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短編集
職業狩人がいつの間にか神弓師になってました
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俺は、息を潜めスキル『遠見』を使う
『遠見』とは30M位先の距離を見る事が出来る視力強化のスキルだ。
そこに1匹の猪が現れる
俺は矢を3本番え構えて弦を引き絞り指を離した
「シュッ」
1本目の矢は真っ直ぐに飛んで行き、猪の脚に刺さる
「プギィー」
ビクッと跳ねて驚く猪
2本目の矢は、俺から見て右に軌道を湾曲して進み逃げようとした猪のお尻に刺さる
「プギャァッ」
3本目は左に軌道を湾曲して進み脳天に刺さり
猪は悲鳴を上げる事無く絶命した。
「よし!今日の肉と材料の確保出来た」
猪は有用だ。牙は弓の鏃になり毛皮は服やカバンになる。
そして、肉は俺の糧となる
俺は猪の近くに駆け寄り大きさを確認すると
「いやーデカイなぁ2mはあるかな?しばらくは飯に困らんなぁ」
俺は直ぐに首に切り付け後脚にロープを括り付けたら太めの木の枝2ヶ所に支点を作り
そのまま200kgはあるであろう巨体を持ち上げ血抜きを始める。
血抜きを始めて最初に行うのは血によって柔らかくなり始めた土を掘る
血を溜める為だ。掘らないで血抜きをすると血の匂いが広範囲に広がってしまい余計な獣を誘き寄せてしまう
だからこそ穴は大事なのだ。
「最近、弓の調子が良いなぁ。はっ!もしかしてクラスアップ?いやいや俺みたいなのがねぇする訳ないよな……」
クラスアップとは10歳になると教会からの
『祝福の儀』で職業が与えられる
その職業のクラスが経験値上限になると上位職業になれるというのがクラスアップだ
戦闘職で言うと武器職と魔法職と複合職に別れる
武器職は
剣士・戦士・槍士・弓士
魔法職は
魔法士・僧侶・回復術士
複合職は
魔法剣士・拳闘士・斥候
といった感じで簡単に振り分けられる
非戦闘職業は
商人や農民等、その道のプロになれる職業が沢山あった。
俺が生まれ育った村は辺境の田舎村だった為3年に1回しか教会の儀式が出来る人が来てくれず
毎回10~13歳の子供達が儀式を受ける
「ふむ、カウス君?君は弓士の上位の狩人だね」
「おぉ、ありがとうございます!」
俺は戦闘職の基本職では無くその上の職業を受け取れた
後ろを振り返るとニコニコと金髪のツインテールをぴょこぴょこと跳ねさせて笑顔でこちらに向かって来る女の子。
「良かったねお兄ちゃん!私も行ってくるね!」
「ハル!緊張すんなよ!」
俺は3つ年下の妹を送り出す。
ハルは俺の唯一の肉親だ、両親は4年前に魔物の襲撃により死んでしまった。
最初は悲しくて悲しくて押し潰されそうだったけど俺にはまだハルが居た。
幼い妹を守ろうと言う気持ちだけが俺を奮い立たせてくれた。
幸い、村の周り人の助けもあり兄妹2人でも何とか暮らしていけたのだ。
何か騒がしいな?そしてハルが最後だったのにいつまで時間が掛かるのだろうか?
俺は不安になり、儀式会場に入って行くと。
ハルは教会の人に囲まれていた
俺はすぐに飛び出し、間に割って入った
「お兄ちゃん!」
ハルは震えながら俺に抱きついて来た
「何なんですか?あなた達は?どうして妹を?」
俺は怪訝な表情を浮かべ教会の人に質問をする
「ん? 君はカウス君と言ったっけ? ハルさんはとても素晴らしい職業でね?
