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学園編
31話
しおりを挟む今、俺の目の前にはゴブリンの死体とコレットが解体ナイフを持って立ち竦んでいる。
そんなコレットに俺は残酷な一言を告げる。
「さぁ腹から胸にかけてぶった切れ」
解体場の責任者が凄くコレットを可哀想な人として認識してる。
コレットは俺にイヤイヤと懇願してる様に涙を浮かべ見つめてくる。
「なぁコレットさぁ。治癒魔法向上させたいならまずは人体の構造に着手しなきゃいけない。
しかし、人体構造なんて人間で実際に解剖出来るのは狂った人間だけだ。
魔物の中でもオーガやゴブリンは人間と中身の臓器は奇跡的に同じなんだよ
まぁ、魔石は人間に無いけどな」
無理……か。
解体して実際に触れた方が衝撃的で忘れないと思ったんだけど流石に急すぎたか。
「なぁコレット、俺が解体するから全部紙にかけるか?
実際に見ながら書いて理解するか解体して覚えるかどっちかしか無いんだ」
ここでコレットの目から光が消えた。
何故?
「……のよ」
「え? 何?」
「だから絵が絶望的に下手なのよ!!」
顔を真っ赤にフーフーと興奮して涙を流しちゃうコレット。
「なら解体場の責任者さんが暇そうにしてるから教わりながら腹切ってね?」
俺は笑顔でそう告げた。
コレットは今……うぷっと言いつつも1つ1つ臓器を取り出している。
「そう、それが胃でその上に繋がってるのが食堂で胃の下の管が細いのが小腸で太い方が大腸だ。
そう、そのちょっと変な色のデロッとした奴が肝臓な? 大丈夫か?」
正直コレットに覚えて貰う為なのでメモの絵は適当だ。
って言うより解剖を始めるちょっと前に適当に異世界の魔法と言ったら記憶の転写とか出来んじゃね? ってちょっとした冗談を思って念じてみたら出来ちゃったんだよね。
これ絶対神の力働いてそうなんだよねぇ。
だって有り得ないだろ? 前世の中学の学習の記憶がピンポイントで思い出せて
尚且つ転写は感覚的に光と闇属性の複合魔法だぜ?
今の俺には絶対無理な魔法が出来んじゃね? 位で使える訳が無いのでこれは終わったら教会に行くべき案件なのだろうなぁ。
そして今全ての臓器(男女共通の部分のみ)の解剖に目玉と脳は流石に俺も気持ち悪かった。
そして今俺が膝の部分と肘の部分を解剖している。
「コレットこれ見てここ」
軟骨の部分と靭帯を見せる。
そして腕を捻りどうやって骨と骨を繋いでいるかを見せる
「これが切れると激痛と治らないと関節が上手く動かせなくなる。
治癒魔法が上手い上級者はとんでもない事をしてるのがよく分かると思わないか?」
解体責任者のおっさんとコレットが首を傾げる。
何故分からないんだ? そして凄さを伝えたいと鼻息が荒くなる。
「だって考えて? 中の部分や筋や靭帯の構造を知らずに魔力だけで復元してるんだよ?
つまり、魔法の力と魔力の操作だけで時間を巻き戻す様に治してるんだよ?」
俺はおもむろに靭帯近くにある筋肉を切り筋を取り出す。
「解体のおっさんは知ってると思うけど無理な動きをするとこの筋が切れて痛みが出る。
でも人間の体もそこまで柔じゃない。
こうやってまとまってると次は切れないように頑丈になるし勝手に治る」
コレット分かってなさそうだな。
「ふむ、筋肉痛だな。魔物討伐依頼の後に休息を入れるのはこの筋肉痛が出る可能性があるからで。
昔は治癒魔法をホイホイ使えない人が多かったが自然治癒で治すと力が高まると言われ
冒険者は外傷が無ければ自然治癒で治すのが基本だな。
痛みは毎日体を軽く温まる位、動かせば数日で治るしな」
そう、筋肉についてコレットに知って欲しかったのは冒険者の当たり前にある知恵だ。
おばあちゃんの知恵袋みたいな脈々と受け継がれてきている常識だ。
割愛するが昔は教会の勢力が隆盛を極めた時代があり貧乏人にはとてもじゃないが治せない金額をぼったくってた時代があった時に冒険者の力量も上がりその時の生活の知恵だ。
「この筋肉痛は冒険者達の“今“では常識なんだよ。
でもこの情報は本には載ってない……いや理解出来ない内容なんだ」
2人はさらに黙る。
「どうして? って顔をしてるな。コレット治癒魔法の理論は?」
いきなりそんな事を言われて何を当たり前にと答え出す。
「そんなの私でも知ってるわよ!神様に祈りを捧げ治して貰うのよ!」
「ではさっきの鳥を俺が治せてコレットが治せなかった理由は?」
「そ、それは……私の祈りが足りなかったから?」
俺はガックリと肩を落とした。
「それも大事なのかもしれないけどね? 俺が外傷を治せない理由は治癒魔法に関する神様への信仰心が無いからかもね?
