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共和国編〜好きに生きる為に〜

172話

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 俺が不可解に感じていたのはまだ神罰が始まって1週間位しか経っていない。
 食料も武器も薬も商業ギルドマスターから聞いていた話では3ヶ月分ある筈だった。

 その3ヶ月は街の中にあってそれの他に種籾や苗や予備物資や
 ギルドマスター個人の物資が孤児院に運び込まれたのだ。

 ギルドマスターの用意していた物資量は慎ましく暮らすなら100人の人間が数ヶ月は暮らせる量だった。

 しかもそれを時間停止付きのマジックバックに少しずつ10年単位で美味しいと評判の物を厳選して貯めて来ていた。

 これは街にギルドという組織の物資を全部街の人に渡しても
 自分と自分を護る人間だけは逃げ延びたり暮らしていく為の措置だった。

 まぁ、俺、タビ、ナギのマジックボックスを合わせると数十年分の食料だけは確保出来てるんだけどね。

 人気の無い香辛料や行く先々で狩る魔物の肉を放り込んでいくとこうなるだけの気もするけどな。

 神罰開始からすぐに行動して手に入れた物でもある。
 住民は金よりも安全を要求したので全員結界内に入れてある。

 俺達は最初から街のためにと行動した人間と悪意の無い人間全員を受け入れているにも関わらず
 大丈夫だと平和ボケしてた連中が騒いだ訳だが……


 それが開門に繋がるとは思いもしなかった。

 そして殺された人間の栄養状態も良くないと考えると……
 これは扇動者や利権主義の奴らが暗躍を始めたことに他ならない。

 共和国には危機的状況時に無料開放される備蓄食料があるのにそれがどこかで停められているということに他ならない。

「まぁ、呆れるよな。それでも俺がお前達を見逃す意味は無いんだけどな?『黒雷槍』」

 魔法を放つもあまり効いていない。
うーん、あの金属の材料は何なんだろうか?

 ミスリル程度なら簡単に打ち破るはずの魔法が効かないとなると
 俺には非力過ぎて使えないアダマンタイトかオリハルコンになるけど……

 オリハルコンの精製条件は未だに今の文明じゃ判明してないんだよ。

『プギャギャギャ! 貴様の魔法なんて効かんゾ! 殺れ!』

 ノーマルオークや上位種が次々と入ってくる中、俺の反対方向が爆発した。

「あー……そっちもなんだな。終わってるわ」

 魔物の魔力の気配のみを警戒していた俺はいきなり後ろからの敵意が向けられ
 尚且つ大剣が迫って来ていたのに驚きつつも避けた。

「あ゛?」

 そこに立っていたのはSランク冒険者パーティの大剣使いだった。

「てめぇ。どうやって隷属を解いた?」

 ニヤリと笑う大剣使いは自慢するように語る。


「はっはっは! オークの呪術師に頼んだんだよ!
 てめぇを殺せるなら喜んで上書きしてこの街の住民を皆殺しにするって契約してなぁぁ!」

 それはしてやられた……強制的な隷属より両者合意の契約の方が優位性があるのだ。
 両者合意の隷属ならば破られるスキも無いんだけどな。

 俺は魔力刃を顕現させそこに暗黒属性を流す。

「て、てめぇ。本当に人間かよ……」

 暗黒属性とは良い言い方であり悪い言い方ならば本来は死属性となる。
 ネクロマンサーも分類上はこの属性の使い手でそれを破壊寄りの方に使うと確殺の属性となるのだ。

「なんだ? 怖気付いたのか? でも契約してる以上お前は逃げれない」

『ブヒィィ!! 気をつけロ! ソイツの武器には触れたら死ぬゾ!』

 ノーマルオークは恐れて後退りしている。
 俺はさらに魔力を練り上げて行く。

「あ゛? な、何だそりゃ……ひっ、来るなぁ」

 流石は個人ではSランクに最も近かった男だ。
 臨界点を超えた気配を感じ取れはしないが何か恐ろしいと言うのは分かるのだろう。

 黒い魔力は煤の様に周りに吹き上がる。
 それが不吉な物に見えるのだろう。

 俺は魔力刃を振るうと大剣使いの男は何とかガードしようとした。

『バカモノ! それは魔力だゾ!』

「え?」

 大剣使いの男の最期の言葉はそんなアホな声だった。
 やったことは簡単で最初は剣の様な形をしていた魔力刃を刺突する様に見せて
 避けられたと同時に形を鎌に変えて首を刈り取ったのだ。

 その時に一緒に大剣もすっぱり斬ったが何ら抵抗が無かった。

「さて、その鎧も俺の刃とどちらが強いかな?」

 そうニヤリと笑い、オークキングを見やると

『撤退ダ! オレを置いて逃げロ!』

 その言葉にキョトンとしつつも、何か人間よりオークキングの方が優秀に見えてしまったのが悲しくなってきた。

 覚悟を決めたのか、オークキングは気力を込めオーラが見える位になると呟いた。

『いざ、尋常に勝負!!』

 戦いは一瞬で終わった。


 こんな化け物相手に正攻法で真正面から行くのは武人心がある奴だけだろう。
 純粋なる冒険者ならば相手の情報を持ったらどうやったら圧勝圧殺出来るかを考える。

 今回は決死の覚悟で俺だけを見るオークキングだったので踏み出した3歩目に直径1m、深さ2m程の落とし穴を作ったらあら不思議。

 目の前でゆっくりとコケて呆けるオークキングの頭があるでは無いですか?

 俺はそれを悠々と断頭台の様に落としただけである。

『ひ、卑怯な……』

「残念だったなオークキング。人間とは卑怯な生き物なんだ。
 牙も爪も力も無い種族が神に認められてようやく魔法や精霊術を授かったんだ。
 今の人間は兵法を忘れたが本来は人間の専売特許なんだよ」

 俺は既に聞こえてないだろうオークキングにそう言っていた。

 そう、人間には爪も牙も力も無い。
 それでも生き延びて繁栄してきたのだ。

 それを更に増長させたのは神自身に他ならない。力を与えてしまったのだから。

 もしかしたら1部の人間は魔物や獣と同等に成り下がったのかもしれない。

 そんな状況に俺は

「倫理観って大事だよなぁ……
 美味い飯と安心出来る環境、住居と趣味さえあれば人なんてのは楽しく暮らせるんだけどな」

 個人が持つ力が強いと起こる弊害に顔を顰めるのであった。
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