是非とも我々と共に王都に来ないか? と勧誘してたんだよ」
俺はハルに真偽を確かめる為に声を掛ける
「ハル?そうなのか?」
「そうだけど……でもお兄ちゃんも一緒にって言ったら私だけって言うから断ろうとしてたの。そしたらこの人達しつこくてね」
ちょっと俺は大事な妹の意見を尊重せずに勧誘という教会に不信感を抱き始めていた。
「へぇ、勧誘では無く強行かぁ。それは残念ですね。ハルも拒否してるみたいなので帰らせて頂きます」
俺は、ハルの手を引っ張りここから逃げる様に外に出ようとする。
ここの匂いは先程からヘドロの様な悪意の臭いがする。
「おっと、まだ話は終わってねぇぜっ。オラッ!」
いきなり鎧を着た男が目の前を塞いだと思うと腹を殴られた
「うぐぅ」
「お兄ちゃん!」
すかさず、鎧の着た男は俺を蹴飛ばし踏んずけた
「オラッ!たいした職業でもねぇくせに出しゃばって来てんじゃねぇぞ」
「ぐへぇ」
それは戦闘訓練もしてない素人にとって心を折るのには充分だったと思うが
それは1人だった場合だ。後ろにはハルが居る
ゾンビの如く、俺はふらつきながらも立ち上がる
「うぅ、お兄ちゃん……」
くそっ!もう既にハルは泣いてしまっている
「か、帰りますよ? こんな暴力的な組織に妹を任せる事は出来ません」
俺は、そう言い放ち外に向かおうとすると
目の前の男は遂に、武器を抜いた。
「てめぇはとことん俺をバカにしてるみたいだな? さっき俺が何て言ったか覚えているか?
出しゃばって来んなって言ったよな?」
青筋を額に出し、武器を構える
「もういい。もうイイよ……お兄ちゃん。私、この人達に着いて行くよ」
ハルがそんな事を言う。
「は?何を言ってるんだハル?」
俺は振り返りハルの顔を見ると絶望した顔をしていた。
ーーガンッ
俺の意識はそこまでだった
しばらくすると俺は儀式会場に1人で気を失っていたーー
気が付いて辺りを見回すが、誰も居なかった。教会の奴らもハルも
「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉ」
その日から俺は、村でも腫れ物扱いになり、
妹を連れて行かれたクソ野郎として石を投げられたりした。
ある日の深夜、俺は何か焦げ臭いと起きた。
目の前では炎が上がっていた。
しかも入口から。これは有り得ない
火が起きる場所は台所だ。
それが入口からという事は放火されたのだろう。
もう良い。俺は職業狩人のスキル
『気配希薄』を使いバレない様に裏口から弓と僅かなお金を持って村から出たのであった。
あれから5年、俺は辺境の更に奥の未開拓地域に入り込み獲物を狩っていた。
ハルを守れなかった事は未だに悪夢で見る程後悔もしているし、教会の奴らを恨んでも居る。
でもそれにはまず力が足りないと思ったのだ。
力が足りないから妹を連れて行かれた。
力が足りないから家を焼かれた
力が足りないから理不尽に立ち向かえなかった
だからこそ力を求めた。
あれから5年、妹への想いは全く枯れず逆に怨嗟の念は燃え上がっている。
そろそろどれだけ力を付けたのか試す時期に来たと思っている。
この森には主が居る
誰もがその存在を知っていて尚且つ力の誇示や判断材料になる主はワイバーンだ。
冒険者ギルドが発行している魔物の脅威度ランクはB-の評価だ。
魔物に相対する冒険者にはランクが有りこのランクによって脅威度のランクに対応する
ランクはS~Fランクまである。
Sランク《世界的英雄》
Aランク《国家戦略級》
Bランク《一騎当千級》
Cランク《兵団戦力級》
Dランク《普通冒険者》
Eランク《駆け出し冒険者》
Fランク《素人》
こんな感じに区分されている。
見てわかる通り個人ランクでCランク以上の冒険者は人間では無いと言われている程の化け物扱いされている。
ワイバーンはB-の評価なので、個人のCランク冒険者複数、又はCランクパーティーが複数当たって勝てる
Bランク冒険者やBランクパーティーの場合は単騎で勝てる扱いだ。
