短編集〜ふぁんたじー〜

赤井水

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短編集

何も無い転生者に与えられたスキルは『コツ』でした

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 何の変哲もない村での出来事、振り上げた木製のクワの刃部分が抜けて飛んでいく

「んぁ?おーいクワの先が飛んでったぞー。気ぃ付けろー」

 長閑な村では明らかに危険でも呑気な声が飛ぶ

 ゴンッーー

ーーバタッ

 飛んで行ったクワの先は14~5歳の青年の頭部にクリティカルヒットする

 畑を耕していた男性は、あちゃーっと言った表情で一言

「やっちまったな、こりゃ」




 すぐに家に運ばれ治療を受けた青年は2時間程で目を覚ます。

「んー?頭がすげぇ痛てぇなんだこりゃ?」

 周りを見渡すと

「へ?何処ここ?」

 パニックになる。
 5分程グルグル考察と頭の中にある記憶を確かめると分かったことがある。

「あ、うん。俺転生したんだな。前世の名前は覚えてないけど今の名前は分かる。ラルか~キラキラネームかよ!」

 そんな事を言っていると、部屋の扉が開かれる。

「ラル?大丈夫なの?」 

 40手前のおばさんが入って来て俺の名前を呼んだ。

「あぁ、大丈夫だよ母さん。明日の『スキル授与』には問題無く行けるよ」

 すんなり返答していた。
 やだ!気持ち悪い、自分が自分じゃないみたい。

 この人が今世の母親らしい、優しそうな綺麗な母親だった。

『スキル授与』とは
 15歳になると神様よりその人の1番優れた部分がスキルとして渡されるという物だ。
 まぁ、神様公認の特技進呈の儀式という物だ。

 そのスキルに合わせて職業を選ぶのがこの世界のセオリーの様だ。


「どんなスキルでも気にするんじゃないよ?
 役に立たないスキルなら村で畑を耕せば生きていく事は出来るんだからね!」

「あぁ、わかってるよ。でも俺は冒険者になりたいんだよ!」

 母さんと父さんは村ではそこそこ裕福だ。
 母さんが『料理』父さんが『おもてなし』のスキルを持っている為、宿屋を経営している。

 その為、家にはよく冒険者達が来ては泊まりその話に花を咲かせている所を見ていて俺は憧れてしまっていたのだ。

 明日のスキル授与の結果次第ではあるけど冒険者になろうという意志は
 前世の記憶が戻った今でも根強く残っており諦めよう何て気持ちは微塵も無かった。

 それにラルの記憶を辿ると、しっかりと剣や魔法の研鑽をしていて。
 冒険者達から手解きを受けていてそれを反復している記憶もある。

「元気ならご飯食べて早く寝ちゃいなさい。
 明日のスキル次第ではあんたはここを飛び出して行くんだろうからねぇ。今日はご馳走よ!」

「え?マジで?すぐ行くわ!」

 俺は母さんのそんな言葉を耳にしてダッシュで下に降りて行く。

 食堂に向かうと、父さんと弟、妹が既に食卓に着いていた。

「ラル遅いぞ!怪我は大丈夫な様だな?明日でお前も成人だ。今日はお祝いだ!食べるぞ!」

「「「いただきます!」」」

 食べ盛りの俺達3人はご馳走飛び付く。
あんまり家の構造見て、食事には期待してなかったけどうめぇ……
 家族が作ってくれた食事なんて……いや今世では普通だけど。
 前世では10年以上無かったからな。

