短編集〜ふぁんたじー〜

赤井水

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短編集

大英雄の弟子の冷めた眼Part2

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 ◇ 第4話

「それでロスは明日からどうするの?」

 メルトさんが落ち着いた所で質問してきた。

「ん? 師匠の計画通りに冒険者になるよ?
 まぁなれなかったら冒険者ギルド破壊するけど」

 ニヤニヤと冗談を言ってみる。

「怖っ、ロスあんた怖っ」

 ドン引きされた……あれぇ?
 ダスト村ジョーク効かんとは。

「冗談だよ。まぁ、なれなかったら帝国行こうかなぁ……」

 何か突っかかりを感じているメルトさん。

「ねぇロス? 冒険者になれないなんて有り得るの?」

 あぁそこか。

「んー師匠のせいで供給過多になったせいで何か試験に通らないと冒険者になれないらしい……」

「あー……そういう事かぁ。兄様には困った物よね。
 まぁ、権力に縛られるのが嫌で逃げたのは正解だと思うけどね」

「うーん……権力に縛られるのが嫌って言うより人を殺す事を嫌がったんだと思うけどね。
 師匠は魔物専門だからあれだけ強いのに人と喧嘩するのは見た事ないし」

 そこから2人は師匠について思い出話に花を咲かせた。

 その後、夜ご飯を食べてお風呂に入り結界を張り寝た。



 朝の日の出が上がり始めた頃、俺は目を覚ました。

「ふむ、4人か……」

 結界を破壊しようと動いた人数だ。
 この4人が俺を害するつもりなのかそれとも取り込もうとしたのかは
 定かではないので取り敢えず放置したが原因はすぐにわかった。


 朝ごはんに呼ばれメルトさんと顔合わせてすぐの事だった。

「ロスおはよう!部屋に結界を張るとかズルいわよ!潜り込んでイタズラしようと思ったのにぃー」

 とニヤニヤしながら言われた。

 後ろの老人執事も笑っているので共犯か……

「よし、この館も爆破候補か……」

「ちょ、ちょっと、待って冗談だからジョークだからぁ」

 すんげぇ慌てているが後ろの老人執事の顔色が変わらないのが悔しいので無詠唱で時空眼を発露し。
 隣に転移した。

「!!!?」

 俺は肩に手を置き囁いた。

「やっと顔色変わったな爺さん」

 俺はもう1度転移して席に戻った。
 爺さんは多少額に汗をかいて居るようだ。

「爺の顔色が変わるなんて……兄様の弟子はやばいわね」

 目をぱちくりとさせメルトさんはそう言う。

「いや、師匠は転移した瞬間にぶん殴ってくるよ。なぜ分かるのか聞いたら……」

「聞いたら……?」

 ゴクンと誰かの生唾を飲む音が聴こえる。

「何となくって言われてボコボコにされた」

 皆うへぇって感じになった。

「流石兄様ね。野生の勘を超越してるわっ参考にならないわね」

 皆、うんうんと頷いていた。

「そう言えばメルトさんは今日も館に居るの?」

 俺は一応聞いておく。

「居るわよ。明後日大英雄様の1人がここに来るから対応しないといけないけどね」

 俺は表情を硬くし、ほぼ真顔で質問していた。

「誰?」

 空気が変わった事に驚きつつもメルトさんは答えてくれた。

「聖女ラムよ」

「そうか……狙いは俺か?」

 メルトさんは目を見開く

「ロスそれはどういう事? 聞き捨てならないわよ?」

 俺は眼鏡を外す。

「もう感じるだろ? メルトさん達は魔法を使うんだから……狙いはこれさ」

「ロス魔眼持ちだったのね……」

 悲痛そうな顔をするメルトさん。

 思わず笑いが吹き出てしまった。

「ふはっ、魔眼ならどれだけ良かっただろうな。
 基本1つか2つしか能力を使わないから気付かれないけど。神眼さ」

 部屋にはメイド長、老人執事、メルトさんしか居ないが全員が固まった。

「俺と村長の予想じゃ師匠は俺を狙うのに邪魔だった。だから離そうとしたんだと思う。
 師匠の場合命の取り合いになれば勘が物凄く働くからな。苦手分野で引き離したと見てる」