もし俺が単騎で勝てれば、Bランク又はCランク冒険者上位並の力を得たと力説出来る証拠になる
ワイバーンに関して言えば弓使いは相性が良い
遠距離から攻撃して叩き落とせば比較的作戦が立てやすいからだ。
5年前ハルを奪われた。
家族の思い出の家を奪われた。
怨み? 確かに奪われた怨みはあるがいいや違う。
本当はあの時に何も出来なかった自分自身を怒り憎んでいる
だからこそこんな魔物や獣が蔓延る森の中で暮らしている。
血抜きが終わった猪を見て、物思いに耽り過ぎた事を反省する
穴を埋め、近くに隠しておいた台車を持ってきて川に運ぶ
川の近くに来たら解体した肉を冷やす。
そして内蔵は捌いて川で洗いすぐに焼いて食べる為に分けておく
皮は洗い天日干しにして牙も洗って天日干しにする
"キャー"
遠くで悲鳴の様な声が風に乗って聴こえて来た
「んーまたか……最近何だってこんな僻地に人が来るんだ?」
数年前までは辺境の更に奥の未開拓地だったので1年に1度、多くて2度位しか来なかったのだが
ここ最近急激に人が増えて魔物に襲われている
「検索:付近、魔物、襲われている人」
俺はある日使える様になったこのスキル。
正式名称は分からないが便宜上検索と呼んでいる。
右目が光ると先程提示した条件に該当する場所が見えて尚且つ感覚的に場所が分かる。
俺はその場所の方に弓を向け、4本矢を放つ
後は、肉を洗い冷やしながら飯の準備を始める。
「お!魔物は倒したな?はぁ、またこいつかよいい加減諦めて帰ってくれないかな?」
魔物に襲われていた奴はここ最近何回も魔物に襲われている奴だった。
正直迷惑なので木の板に腰布に入れていた炭を出し
"力無きものは帰れ。次は助けない"と書いて
検索で探し矢に板をくっ付け放った。
「ふぅ、周りをキョロキョロしてるけど居ねぇよ」
俺はそんな事を独り言ちる
彼女が何者なのかは知らないが、この森でそんな無警戒ではすぐに死んでしまうだろう。
この森で長く過ごすなら斥候系統か弓士系統の職業を持ってないと難しい
明らかに剣士風の彼女では逆立ちしても無理だ。
「やっと帰ったか……そう言えば俺の職業って何なんだろうな?」
ある一定の経験値とこうなりたいという願望により職業は進化して行く。
しかし明確な進化の瞬間がある訳では無く、
ある日何となくスキルが増えた。何となくいつもやってる事がそう言えばやりやすくなったと熟練度が上がっているのだ。
だからこそ何かあれば、冒険者ギルドや鑑定士というお店に行かないといけない。
鑑定士は有能な為狙われる。なので鑑定士は個人で店を開くとなると防衛費にお金を湯水の如く使うのでそれに従って利用料金が高い。
一方冒険者ギルドと言った各種ギルド専任鑑定士は防衛費は一切必要無い。
ギルド内に居るガラの悪い連中や守衛が全員勝手に守ってくれる。
そして誰が鑑定士か特定出来ない様になっているらしい。
「主を倒した後は冒険者ギルドに行って職業判定だな。検索が使える様になってる時点で職業は進化してるだろうからな」
俺は、肉を冷やしてる間に拠点に戻り鍋とフライパンを持ってくる。
これは検索を得た時に冗談で『フライパン』何て検索かけたらマジであったのだ。
しかも錆びておらずラッキーであった。
そしてここで死んでいた人は病気で亡くなった様でまだ死んでから2日から1週間も経っていなかった様で遺体を燃やした。
この人の荷物を全て拝借させて貰った。
馬は逃がしてやったのでまぁ、楽しく暮らして居る事を願うが人に飼われて居たので魔物や獣の腹の中にいる方が可能性が高いだろう。
俺は猪の肉を切り分け山菜を出し、脂身を先に入れて炒め始める。
料理を作って飯を食べた後は燻製肉を作って拠点へと戻るのであった。
「はぁ……ハルの奴元気かなぁ?」
ふと、思った。
あれ? 検索って付近の奴しか使えないと思ってたけどなら無意識に検索条件に俺は付近をいれていたのだ?
「もしかして俺は思い違いをしていたのか!?」
ガバッと飛び起きる!
