短編集〜ふぁんたじー〜

赤井水

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短編集

第3王子平民になる

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◇ 1話

 王族……それは国家の求心力であり象徴である。

 メストレーゼ王国の第256代国王は4人の妃を娶り8人の子供を産んだ。

第1王子:アルバトレス・メストレーゼ
第2王子:サムネ・メストレーゼ
第1王女:メルラン・メストレーゼ
第2王女:サリア・メストレーゼ
第3王女:カリナ・メストレーゼ
第3王子:クロノ・メストレーゼ
第4王子:セブルス・メストレーゼ
第4王女:キャラリアン・メストレーゼ

 そんな8人が今、謁見の間にて国王陛下に相対していた。

「うむ、我が子よ。久しいな元気の様だな。
 これより我が後継者を選ぼうと思うが辞退したい者は居るか?」

 この国は優秀な者が国を率いるべきという初代国王の厳命。
 つまり家訓ならぬ国訓により性別は関係無い。

 その王の言葉にいち早く手を挙げた。

「クロノよ。お主は本当に良いのか?」

「はっ!私には向いていない為。即刻辞退申し上げます。
 優秀な兄弟達が居ますのでやる気の無い私はこれにて失礼致します」

 そう言うとクロノは立ち上がり謁見の間を後にしようとした時。

「チッ、さっさと死ねば良いものを……」

 そんな言葉が背後から投げかけられた。

 クロノは謁見の間の出入口で立ち止まり兄弟達を見据える。

「ならもう少し優秀な暗殺者や策を練れば良いかと思いますよ?兄上?」

 そして礼をして謁見の間を出た。



 俺は遂に、遂に後継者争いから降りた事に興奮していた。
 流石に3日置きに暗殺者や毒を盛られるのにも飽きていたのだ。

 ルンルン気分で廊下を歩いているとテンションを下げる相手がやって来た。

「クロノ殿下? 先程国王陛下に呼び出されて居たと思いますが……何故ここに?」

 執事のグラムだ。

「あぁ、何か後継者になりたい奴は残れって言われたからいの一番で降りた」

 グラムは一瞬ギョッとした表情をしたが直ぐに冷静になった。

「そうですか……私は用事が出来ましたのでこれにて失礼致します」

「おう、どうせ母さんの所だろ? さっさと行ってくれば?」

 俺はそう投げやりに言葉をかけて部屋に向かった。

 メストレーゼ王国はかなり特殊で今は戦争が頻発してる為頭脳が良い奴が王太子に選ばれるだろう。

 平和な時の王族は馬鹿でも周りが助ければ回るが戦時下では上手くやりくりして
 国と軍の手綱を常にバランス良く保たなければならないので頭の良い者が国王にならないといけない。

 つまりテストや訓練で手を抜きまくって居る俺は最初から候補にすら入って無いので
 すぐに失格になるのにわざわざ火種を大きくするのも癪であったのだった。

 俺は部屋に入り、紅茶を入れようと茶葉に手をかけ蓋を開け臭いを嗅ぐ。

「はぁー」

 ドアベルを鳴らす。

「どうしました? クロノ殿下?」

 初めて見る顔のメイドが部屋の前にやって来た。

「あのさー部屋に勝手に入らないでくれる?
 後これお気に入りだったのに毒混ぜるとか最悪なんだけど?」

 メイドの顔が頑張っているが引きつっている。おぉ頑張れ!

