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短編集
体と心の声を聴きます
しおりを挟むとある男爵家に1人の子供が生まれた。
母親の青髪よりも薄く水色の髪をした赤ん坊だった。
「ケブロ男爵!元気な男の子ですよ!」
「メリッサ!よくやった!アスクと名付けよう!今日からお前はアスク・ケブロだ!」
アスクという男の子はケブロ男爵家の長男として生を受けてこの世に誕生したが……
約1年で1つの事実が明らかになったのであった。
今日はアスクを産んで体調を崩していたメリッサにナルサス・ケブロ男爵はとある事を告げに来ていた。
「メリッサ……すまない。アスクは男爵家を継ぐことは出来ない」
メリッサ夫人は綺麗な青髪を揺らし涙を流し大きな声を出した。
「どうして!?どうしてですか?あなた!」
憔悴した顔でケブロ男爵は
「耳が……アスクは耳が聞こえないんだ!」
「え?」
「誰も悪くは無い。それでも貴族は人と会話をしなければならない。耳が聞こえなければ会話は難しいのだ。
アスクにはどこまで出来るかは分からないが大切に2人で育てよう。
やりたい事が出来たらさせれば良いじゃないか!」
そう言い2人は抱き合うのであった。
それから15年の月日が経ちケブロ男爵家には3人の子供達が出来た。
長男アスク15歳
水色の髪、父親に似て身長は高く、文字が扱えるだけの利口さがあり耳は聞こえ無いが筆談は出来た。
本の虫と騎士の動きを見て体術を学んでいる。
次男ニコラス14歳
父親似の金髪、しかしアスクを心配する両親に嫉妬し対抗心を燃やしている。
長女メリア10歳
青髪の母親似の女の子なのだが騎士に興味を持ち年相応に魔法にも興味を寄せているが……剣を振っているのが1番という女の子である。
ケブロ男爵家は長男が生まれてからこの15年間国内でとても有名な領地になった。
それは、他の領地で毛嫌いされる欠点を有する人材を大切に扱い
尚且つそれを補う為の道具を作れる鍛冶師や木工師を招聘した事により技術の街として呼ばれる様になったのであった。
◇ 1話 聞こえないけど分かっています。でも分からない振りをしています
水色の髪を汗で濡らし、朝の日の出が拝める前から俺の鍛錬は始まる。
俺には不思議な事がある。それは……
『今日は腸の調子が悪いから排泄物の出が悪いかもしれないね。風邪を引かぬようしっかりしないとな』
『今の体勢だと腰を痛めるぞ? 腰が悲鳴を少し上げたぞ?
お前が焦るから必死に我慢したんだ後で冷やして労ってやれよ?
もっと膝の力を使って反動で蹴り上げるんだ!柔軟を最近怠ってるからだぞ?』
とか聞こえてくる、いや正確には俺の耳は聞こえないんだけどさ。
頭の中にねじ込まれて否応なしに意味を理解させられる。
しかし感謝もしている、こいつの言う事を聞いていれば
体術の動きが良くなり騎士達に褒められるのだ。
朝の訓練が終わり井戸の前に行くと妹のメリアが居た。
俺は樽の中に水を井戸から汲んで入れてメリアに頭を下げた。
「はぁ……もう、ほんとに何も出来ないだらしない人だわ」
そう言って、メリアは詠唱を始めて魔法を使い樽の中に氷を入れてくれた。
俺は再度頭を下げその樽に入る。
『くぅぅぅ、これこれ使った筋肉が収縮されて良い感じに締まって尚且つ炎症起こしてる筋肉にはバッチリ効いてるぜ!』
と毎度言われるので俺は毎日頼んでいる。
メリアも朝の訓練を行っている為井戸でかち合うのだが最初からずっと俺の奇行として扱われている。
両親も弟妹、そして騎士達や使用人も俺が話してる言葉を分かってないと思って
あーだこーだ言っているが……実は口の動きで全て理解している。
騎士や使用人にはよくバカにされているがそれに気付いては行けない。
弟や妹も俺に対して本気では嫌ってはいないが嫌味や可哀想とか言葉を使う。
これに押し潰されてしまえば俺は終わってしまうと本能的に分かっているので今は必死だ。
外で生きて行く為に……
『思いっきり盛大にバラしてやれば?』
くっ……こいつは普段身体の声の他に聞こえるもう1つの声だ。
俺は多分、理性で抑えている本音や本能の声だと思っている。
俺の思考や行動は他の人と何ら変わらない。
しかし、詠唱が出来ない為魔法が扱えない。後会話が出来ないそれ位だった。
なのに自分を変な物として認識している周りの人達に正直うんざりしていたのは間違いなかった。
この2つの声は俺と一心同体の為、考えてる事がすぐに伝わるのでその辺はとても楽だ。
『寂しくないって言えよ!』
まぁ、俺の本性、本音は少し調子乗りらしいとちょっと意外性な1面も見れて嬉しさもあったりする。
5分程、樽の中に入ってると
『お!そろそろ良いぜ、これ以上は意味無いからな!』
と言われ俺は樽の外に出て、樽の中身を捨てる。
体を拭いて部屋に戻ろうとすると目の前から木剣を持った弟ニコラスがやって来てすれ違いざまにその木剣を俺に振り下ろしてきた。
俺は手の甲で木剣の側面を叩き軌道を逸らして回避した。
別に掴んでも良かったのだが……
『そんな癖着いたら、そのうち真剣使われたら手が失くなるぜ』
と言われてゾッとしてからそうしてる。
本を読んで、常在戦陣の心構えだっけかな?