 その後、家族と談笑してすぐに寝た。




 次の日の早朝、俺は母さんに弁当と皮袋に入ったお金を受け取り荷物を持ち家を出る。

「父さん、母さん行ってくるよ!多分そのまま冒険者になるから帰って来たら笑い飛ばしてくれよ?」

 そう言うと2人共笑いながら

「おう!そん時は残念だったな会を開いてやるよ!」

「あら?それならまたご馳走作ろうかしら?」

 俺は今世では温かい両親に育てられたらしい。

「じゃあ行ってくるね!」

「「行ってらっしゃい!」」

 手を振り、家族と別れ1人で生きていく事を決心するのであった。


 隣の町の教会へと向けた馬車に乗り出発する、到着までは2時間程らしい。
 この馬車は無料だ、それにもしっかりとした打算がある。

 教会や国は有望なスキルを発現した人を優先的に勧誘出来るからである。
 戦闘に秀でたスキルや領地に益をもたらすスキルが出た場合すぐに勧誘して学園にぶち込むのだ。

 つまり有望なスキルを持った為、次に行うのは人格を歪ませない様に教育するらしい。

 それが嫌な人は冒険者なり、商人の丁稚や職人の弟子になりに向かう。

 冒険者には一攫千金の夢がある為、なる人も多いが挫折する人も多い職だ。
 何でもやる下請けで有りながら、ランクを上げればダンジョンで夢の宝も得られる素晴らしい職なのだ。