「リリアムは?」

「さぁ。私はここに配属されましたので分かりません」

「そっか、じゃあ無礼打ちね? 良いかな?」

 俺は腰に帯剣している剣を抜き首スレスレで寸止めする。

「おぉ流石暗殺者。普通のメイドなら尻もち位着くぜ?」

 先程までの澄まし顔とは打って変わってメイドは急に短剣を抜き俺に襲いかかって来たが

「パラライズ」

ビクンと体を跳ねあげメイドは倒れた。

「リリアムなんてメイド居らんのよ? その時点でお前は暗殺者決定なのさ!ワープ」


 メイドを連れて極秘の部屋に転移する。
 体をまさぐると

「おぉ……出るわ出るわ。凄いな。暗器に毒薬。口の中にも随分と仕込んでるな。アポート」

 歯が4本俺の前に現れる。

「よし!これでひん剥いて縛り上げて、準備OK!」

 先程のメイドを起こすとキッと睨み歯に仕込んだ毒を摂取しようとする。そこで目を見開く。

「ん? どした? 探してるのはこれか?」

 歯を4本見せる

「くっ、殺せっ!」

「え? ヤダよ? 眼福眼福~」

 と俺は綺麗な裸体を眺め楽しむ。
 暗殺者の女は大体見目麗しい人が何故か多い。
 多分手付きになった時に殺そうとするパターンが多いからだろう。

「変態、えっち!ハゲ!」

 いきなり子供になったよ。

「まぁ、別にどうでも良いけどさ。依頼者は誰よ? 出来れば自白剤は副作用が強いから使いたく無いんだよね?」

 女は急に黙りを決めてしまった。

「ふむ、やりたくなかったんだけど仕方ないか~。ねぇ君さ。小人と豚と羊どれが良い?
 オススメは小人と豚かな? 面白そうだし。あ!牛でも良いよ?」

 俺はケラケラと笑う。

「さっさと拷問すれば良いだろ。クソがっ」

 俺は女の体に刷毛で砂糖水を塗り塩を揉み込む。

「ふん、陵辱するならすれば良いだろ。粉を塗ってするとは随分とマニアックな変態なのだな?」

 俺は首を傾げる

「え? するのは俺じゃないよ? 塩は羊にぺろぺろして貰って
 ゴブリンとオークかミノタウロスを連れて来てするだけだよ?」

「ヒッ……そ、そんな脅し効かないぞ?」

「あ? そうなの? 残念だなぁお姉さん美人なのにね。
 君から産まれて来る子供は醜い緑か豚か牛かどれだろうねぇ。
 俺が魔法を使える事も知らなかったみたいだし。
 あ、誰も知らないわそういえば……さぁじゃあゴブちゃんから行ってみようかな?
 ゴブちゃん召喚!」

