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第一章 小さな領地を相続しました

第3話 いいかげんになさい!

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 俺が領主について1ヶ月がたった。

 弟たちは順調に成長しているようである。

―――――
名前:ヨル
職:【薬師】
レベル:Lv1(0%)→Lv4(25%)
身体能力:7→17
頭脳:15→53
技能:草花探索F→D(5/8)薬草調合F→C(1/8)
―――――

―――――
名前:ラム
職:【狩人】
レベル:Lv1(0%)→Lv5(50%)
身体能力:12→67
頭脳:3→7
技能:索敵F→D(7/8)
―――――

 最近では二人で森を探検し、ヨルが薬草の採取を、ラムがウサギや鳥を狩ったりしているらしい。

「でも、まだ魔境へは近づくなよ」

「えー、どうして?」

 とラムが首をかしげる。

「魔境には魔物が出るんだ。森の動物たちとは比べ物にならないくらい獰猛なんだぞ」

「魔物……こわい」

「ふふッ。ラムならそのうち倒せるようになるさ。でもまだ早い。無理だけはダメだからな」

「うん」

 ラムはコクリと頷くので、俺はその頭をガシガシと撫でてやる。

「よし、えらいな。じゃあヨル、頼んだぞ」

「はい。兄ちゃん」

 そう返事して二人は出かけていった。

 そう、『狩人』と『薬師』では、魔境にはまだ早い。

 だが、レベル8になるとジョブを進化させることができる。

 ヤツらを剣士や占い師へ進化させたら、俺が付き添って魔境へ行ってみるのもいいかもしれないな。

 ちなみに、ダダリとその周辺の位置関係を俺が羊皮紙に書き出したモノが以下である。

――――――――――――――
  ガゼット領   ■
         ■
      □□□■
ライオネ領 □□□■ 魔境
      □□□■
         ■
    ベネ領   ■
――――――――――――――

 □がダダリ領。

 北、南、西は他の領地だが、東だけ魔境に接している。

 地図の■より東が魔境だ。

 魔境には区域ごとにボスがおり、ボスを倒せばその区域を自分の領土とすることができる。

 ただし今のままでは魔境のボスには歯が立たないだろう。

 領民を育て、施設を建設し、戦えるようにしなければならない。

 おおよその領民はまだレベル3なので、早くレベル8まで行ってジョブを進化したいところ。


 ◇


 領主について3ヶ月目。

 ちらほらとレベル8に到達する者が出てきた。

 ただし農民と商人は進化の条件が別にあるので、ひとまず置いておく。

 今日は狩人、薬師、工作者クラフターを進化させよう。

 まずは狩人。

 レベル8に達した狩人には五つの選択肢がある。

A 剣士……剣術を使う。
B 武道家……武器がなくても戦える。
C 盗賊……素早く盗む、トリッキー。
D 怪力……力持ち。
E 狩人……据え置き。

 今、進化できる狩人は75人中7人。

 この7人を以下のようにする。

ゲイル:狩人(Lv8)→剣士(Lv1)
ベラ:狩人(Lv8)→武道家(Lv1)
リッキー:狩人(Lv8)→盗賊(Lv1)
ゴーグル:狩人(Lv8)→怪力(Lv1)
リリア:狩人(Lv8)
ナット:狩人(Lv8)
エイカー:狩人(Lv8)

「ちょっと、アルト! これどういうこと?」

 これに不満の声をあげたのは女狩人のリリアだった。

 ショートヘアーに勝ち気な眉目。

 小さな頃は村の男子たちと裸でどろんこ遊びをしているようなおてんばだったが、近ごろ女らしく膨らんできた乳房にはようやくサラシのようなものが巻かれるようになりつつ、下半身は未だにふんどしのような布をキュッと結んだだけの軽装で、ぷりっとむき出しの尻が活発な印象を放っている。

「なんだリリア。なにか不満か?」

「もちろんよ。どうして私は狩人のままなの!」

「ね、ねえ。やめたほうがいいって。リリア」

 これを止めに入ったのは怪力につけたゴーグルという大男である。

「領主様に逆らうなんて……」

「ふん、どうせあんたは怪力に進化できたからいいんでしょう? 自分勝手ね」

「べ、別に僕は……そんな……」

 縮こまるゴーグル。

 あいかわらずデカイ身体をして情けないヤツだなあ。

「ねえ、アルト。これじゃあ不公平だわ。私も進化させなさいよ!」

「はあ……」

 俺はため息をついて答える。

「あのな。お前を狩人に据え置いたのは別にイジワルじゃないんだぜ? ちゃんと理由があるんだ」

「理由?」

 そう。

 そもそも狩人は役に立つジョブのひとつであり、レベル9以降にも成長するのだ。

 また、レベル16以上になると別の進化の分岐がある。

 リリアの場合は特にレベル16進化の方を見越してのことなのだ。

「本当かしら?」

「本当だって。信じてくれよ。幼なじみだろ」

「……ふん、しょうがないわね」

 リリアはふんどしの尻をぷいっと向けて行ってしまった。

 やれやれ。

 気を取り直して次は薬師だ。

 レベル8に達した薬師には三つの進化ジョブの選択肢がある。

A 占い師……占いをする。(魔道士へ進化する)
B 霊媒師……霊と交信する。(神官へ進化する)
C 薬師……据え置き。

 今、進化できる薬師は75人中5人。

 この5人を以下のようにする。

ノンナ:薬師(Lv8)→占い師(Lv1)
イド:薬師(Lv8)→占い師(Lv1)
レイナ:薬師(Lv8)→霊媒師(Lv1)
サクー:薬師(Lv8)→農民(Lv1)
ヤック:薬師(Lv8)

 今度は不満は出なかった。

 ヤックは薬師が気に入ってたようだし、このままレベルを上げて色々なポーションを作っていってもらいたい。

 それからサクーを農民につけたのは特別な理由がある。

 と言うのも薬師と農民のジョブを両方鍛えると、『種家』という特別なジョブへ進化させることができるのだ。

 種家がいればジャガイモ以外にも領地で栽培できる作物の数を増やすことができる。

 彼も植物が好きだからジョブには満足しているようで、よかった。

「ねえねえ、アルト……じゃなくて、領主様ぁ。聞いたよ?」

 そこで耳打ちして来たのはウワサ好きな少女ノンナ(占い師)だ。

 生まれつきの金髪ブロンドを女の子らしく三つ編みにしていて、洋服も簡素ながらワンピースのようなものを着ている。

「アルトでいいって。まどろっこしい」

 俺はそう答えながら頭をかく。

「それより何を聞いたって?」

「そうそう。うふふ……アルト、またリリアと痴話喧嘩してたんだって?」

「ぁあ?」

「相変わらず仲がいいんだね。さっさと結婚しちゃいなよぉ」

「てめ……ふざけてっとぶっ殺すぞ」

「きゃー怖い! うふふふ」

 そう言ってノンナは踊るように旋回し、レイナ(霊媒師)の後ろへ隠れた。

「ノンナ。領主様をからかってはダメよ」

「はーい」

 この二人は姉妹である。

 うわさ好きの妹ノンナに対して、姉レイナはしっかり者タイプだ。

 ノンナが占い師から進化すれば魔法使いになり、レイナが霊媒師から神官になれば『ほこら』を建設できる。

「ねえ領主様ぁ。実際のところリリアとどこまでいってるの? もうチューした?」

「はあ……オマエさぁ」

「ぜったい誰にも言わないから、あたしにだけコッソリ教えて? ね、お願い♡」

「ノンナ! いいかげんになさい!」

 こうして姉が叱りつけたので、俺は苦笑しているだけですんだのだった。


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