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第2章 芽生えと眼差し
Week 6
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五月の初め、明るい日差しと微かに湿度を含んだ風が頬をなぞり、爽やかな季節がやってきた。ソメイヨシノはすっかり姿を変えて葉桜へと変わり、八重桜が青々とした葉とともに少しだけ花びらを残しながら初夏に向けて準備を始めていた。三年生のクラスも同様に、少しずつ進路へ向けての準備が始まりつつあった。志望の大学や専門学校、就職先など各々が自分の未来に向けた方向を定めるために悩み始める季節がやって来たのだ。新学期が始まってから早一ヶ月、大半の生徒たちの性格や未来に向けての進む方向などがある程度把握できた頃ではあるもの、彼のことだけは冷静に見ることができない自分がいるように思えた。彼はこの春から転校して来たため、新しい場所になれるのには少し苦労があるのではといつも僕の心は心配をしていた。他の生徒とは違う気持ちが彼に対してあるのは、きっとそうした状況が引き起こさせているに違いないのだと思っていた。
チャイムの音はどんな時でも僕らを動かしている。
目では見ることのできない物質が突然姿を現し、空気のように漂って僕らをいつだってコントロールしようとする。実態のないものにどう立ち向かえば良いのか、はたまた立ち向かいたいのかも僕にはわからない。何も考えずに教室にいる生徒は授業と授業の合間にある小休憩を各々が時間を忘れ過ごしているが、始業のチャイムが鳴り出すとほとんどの生徒が一斉に時間という概念を意識し始める。自分の意思によって自らの人生を選択し続けながら生きていける喜びを彼らは知らないし、知ろうともしないだろう。
僕は生徒達を席につかせてから、教室の中を見渡した。ほとんどの生徒が授業を始める準備をする中で彼だけは漂う空気を感じ取ることなく、彼のままでいた。窓の外から差し込む光を見つめ、そのさらに先に広がる心地よい景色を優しい眼差しで見つめていた。僕はチャイムのようにここにいる全ての生徒へ目に見えない物質を感じさせる必要があった。それを拒絶していたとしても。
「さぁみんなー、教科書を開いて授業を始めるぞー。」
その言葉に彼でさえも、視線を黒板に向けてしまうほど僕の言葉には目に見えない物質を作り出す力を持っていたことに気づかされる。そして、彼の視線が黒板に向くことが正しいことだと頭脳が指令を出す反面、心が少し締め付けられるような感覚を微かに感じながら授業に取りかかった。
「今日のテーマは光合成について話していくぞ。中学生の時に少し習っていると思うがおさらいをしておこう。誰かわかる奴いたら簡単でいいから説明をしてくれ。」
スルッと手をあげたのは、山中だった。自然と挙げられた彼女の手はしなやかに天をめざし、何の疑いもない眼差しが僕に向けられていた。彼女のその純粋な心は多くの人が好意を抱き、これからの彼女の人生もきっとバラ色なのだろうと想像させる。そんな彼女に僕はバラを渡すことはないだろうが、その代わりに質問に答える権利を渡した。
「じゃあ、山中説明してくれるか?」
「はい。光合成とは、太陽の光を受けた植物がデンプンなどを作る働きのことを言います」
「ありがとう、山中。その通り」
こうやって同じことを繰り返して日々が過ぎていき、気づけば人生が終わってしまうのだと頭の片隅で思いながら生徒たちに説明をしていた。頭の片隅に置いてきた感情をそのままにしておくことができるようになったのは、いつのことからなのか?殆どの生徒たちが僕の授業を聞いていいて、自分自身の頭の片隅にある「何か」を感じてられているような生徒は今ままでいなかった。違和感なんて誰でもが持っていて、そんなもの重要でもなく単なる勘違いだと思いながら片隅にある何かをそのままにし、その場をやり過ごして授業を進める自分に少しだけ寂しさを覚えていた。光合成の説明をしている時、窓からの陽が外を見つめる彼の頬を照らした
「初瀬川ー、光合成についてのここまでの説明でわからないところはないか?」
彼の眼差しが初めて黒板の方に向いて、我にかえる。きっとは彼の心は窓の向こう側にある桜並木のそばにあったように感じて、その時僕は彼の頭の片隅を少し除いたのかもしれない。
「なんとなーく、覚えてるような・・・」
少しだけ自信がなさそうにする彼が幼く見えて、そこに当たる陽射しが余計に彼を幼く見せていた。僕は教師として子供でいる生徒たちに、授業を通じて僕の持っている教養を分け与えることにより大人の階段を上がる手助けしている。まさにこの瞬間が僕が好きなひと時なのかもしれない。僕は、その幼い表情で自信がなさげな彼に、僕が持っている知識を直接受け渡すためにそばに近づいていった。風になびく カーテンが揺れるたびに彼の顔に陽が差し込む。そして、風で揺れるカーテンを引き寄せて僕は彼に少し覆い被さるような体制になって、彼は僕を上目で覗いていた。僕はそのまま、説明を続けた。