「チッ、クソがっどけよ」
ドンッと押されニコラスはどこかに行ってしまった。
俺は息を吐く。
どうしてこんなに嫌われるのか?
俺はこの家を継がないし、次期当主が常に人に当たり散らしていたらダメだろうとも思うが
『手紙送っても目の前で燃やされっからな!』
そうなんだよなぁ。
ガックリと肩を落とし部屋で着替えて食堂へと向かうのであった。
◇
食堂では俺は常に音を立てずに素早やく食べる事を意識している。理由は……
「アスク兄様はいつもどうして?氷水の張った樽に訓練後入ってるのですか??
あ!すみません聞こえて無いですよね~」
「メリア!」
弟か妹がこの様に俺をからかい、父と母が怒り雰囲気が悪くなるのだ。
俺は食べ終わると父と母と使用人に頭を下げ食堂から出る。
意味が分かってるからこそ結構心に来るものがある。
だからこそ俺は鍛えるのだった。
それから約1年が経ち、俺はついに旅立つ日を迎えようとしていた。すまん嘘だ。
限界を迎えたのだ。
最近、ニコラスの次期当主になる事を成人と共に発表してから使用人達は俺の世話を一切しなくなった。
かろうじて両親の目があるから食事が出てくるが一昨日遂に身体の声が悲鳴を上げたのだ。
『おいっ!お前も味がわからん訳じゃないだろ!
ここ1週間腐りかけの食材ばっかり食わせやがって腹の調子が激落ちだぞ!』
『こっちも我慢の限界を迎えているぞ? お前がしたくないのなら俺が代わってやろうか?
使用人位皆殺しに出来るぞ? お前は優し過ぎる』
もういいや、出ようこの家を。
そして俺は手紙にこう記した。
今まで育ててくれてありがとうございました。
バカにしてた使用人や腐りかけの食材を食べさせる料理人。
毎日食堂や家で聞こえてないだろうとバカにする人々にはもうウンザリです。
除籍するかどうかは好きにしてください。
しかし俺はこの家、ケブロ男爵家が嫌いです一生名乗る事は無いです。
アスク
そして、深夜俺は家を抜け出しザルな警備を潜り抜け領地を飛び出したのであった。
◇ 2話 隣の領地に行こうとしたら隣の国だった。
俺は7日かけて森を突っ走っていた。
夜は木の上や大樹の穴や洞穴で休み只管走りたまに見かける動物や果物を収穫して食べて生活していた。
すると大きな壁が見えて来た。
『おほぉぉぉ!でっけぇ街だな!ここなら働き口が有りそうだな!』
確かに、ここなら何かしら働けそうだ。
しかし、ふと思い出した事があった。
『確かに身分証もお金も持ってないな……おい!
アスク木の棒持っていけ門番は床に書いた文字で事情説明しろ!』
なるほど、自分の心の声なのに頭良いなと思ってしまった。
門の前に着くと体を良く鍛えた兵士が何しにこの国へ来た? と言っている。
ん? 国? あれ? 間違えて隣の領地に行くつもりが飛び越えて隣国に来てしまったらしい。
少し焦ったが地面に文字を書こうとして気付いた。
やっべ、地面石畳じゃん。
アワアワしていると、兵士の人が「どうした? 大丈夫か?」と優しげに声をかけてきてくれた。
俺は、耳と口を指さしジェスチャーで話せない、聞こえないとあーうあーと声を出してみたら兵士さんはにこやかに微笑み紙を持ってきてくれた。
『優しい人で助かったぜ。ふぅ……』
俺は頭を下げて
この国へは仕事を探しに来たが、耳が聞こえず話せないのでソロ冒険者として活動する為に来ました。
口を見れば、話している事は分かります。
お金もありませんが、道中倒した魔石ならあります。
と書いて腰袋を渡した。
兵士さんは少し同情した様な表情を袋の中身を見て一変させ魔石3つを取ると
「これで大体都市入税と釣り合う。私が責任を持ってこれを立て替えておく。通って良いぞ!負けるなよ?」
そうゆっくり言ってくれてバシバシ背中を叩かれた。
俺は頭を下げて行こうとすると1枚の紙を渡された。
そこには、『私は耳が聞こえませんが読唇術を身に付けています。
ゆっくり話してくれるとありがたいです』と『おすすめの宿、鏑木亭』と書かれていた。
俺は感謝の意を紙に書いて見せて街へと入っていくのだった。
応援ありがとうございます!
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