 俺の1m先に魔法陣が現れゴブリンが現れる。

「ヒッヒィィィいや、いやぁぁ」

「ゲゲゲッ」

「え? 食べたい? ダメだよ。もう少し待ってね? さぁお姉さん?
 ガチガチ歯を鳴らしても遅いよ? メスの臭い充満させようか?」

 俺が恥部に手を触れるとお姉さんは失禁してしまった。

「グギャーグギャギャ」

「いや、話す話すからそれだけは。人間とさせてお願いします。魔物は嫌です」

 俺は指を動かし

「早く話せ? 誰の命令で俺の命を狙った?」

「第2王子です。え? 何で、目の前にゴブリンが来るんだ。おい!助けろ助けろよ嫌ぁぁぁ」

「助ける訳無いだろ? アホか。そしてゴブリンが終わったら豚。
 豚が終われば牛の相手しろよ? 召喚豚・牛。
 命令ゴブちゃん、豚、牛かわりばんこで仲良くね?」

「クソがっ!クソがお前絶対呪ってやるからなぁぁぁ」

 そう叫ぶ暗殺者に俺は冷たい眼差しを向けて

「はははっ今まで誰もそれで出てきた事ないから。そしてお前が死ぬ時正気保ってないからな? じゃあな。ワープ」

 俺は部屋に戻りベットに寝転がった。

「はぁぁだるぅ。どうやって仕返ししようかな?」

 そう眠りに着くのであった。

 ◇2話


 ドアをノックされる。俺は結界の魔道具の切り

「どーぞー」

 するとグラムが入って来る。

「おや? 珍しいですな。眠っておられたとは」

「あぁ。3日置きの暗殺者が連日来たんでな。その処理に体力使ったから寝てた」

 グラムの顔は盛大に引きつっている事であろう。
 コイツも第2王子側の人間で俺の行動予定を逐一報告している。

「暗殺者の拷問が既に終わってるからさ。明日犯人に嫌がらせとして暗殺者を送り届けようかなぁ」

「そ、そうでございますね。因みに犯人は?」

「言うと思った? 明日のお楽しみさ!グラム今日はもう休んで良いよ」

 さっきから顔色悪いからねぇ。加齢臭振り撒かれても困るし。

「で、では失礼致します」

 グラムが出て行った事で俺はアイテムバッグから肉挟みパンを口に頬張る。

「んーうまっ」

 そして机の上に食器を出して魔道具の湯沸かし器を取り出してお湯を沸かす。

「茶葉は……あった。在庫まだあって良かったわ。むぅ、美味いね!」

 我が家は2年前に国王や王妃達。第1・第2王子以外の全員に毒を盛られた以降家族で食事をする事が無くなった。

 まさかねぇ。毒味役が目の前で8人もバタバタと倒れたら流石にね。
 もう一緒は無理だよねぇ、完全に下は要らないって言う誰かさんの意思表示だったしな。

 すると、再び部屋をノックする音が聞こえた。

「どーぞー」

「お兄様!あー!もうご飯食べてる!」

「お!キャラか。お前も食うか? ガンガン来る暗殺者や毒にもう目がクラクラするよ」

 その言葉にキョトンとするキャラとキャラの専属メイド。
 キャラは末っ子で俺はとても可愛がっている。

「え? お兄様? それは報告なさってるのですか?」

「え? 俺に味方居ると思ってるの? グラムが飼い主に失敗報告してるんじゃない?」

 するとキャラがプンスカ怒り始めた。

「お兄様。それではダメです。お兄様は優秀なんですからね?」

「いやー俺なんて平凡・平均王子だからねぇ。あれ? 地味王子なんて言われてたりしたっけ?」

 俺はアイテムバッグから更に5本の肉挟みパンを取り出す。

「サラリスも食べるだろう? どうせ俺とキャラしか居ないんだどう?」

 すると目を輝かせキャラが賛同する。

「サラリスも一緒ね!ほらほら座った座った」

 おずおずとしているものの、やはり主人には逆らえず結局3人で食べる事になった。

「それにしてもお兄様? どうしてこんなに毎回毎回色んな食料がアイテムバッグの中に入ってるのですか?」

 ギクッとなったが平静を装い答える。

「そ、それは独自ルートで手に入れてるに決まってるだろ?あはは」

 流石に2日とか3日に1度転移で仕入れたり自分で作ってるなんて言えないからなぁ。

 それからしばらくしてキャラやサラリスと話をして2人を部屋に送り俺は結界魔道具を立ち上げ寝た。



 朝早くに目が覚め、俺はあの部屋に転移してきた。

「グギャギャ!」「ブモォォォ」「ブヒブヒ」

「おう!おはようさん!楽しめた? ふーんなら良かったね。召喚解除」

「うーあーうー」

「うわっ汚ねぇ。ムーブメント」

 俺は箱を取り出し魔法で浮かせ詰めた。遮音結界の札を張りその上に

『返礼品、暗殺者は魔物の性欲の捌け口にされました』

 と一緒に紙を張り部屋に戻る台車を持って来て運ぶ。

 第2王子の部屋に近付くと騎士が俺に怪訝な表情を見せる。
 そもそもさ、近衛騎士が俺の部屋に着かないのがおかしいんだけどな。

「クロノ殿下。立ち止まりください。その箱は何でしょうか?」

「んー? 書いてある通りだけど?」

 近衛騎士の1人は箱の上の紙を見ると絶句していた。

「尋問は誰が?」

「俺自身だけど? そもそもこの間の暗殺者死亡記録着いてたけど死んでないよね?
 ゴミ処理場に確認取ったけど死体は無かったぞ?
 そんな仕事もできない騎士達に任せてまた逃げられる位ならね?
 分かるでしょ? 返しといて。知ってるはずだからさ」

 そう伝えて廊下の角を曲がった所で野太い悲鳴が聞こえた。
 あー開けたんだ、普通王子が命令したら最低でも見せるよね?
 なんだアイツらクソだなやっぱり。

 俺は廊下を歩いているとばったり父上に会ってしまった。

「クロノ早いな。何かしていたのか?」

「おはようございます父上。昨日の処理ですね。暗殺者の返却ですね。父上俺もう家出していいでしょうか?
 護衛の騎士も着かず、執事は内通者、メイドは昨日は連日普段は3日おきにメイドや使用人に暗殺者が混じる。うんざりです」

 父上顔、顔をしっかり保って。

「騎士は何故居らぬ。儂は全員に配置出来る様に10隊まで作ったのだぞ?」

「さぁ? どこぞの王子の実家様が俺の護衛外したんじゃ無いですか? って言うより2年前から居ませんけど?
 執事や使用人に愚痴言ってましたよ? 報告行かないんですね。
 俺そろそろ死んだ事にして貰って勝手に出てきますので悪しからず」

