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最終章:知識の街

243話

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 知識の街の独立から1週間が経って街に来る人は倍に増えた。
 俺は知らなかったが、半分に割れたもう片方の街は勝手に滅亡したらしい。

 商業ギルドマスターは力無き者だけを助け他は無視して居たらそいつらは無謀にもダンジョンへと向かい勝手に終末を迎えたそうだ。

 そちらも再開発になり俺は頑張れと応援をして魔法開発の着手と実験をする為にダンジョンと孤児院の往復をしていた。

 そんなある日、門までの道のりで揉めている声が聞こえる。

『ヤメて! 私達はアンタ達何かに興味が無いの!』

 俺はその声を聞いたことがある気がして歩を止めてそちらに向かうと丁度相手の男性が剣を抜き振り下ろす瞬間だった。

『キャー』

 周りの人や同行者の悲鳴が上がるが俺はその大剣を指で摘み止める。
 絡まれていた人を見ると俺は目を見開いて驚く。

 何も変わらない姿のサイネが居たからだ。
 あれ? 君、将来ボンキュッボンになるんだからとか宣言してなかった?

 身長もほぼ伸びておらず10歳当時のままなんだけど……隣の女性も面影はあるけど関わったら面倒そうだ。

「テメェいきなり割り込みやがって誰じゃボケェ!!」

 さっきから必死に大剣を動かそうとする男を見る。

「あ・の・さ・? 普通の街で商人風の人に冒険者が抜剣したら罰則は?」

 列の近くに居た駆け出し冒険者風の少年が答えてくれた。

「冒険者資格の剥奪にそもそも殺人未遂なので牢屋行きです!」

 俺は銀貨を取り出し投げ渡してやる。

「正解! ということでぶっ飛べや!!『エア・ブラスト』」

 俺は風魔法で男達4人を衛兵がいる方に吹き飛ばし魔法で声を送る。

『列に並ぶ女性商人にナンパ、断られると抜剣したから牢屋へよろしく!』

 そう伝えると遠くで空に火の玉が上がる。確保と了解の合図だ。

「あの……そにょ、ありがとうございます」

 その声に振り返るとサイネがモジモジしながらお礼を言ってきた。

「おう頑張れ、チンチクリンのサイネ!」

 そう言うとプクーっと頬を膨らませ怒り出す。

「ムキー! どっかの長命種の血が少し混じってるせいで成育が遅いだけだもん!!
 後10年後にはボンキュッボンになるんだもん!ってえ……?」

 隣にいる女性は俺を見て驚いていた。
 まぁ、俺は普段から面倒だからフード被ってるからな。

 あばよ~サイネ~!

 俺は転移して兵士達の事務所で直接手続きをする。
 これは街の中に外から転移しようとすると強制的にここに来るようになっている。

 セラの転移を封じる力を研究して黒子と琥珀と俺で合作で作った結界を天野さんに魔道具に付与してもらった。
 知識の街には今人が集まりまくっているが冒険者達の中には騒ぎを起こして嫌がらせや脅し実権を握ろうと依頼された奴や様々な勢力から狙われている。

 しかしどの勢力も元Sランクギルド員とは真正面から相手にしたくないらしくちまちまみみっちい攻撃をしてくるが……

 それでも先程の様に人の命がなくなりかける時もあるのだ。
 1度レンカが威嚇射撃を街の横でやったことがある。

 どこぞの貴族の子息がこともあろうに孤児院食堂でセクハラ、パワハラ、周りの客の飯をひっくり返すという事件の時に
 スペシャルカレーうどんをゴミにされたとそいつを引きずり回しそいつの親が統治する街の目の前で本気の攻撃を見せて親が土下座しに来るということもあった。

 孤児院に住み着く連中は食い意地が凄いのである意味扱いやすい。
 召喚者達はお菓子を作ってはよくカロンとユリアさんに修行をつけてもらってる。

 多田くんはハンナにスイーツを持って行っては撃沈してる。
 多田くんよ……その人は逆に肉とカレーと酒と剣を持って行けば喜ぶぞ?

 婚期、婚期と言ってるが中身オッサンだからな?