 メルトさんはそこまで聞くと頷いた。
 俺は話を続ける。

「手紙でここを頼れって書いた理由は大英雄達の動向を掴めるからだな。
 俺の眼を欲しがっているのは2人。聖女ラムと盗賊王サヌキだ。
 サヌキは聖女ラムに望外な値段で売りつけようとしてるんだろうな」

「アイツらに見せた眼の力は1つ。鑑定眼だけだったからな。戦闘力が無いと勘違いしている。
 だからさっさと冒険者になってダンジョンに逃げ込もうとしてたんだけどな」

 そこまで話すと不意にふふふっとメルトさんが笑いだした。

「兄様もレジャーノの系譜に手を出したらどうなるか分かって居たから教えなかったのね……」

 ん? どういう意味だ?
 俺が首を傾げていると

「兄様ことレジャーノに助けられた人間は1000人じゃきかない。
 それに個人的に私や貴方の様に深く助けられた人も居る」

 そこまで聞いて頷く。

「皆こう思っている。レジャーノの為なら命を投げ出せると。
 神に唾を吐けるってね。だからレジャーノ自身で弟子の救援を求めるんじゃなくて個人的に私に渡したのよ」

 そういう事か。
 この人がレジャーノの系譜の門番なのだと
1番信頼の厚い人なのだと理解出来た。

「まぁ、何かしら起きたら俺はこの国を転移で出て行く。
 その時は直接転移してくるよ。間違いの無いように玄関に転移してくるから」

「ん? どういう意味?」

 メルトさんは不思議そうに俺の話を聞いていた。

「人にマーキングするとどうなると思う?」

「えーっとその人の周りに転移する?」

  俺は頷く

「正解だ。大体1m以内の何もない場所に転移する。
 その時その人がプライベート空間に居たら?」

「めっちゃ気まずい状況になる」

「そういう事。昔、初期の頃村長にマーキングしてて転移したら素っ裸で滝行してる最中でめっちゃ気まずい思いしたからな」

「ふーん、んじゃ私にマーキングして」

「話聞いてた!?」

「既成事実……」

ボソッと呟いていたが聞こえてるから

「絶対昨日の事。根に持ってるし、疑ってるよな?」

「何のことからしら~」

 めっちゃ下手な嘘つかれた。

「まぁ、屋敷のどっかにマーキング付けとくわ」

 そう言うと

「爺、全力でロスが出掛けたらマーキングを探して私に移すのよ!」

「ふぉっふぉっ腕が鳴りますのぅ」

「2度と来るかぁこんな所!」

 メイド長さん大爆笑してる場合かよっ。

 朝は楽しく食べれた。
 師匠のおかげで村を出てからも寂しくはなかったなぁと思いいつつも。

 俺は館を出て冒険者ギルドに向かうのであった。


 ◇ 第5話冒険者ギルド

 冒険者ギルドーー

 成り立ちは、腕っ節は強いが頭まで筋肉だった連中に仕事の納期や仕事のトラブル回避の為に作られた組織。

 作られて400年経つと組織は世界で1話大きくなった。
 教会と冒険者ギルドと国の権力の3竦みが出来る程に……

 理解が進み今は

ーー値段次第で犯罪以外なら何でも依頼を受けてくれる何でも屋だ。


 俺は冒険者ギルドの扉を開きカウンターを見る。
 少し遅めに出て来たからか、ガラガラだった。

 丁度ムキムキのオッサンのカウンターは誰も使用しないようだ。
 めちゃくちゃ俺に視線を向けて来ている。


 俺はオッサンの元へ、1歩また1歩と歩みを進めると何故か周りに居る人々がざわめきだす。
 あれ? 何か悪い事してる? と1歩下がるとホッとした様な雰囲気になり、オッサンがしゅんとしょげ始める。

 この不思議な空気と連動感にとても嫌な汗をかく。
 何だ? この行くも地獄、引いても地獄の状況は。

 何か面倒になって来たのでそのままザワザワしたままオッサンの元へ駆け寄った。
 パァっと顔を輝かせ笑顔を浮かべるが恐怖映像だった。
 強面のオッサンの満面の笑みの破壊力と精神破壊力は凄まじかった。

