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共和国編〜好きに生きる為に〜

138話

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 俺は何かひんやりすることに気付き飛び起きた。

 目の前には動かなくなった龍の死骸があり俺はその上に寝ていた。

「……うぅ。勝てなかった。クロ……弟子だって言ってくれたのに負けたよ」

 俺は飛び起きた時点では状況が分からなかったが徐々に視界が真っ白になり死んだと思って
 意識が飛んだ後の記憶が映像のように再生されることで何が起きたか理解した。

 ん? クロって破壊神なの? それよりも……
 俺が使っていた力とは格の違う洗練された技のキレに笑えてしまった。

 俺の体を使ったのはワザとっぽいな。
 と少し過保護な師匠ことクロに苦笑いしてしまった。

 記憶の再生が終わると同時にクロが破壊神で龍と知り合いなのはおかしいと
 俺は龍の死骸にありったけの魔力を瞳に集め鑑定した。

『虹龍王の義骸・・・龍神が現世に顕現する為に使う代わりの体
 現在は完全にリンクが切れて壊れている』

 俺はぷるぷると肩が震えた。

「ちきしょぉぉぉ! あんのクソ過保護な鰻がぁぁぉ!!
 保護求めてきた人間を殺しかけるってどういう感覚してんだぼけぇぇぇ!!」

 俺は叫び声をあげた。そしてたまらずにある作戦を実行した。

「『土像創造』『アース・クリエイト』よし、お酒とお菓子と適当な料理を乗せて~♪」

 俺はとある神の石像を土魔法で作り、その手前に四角い長方形の箱型の土の塊も作った。

 そして手紙を一緒に置き、料理と石像の前に膝をつき心の中で祈る。

『えー拝啓エスト様へ。私のことを2度も殺しかけたクソ鰻の龍神というクソ野郎が居ます。
 ぶっ飛ばしてください。先程は奇跡的な助けがなければ死んでました。

 数十年くらい氷漬けにしておいて下さい!
ケビン』

 と祈る。そうすると目を瞑って居ても分かるほど石像が光った。
 光が消えるとその料理が乗っていた台には何も乗っておらず
 簡易祭壇だったが大丈夫だったと安堵した。
 威厳たっぷりだったエスト像がいつの間にかOKというポーズになっていた。