 俺は言いたい事を言って父上にお辞儀をして廊下を離れた。
 部屋に戻るがグラムすら来なくなった……終わってるわこの国。

 結界魔道具を起動してふて寝した。




 ガンガン先程から扉を叩き付けられてる。

 結界魔道具を止めて素早くアイテムバッグに詰める。

 すると10人の近衛騎士が入って来た。

「罪人クロノ謁見の間に来い」

 俺は両脇を捕まれ連行された。

 謁見の間にはニヤニヤした第2王子と渋い顔をした父上、いや国王が座っている。
 強制的に俺は跪かされた。

「それで? この茶番は?」

「黙れっ!俺の専属メイドを殺しやがって」

 俺は首を傾げる。
 あ、あの子このボンクラの専属メイド兼暗殺者だったのか?

「へぇ、今時の専属メイドは歯に毒を4本も仕込むのですね兄上?」

 俺がそう言うと何故かキレだした。

「何を言ってる? 貴様? 専属メイドがそんな物仕込むか!
 出鱈目ばかり並べおって即刻処刑だ死ねっ!」

 うそーん。
 謁見の間よ? ここ、俺は右腕を思いっきり前に出して騎士が切られた。

「うぎゃぁぁぁぁああああ」

「え? え?」

「兄上、いやボンクラ。国王陛下の御前で剣を抜くとはどういうつもりだ?
 そして宰相、近衛騎士も何故帯剣を許可した? 貴様らいい加減しろっ!」

 俺は我慢の限界だった。
 俺が怒ると思って無かったらしく全員が驚いている。

「数日おきに暗殺しに来やがって、うんざりしてんだよ。
 グラムもテメェの配下だろ? 俺が少しでも荒を出せば報告を受けて詰めるつもりだったんだろ?
 ほら宰相早く死体を出せ、その女の。歯が4本無いはずだ。
 早く出せっ!ここで虚偽の申告した場合国王陛下の御前で不義を働いたとして最低でも国外追放又は即刻自害だぞ?
 バカ共が、良い気になりやがって」

 流石に焦ったのか、騎士が箱を持ってきた。
 そして今更確認してやがる。

「ほ、報告します。確かに歯が4本ありません」

 俺はポケットの中にあるアイテムバッグから歯を4本渡す。

「1本でも入ればソイツの歯だって分かるだろ? そして職務怠慢だぞ?」

 かなり顔が青いが知らんわそんな事。

「あ、あのう。4本共何か仕掛けが着いており、尚且つスッポリとハマります」

「だ、そうだ。もう一度聞こうかボンクラ。今時の専属メイドは歯に仕込むのか自決用の毒を?」

 コイツアホだな。顔を真っ青にしたり真っ赤にしたり。

「さて、国王陛下。私は今まで何度も苦情を入れて来ました。
 しかしながらこのボンクラの手下により報告は全て握り潰されており
 尚且つ近衛騎士は公平で在らねばならぬのにこの事態です。
 暗殺・毒殺・スパイ。うんざりですここで私クロノ・メストレーゼは第3王子を辞職し縁を切らせて頂きます。
 これからはクロノ。ただのクロノとして生きたいと思います。
 そしてこれ以上私に危害を与えようと城内でした場合切り捨てます」

 肩をガックリと落とした国王陛下は判決を告げる。

「クロノよ済まぬ。儂がきちんと見ておれば……
 いやもう無理か。支度金を最後のクロノの情けで受け取ってくれ。
 親として最後くらいさせて欲しい。
 そして今日の夕方までに城内から立去る事、キャラリアン等の仲の良い者達に挨拶もあるだろうからな」

 そこまで言うとダムシュトル・メストレーゼは立ち上がり

「サムネ貴様らのやった行いは許さん。近衛騎士達よそして最初に全く動揺してなかった宰相よ覚悟しろ。
 儂の可愛い子供狙った貴様らを許すと思うなよ? 逃げ切れると思うなよ?
 貴様ら契約魔法で縛られているのだからな?」

 うわー契約魔法って確か契約違反すると下手すりゃ死ぬやつじゃなかったっけ?

