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共和国編〜好きに生きる為に〜
132話
しおりを挟む権力は嫌いだ。
いや、正確に言うと権力によって引き起こされる環境であったり、
優越・劣等感による欲が齎す人間の汚い裏側や変化を見るのが嫌いだった。
昨日のギルドマスター・サブギルドマスターと兵士長と俺とタビの5人で
帝国のあの騎士2人をこの国に連れて来た連中を呼び出したのだが……
「来ないなぁ……」
「来ないですね」
俺とタビは孤児院の子達のメンタルケアも気にしてるのでついつい悪くないお偉いさん方を軽く非難してしまうが如くぼやく。
兵士長さんは困惑、ギルドマスターは激怒して顔が真っ赤に
サブギルドマスターのダダンさんは無表情・無関心か?
朝イチに話をして賠償責任等の話し合いをしようとしていたのだが今はもうすぐ昼だ。
申し訳ないが1時間程前に催促の伝令兵士をお願いしている。
2階にある会議室からでも分かる位に下が騒ぎになったのが聞こえた。
下の階の気配は殺気立ったり、困惑したり、何か不穏な気配だったりと様々な気配が入り乱れた雰囲気になったからだ。
扉がノックされる。
「入れ……」
ギルドマスターさん? 怒りすぎて疲れてない?
俺とタビは今の所平常運転でお茶を啜っていた。
うむ、美味いのう。
「チッ、何なんだよ朝早くから平民の分際で呼びたてやがって」
そう言って入って来た青年は……ネロ? だった。
しかし首を傾げなきゃいけない程、その面影は薄かった。
体格は良くなり過ぎてっていうかぽっちゃりさんになっていた。
これがBランク冒険者ねぇ?
変わり果てた友に少し悲しさを覚えたが発言内容が酷すぎて笑えなかった。
「失礼致します」
そう言って次に入って来た少女は灰色の髪をした少女で何でこいつが居るんだろう? と素直に思ったわ。
厄介事センサーがビンビン反応してるよ……ローズティア嬢よ。
その後に入って来たのは老齢の騎士と若い騎士見習かな?
全員が座った所でギルドマスターが口を開いた。
「さて、くそ面倒だから遅れて来た事には言及はしない。
ただ、お前さんらが連れて来た騎士2人が自分達は貴族だからと
昨日だけで数十件の事件を起こした。他国でな? 抜剣状態で襲われた為に返り討ちにされたよ。
因みに孤児院を襲ったそうだ。なぁお前ら何しにここに来たの? 戦争吹っ掛けてんのか?」
「きゃっ、怖いわネロ」
そこでネロが魔力を練りあげギルドマスターの殺気立った気配を抑え込もうとする。
うわー……これが俺が学園の頃からローズティア嬢に近付きたくなかった理由だった。
前世で言うオタサーの姫兼ナチュラルブレイカーなのだ。
この子に欲は無く周りが勝手に忖度して動く為に相当タチが悪いのだ。
俺もローズティア嬢に泣かれてお付の従者に捕らえられた事でよく理解してる。
「平民の癖に調子に乗ってんじゃねぇぞ? このネロ・バルカンに文句あるなら言えよ。
そこのローブ被った奴らが被害者なんだろ?
言ってみろよ!」
えっ!? バルカンってあのバルカンか?
バルカン伯爵家はカースド公爵家派閥の貴族至上主義の家なんだけど。
よく入れたな? 平民のお前が。
「んー……えっと? バルカン当主? で良かったか?
違うなら発言レベル的にBランク冒険者如きが現役Aランク冒険者のギルドマスターに調子に乗るとか言えなくないか?」
「ぷっ……あ、失礼」
俺の正論とタビの煽りがぽっちゃりネロ君にクリーンヒットした。
「では私が。カースド公爵家次女ローズティア・カースドです」
そう言いカーテンシーをするけどさ。
「はっ? いやいや。君らアホなの? Aランク冒険者の発言権は侯爵当主相当だよ?