震えながら検索条件を読み上げる
「検索:カウスの妹、ハル」
右目が光、映像が脳内に映る
それは大人になった妹や友人達の入浴中の映像だった。
ブハッーー
鼻血が飛び散り、目が充血して呼吸が荒くなり次第に
ーーバタンッ
倒れるのであった。
◇
カウスが目が覚めたのは次の日の朝だった。
「んーあれ?俺どうしたんだっけ?」
昨日の事を思い出す、ハルを検索で見てお風呂覗いちまって倒れたんだった。
取り敢えず、昨日の感覚を思い出してその方角に向かって土下座する。
「眼福でしたっ!!それとスマン。この秘密は墓場まで持っていかなくては」
そう決意するのであった。
カウスは毎日のルーティンを始める。
顔を洗い、体の不調が無いか確認しつつ柔軟体操をして、武器の点検。
最後に拠点のカモフラージュをして燻製肉を食べながら主のもとへ向かう。
1時間後、主の付近までやって来た。
「検索:ワイバーン、主」
右目が光、脳内に映像と大まかな自分との距離を測る。
そしてロックオンする。
「さぁ、始めよう。目から行こうか」
カウスは2本の矢を番え、検索のロックオン効果の範囲指定。
「ワイバーンの両の眼へ」
最近はこの効果と、矢を射出すると風を纏って矢が飛んで行く
バシューー
脳内映像で狙い通りに、当たった事を確認。
ワイバーンはパニック状態だ。
『ギャアアァァァァ』
とワイバーンの悲鳴をこちらでも確認する。
カウス流狩りの極意
極意1:徹底的に狡猾であるべし
極意2:常に自分が弱者と想定すべし
極意3:武力だけが力では無い総合力で勝つべし
この通り、狡猾的に目を潰した。
次は、この適当に暴れている状態でも攻撃をくらえばお陀仏する自信はあるので。
すぐさま、矢を3本番え放つ、2本は羽の付け根へ1本は口の中へ。
さぁ、森の主よ。恐怖に怯えもっと狂えさすれば俺の勝ちが近くなる。
傲慢では無い、想定内通りに動いている。
ほら来た。
ワイバーンは口を開け首を震わせ始める。
ブレスの予備動作だ。
すかさず、4本の矢を放つ。
「んー……決め手が欠けるか。やっぱりこれしかないかな。
無用に痛めつけるのも生き長らえさせるのも失礼だな」
「【弓召喚】」
パァーっと右手が光るとそこには白と緑の装飾をされた弓が手の中に収まる。
「森の主に敬意を俺を強くしてくれてありがとう」
森の主は沈黙した。
しかし、15分は弓を構えて残心する。
もういいかなと思ったタイミングで弓の弦を引くと光輝いた矢が現れる。
狙いと本数を念じて射出する、矢は上空で指定した本数に別れワイバーンの尻尾に到達して尻尾を引きちぎった。
「よし!死んでるな。えー……っと素材って皮膜と牙と爪だったよな?
尻尾は毒のリスクが高いから放置だな」
弓士は1度でもランクアップすれば弓召喚出来る。
俺は戒めとして今日まで余程の事が無い限り使って来なかったが久々の全開放の矢の命中痕を見て絶句した。
尻尾辺りがクレーターだらけになっていたからだ。
「……んへ?封印しようかな?」
やっべぇこんなにいつの間に威力上がってたんだよ?
最後に使ったの5年前だろ? 俺どんだけ成長してんだよ!?