 何か変な圧も出てた気がする。

「ホンジツハドノヨウナゴヨウケンデショウカ?」

 裏返った声でカタコトでオッサンは話し始める。

「緊張してるんかいっ!」

 あ!やべっついつい突っ込んじまった。

「あ、ぁあ。ゔっうぅん。だ、大丈夫だこれで」

 聴きたくない声も聴こえたんだが……
 既に疲れていた。

「新規登録をしたい」

「オーケーだ。さぁすぐに試験に行こう!君の夢はすぐそこだっ!」

 ドゴンッ

 そう言ったオッサンは次の瞬間、机にめり込んでいた。

「……(カタカタブルブル)」

 俺はいきなり過ぎてビビって居た。
 隣のカウンターに居た綺麗な受付嬢が木剣でオッサンの頭をフルスイングしたんだ。

 そしてその後、俺に優しそうな笑顔でニッコリとするもその後ろにはオーガの様な幻覚が見えた。
 その受付嬢は一言

「ちゃんと仕事しろや」

 そして、俺に紙を1枚手渡し。

「こちらに名前と年齢、希望職。これは前衛と後衛どちらでも良いし試験次第で決める事も可能です」

 とすげぇ有能な姿を見せられた。
 別人なのでは? と思いつつも先程めっちゃ怖かったので無言でコクコクと頷いて速攻紙は書いた。

「ありがとうございます。えーとロスさんですね。15歳でソロ希望?」

 そこに疑問を持ちつつも試験の説明をし始める。

 試験は対人戦でそこでの評価次第でランク決めを行い
 戦闘力が無い人に関してはGランクという見習い扱いになり
 雑用依頼を受けて日銭と定期的に開催される無料講習を受けて戦闘力を着ける様だ。

「試験はすぐに受けれますがどうされますか?」

「あ、ではします」

 俺は即答した。

 俺はカウンターを少し離れるとオッサンが頭をガンガン叩かれ起こされていた。
 どっちが上司なのだろうか?とちょっと社会が怖くなった。
 荒くれ者が多い冒険者ギルドの受付嬢はあれくらいの気概が無いと勤まらないのだろうがあの扱いはヤバいと思ったが。

 頭をわしゃわしゃ撫でながらオッサンがカウンターから出て来て手招きをする。

「んじゃ地下に試験をするスペースがあるから着いて来い」

 俺は言われた通りに追い掛ける。
 地下への階段を降りるとそこは結構広いスペースで
 ギルド所属の冒険者が鍛錬する場所の様で試験用と書かれた4分の1だけは誰もいなかった。

「使う武器はここから選んでくれ。斧でも剣でも大体の重さに合わせて木で作ってある」

 樽の中に大剣や剣等の様々な大きさの木の武器があった。

 俺は少し悩む。
 使える武器は何でもできる様にするのがレジャーノ流なのだ。
 レジャーノも大剣と剣、普通にどちらも達人並に扱えるので
 俺は悩みつつも適当にナチュラルに天邪鬼発動して槍を持った。

 選んだ槍は短槍、普通の槍の3分の2位の長さで
 しなりが少ない変わりに取り回しが効くので素早い動きに合わせる事が出来る。

「槍で良いのか? なら俺は大剣使いなので大剣で行こう」

 オッサンが構えを取る。
 前傾姿勢を見て猪突猛進型と判断する。

 大剣の動きは斜めか縦の真っ直ぐな振り下ろし
 距離がある状態で横に振るのは隙が大きいからな。

「試験開始っ!!」

 オッサンはそう言うとやはり突っ込んで来た。

 俺も替え声と同時に突っ込み、牽制代わりに顔面付近に突きを3発放つ。

 オッサンは大剣の腹でそれをガードすると同時に
 力を抜き急に振子のように大剣を横に振り下ろした。

「うおっ、意外と技巧派だったのか……あのぶっとい腕で関節柔けぇな」

「む? 随分と剣に明るいな。剣も使えるのか?」

 俺はニヤリと笑い

「さぁね?」

 と答えた瞬間に大剣柄に向かって突きを放つ。
 狙いが分からずワンテンポ遅れた事で出来た隙を利用して
 俺はすれ違いざまに短槍の石附でオッサンの脇腹を打ち込んだ。

「ぐむ、ご、合格」

 と膝を着くオッサン。

「あ? 合格? よっし。さっさとダンジョン潜りてぇなぁ」

 と俺はオッサンが持ってた大剣を奪いさり短槍と一緒に片付けた。

 そのスピードを見てポカーンとするオッサン。

「ま、待て!」

「んぁ?」

 俺は振り返ると強面の面がすぐ目の前にあった。

「うおっどーしたオッサン? そんな怖い顔して」

「怖い顔は生まれつきだっ!スピードが試験の時とは桁違いだった。手加減してたのか?」

「は?」

 そんな質問をしてくるオッサンに逆に今度は俺がポカーンとする羽目になった。

「え? これ戦闘力っていう技術を見せ合う試験じゃないの?
 魔物を相手取り屠る力なら力かスピードで相手を凌駕して
 何もさせないのが師匠からの教えだからな。人相手には制圧する訓練しか受けてない」

