詫びに、私のお尻さわらせてあげる」
「……は?」
首をかしげる俺。
「なに言ってんの? オマエ」
「とぼけないで。アルトいつも私のお尻見てるじゃない。知ってるんだからね!」
リリアはふんどしのお尻をぷりっとさせて言う。
「うっ……」
確かにこの世界の村娘は現代日本の女子より露出を気にしないので、ふんどしみたいな格好で動き回る活発な少女もいないわけでもない。
それでも、前世の記憶を取り戻す前のフツーの少年だったころの俺にとって、太陽の下にまざまざとした同年代の少女の尻を目の前にした時にはかなりショックを受けたものだった。
「でもオマエ。どーせ本当にさわったら怒るじゃん」
「怒らないわよ。だって、お詫びなんだから……」
……マジ?
俺は試しにおそるおそる手を伸ばし、リリアの尻に羽根のごとく軽くふれた。
「ぁ……」
返ってきたのは意外にも乙女らしいうぶな呻き。
つーか、マジで怒らないんだな……
俺は両手でやさしく、その従順な尻をさすさすなではじめた。
張りつめた小麦色の肌。
健康的な弾力。
少女は尻をツンっと跳ね、ハアハアと敏感な息を漏らす。
「も、もういいでしょ」
やがてリリアはそう言って俺を突き放した。
「わ……悪い。痛かったか?」
ショートヘアーはぶんぶんと首を振り、ちょっぴり涙を浮かべている。
「んーん。すごく、やさしかったよ……」
「そ、そっか」
「うん。で、でも……みんなには内緒よ? 恥ずかしいんだから」
リリアはそう言うとこっちが返事する間もなく村の方へ走り去っていってしまった。
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