考えても見て欲しい、未開拓地即ち魔物の領域で一般手作りの弓矢で戦闘してたのだ。
馬鹿げた威力になっても仕方ないだろう。
俺は討伐証明と素材を持ち特製ロープで縛り。
拠点の荷物を片し始める。
最後に拠点を見回しこの5年間を振り返る。
吐き気がする、何度この地で血を吐いたのだろう。
それでも言わずにはいられなかった。
「俺に力をくれてありがとう。ハルを連れ戻しに行ってきます!」
『俺に力をくれてありがとう。理不尽な暴力を行った奴らを殲滅してくるよ!』
心の内側と発言の内容は微妙に違えどまずは妹への接触だ。
「検索:1番近い、冒険者ギルド」
右目が光大まかな位置を把握。
それに従って振り返る事も無く歩き始める。
右目はスキルの光と妹への希望の光を宿らし、左目には憎悪と怒りを携え
カウスの冒険は始まるのであった。
『遠見』とは30M位先の距離を見る事が出来る視力強化のスキルだ。
そこに1匹の猪が現れる
俺は矢を3本番え構えて弦を引き絞り指を離した
「シュッ」
1本目の矢は真っ直ぐに飛んで行き、猪の脚に刺さる
「プギィー」
ビクッと跳ねて驚く猪
2本目の矢は、俺から見て右に軌道を湾曲して進み逃げようとした猪のお尻に刺さる
「プギャァッ」
3本目は左に軌道を湾曲して進み脳天に刺さり
猪は悲鳴を上げる事無く絶命した。
「よし!今日の肉と材料の確保出来た」
猪は有用だ。牙は弓の鏃になり毛皮は服やカバンになる。
そして、肉は俺の糧となる
俺は猪の近くに駆け寄り大きさを確認すると
「いやーデカイなぁ2mはあるかな?しばらくは飯に困らんなぁ」
俺は直ぐに首に切り付け後脚にロープを括り付けたら太めの木の枝2ヶ所に支点を作り
そのまま200kgはあるであろう巨体を持ち上げ血抜きを始める。
血抜きを始めて最初に行うのは血によって柔らかくなり始めた土を掘る
血を溜める為だ。掘らないで血抜きをすると血の匂いが広範囲に広がってしまい余計な獣を誘き寄せてしまう
だからこそ穴は大事なのだ。
「最近、弓の調子が良いなぁ。はっ!もしかしてクラスアップ?いやいや俺みたいなのがねぇする訳ないよな……」
クラスアップとは10歳になると教会からの
『祝福の儀』で職業が与えられる
その職業のクラスが経験値上限になると上位職業になれるというのがクラスアップだ
戦闘職で言うと武器職と魔法職と複合職に別れる
武器職は
剣士・戦士・槍士・弓士
魔法職は
魔法士・僧侶・回復術士
複合職は
魔法剣士・拳闘士・斥候
といった感じで簡単に振り分けられる
非戦闘職業は
商人や農民等、その道のプロになれる職業が沢山あった。
俺が生まれ育った村は辺境の田舎村だった為3年に1回しか教会の儀式が出来る人が来てくれず
毎回10~13歳の子供達が儀式を受ける
「ふむ、カウス君?君は弓士の上位の狩人だね」
「おぉ、ありがとうございます!」
俺は戦闘職の基本職では無くその上の職業を受け取れた
後ろを振り返るとニコニコと金髪のツインテールをぴょこぴょこと跳ねさせて笑顔でこちらに向かって来る女の子。
「良かったねお兄ちゃん!私も行ってくるね!」
「ハル!緊張すんなよ!」
俺は3つ年下の妹を送り出す。
ハルは俺の唯一の肉親だ、両親は4年前に魔物の襲撃により死んでしまった。
最初は悲しくて悲しくて押し潰されそうだったけど俺にはまだハルが居た。
幼い妹を守ろうと言う気持ちだけが俺を奮い立たせてくれた。
幸い、村の周り人の助けもあり兄妹2人でも何とか暮らしていけたのだ。
何か騒がしいな?そしてハルが最後だったのにいつまで時間が掛かるのだろうか?
俺は不安になり、儀式会場に入って行くと。
ハルは教会の人に囲まれていた
俺はすぐに飛び出し、間に割って入った
「お兄ちゃん!」
ハルは震えながら俺に抱きついて来た
「何なんですか?あなた達は?どうして妹を?」
俺は怪訝な表情を浮かべ教会の人に質問をする
「ん? 君はカウス君と言ったっけ? ハルさんはとても素晴らしい職業でね?