 俺は真面目に答えるとオッサンは怖い顔がくしゃくしゃに歪んで笑い始めた恐怖映像だ……


「ガハハ、そういう事か!ならFでも足りんな!
 最高限度のEにしよう。何か推薦状は無いのか?」

 そう聞いてくるので俺は首を横に振った。
Eで良い。目立ちたくないという理由からだった。

「ならさっさと登録するぞ!ガハハハハ」

 ご機嫌のオッサンの後を着いていくと道が自然と開いていた。
 魔法使い系の女の子何て「ひぃぃ」と悲鳴上げて腰抜かしてたぞ……


 俺達2人はカウンターへと戻る為に出入口へと向かった。



 階段を上がり始めると上から怒声が聴こえる。

「何だ? アイツら何を揉めてるんだ?」

 オッサンは少し足を早めて階段を駆け上がって行った。

「おい!何を騒いでやがるっ!」

 オッサンが怒鳴ると、オッサンに負けない程の強面が「うひっ」と可愛い悲鳴を小さく上げた。

 シーンと静まり返った中で1人の青年がオッサンに声を上げた。

「おい、お前がここの責任者か? 何故私が登録出来ない? ふざけるなっ!」

 俺はその青年を見る。
 鎧や剣は金ピカの金髪の美青年……

 俺はうげぇとなった。
 多分何処かの貴族の子息だろうな。

 そこで受付嬢が声を出す。

「だーかーらー言ってるではないですかっ!
 最初は最高でもEランクまでって言ってるではないですか!
 最初からBランクにしろなんて無理ですよ!
 試験も嫌、でもランクだけ上にしろなんて横暴ですよぅ……」

 そこで金ピカ鎧の隣に居た兵士の格好をした人が声を荒らげる。

「何を言っている、この人が誰だかわかっているのかっ!?」

 皆そこで首を傾げる。

『お前誰やねんと……』


 オッサンは普通に空気を読まず聞いちゃう。

「ん? 誰だお前?」


 ピクピク震えながら癇癪を起こした子供の様に喚き出す青年。

「私はアロンコマ伯爵の次男!ケルト・アロンコマだっ!」


 そう言うが周りは"あっそう?"という反応だけだった。
 冒険者は実力主義なので基本的に貴族だろうが関係ないからな。

 オッサンがそれを見て

「そうか、私はここのギルドマスターのデルタ・カスケードだ。ここの責任者でもある」

 それを聞いて驚くのは俺の方だった。

「オッサンがギルドマスターかよ……」

 その言葉が聞こえたのか? ニヤリと口角を上げてこちらを向いた。

「 それで? ケルト殿冒険者ギルドでは高ランク登録の場合、推薦状+試験でランクを付けている。
  それは依頼を受けた時に死なない様にする為だ。高ランクは緊急時に依頼を強制的に受けないといけないからだ。
 さてケルト殿は国やこの街に危険が及んだ時に体を張って護りに出ていただけますか?命を懸けれますか?」