 俺はもう行って良いとの事だったのでキャラの部屋に向かった。


 キャラの部屋に向かうと近衛騎士の女性隊員が2人立っている。
 王国式の礼を取る。うーんこれよ、これ。

「クロノ殿下、如何しましたか?」

「あ!クロノで良いよ。さっき捨てたからその身分」

「「は?」」

「後、不正近衛騎士めっちゃ出る可能性あるから君達昇給するかもねぇ」

「「ふぇ!?」」

「まぁ、キャラ呼んでくれない?」

 慌ててノックする

「キャラリアン殿下。クロノ殿「様でいいよ~」様がお部屋に来ています」

「入って貰って!」

「どうぞ!」

「はいよーありがとさん。あ!もし良かったら疲れさせたお詫びにこれあげるね」

 俺は巷で流行りのクッキーを2人に渡した。

「他の人に見られると人気店のだから大変だからここで食べ切ると良いよ」

「「ありがとうございます!!」」


「キャラ失礼しまーす!」


 ◇ 3話

 キャラは不思議そうに俺を見ていた。

「おはようございますお兄様。
 あら? お兄様? 何か憑き物が落ちた様なお顔をなさってますね?何かありましたか?」

 流石!俺と1番縁深い兄妹だ。

「うん、ボンクラ第2王子様がやってくれたお陰でね」

 キャラは輝かしい笑顔を見せたが次の言葉を聞いた瞬間固まった。

「身分やっと捨てれたわ。今までありがとうよキャラ。
 あ、サラリス俺が居なくなる事でキャラにも少し危険が行くかもしれないから魔道具を1つあげようと思ったんだ」


 そう言って俺は結界魔道具と指輪をサラリスに渡す。

「クロノ様。これは?」

「結界魔道具、ここに魔力をこめると結界が発動する。
 そしてその指輪は結界の中にいる人に敵意が無い事で入れる許可証みたいなもんだ。
 俺が作った時に1人位ね信頼出来る人居るかなぁと思ったけど出来なかったね」


 サラリスとキャラが驚く顔をしている。

「え? お兄様? この魔道具お兄様作なのですか?」

「あ、やべっ秘密な。まぁキャラにならいっか秘密だぞ? クリーン」

 俺は2人に浄化魔法をかける。
 これすると結構汚れおちるんだよね、浄化魔法の基本魔法だけどね。

「え!お兄様魔法が……はぁぁこの国ももうお終いかもしれませんね」

「キャラ様……そろそろ私達も身の振り方を考察し始めた方がよろしいかと」

 ん? 何故に? 魔法関係あるのか?