「カーテンが閉じている時と、カーテンが開いて陽がさしている時、どっちが気持ちいい?」
彼は僕の引っ張っているカーテンを掴み、パタパタと揺らしどちらが良いのか素直に試し始めた。僕もそのままカーテンを一緒に持ち、彼のパタパタするテンポを一緒に味わう。。
「開いた時の方が、心地いい気がします。なんでかわからないけど。」
僕は視線を彼も瞳に移してから軽く微笑んで、カーテンに伸ばす手を離すと彼もするりと離した。
「うん、そうだよな。気分が良くなったり、目が覚めたり、良い効果をもたらすその理由は光線の持つエネルギーが体内で変化しているからなんだよ。生物が誕生するもっと前から太陽は存在していて、植物も人間もあの太陽から降り注ぐ力強いエネルギーを生命力の源にしてきたんだ。これからもずっとそれは変わらないんじゃなかなと先生は思う。」
人に何かを伝えたいと思う気持ちはいつだって一方的なんだと思う、彼への説明は真実も含まれているが僕の願望も少し含まれている。そんな僕を彼は上目遣いのまま眺めていて、少しだけ首を傾げながら口を開いた。
「でも、太陽が苦手な人っていますよね?夜行性の動物とか深海魚も・・・。それってエネルギーがいらないってことですか?日向と違って心地いの良い瞬間があると思いました。」
彼はいとも簡単に例外を見つけ出し、みんなの前で披露してくれた。僕の彼に届けたかったメッセージは窓を通り抜けて空高く飛んで行ってしまったのだ。メッセージというものはいつだって一方的なものなのだと頭では分かっていても、いざそのメッセージが受信されていないことを目の当たりにするのは送信側として悲しく思えるのだ。特に、教師として常に送信側の立場に立たされている身で、今回のように強力な電磁場を発するように送信してさときはほど辛いものはない。彼に伝わらなかったのかと、少し寂しい気持ちではあったものの仕事上感情を出すことはできずに彼の質問に答えるしかない。彼がくれたメッセージは好みという点において着目した質問だったように思い、彼のメッセージへの返事をしてみた。
「そうだな、確かに好みと言うものが存在するよよ。その好みによって起きた変化が進化というところにつながることもあるように先生は思う。基本的には光が必要だったものが、環境の変化など様々な理由からそれ自体がなくても生きていけるように突然変異を起こす場合がある。例外ってことかな。」
「例外か・・・。」
僕は彼からの送信に対して、彼に届くようなメッセージの返答ができたように感じていたが時彼の反応は予想と違い納得がいっているようには感じられなかった。
彼はなぜだか曇った表情を見せて、それ以上質問しようともせず考え込むような表情をしているようのに感じた。彼のそんな表情を見ると僕の心はなぜだか少しだけ締め付けられるような感覚を味わっていた。光合成の話を続けるために教壇に戻って、狭い教室の中で彼を探した。その彼は同じ表情のままでいて、僕はそこから目を逸らして授業を続けたのに僕の心は締め付けられたままだった。
チャイムの音はどんな時でも僕らを動かしている。
目では見ることのできない物質が突然姿を現し、空気のように漂って僕らをいつだってコントロールしようとする。実態のないものにどう立ち向かえば良いのか、はたまた立ち向かいたいのかも僕にはわからない。何も考えずに教室にいる生徒は授業と授業の合間にある小休憩を各々が時間を忘れ過ごしているが、始業のチャイムが鳴り出すとほとんどの生徒が一斉に時間という概念を意識し始める。自分の意思によって自らの人生を選択し続けながら生きていける喜びを彼らは知らないし、知ろうともしないだろう。
僕は生徒達を席につかせてから、教室の中を見渡した。ほとんどの生徒が授業を始める準備をする中で彼だけは漂う空気を感じ取ることなく、彼のままでいた。窓の外から差し込む光を見つめ、そのさらに先に広がる心地よい景色を優しい眼差しで見つめていた。僕はチャイムのようにここにいる全ての生徒へ目に見えない物質を感じさせる必要があった。それを拒絶していたとしても。
「さぁみんなー、教科書を開いて授業を始めるぞー。」
その言葉に彼でさえも、視線を黒板に向けてしまうほど僕の言葉には目に見えない物質を作り出す力を持っていたことに気づかされる。そして、彼の視線が黒板に向くことが正しいことだと頭脳が指令を出す反面、心が少し締め付けられるような感覚を微かに感じながら授業に取りかかった。
「今日のテーマは光合成について話していくぞ。中学生の時に少し習っていると思うがおさらいをしておこう。誰かわかる奴いたら簡単でいいから説明をしてくれ。」
スルッと手をあげたのは、山中だった。自然と挙げられた彼女の手はしなやかに天をめざし、何の疑いもない眼差しが僕に向けられていた。彼女のその純粋な心は多くの人が好意を抱き、これからの彼女の人生もきっとバラ色なのだろうと想像させる。そんな彼女に僕はバラを渡すことはないだろうが、その代わりに質問に答える権利を渡した。