 何て、ラルの記憶に説得というプレゼンを受けている気分になりながらこの世界の情勢を知る。

 そんな事を思っていると

「次!この町に来た理由は?」
「スキル授与の為の馬車です」

 御者が手形を門兵に渡して居る所だった。

「今年は6人か、あの村も人が増えてきた様だな」

「最近はダンジョンも近くに有りますからねぇ」

 何て世間話をした後は、すんなり通れて教会に直行した。


「おぉ」

 しばらくすると馬車が止まり目の前には大きな建物があった。

 これが教会か、と思わず感嘆の声が漏れてしまったが周りに居た子供達皆、同じ様な反応だった。

 この町の子供や周りの村達からも人が来ている様で既に行列が出来ている。

「あ、皆さんこちらの手形を渡しますので受付に渡してください」

 御者が俺達6人に木製の手形を渡してきた。

 これがこの御者が運んだ人数の確認兼報酬を渡す為の手形になるのだろう。

 俺達は渡された手形を受け取り、そのまま案内されるまま受付を受けた。
 後ろでホッとしてる様子の御者が居たので不思議に感じたので質問してみた。

「どうして、そんなに安心してるのですか?」

 頭を掻きながら御者は小さな声で俺の質問に答えてくれた。

「実は去年手形を別の人に格安で買われて盗られてねぇ。手形1枚よりも格安で自分の手形を持たせれば利益になるだろ?」

「はは、それはキツいことされましたね?」

「今年は無くて良かったよ。1度舐められたら何度でも仕掛けてくる奴が居るからね」

 それだけの会話を交わすと御者は離れて行った。

「どこの業界も世知辛いねぇ~」

 そんな事を呟きながら俺も行列に並ぶのであった。


 並び始めて20分程すると会場に入れた。
 会場では5列に別れて並び、各先頭では大きな水晶に手を当てスキルを貰っている様だ。

 落ち込む奴、頭を傾げる奴、大喜びをする奴反応は大体3つだ。

 頭を傾げる奴の中には教会の人に声をかけられている奴も居るので
 本人が理解してなくても有能なスキルなのだろうと推測出来る。

 それから更に30分程でやっと俺の番になった。
 目の前には教会の司祭らしき人が立ち俺に声をかける。

「スキル授与の際、人と出会うかもしれんが驚く事は無い。
 それが神なのだ礼儀正しく名前を告げ水晶に手を当て祈りなさい」

 ほぇ~そんな凄い人が居るんだなぁと思いつつも水晶に手を当て

「ラルです。スキル授与をお願いします」 

 と告げると水晶が光る……

 ん? んんん?
 これ何時までこうしてんの?
 と疑問が沸き始めた頃に、声をかけられた。

『ん?ありゃ珍しい奴が来たな?』

 いきなり声をかけられて驚き顔を上げるとそこは教会では無く、白い空間だった。

「は?何処?」

『あ、ごめんねぇ。ちょっと気になった子が来たからさ。精神世界に呼んじゃった』

 目の前に居る凄い美形のお兄さんが気軽に話しかけてくる。
 多分神様なんだろうねぇ。

「あ、これは失礼を。俺はラルです。神様ですね?スキルください」

 とお辞儀をしてみる。

『ここに呼ばれた事には疑問を持たないんかい!』

 とツッコまれた

「いや、司祭さんも偶にあるって言ってたんで気にしないです」

『まぁ、良いや。前世の記憶を取り戻した転生者何て久々に見たからね。呼んじゃった』

 軽っ、引くわーその軽さに引くわっ。

「え?もしかして地球の人って死んだらこっちにリサイクルしてるって感じなの?」

 俺は神様のそんな言葉を聞いてド直球に質問してみた。

『あぁ、確か3割弱かな?こっちの魂がね?アンデットやらレイスと言った魔物に掠め取られるからね?
 足りなくなっちゃってね。後は魔物の居る世界にはもう2度と生まれたくないってね?
 君には想像着くでしょ?ゴブリンやオークと言ったら?』

「あぁ、くっ殺か。現実に起きたらそりゃはよ殺になるもんね」

 なんだろうこの神様凄くフィーリングが合う気がする。

『そういう事さ。まぁ、この世界には危険な事が沢山あるけど楽しんで生きて死んでくれたまえ。
 君は既に楽しそうだからね。じゃスキル渡すね。ほいっと現実世界に戻ったら水晶にスキルが映し出されてるから。じゃ!楽しんで』

「ありがとうございました~」

 何とも軽い感じで、神との面談は終わった。

「君?大丈夫かね?」

 ふと司祭に話しかけられて、現実に引き戻された。

「あぁ、大丈夫です。えーっとスキルは……」

 水晶を覗き込むとそこには

 スキル『コツ』と書いてあった。

「えーっとスキルは『コツ』だそうです?」

「「コツ?なんだそれは?」」

 司祭と隣に居る多分国関係の人が同時に声を上げた。
 俺には概要は分かっているがこれを知られると勧誘されそうなので一言

「さぁー何でしょうねぇこのスキル」

 んんっと咳払いをした司祭が

「まぁ、何にせよ神に与えられたスキル精進して生きていく様に。では次!」

 スキル授与はこれで終わりらしい。
 教会から出て毛伸びをする。

 清々しい良き日かな。
 スキル『コツ』かぁ。多分コツを掴むのコツだよな。

 語源が骨だった気もするが。あれだけノリの軽い神様に貰うと語源通りに骨を掴むのが上手いとか言われたら笑うしかないけどな。

 この世界には神様から貰えるスキルはユニークスキルと
 熟練度が一定に達すると出るスキルもある。
 しかし、スキル授与をしないとスキル自体が現れないのでこの儀式が如何に大切かが分かる。
 多分思考の幼いうちに力を持たせるとろくな事が起きない為の一種の抑止力なのだろう。

 俺はこのまま冒険者ギルドに向かう事にした。



 冒険者ギルドとは世界各地に有り、国、教会、ギルドの3つの勢力がバランスを取っている。

 ギルドとは同じ職業の組合であり、仕事の受注発注の要所である。

 当然国でも魔物が発生した場合、対処に当たる騎士団や魔法師団の兵士の数にも限りがある為対処が遅くなる。
 そんな時に冒険者ギルドが一役買う事になる。

 そんなこんなで持ちつ持たれずの関係を保つ事で成り立っている。
 商人ギルドの場合は、商人が商売を行う際に国の介入、つまり大幅な利益を搾取される事を避ける為に作られたギルドだ。