「えぇっと、結構初級の魔法ぐらいなら使える奴多いぞ?」

 2人はブンブン首を横に振る。

「魔力が足りませんのよ? お兄様?」

「え? 魔力なんてダンジョン行けば、あ、これも秘密だった」

「お兄様?」

 ジト目で睨まれる。お兄様悲しい……

「まぁ、そういう事だから最後の別れにこれやるよ」

 俺は箱を渡す

「お兄様使い方は?」

 俺はもう1つの箱を取り出して

「魔力をここに流せば軽い物なら相互間に手紙の配達が出来る」

 2人が盛大なため息をする。

「これ、暗部にあれば列強国に入ってましたわね……」

「でもそれで俺は飼い殺しになるんだよ? 魔道具は使える属性しか付与出来ないからな」

 そこでサラリスが気付いてしまい言葉を発そうとした瞬間ワープを使い口を塞ぐ。

「ダメだよ? サラリスそれは。秘密さ」

「じゃあ2人共またいつか会える可能性に願いを込めて。星の導きを」

「「星の導きを」」

 俺は部屋を後にする時、うわんうわん泣きじゃくる声が聞こえたがもう振り返る事は無かった。

 そして部屋に戻り忘れ物が無い事を確認したら服を脱ぎ着替え
 転移で城下町の裏路地にワープしたのであった。

 俺は門へと向かい乗り合い馬車を探す。
 既に服装は皮鎧に剣そしてフード付きローブに背嚢と駆け出し冒険者だ。

 隣国行きの乗り合い馬車を見付け冒険者ギルドのカードを見せる。
 我慢の限界の臨界点に近付きつつあったので先に登録だけはしてたのだ。

 依頼は薬草採取のみでギルドカードの失効にだけ気を付けて居たのだ。

 俺は遂に、魑魅魍魎が跋扈する王族と城を抜け出す事に成功したのであった。



~王族side~

 朝から訓練をする為にアルバトレスは剣を振るうが……違和感がある。
 騎士達の人数が半分なのだ。

「おい、何故今日は人が少ない? 大規模討伐や遠征訓練等あっただろうか?」

 アルバトレスは騎士に声をかけるが騎士は少し戸惑いを顕にして告げた。

「いえ、大規模な不正を行い。尚且つ第2王子サムネ殿下に手を貸しクロノ殿下を陥れようとした罪で
 今処分対象の確定の為、騎士団が近衛騎士団を捜査しています」

 アルバトレスは開いた口が塞がらなかった。
 確かにクロノはやる気無し、サムネは狡い事ばかりしていたが……

「サムネは何をしでかしたのだ!」

「極秘情報になりますが……サムネ殿下がクロノ様に暗殺者を送ったり
 執事を自分の手の内の者にしたり、近衛騎士の護衛を着けない様に手配していた事。
 そして本来着く筈の近衛騎士が空いて居た筈なので誰かが何かに使っていた可能性もあります。
 クロノ様に渡る予算も何者かに着服されていました。
 そして昨日暗殺者を捕えサムネ殿下に突き返した所、その者がサムネ殿下の専属メイドでした。
 サムネ殿下はこれに怒り罪状を突き付け謁見の間で私的に処刑しようとしました。
 今までの出来事と本日のその事によりクロノ様が激怒なされ王族を離脱しました」

「は? 出て行っただと? あの天才をか? 何をしているんだ父上は!」

「え? えっとクロノ様は何の天才なのですか?」

 頭を抱えるしか無かった。

「剣はそこそこでも生産と魔法の分野では彼奴は天才だ!
 上手く誤魔化して居たが王宮魔法士達は皆魔力操作が洗練されてると褒めていたのだ!
 そして彼奴の部屋はいつも結界魔道具が使われていた。
 たまたま目にした事があるが彼奴オリジナルの可能性があったのに……」

 アルバトレスはハッとなりすぐさま貴族管理院に向かう。
 扉を勢い良く開けると

「これは、アルバトレス殿下如何なさいましたか?」

 受付に座る好々爺たる人物が反応を見せる。

「ゲラセフ殿、王族記録書を確認したい」

 何か問題が起きたのかとゲラセフは王族登録書をすぐに持ってくる。

 アルバトレスはその書物を読むも……

「はぁ……やっぱり彼奴は天才だ」

 皆が首を傾げる。

「ゲラセフ殿、ここに忍び込める者は?」

 ゲラセフは少し驚きつつも、指輪を見せる。

「殿下、この魔道具が無ければ無断で入った場合王族や高位貴族様とてその場で即処刑でございます」

 アルバトレスは本日何回目かも分からない位の頭を抱えた。

「クロノの奴やってくれおった!その魔道具複製されたぞ?
 これを見よ。今回は特別だ。騎士達にも確認させる」

 全員がアルバトレスが何を言っているのか分からないまま王族記録書を見ると……

「え? 子供が7人? クロノ殿下の名前が無い」

 騎士の1人が驚きの声を上げる。

「そうだ、離脱なら離脱、死亡なら死亡と記録される書物を誰に気付かれること無くここに侵入して書き換えクロノは出て行った。
 つまりこの国が何を言おうとも我々が一族として認識しても国は彼奴をレストレーゼ一族として扱う事が出来ん。
 一族の優秀な才能が野に放たれた訳だ。
 サムネの責任は重いのだ!」