是非とも我々と共に王都に来ないか? と勧誘してたんだよ」
俺はハルに真偽を確かめる為に声を掛ける
「ハル?そうなのか?」
「そうだけど……でもお兄ちゃんも一緒にって言ったら私だけって言うから断ろうとしてたの。そしたらこの人達しつこくてね」
ちょっと俺は大事な妹の意見を尊重せずに勧誘という教会に不信感を抱き始めていた。
「へぇ、勧誘では無く強行かぁ。それは残念ですね。ハルも拒否してるみたいなので帰らせて頂きます」
俺は、ハルの手を引っ張りここから逃げる様に外に出ようとする。
ここの匂いは先程からヘドロの様な悪意の臭いがする。
「おっと、まだ話は終わってねぇぜっ。オラッ!」
いきなり鎧を着た男が目の前を塞いだと思うと腹を殴られた
「うぐぅ」
「お兄ちゃん!」
すかさず、鎧の着た男は俺を蹴飛ばし踏んずけた
「オラッ!たいした職業でもねぇくせに出しゃばって来てんじゃねぇぞ」
「ぐへぇ」
それは戦闘訓練もしてない素人にとって心を折るのには充分だったと思うが
それは1人だった場合だ。後ろにはハルが居る
ゾンビの如く、俺はふらつきながらも立ち上がる
「うぅ、お兄ちゃん……」
くそっ!もう既にハルは泣いてしまっている
「か、帰りますよ? こんな暴力的な組織に妹を任せる事は出来ません」
俺は、そう言い放ち外に向かおうとすると
目の前の男は遂に、武器を抜いた。
「てめぇはとことん俺をバカにしてるみたいだな? さっき俺が何て言ったか覚えているか?
出しゃばって来んなって言ったよな?」
青筋を額に出し、武器を構える
「もういい。もうイイよ……お兄ちゃん。私、この人達に着いて行くよ」
ハルがそんな事を言う。
「は?何を言ってるんだハル?」
俺は振り返りハルの顔を見ると絶望した顔をしていた。
ーーガンッ
俺の意識はそこまでだった
しばらくすると俺は儀式会場に1人で気を失っていたーー
気が付いて辺りを見回すが、誰も居なかった。教会の奴らもハルも
「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉ」
その日から俺は、村でも腫れ物扱いになり、
妹を連れて行かれたクソ野郎として石を投げられたりした。
ある日の深夜、俺は何か焦げ臭いと起きた。
目の前では炎が上がっていた。
しかも入口から。これは有り得ない
火が起きる場所は台所だ。
それが入口からという事は放火されたのだろう。
もう良い。俺は職業狩人のスキル
『気配希薄』を使いバレない様に裏口から弓と僅かなお金を持って村から出たのであった。
あれから5年、俺は辺境の更に奥の未開拓地域に入り込み獲物を狩っていた。
ハルを守れなかった事は未だに悪夢で見る程後悔もしているし、教会の奴らを恨んでも居る。
でもそれにはまず力が足りないと思ったのだ。
力が足りないから妹を連れて行かれた。
力が足りないから家を焼かれた
力が足りないから理不尽に立ち向かえなかった
だからこそ力を求めた。
あれから5年、妹への想いは全く枯れず逆に怨嗟の念は燃え上がっている。
そろそろどれだけ力を付けたのか試す時期に来たと思っている。
この森には主が居る
誰もがその存在を知っていて尚且つ力の誇示や判断材料になる主はワイバーンだ。
冒険者ギルドが発行している魔物の脅威度ランクはB-の評価だ。
魔物に相対する冒険者にはランクが有りこのランクによって脅威度のランクに対応する
ランクはS~Fランクまである。
Sランク《世界的英雄》
Aランク《国家戦略級》
Bランク《一騎当千級》
Cランク《兵団戦力級》
Dランク《普通冒険者》
Eランク《駆け出し冒険者》
Fランク《素人》
こんな感じに区分されている。
見てわかる通り個人ランクでCランク以上の冒険者は人間では無いと言われている程の化け物扱いされている。
ワイバーンはB-の評価なので、個人のCランク冒険者複数、又はCランクパーティーが複数当たって勝てる
Bランク冒険者やBランクパーティーの場合は単騎で勝てる扱いだ。