 そう言われると青筋を立て喚き出す。

「何故そんな事をしなきゃならないんだっ!貴族を守るのが平民の仕事だろうがぁ!」

 この国の貴族はやっぱり腐ってるな……
 貴族を平民が護る理由は善政を敷いてる場合のみだ。

「ロス、お前は登録を進めていてくれ準備は出来ているから」

 ギルドマスターがケルトを奥に連れて行こうとすると
 目敏く俺に話し掛ける姿を見てケルトが面倒な事を言い出した。

「何だ? そのガキは。そんなガキでも入れる組織なのに何故こんなにも融通が効かないのだ?」

 ニヤニヤしながら挑発するも俺は無視してカウンターの受付嬢の元へ行く。
 試験結果の書いてある紙を渡し

「あ、これ試験結果です。登録お願い」

 と声を掛ける。

「え? E合格判定……おめでとうございます」

 と困惑しているが準備を始める。
 すると後ろから何か頭に当たる感触がして振り返ると

 そこには手袋が落ちていた

 ◇ 第6話貴族って奴は面倒臭い


 白い手袋を見つめ、どうしようか困る。
 これって貴族同士にしか通用しない手口なのである。

「何故拾わん、臆病風に吹かれたのか?」

 ニヤニヤしながら俺を睨んでいるケルト。

「いや、俺は貴族じゃないんで布投げないで貰えます?
 そしてあなたはまだギルドにも入ってない一般人扱い。
 ここで決闘を受けると俺の査定に響くので」

 あ、顔真っ赤になり始めた。

「貴様、無礼だぞっ!」

 俺はポケットに手を突っ込みながら異空間にしまった手紙を探していた。
 確か……貴族に効くメダル風のバッチがあったはず。


「あ、あった。これだ」

 俺は手紙の袋からバッチを取り出す、金に輝く趣味の悪いバッチには星が5つと獅子と剣が描いてある。
 冒険王レジャーノとの関わりを現すバッチだ。

 大英雄達は魔王討伐の際にバッチを渡されている。
 大英雄の証明に星5つそして各個人を現す象徴を描いてある。

 盗賊王サヌキならバンダナと鍵ってな感じで聖女ラムなら女神像が描いてある。

 それをケルトに見せると

「貴様ぁぁそれを何処から盗んで来たこの汚いゴミがぁぁ」

 と怒鳴られた上に奪われた……

 あれぇ? 全く効かないんだか師匠どゆこと?