 何故かその顔は威厳たっぷりの顔から号泣して居る様にも、喜んでいる様にも見える不思議な像になってしまった。

「何でこんなに泣いてるんだろうか? ん? なんかあったんかなぁ?」

 右手でOKポーズをとり左手には
『謝礼』と書いてある刀が握ってあった。


 俺は刀を握ると像は塵に変わり消えてしまった。
 鯉口を少し切って刀身を見せるとそれは綺麗な青白色のする刀身だった。

「特殊な加工がされているのか? あ! この死骸さっさと片付けなければ『マジックボックス』フグゥ……うわ……久々に容量限界に近いぞ? これ……」


 それ程までの大きな体躯をした相手だとはわかってはいるものの
 結局はクロに助けられたことによる“負け“だった。

 悔しい気持ちもある……たとえ神が相手だったとは言えどだ。
 涙で視界は滲むも、その場で師匠のクロがやった動きを広くなった部屋で何度も何度も繰り返すのであった。



 とある真っ白な空間では世界の管理を補佐する精霊や世界の種族や権利、力を管理する神達が巻き込まれた
 魔法神エストの数年に渡る狂宴が唐突に終わりを迎えた。

『ぐぅ、ふははは! 俺なんて俺なんてぇぇぇ! ん? 失礼』

 周りの顔色はかなり悪い。神界で不思議な波動を感じ見に来れば暴れ、巻き込み、酔っ払いのエストに強制参加させられた神達が
うんざりするような顔をしていた。

 そんな中、唐突にエストの動きが止まり、目の前には酒や食べ物と1枚の紙がエストの所に現れた。

 この現象は神達は見たことがあった。
 自分達を崇拝する世界で生きる子達からの贈り物だと。

 急にエストの気配が喜色と変わり、1つの水晶を取り出すと1人の青年の姿が映る。
 その青年の時間を巻き戻し見ていくと、エストの喜色は怒気に変わった。

 すると右手を前に振るうと目の前にはいくがく模様の魔法陣が現れる。
 神達は何かを強制召喚したのがわかった。

 光がおさまるとそこには立てずボロボロになった龍人verの龍神が地に伏せっていた。

『ふむ、ざまぁないな。龍神よ。俺の寵児と破壊神に気に入られし……いや弟子にちょっかいをかけて殺しかけるとはな?
 貴様それでも神か? 神が気まぐれや自らの欲望の為に現世に干渉するなど恥と知れっ!!』

 この場に居た神や精霊はエストの突然の怒りや龍神のズタボロ加減……
 そして『破壊神の弟子』や『魔法神の寵児』等、かなり物騒なパワーワードに卒倒しそうになる。

 破壊神とは創造神とは対を成す存在だが、実は1番最後に埋まった神の席だった。
 創造神は自らが創り上げた愛する世界を破壊する神を創造することが出来ず……

 空席にしていたが、世界を創造して数億年目にして生まれてしまった。
 最凶最初の魔王と呼ばれた存在が……これ以上強くなる意味も無く
 世界の3割を完璧に支配していた初代魔王クロイツァー。

 その当時、他国にはそこまでの強者はおらず魔力が無くても空気中の魔素を取り込み力にしていたのだ。
 クロイツァーの考えは簡単だった。竜族や龍族に使えて俺達が使えない訳がないと。

 創造神が逸脱した力を見て全世界に魔素の有効利用が出来るように
 魔力を操る術を全ての知的生命体に渡した程クロイツァーの力は優秀だった。

 その力は世界に変革を齎したが、同時に争いも生んだ。
 今までならクロイツァー1人が使えた力を自分達も使えるのだからと。

 しかし、クロイツァーは魔力の源である魔素を操る。
 魔素を魔力に変換して使う者達よりも数段上の力を持っていてすぐにその争いは鎮圧された。

 その頃から魔の王と呼ばれ始め称号に追加された。

 名実共に敵が居なくなったクロイツァーは妹に全てを任せて国を出た。
 人々が自分を見る目に浮かべる色が恐怖しかなかったからだった。

 護る為に手に入れた力は恐れられる力に変わってしまったと嘆いた。

 それから数十年、魔物や魔獣を減らす動きをしていた時だった。
 創造神は他の世界で運用されているダンジョンに着目した。

 それを管理する神が必要と考えたが皆不適格だった。
 それは全員がこの世界の子を好きで少し甘かった。
 世界で1番強い者を神にしようと龍族でも召喚しようとそう設定して来たのがクロイツァーだった。

 創造神はクロイツァーの願いと管理させるダンジョンについて話すと
 クロイツァーからの追加ルールが何個か付け加えられた。

『どうしてスタンピードを起こすんだい?』


 創造神の質問にクロイツァーは笑いつつこう言った。

『世の中、平和になりゃ今度は内部から争いが出る。
 一定程度の外に向ける刺激があれば欲望は外に向くだろう』

 と。統治者側からの意見で創造神は受け入れ2席に座る破壊神となったのであった。


 クロイツァーが破壊神になった後ダンジョンを創り
 世界に一定の混乱と破壊の仕事をした後、破壊神は神界から消えた。

 神界では破壊神の仕事は無いとダンジョンを巡り不備を確かめに行ったっきり帰ってこなかったが
 今回の件を見る限り中々面白いことをしていた様だった。

『さて、龍神よ申し開きはないな? 断罪の神からの裁定を待っていろよ』

 そう言うと何かをニヤニヤとしながら操作しつつエストは全員に感謝を告げて消えた。

 悔しそうな表情をする龍神と解放された喜びを爆発させる神や精霊達のテンションの差がやばかったのであった。
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