もし俺が単騎で勝てれば、Bランク又はCランク冒険者上位並の力を得たと力説出来る証拠になる
ワイバーンに関して言えば弓使いは相性が良い
遠距離から攻撃して叩き落とせば比較的作戦が立てやすいからだ。
5年前ハルを奪われた。
家族の思い出の家を奪われた。
怨み? 確かに奪われた怨みはあるがいいや違う。
本当はあの時に何も出来なかった自分自身を怒り憎んでいる
だからこそこんな魔物や獣が蔓延る森の中で暮らしている。
血抜きが終わった猪を見て、物思いに耽り過ぎた事を反省する
穴を埋め、近くに隠しておいた台車を持ってきて川に運ぶ
川の近くに来たら解体した肉を冷やす。
そして内蔵は捌いて川で洗いすぐに焼いて食べる為に分けておく
皮は洗い天日干しにして牙も洗って天日干しにする
"キャー"
遠くで悲鳴の様な声が風に乗って聴こえて来た
「んーまたか……最近何だってこんな僻地に人が来るんだ?」
数年前までは辺境の更に奥の未開拓地だったので1年に1度、多くて2度位しか来なかったのだが
ここ最近急激に人が増えて魔物に襲われている
「検索:付近、魔物、襲われている人」
俺はある日使える様になったこのスキル。
正式名称は分からないが便宜上検索と呼んでいる。
右目が光ると先程提示した条件に該当する場所が見えて尚且つ感覚的に場所が分かる。
俺はその場所の方に弓を向け、4本矢を放つ
後は、肉を洗い冷やしながら飯の準備を始める。
「お!魔物は倒したな?はぁ、またこいつかよいい加減諦めて帰ってくれないかな?」
魔物に襲われていた奴はここ最近何回も魔物に襲われている奴だった。
正直迷惑なので木の板に腰布に入れていた炭を出し
"力無きものは帰れ。次は助けない"と書いて
検索で探し矢に板をくっ付け放った。
「ふぅ、周りをキョロキョロしてるけど居ねぇよ」
俺はそんな事を独り言ちる
彼女が何者なのかは知らないが、この森でそんな無警戒ではすぐに死んでしまうだろう。
この森で長く過ごすなら斥候系統か弓士系統の職業を持ってないと難しい
明らかに剣士風の彼女では逆立ちしても無理だ。
「やっと帰ったか……そう言えば俺の職業って何なんだろうな?」
ある一定の経験値とこうなりたいという願望により職業は進化して行く。
しかし明確な進化の瞬間がある訳では無く、
ある日何となくスキルが増えた。何となくいつもやってる事がそう言えばやりやすくなったと熟練度が上がっているのだ。
だからこそ何かあれば、冒険者ギルドや鑑定士というお店に行かないといけない。
鑑定士は有能な為狙われる。なので鑑定士は個人で店を開くとなると防衛費にお金を湯水の如く使うのでそれに従って利用料金が高い。
一方冒険者ギルドと言った各種ギルド専任鑑定士は防衛費は一切必要無い。
ギルド内に居るガラの悪い連中や守衛が全員勝手に守ってくれる。
そして誰が鑑定士か特定出来ない様になっているらしい。
「主を倒した後は冒険者ギルドに行って職業判定だな。検索が使える様になってる時点で職業は進化してるだろうからな」
俺は、肉を冷やしてる間に拠点に戻り鍋とフライパンを持ってくる。
これは検索を得た時に冗談で『フライパン』何て検索かけたらマジであったのだ。
しかも錆びておらずラッキーであった。
そしてここで死んでいた人は病気で亡くなった様でまだ死んでから2日から1週間も経っていなかった様で遺体を燃やした。
この人の荷物を全て拝借させて貰った。
馬は逃がしてやったのでまぁ、楽しく暮らして居る事を願うが人に飼われて居たので魔物や獣の腹の中にいる方が可能性が高いだろう。
俺は猪の肉を切り分け山菜を出し、脂身を先に入れて炒め始める。
料理を作って飯を食べた後は燻製肉を作って拠点へと戻るのであった。
「はぁ……ハルの奴元気かなぁ?」
ふと、思った。
あれ? 検索って付近の奴しか使えないと思ってたけどなら無意識に検索条件に俺は付近をいれていたのだ?
「もしかして俺は思い違いをしていたのか!?」
ガバッと飛び起きる!