 この日からレストレーゼ一族は大騒動を引き起こすのだが誰もまだ知らず
 起因となった者は既に王都には居なかった。

「ハックション。あーやべもう気付かれたかな? 厳重警備の書物改竄に気付くのは父上かアル兄位だろうな。はっはっはグッバイ!」

 馬車に揺られ、風が心地よい旅が始まるのであった。

 ◇ 4話

 王城を飛び出して1ヶ月

 俺はレストレーゼ王国の2つ隣の聖王国の端に居た。
 ここには潤沢なる資源の宝庫であるダンジョンがあり尚且つ大森林という魔物や動物の跋扈する森もある為

 冒険者達にとっては最高の土地であったある1つを除けば……

 冒険者ギルドに向かう途中、目の前に1人のおっさんが現れた。

「貴方は神を信じますか?」

 俺は毎日コイツに目を付けられ参っていた。

「なぁ? おっさんさ、俺ね神何て信じてないのよ?
 神の御業? 信仰心毎に神聖魔法が使える?
 じゃあ何でダンジョンや大森林で魔物討伐してんの?」

 にこやかな笑顔を保ちおっさんは自分に酔った様に話し始める。

「それは試練です。神は試練として魔物を配置してダンジョンを置きました。
 その試練にうち勝てば報酬が貰えるのは当たり前でしょう?」

「いやいや、じゃあ俺達冒険者は無神論者なのに何で同一の報酬貰えんの? 神をボロくそに文句言っても何で罰さないの?
 教会が異端審問として送ってくるの? なら神とやらが直接力の剥奪をすれば良くね?」

 俺は『エリアクリーン』を無詠唱で発動する。

「神聖魔法って結局属性の適正値があれば使えるんだよ?
 それに神って何柱も居るよね? 君達は創造神しか祀ってないけどね?」

 おっさんはぐぬぬと歯を食いしばる様子を見せたので
 俺はその横を通り抜け今日の仕事を探しに冒険者ギルドへと入ると

 疲れた顔をした同様の被害者達がわんさか居た。魔力感知を行うと……うげぇ。

 そう、最近冒険者ギルドの周りを教会関係者が勧誘の様に張り付いているのだ。今日は多分7人。

「やってらんないよなぁ。まるで俺達を追い出したいか、取り込みたいかの策謀にしか見えないな」

 そんな呟きに建物が一瞬で凍りついたかの様に静まり返った。

「「「「「「「「そ、それだぁぁぁぁ!!」」」」」」」」

 ギョッとした。
 ギルド内の冒険者達が皆口を揃えて言うのだから凄い圧力だった。

 ギルドマスターも受付辺りに居た様で皆に注意喚起と軽めの依頼を勧めて居た。
 今まで過去にギルドと教会は数回やり合ってるらしい。

 その時は、ダンジョンで冒険者を襲い生還出来るギリギリまで痛め付け
 教会で治療しようとすると膨大な金額の治療費を要求して払えないのなら取り込まれるか奴隷落ちを選択させるらしい。
 商業ギルドも移動を狙われたりとゲリラ戦闘が酷くその時はギルドが完全撤退し
 物資を完全に止めた制裁を行い半年後教会の降伏により終結した過去がある。

 つまり、今回もその可能性も捨てきれないが取り込もうとする意味が分からなかった。

 俺は受付嬢に依頼書を渡して処理してもらう間に世間話として探りを入れてみる。

「はい、これよろしくな。それで聖王国って祭りか何か近い内にあったりするの?」

 依頼書を読み取りカードにログを残してる最中に受付嬢は少し考え込み閃いた顔をした。

「そう言えば10年に1度の洗礼祭がありますよ。
 今回は丁度聖女様のお披露目と近隣諸国の王族が来る予定です!」

 うげぇと苦味を潰した様な顔になってしまった。

「へぇ、聖王都で行われるのそれ?」

「そうですね!カード返却します!」

 俺はカードを受け取りちょっと気になった事を言ってみた。

「ありがとう。聖女様の威信を見せる為には酷い病気なり怪我人が必要だったりしてね。
あはははは。んじゃ」

 俺はそんな考えが浮かんだ物のどうでもいいやとダンジョンに向かうのであった。

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みんなの感想(2件)

A・l・m
2023.10.14 A・l・m

王子平民は作中の魔法契約が弱すぎるか解約されてるか、してないやつが入り込んでる(偽契約)か、やった後で確認魔法が必要的な二度手間契約のようですね。

まあ、王が無能気味のようですから駄目ですが。
宰相から駄目では王の側仕え全員駄目なのでは……。
(宰相の血縁なのかな第二王子)

解除
A・l・m
2023.10.14 A・l・m

なるほど面白いですね。


……ネタ被りは仕方ないことなので、書きたいものはいくらでも書くが吉。

どうせなら、型月ネタを敢えて取り込むと逆に喜ばれたりします。

解除

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