 まぁ、こんな感じでギルドの存在理由は多岐に渡る。

 俺は、冒険者ギルドラモン支部という建物の前に来ていた。
 入口を開けて受付へと進む。

「ラモン支部へようこそ!依頼の発行ですか?それとも新規登録者でしょうか?」

 見目麗しいお姉さんにそう言われてちょっとドキリとしてしまった。
 この世界の女の人は綺麗な人が多い。

 多分、子孫を残す為に綺麗に進化して行ったんだろうけどね。

「あ、はい!新規登録です!」

 俺はそう伝えると、受付のお姉さんはすぐに紙を渡してきて

「文字は書けますか?代筆も可能です!」

 と言われたのだが

「あ、大丈夫です。書けます」

 そう言うと、登録用紙に目を移した。
 名前と年齢とスキル
 それを記入して受付のお姉さんへと渡した。

「ありがとうございます。スキル『コツ』ですか……?
 聞いた事ないスキルですね。あ!他のスキルも発現してないか見てみましょう。この魔道具に手を置いて貰えますか?」

 お姉さんは用意してあった魔道具を俺の目の前に出す。
 それは鉄の板みたいな魔道具だった。

 俺はその板に手を置くと文字が浮かび上がってきた

­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­-
名前:ラル
年齢:15
ユニークスキル:コツ
戦闘スキル:初級剣術  初級魔法
生活スキル:計算  接客  中級調理  生活魔法 
­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­-

「え?こんなに?」

 受付のお姉さんは驚きを隠せないでいた。
 俺も驚いては居たが納得はしていた。

「あー……家が宿屋だったので多分それの影響ですね」

 そう説明するしか無かった。

「そ、そうなんですね。では戦闘スキルがある事は確認しましたのでとりあえずはFランク登録は出来ますのでこのまま手続きをしますね」

 そう言うとすぐに木のプレートに名前が入った物が出てきた。

「こちらがラルさんの冒険者標になりますので無くなさい様に気を付けてください。依頼について質問は有りますか?」

 特に質問もなかったので依頼掲示板での注意点を聞き登録を終えた。
 冒険者は誰にでもなる事が出来るけど、誰しもが上に上がれる訳ではないのでここが本当にスタート地点だった。

 掲示板に向かうと、
・薬草採取
・ドブ川の掃除
・荷物の配送
 等の誰にでも出来るがキツそうな仕事ばかりがあった。

 薬草採取は常設依頼なので受ける必要は無い。
 なので荷物の配送からしてみる事にした。

 依頼書を手に取り受付に行き

「あ、すみません。依頼を受けます」

「かしこまりました。これで依頼の受注は完了です。
 あ、これ簡易の町の地図です。配送受ける人には全員に配ってるものなので是非!」

「ありがとうございます!」

 そう言って俺は地図を受け取った。
 ありがたい配慮だった。
 そういえばこの町の土地勘無かったわと思いつつ。
 依頼書に書いてある住所を見て簡易地図をもとに初めての依頼に出掛けるのであった。




 最初の依頼者は郵便局だった。

 渡し方や不在時の手紙の扱いを指導役と一緒に教えて貰いながら後ろを着いて行き走っていると……

­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­-
スキル:イミテーション模倣の発動条件を満たしました使用しますか?
­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­-

 こんな声がふと頭に響く

「え?」

 取り敢えず多分これコツのスキルだよな?使ってみるか。

イミテーション模倣

 お?おぉぉぉ?
 指導役の人がどこをどう見て動いてるのか理解できるぞ?


 それから20分後

「うん、基礎はもう出来てるから後はこれ配ったら局に戻って依頼完了のサイン貰ってね。
 不在時の対応で分からないやつがあればそのまま郵便局に持ち帰って大丈夫だからよろしくね。じゃ!」

 そう言うと指導役の人は自分の担当区域に走っていった。

「よし!やったるぞ!」

 俺は、それから2時間配りまくった。


「ふぅ、しかし模倣かぁこれスキル習得に使えるんじゃないか?ふふ、ふふふ」


 俺はスキルコツの無限大の可能性に気付きこれからの冒険者生活に夢を膨らませるのであった。

 数ヶ月後、『ボーンハンター』という不名誉な2つ名が付くのはまだ知るよしも無かった。
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