他国の公爵令嬢の発言権は高くて伯爵家、低くて子爵家相当だよ?」
あ、老齢の騎士の顔が青くなりだしてる。
「お前は誰なんだよ! ローズティア様に失礼だろうが!!」
騎士見習……いえかませ犬が叫ぶ。
タビが立ち上がった。
「おや、失礼致しました。今回被害にあった孤児院の経営者のタビです。
こちらの方は出資者兼オーナーです。
貴方達に顔を見せると他国なのに帝国のように振る舞われて危険ですので名乗りませんし顔も見せません」
老齢の騎士はハッとなり
「私はローズティア様の護衛騎士のラーゼンだ。
この度は本当にそんな事をあの2人がしていたのか確認しに来た」
「そうだ!これは俺達を貶める為にやったんだろ? 平民の癖に頭が回りそうだもんなそこのお前!」
何か……かつての友の姿に俺は悲しくなってきた。
タビを批判して怒らせようとしてるんだろうけど、鋼の精神をしてるからねこの人。
帝国の裏側の全てを知ってるし実行してきた人間だからな。
うん、これ以上は耳障りだな。
「うん、お前。いっぺん死んでくれないか?『アポート』『特定反射結界』」
俺は今まで完璧に魔力を隠蔽偽装していたがここで解いた。
ネロが慌てて剣を抜いたがその姿が一瞬で消えた。
これにかなり狼狽えてたのはローズティア嬢にラーゼン、それに見習君とタビ以外のこちら側だった。
「お、おい。どこにアイツ送った?」
ギルドマスターは俺に挙動不審になりながらも質問して来たので上を指す。
「昔くらいの実力があれば助かるでしょ。体が重くなり過ぎて耐えれなかったら死ぬだけだし。
そもそもさ。貴族だからって帝国の外でも何しても良いって訳じゃねぇし。BランクがAランクに噛み付くのも論外だよ」
「全くその通りですね。そもそも人探しをしに来てその探し人が経営する孤児院であと少しで殺人事件を起こしかけた等……恥を知りなさい!!」
うおっ! タビが怒鳴ったなんて初めて聞いたし見たからちょっとびっくりしたよ。
かなり鬱憤溜まってたんだろうな。
「あ、ローズティア嬢にラーメンさんだっけ?「ラーゼンだ」失礼。
ラーゼンさん。あんたら既に帝国に通報してるから」
「ど、どういう事でしょうか?」
ローズティア嬢は初めて困惑した表情をしてる。
「え? 責任追及次第ではお前らの首も寄越せって求める為だけど?」
ここで兵士長さんとギルドマスター達が怒り噴出させた。
部屋が軋む程の怒りに見習君は泡吹いて倒れた。
そんな時、窓から紫の光が見える。
「おい? ありゃ何だ?」
ギルドマスターが俺に質問して来たので
「あー空にぶっ飛ばしてこの街に絶対あの傲慢ぽっちゃり君は攻撃するだろうと思ったので
特定反射結界って言うアイツとアイツの攻撃だけを弾く結界を張りました」
そんな説明の最中、興味が無いと兵士長が1歩前に出た。話進まんと思ったのかもな?
「さて、私はこの街の兵士長サマールだ。殺人だけでも君達のお仲間の騎士2人は7人殺していた。
怪我人合わせりゃ40人以上だ。
どうする? 帝国の回答が来るまで拘束しても良いが……
賠償をするなら国外追放で済む」
「お、おいくらなんでしょうか?」
ローズティア嬢の質問にサマールさんは淡々と答える。
「1人あたり、白金貨1枚だな」
「そ、そんな馬鹿な!!高過ぎるだろうが!」
ラーゼンはこの法外な慰謝料に怒鳴るが……
「当たり前じゃね? 戦争吹っ掛けたのと同意義の行動されて。
ここには公爵家令嬢と養子とは言えバルカン伯爵家の令息が居るんだぞ?
大丈夫。お前らから払って貰えなくても親バカなカースド公爵様なら払ってくれるだろうて」
俺はニヤリと笑いラーゼンに話しかけた。
「お、お前……何故そこまでこちらの情報を持ってる?」
ラーゼンは更に顔を青くしつつも俺に質問して来たので呆れながら答えた。
答えはさっきタビが言ったのにね?
「はぁ? お前らが会いに来た人間なんだから知ってるに決まってんだろ?
学園首席の平民だったネロだって知ってるさ」
そう言ってローブを外すのであった。
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