「これを盗むとはいい度胸だここでぶった切ってやる」

 剣を抜くケルト
 俺はため息をつく。

「ならそれはやるよ。裏に製造番号がある。 
 バッチは渡した相手を国に報告する義務がある。確認すれば良いさ」

 俺は袈裟斬りに振り下ろした剣を余裕をもって避ける。
 そしてオッサンことギルドマスターを見る。

「オッサン、冒険者ギルドへの登録は拒否するわ」

 俺は眼鏡を外し魔力を込め始める。

「この国は腐り過ぎている。何故こんなにも馬鹿な奴が多いんだ?」

 掌に魔力障壁を張り剣を弾く、弾き続ける。

そして瞳の色を赤に変える。
脅威メナスの眼」

 相手に威圧や恐怖感を与えたり危険察知をする為の魔眼だ。
 有効範囲が半径2mなので周りに居る連中も威圧してしまうが関係ないだろう……


 あ、ケルト気絶した。

「ぐっ、ロスその力は……」

「さぁな、冒険者なら手の内は明かさないそれが基本だろ?
 人の未知に踏み込むなら未知に逆襲される覚悟を持たないと」

 俺はそう言うと時空眼による転移で移動した。



 メルトさんの屋敷の入口に転移した筈なのだが……

 転移直後の一瞬の浮遊途中の無防備な状態の所、抱き着かれた。

「確保ーロス確保よ確保!」

 俺は抜け出そうとするも、くそっ流石に師匠に鍛えられてるだけはある。

 いつの間にか完全に抱き着かれていた。

「メルトさん? 俺帝国行かなきゃ「ダメっ!ヤダよう……」ごめん……」

 俺はメルトさんの頭を撫でていた。

 涙目になりつつメルトさんはジト目で俺を見つめる。

「そういうとこよ……兄様にそっくり。嵐の様に現れて風の様に消えてく。存在感や寂しい気持ちだけを振り撒いて」

 俺の胸の中で泣き始めちゃった。

「遅かれ早かれだったろ……明後日、聖女ラムが来るんだったら俺はこの屋敷から出てたしな」

「むぅ……」

 口を尖らせ離れてくれないメルトさんに苦笑いしてしまう。

「それにさっきギルドで貴族に絡まれて返り討ちにしちゃったし
 どの道この国じゃ俺は生きられんのよ」

 とポリポリと頬かく

 メルトさんは目を見開くと次の瞬間には激怒していた。

「どこのバカよ!レジャーノ兄様の直弟子に喧嘩売った奴はって
 あれ? ロスあなたレジャーノ兄様のバッチ持ってなかったっけ?」

 顔を百面相しながらそう問いかけてくる。

「んー信じて貰えずバッチも取られちゃった」

 アハハーと渇いた笑みを浮かべる。

 ちょっ、魔力、魔力と殺気が漏れてる、漏れとるよメルトさん。

「名前……」

「へ?」

「そのクソバカの名前を教えなさい!」

 悩む、既に終わった事だからちゃんと覚えていない……

「ア、アダンコマ? コロンコロン伯爵の次男とか言ってたっけな……」

 ポカーンと口を開けて居たメルトさんはフリーズから一転笑いだした。

「ふふふ、ロスにとっては最早どうでもいい事なのね!アロンコマ伯爵の次男よ」


「あー多分それ。バッチの製造番号は002ね。
 村長が001で一緒だからって俺に002を送って来たから。
 それにしてもあれって効果ないんだねぇ」

「え? ほんとに効果無かったの?」

 最早呆れた様子だった。
 後ろに俺に抱き着いた辺りから控えている執事の爺さんとメイド長さんも驚いている。

「うん、どっから盗んで来たんだ!ってひったくられた。
 なんか決闘挑まれるし、平民にそんなアホなルール無いってのにね」

 更に呆れられた。まぁ、俺とアロンなんちゃらの双方にだろうけどね。

「うへぇ、これどうするの? 爺、衛兵隊もしくは領主に報告よろしくね。
 本人は面倒事を嫌い国へ失望。他国に出奔したとね。
 あ!兄様の直弟子だったとも報告してね」

 俺は意味がわからなかった。

「メルトさん、師匠の弟子が国から出たってそんなに重要か?」

「当たり前じゃない!6大英雄の弟子を1人のアホによって国から追い出したのよ!
 国からしたら有望な人材の流出させた上に犯罪者扱いしたのだからね」

 頬を膨らませ、人差し指を立てて説明をしたメルトさんだった。

 いーかげん離してくれないかなぁ。


「!!?は? チッ」

「ロス?どうしたの?」

 俺は常に発動している、脅威の眼と千里眼に入った情報についつい舌打ちしてしまった。

「メルトさん事情が変わった。別れの挨拶の時間が少なくなった……」

 少しの間を置いて告げた。

「聖女ラムが街に入った。俺が居る事の情報を聴いて急いで来たんだろうな。
 手練が15人だ。メルトさんに危険が伴うだろうから
 さっきのなんちゃら伯爵の子供のせいで国から出て行ったって情報を渡していい」

 全員に緊張が走る。

 メルトさんは涙を浮かべながら怒り出した。

「嫌っ、絶対話さない。聖女ラムが何だって言うのよ!」

 俺の胸に顔を埋めて泣くメルトさんに優しく語りかけた。

「1人ヤバいのが居るんだ。6大英雄とほぼ同格の騎士しかも既に俺が感知した事に気付いてやがる」

 その言葉にメルトさんは肩をビクつかせた。

「大英雄達の中ではサヌキとラム以外は街を一瞬で壊滅出来る。
 あの人達よりかは数段落ちるだろうけどそれでもサヌキよりは強い。
 街に居る高ランク冒険者10人でやっと互角って所だが
 一緒に居るクソ女のせいでほぼゾンビ特攻も出来る。状況は最悪だ」

「ねぇ、ロス?」

「ん?どした?」

「約束して? 絶対生き残る事、そして手紙を送る事!
 貴方の能力なら空間転移で手紙を送る事位余裕でしょ? マーキングもしてあるのだから」

 そこは俺が折れた。

「あーわかったよ。メルトさんの部屋にマーキングしておいた。直接送るよ」

 そう言うと、メルトさんは離れた。

 俺は頭を撫でて笑顔を見せた。

「じゃーな、師匠の気持ちがアイツらのせいでよく分かるよ。追い掛けられるのも楽じゃないわ」

 そう言って俺は千里眼と時空眼を使い転移した。


 俺は昔、師匠と帝国に行った時に使っていたポイントに転移した。

「はぁ……結局振り出しに戻るか。
 まぁ、なんだかんだいってメルトさんとの生活は楽しかったからプラスかな?」

 そう思いつつも少しの寂しさを感じて、俺も大概甘いヤツなんだな? と思うのであった。

「さぁ、力こそあれば成り上がれんだろ? 帝国ではさっさと面倒事は起きずに上に上がれっと良いんだけどなぁ」

 俺はそうして、帝国の1番端から入国するのであった。

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