「じゃあ、山中説明してくれるか?」
「はい。光合成とは、太陽の光を受けた植物がデンプンなどを作る働きのことを言います」
「ありがとう、山中。その通り」
こうやって同じことを繰り返して日々が過ぎていき、気づけば人生が終わってしまうのだと頭の片隅で思いながら生徒たちに説明をしていた。頭の片隅に置いてきた感情をそのままにしておくことができるようになったのは、いつのことからなのか?殆どの生徒たちが僕の授業を聞いていいて、自分自身の頭の片隅にある「何か」を感じてられているような生徒は今ままでいなかった。違和感なんて誰でもが持っていて、そんなもの重要でもなく単なる勘違いだと思いながら片隅にある何かをそのままにし、その場をやり過ごして授業を進める自分に少しだけ寂しさを覚えていた。光合成の説明をしている時、窓からの陽が外を見つめる彼の頬を照らした
「初瀬川ー、光合成についてのここまでの説明でわからないところはないか?」
彼の眼差しが初めて黒板の方に向いて、我にかえる。きっとは彼の心は窓の向こう側にある桜並木のそばにあったように感じて、その時僕は彼の頭の片隅を少し除いたのかもしれない。
「なんとなーく、覚えてるような・・・」
少しだけ自信がなさそうにする彼が幼く見えて、そこに当たる陽射しが余計に彼を幼く見せていた。僕は教師として子供でいる生徒たちに、授業を通じて僕の持っている教養を分け与えることにより大人の階段を上がる手助けしている。まさにこの瞬間が僕が好きなひと時なのかもしれない。僕は、その幼い表情で自信がなさげな彼に、僕が持っている知識を直接受け渡すためにそばに近づいていった。風になびく カーテンが揺れるたびに彼の顔に陽が差し込む。そして、風で揺れるカーテンを引き寄せて僕は彼に少し覆い被さるような体制になって、彼は僕を上目で覗いていた。僕はそのまま、説明を続けた。
「カーテンが閉じている時と、カーテンが開いて陽がさしている時、どっちが気持ちいい?」
彼は僕の引っ張っているカーテンを掴み、パタパタと揺らしどちらが良いのか素直に試し始めた。僕もそのままカーテンを一緒に持ち、彼のパタパタするテンポを一緒に味わう。。
「開いた時の方が、心地いい気がします。なんでかわからないけど。」
僕は視線を彼も瞳に移してから軽く微笑んで、カーテンに伸ばす手を離すと彼もするりと離した。
「うん、そうだよな。気分が良くなったり、目が覚めたり、良い効果をもたらすその理由は光線の持つエネルギーが体内で変化しているからなんだよ。生物が誕生するもっと前から太陽は存在していて、植物も人間もあの太陽から降り注ぐ力強いエネルギーを生命力の源にしてきたんだ。これからもずっとそれは変わらないんじゃなかなと先生は思う。」
人に何かを伝えたいと思う気持ちはいつだって一方的なんだと思う、彼への説明は真実も含まれているが僕の願望も少し含まれている。そんな僕を彼は上目遣いのまま眺めていて、少しだけ首を傾げながら口を開いた。
「でも、太陽が苦手な人っていますよね?夜行性の動物とか深海魚も・・・。それってエネルギーがいらないってことですか?日向と違って心地いの良い瞬間があると思いました。」
彼はいとも簡単に例外を見つけ出し、みんなの前で披露してくれた。僕の彼に届けたかったメッセージは窓を通り抜けて空高く飛んで行ってしまったのだ。メッセージというものはいつだって一方的なものなのだと頭では分かっていても、いざそのメッセージが受信されていないことを目の当たりにするのは送信側として悲しく思えるのだ。特に、教師として常に送信側の立場に立たされている身で、今回のように強力な電磁場を発するように送信してさときはほど辛いものはない。彼に伝わらなかったのかと、少し寂しい気持ちではあったものの仕事上感情を出すことはできずに彼の質問に答えるしかない。彼がくれたメッセージは好みという点において着目した質問だったように思い、彼のメッセージへの返事をしてみた。
「そうだな、確かに好みと言うものが存在するよよ。その好みによって起きた変化が進化というところにつながることもあるように先生は思う。基本的には光が必要だったものが、環境の変化など様々な理由からそれ自体がなくても生きていけるように突然変異を起こす場合がある。例外ってことかな。」
「例外か・・・。」
僕は彼からの送信に対して、彼に届くようなメッセージの返答ができたように感じていたが時彼の反応は予想と違い納得がいっているようには感じられなかった。
彼はなぜだか曇った表情を見せて、それ以上質問しようともせず考え込むような表情をしているようのに感じた。彼のそんな表情を見ると僕の心はなぜだか少しだけ締め付けられるような感覚を味わっていた。光合成の話を続けるために教壇に戻って、狭い教室の中で彼を探した。その彼は同じ表情のままでいて、僕はそこから目を逸らして授業を続けたのに僕の心は締め付けられたままだった。
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