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共和国編〜好きに生きる為に〜

133話 ネロ視点

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 ローブのフードを被った男がこちらに手を向けた瞬間に俺の居場所は空にあった!?

「チッ!? なんだアイツマジか……殺す気満々じゃねぇかよ!」

 数十秒程で俺は火の魔法を使い何とか減速していると冒険者ギルドが見えた。

「あはははは!あんのクソ平民がぁぁぁ『フレイムバースト』死ねやぁぁ!?あ゛ぁ!?」

 マリウスと契約して以降、火魔法を使うと俺の魔法は2つ名の通り紫色の魔法となった。

 弾かれた魔法の紫炎を見てふと、俺はいつからマリウスと会ってない? と思いつつ落下最中にどこで間違えたのだろうかと死の危険が迫っているからか自己を見つめ直す時間が出来た。

 ギルドに入った時には残っていた酒も完全にこの上空で覚めてしまっていた。

「マリウス……聞こえるか?」

 久々に俺は友の中で唯一俺の側に残っていた筈の友を呼んだ。

『最低……平民、平民って。貴方もあの路地裏に居る子達や襲われた子達と同じ所から学園にスカウトされたんじゃなかったの?』

 その言葉は今、俺が1番気にしていて心に深く刺さる言葉だった。

 ケビンが居なくなってから目標を失ったけど
 何とか立ち上がり学園を首席で卒業してローズティア様と一緒にアイツを探してぶん殴ってやろうと思っていた。

 学園を卒業する前に、Bランクに上がり有頂天の気分だったが俺には共に喜び合う仲間は居なかった。
 ケビンが居なくなり、『知識部』は空中分解した。

 俺達はケビンに頼り、アイツもヘラヘラ笑いながらも助けてくれていたからどれだけ大きい存在か誰も気付いてなかった。

 よくよく考えれば……戦闘・経済・政治・医療全てにある一定の知識を要してるなんてそんな奴どこにも居なかった。

 学園を卒業した次の日に、いきなりバルカン伯爵家に呼ばれて養子にならないか? と言われ。

『伯爵家の当主なら公爵家令嬢でも降嫁出来るぞ?』

 俺の恋慕の情を的確に突かれてしまった。
 その時の高揚した気分は今でも忘れられない。

 そして、ローズティア様もケビンを探しに行きたいと言っていた。
 この話が持ち上がってからバルカン伯爵、いや義父はこの際に『仲を深めなさい』と支援してくれた。

 流石の公爵様も別件で忙しく騎士を2人しか出せないと言っていた所にバルカン伯爵は

『私の方で騎士を多く出します。人海戦術で探しましょう。公爵家から2人。うちから2人出してネロもBランク冒険者ですからな。
護衛としてはそれなりだと思われます』

 と説得してしまった。
 それから俺と騎士達で支援を多少受けつつ依頼を受けながらケビンが行ったと思われる共和国を探した。

 2年が経ったが見つからず、常に俺はローズティア様を護り通したりしながら
 ダンジョン等にも潜ってローズティア様の練度上げもしたりしていた。

 この辺りからローズティア様の態度が変わり始めた。
 常に俺が一緒が良いと、部屋も一緒になり俺達は遂に1つになった。

 『既成事実』が出来てしまったので責任は取らなきゃならない。
 既に義父には報告してあり、凄く喜ばれた。

 俺が養子になってからバルカン伯爵家では俺の事を使用人含め『小汚い平民』『寄生虫』『家畜の癖に』なんて言われていたが……
 手のひら返しで『次期当主』や『一生ついて行きます』なんて言われて気分は最高だった。