 そして俺は魔法の研究と共に……母と義母に頼まれた……
 いや、凄い圧力で女性陣全員に泥を持って来いとせがまれ転移でちょちょいと持ってきていた。

 カロン達も行ってきたらしいがやはり空間収納系の魔法が無いとキツいらしく今回俺は300kgの泥を持って来て半分をセラに渡した。

 そして魔法の開発研究と共に今日の為に食材も確保してきた。
 孤児院とクロス家の顔合わせって奴だな。

 カレーは珍しくキーマにして他にはドワーフが作る、酒や醤油味噌がハビスによって持って来てもらったのでそれを使いすき焼きを作る。

 残念だったのはこんにゃくが無いこと……いや見つかってないことだ。
 仕方ないのでスライムの核を空間魔法で抜くと残る外皮を流用する。

 召喚者達はどこで出に入ったと聞いてきたが知らない方が良い物もあるよ? と伝えたら引き下がった。

 あの近くのダンジョンは食材ダンジョンとも言える場所が実はある。
 全て低階層のモンスターハウスでオーク軍団やミノタウロス軍団等の罠があり俺達は手分けして商業ギルドを通して卸している。

 俺の利益分は全て孤児院に投資してメルが管理している。

 学校の方は街の予算から作られているので商業ギルドマスターが独断で投資をしてから本部のグランドギルドマスターに伝えたらあっさりOKが出たらしい。

 そして孤児院の子供達とクロス家と居候ズの相手をしていると魔力感知に面倒な来客があった。

「たのもぉー!」

「頼むなら帰ってー!」

「あいよー! ってちがぁぁう! ミカサ商会からクロス家様に衣服のお届けでーす!」

 ちぇっ、無理だったか。って言うより商会長のミクロ、カレン、サイネ全員がこの街に来てるのは店大丈夫なのか?

 俺は料理を食堂経営チームの子達に任せる。

 門に行くとチンチクリンのサイネが地団駄を踏んでいた。

「淑女がそんなはしたないことをするもんじゃないよ?
 商会長3人が全員来るなんて店は大丈夫なのか?」

 俺が声を掛けるとブワッと全員が涙を流し始めてワタワタしてしまう。

「ケービーンーだぁぁぁ」

 チンチクリンの身軽なサイネが抱き着いて来るんだけど子供に抱き着かれた感じやね。
 カレンとミクロはすげぇ身長伸びたな……モデルになれるんじゃないか?

「まぁ積もる話もあると思うから入れよ。親父達と食事会する予定でさっきお前達も見掛けたから一応多めに作ってたからさ」

 実は孤児院に面会したいという書状が沢山来ていた。
 しかし、1部の人以外全て断っていた。

 俺達はこの街の権力者でも何でも無いからな。
 クロス伯爵家に関しては使わない書物全部寄越せと伝えたら普通に学校の為にくれたので来賓として持て成してるだけだったりする。

 今、現在この街に滞在してる殆どの国賓級の来訪者は書物や人材の派遣をしてくれている国や街だったりする。

 そして商人は全てが破壊された街に商機があると来ているのも知っていた。
 ダンジョンの強さもそこそこなので冒険者達の流入もかなり凄い。

 それと孤児院は神罰時にかなり拡張した為にもしもの時安心だという理由だったりもしている。

 知識の街では親が定住者になれずとも子供だけは戸籍を作ることを推奨している。
 街に居る冒険者の数はギルドと提携して確認してるからだ。

 そんな理由もあり沢山の人が集まり、教師役の人が集まれば即開校する予定だったりする。

 小等部に当たる教師に今は召喚者達が九九を教えていたりもする。
 そろばんの使い方を意外なことに後鳥羽君がよく知っていたので教えて貰ったりもしていた。

 そんな背景を思い出しながら俺は料理を魔法で配膳すると歓声が召喚者達から上がった。

「す、す、す、すき焼きだ! 醤油あったのか!? この世界!」

 いや魚醤はあったけど作りましたよ……

「じゃあ皆食べようぜ!!」

 そう言うと俺の横にはキャロとセラが固定位置に座る。
 それを悔しそうに見るのはカインと親父だ。

 母と義母は泥パックに上機嫌だった。
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