震えながら検索条件を読み上げる
「検索:カウスの妹、ハル」
右目が光、映像が脳内に映る
それは大人になった妹や友人達の入浴中の映像だった。
ブハッーー
鼻血が飛び散り、目が充血して呼吸が荒くなり次第に
ーーバタンッ
倒れるのであった。
◇
カウスが目が覚めたのは次の日の朝だった。
「んーあれ?俺どうしたんだっけ?」
昨日の事を思い出す、ハルを検索で見てお風呂覗いちまって倒れたんだった。
取り敢えず、昨日の感覚を思い出してその方角に向かって土下座する。
「眼福でしたっ!!それとスマン。この秘密は墓場まで持っていかなくては」
そう決意するのであった。
カウスは毎日のルーティンを始める。
顔を洗い、体の不調が無いか確認しつつ柔軟体操をして、武器の点検。
最後に拠点のカモフラージュをして燻製肉を食べながら主のもとへ向かう。
1時間後、主の付近までやって来た。
「検索:ワイバーン、主」
右目が光、脳内に映像と大まかな自分との距離を測る。
そしてロックオンする。
「さぁ、始めよう。目から行こうか」
カウスは2本の矢を番え、検索のロックオン効果の範囲指定。
「ワイバーンの両の眼へ」
最近はこの効果と、矢を射出すると風を纏って矢が飛んで行く
バシューー
脳内映像で狙い通りに、当たった事を確認。
ワイバーンはパニック状態だ。
『ギャアアァァァァ』
とワイバーンの悲鳴をこちらでも確認する。
カウス流狩りの極意
極意1:徹底的に狡猾であるべし
極意2:常に自分が弱者と想定すべし
極意3:武力だけが力では無い総合力で勝つべし
この通り、狡猾的に目を潰した。
次は、この適当に暴れている状態でも攻撃をくらえばお陀仏する自信はあるので。
すぐさま、矢を3本番え放つ、2本は羽の付け根へ1本は口の中へ。
さぁ、森の主よ。恐怖に怯えもっと狂えさすれば俺の勝ちが近くなる。
傲慢では無い、想定内通りに動いている。
ほら来た。
ワイバーンは口を開け首を震わせ始める。
ブレスの予備動作だ。
すかさず、4本の矢を放つ。
「んー……決め手が欠けるか。やっぱりこれしかないかな。
無用に痛めつけるのも生き長らえさせるのも失礼だな」
「【弓召喚】」
パァーっと右手が光るとそこには白と緑の装飾をされた弓が手の中に収まる。
「森の主に敬意を俺を強くしてくれてありがとう」
森の主は沈黙した。
しかし、15分は弓を構えて残心する。
もういいかなと思ったタイミングで弓の弦を引くと光輝いた矢が現れる。
狙いと本数を念じて射出する、矢は上空で指定した本数に別れワイバーンの尻尾に到達して尻尾を引きちぎった。
「よし!死んでるな。えー……っと素材って皮膜と牙と爪だったよな?
尻尾は毒のリスクが高いから放置だな」
弓士は1度でもランクアップすれば弓召喚出来る。
俺は戒めとして今日まで余程の事が無い限り使って来なかったが久々の全開放の矢の命中痕を見て絶句した。
尻尾辺りがクレーターだらけになっていたからだ。
「……んへ?封印しようかな?」
やっべぇこんなにいつの間に威力上がってたんだよ?
最後に使ったの5年前だろ? 俺どんだけ成長してんだよ!?
考えても見て欲しい、未開拓地即ち魔物の領域で一般手作りの弓矢で戦闘してたのだ。
馬鹿げた威力になっても仕方ないだろう。
俺は討伐証明と素材を持ち特製ロープで縛り。
拠点の荷物を片し始める。
最後に拠点を見回しこの5年間を振り返る。
吐き気がする、何度この地で血を吐いたのだろう。
それでも言わずにはいられなかった。
「俺に力をくれてありがとう。ハルを連れ戻しに行ってきます!」
『俺に力をくれてありがとう。理不尽な暴力を行った奴らを殲滅してくるよ!』
心の内側と発言の内容は微妙に違えどまずは妹への接触だ。
「検索:1番近い、冒険者ギルド」
右目が光大まかな位置を把握。
それに従って振り返る事も無く歩き始める。
右目はスキルの光と妹への希望の光を宿らし、左目には憎悪と怒りを携え
カウスの冒険は始まるのであった。
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