 公爵様も自分の娘から迫ったということもあり渋々認められた。

 それから更に2年が経って。
 ケビンの足取りは完全に消えてしまったし目的も分からずに帝国と共和国を行き来することが増えた。

 帝国に行けば賞賛され、甘やかされ欲望のままに生きていた。

 冒険者からは最初は祝福されたがそのうち何故か妬みの様な視線や陰口が加速した。

 今思えば、こんな差別的なクソ野郎になれば誰でも嫌うか!と妙に納得した自分が居た。

 そして今回成人前という事もあって、これが最後の『旅行』になると思っていた。

 昨日、突然兵士とギルド職員が訪ねてきた。

『貴方達の騎士が犯罪を犯し、抵抗が酷く殺意を持って武器をとった為に被害者に返り討ちにされた』

 俺達にとって寝耳に水だった。
 アイツら2人は確かに言動に問題はあったが、Cランク冒険者並の戦闘力は持っていたのでこの街にはBランク冒険者は居ない筈だった。

『事情聴取と責任の所在をハッキリさせたいので明日、冒険者ギルドまで出頭願います』

 俺達は意味が分からないと言ったが、認められなかった。
 その日は憤慨して、酒を飲みローズティア様と楽しんだ。

 次の日、ラーゼンさんに起こされるとギルド職員が来ていて来なければ強制拘束するというので出頭すると。

 そこに居たのは、若い青年とローブを被った胡散臭い奴らだった。

 人を呼び出して顔を隠すのかよ!と驚き腹が立ち文句を言ったらあからさまに不機嫌な態度と気配になったが……
 魔力も気も感じないし、孤児院の経営者とか言ってたから商人だと思ってた。

 あの一瞬で魔法を使っただけで俺とは天と地の差があると理解してしまった。
 どうやったらあんな高みに登れるのかと。

「アイツと高めあってたらあそこまで辿り着けたのかなぁ?」

 今までの人生で1番濃い時間は全てケビンとの思い出しかなかったことに俺は涙が溢れて来た。

『バカだね。もう耄碌したの?』

 キョトンとした表情でマリウスに毒吐かれた。
 おい、死にかけてるんだけどこっち。生前もそうだったがもう少し空気読め。

 ちょっと懐かしくて笑えてしまったが次の一言でそんな感情もぶっ飛んでしまった。

『友達の気配も感じ取れないほど修行サボってたの?
 ローブのあの人ケビンだよ? いいの? これぐらいの高さで死なないと思われてるから飛ばされたんじゃないの? 無理なの? ダッサ』

 俺はカチンと来た。っていうかアイツ……

「ケビンかよぉぉぉぉ! ちきしょぉぉぉ!」

 俺は久々に気の発露をしたが相当な負荷がかかる。
 魔法も使いつつもマリウスに魔力を渡し精霊魔法も使う。

「限界超えたらァァァ!」

『は? 昔はもっと出来てたよ? サボり過ぎじゃない?』

 こいつの煽りスキルはMAXなのかもしれない。

「ちきしょぉぉぉ」

 死ぬ気で俺は結界に吹き飛ばされつつも街の外に落ちていた。

 ん? ちょっと待って。マリウスは普通に結界透過出来たのになんで俺は出来ねぇえんだよぉぉ。 そういう細かい所があるのはアイツやっぱマシでクソ野郎だわ。

 体が、動かない……骨が折れたか?

『違うわよ? 贅肉で動けないだけよ』

「ンギギギ! ぜってぇ後悔させたるからなぁぶひぃっ」

『オークになるの? いやもうなってるか』

 辛辣ぅぅ。うぅ、情けない。マリウスもずっと我慢してきたのか。

「おい、アンタ大丈夫か?」

 そんな時だった。
 俺に話しかけて来たのは4人組の冒険者で1人の女の子は何故かこちらを見てビクビクしていた。

 マリウスはその子と目が完全に合っていた。
 精霊眼持ちか……俺と女の子を交互に見てマリウスが悪い顔してやがる。
 次の言葉は予想できるが、ろくなこと言わねぇだろうな。

『オークになったネロには興味ないしなぁ。こっちに乗り換えちゃダメかな?』

 何も言えねぇぇちきしょぉぉぉ。
 
 その後、俺は4人組の冒険者に治療してもらい街に戻ると結界は何故か通れた。

 そしてギルドに戻ると顔が真っ青な……いや1人は泡吹いて気絶してるわ。
 顔が青いラーゼンとローズティア様が居た。

 ローブの奴はフードを取って居て銀髪では無くて灰色の髪と黒の髪が入り混じった確かにケビンだった。

 俺を見たケビンの一言はとても冷たい声だった。

「かろうじて生きてるな。ゴミが!」

 あぁ……そういや貴族で何が1番大切か分かるか? って聞かれて俺は『金と権力』って言った時以来だなこの冷たい声と視線は。

 アイツの言葉は1つだったな。

 『信頼してくれる民と友』

 俺は腐っていたらしい……昔嫌いだった貴族になりました。
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