でも俺でも治せた部分があると言うことは」
「あると言うことは?」
目が輝いてるコレット、あぁコレコレ!このこれから知識を知った彼女は成長いや進化するのだろうな。
「外傷は神への祈り又は信仰心、内傷は知識によって発動する魔法なんだよ。
つまり信仰心と知識が揃って完成する魔法何だと思う。
教会が認定している上級治癒師は知識を持ってる可能性が高いと思う」
「それって……」
「秘匿魔法?」
あちゃーおっさんそれを言ったらダメだよ?
「おっさん、それはダメだよ? 教会が秘匿してるなんて言ったら不敬と言われちゃうよ?」
おっさんはそそくさと退場した。
「人間にも傷を治す力はそもそも備わっているのは分かるよね?
風邪だって薬を飲んで寝れば治るように」
コレットは頷く
「だけど、外傷は急速に治る。これは生物や人間の範疇を超えてる。
それは分かるよね? だから内傷は再生する力まぁここでは分かりづらいから人間の治す力を高めてる魔法なんだよ
上級治癒師は知識を持ってるかもと言ったけどもしかしたら魔力のゴリ押ししてる可能性もある。
だって聞いた話だと治癒魔法ってめちゃくちゃ魔力の消費量多いよね?」
コレットはうんうんと頷く。
「じゃあここで確かめてみよう。今から指を少し切るそれでコレットが治してみようか?
その前にどうしたら良いか教えてみて」
「えっと、ケビンが言うには皮膚は今までの私でも治せる。
皮膚の下は筋肉? があってそれが切られた状態だから治るように元に戻る様にするって事だよね?」
まぁ、細かい皮膚の下の説明とかしてもな。
「じゃあやってみようか!」
俺はナイフで指を少し切る。
するとプクッと血が出て指の上に血が丸のように乗る。
「ヒール!」
一瞬コレットの掌と俺の指が光ったと思ったら指の痛みと違和感が消えた。
コレットの様子を見るとプルプル震えている。
「嘘……治ってる?」
俺は指をスボンで拭うと指は綺麗に治っていた。
「治ってるね。消費魔力は?」
「いつも使う魔力何かより遥かに少ないし治るスピードも早かった」
「良かったね。これからコレットに必要になるのは何か分かる?」
「知識かな?」
「うん、それも必要だけど。治癒の効能が上がってもどこを治さないといけないか分からないと困るよね?
だから中級治癒魔法のひとつのスキャン?だっけ? それが必要になると思う。
さて、俺の指導はとりあえずここまでで今日は終わりだよ。帰ろうか!」
「うん!ありがとうケビン!」
そう言われて俺とコレットは寮に戻る前に先程作った資料を複製して1つをコレットに渡した。
「ゴブリンを解体して得た知識は秘匿した方が良い」
コレットは理解してないみたいだ、宗教の怖さを。
「どうして?早く治るなら良いじゃない?」
「んー神様大好きな人が居ました。
ある日女の子が来てゴブリンを解体した結果、色んな人を治せる様になりました。
神様大好きな人はどうしますか?」
「え? 信じてくれない?」
俺は体の前に腕をバッテン印を掲げる。
「正解は人間をゴブリンと同じにするな。異教徒や敵だと言って殺すか幽閉します。
その子が多くの人を治すとゴブリンと構造が同じと認め、尚且つ治せる人の方が信頼度が高くなり手に負えなくなるから」
コレットはここでようやく理解した様だ。
「ちょっと治るのが早くて消費魔力が少ない事……多くを助ければ人気者になり邪魔になるのね?」
俺はキッチリと肯定した。
「教会が動けば、貴族も動く。
今まで治せなかった怪我や病気が治されれば囲い込みで1番優しく最悪拉致幽閉だ。
その後は都合のいいように治癒に専念させられるだろうね」
コレットが震える声で質問してくる。
「最上級待遇と最悪の可能性を教えてくれない? ケビンなら分かるんでしょ?」
「聞かない方が良い事もあるよ? それでも?」
コレットは俺を強い意志で見つめ頷く
「最上級待遇なら教会に保護という名目で聖女か何かに祭り上げられチヤホヤされつつ幽閉だろうね。
外に出れるのは教会にお金を沢山払ってくれる人の依頼だけで後は監視付きで
成人したら男子禁制か教会の高位権力者又は外部の権力者の秘密の嫁かお金を更に支援してもらう為の関係作りに娼婦紛いの事をさせられるかもね?
最悪は教会なら異端児や邪教徒として討伐か遊ばれるだろうね
貴族も変わらないよ?子供という血を欲しがるか無理矢理されるか。
従わないなら処分、従うなら権力の道具として扱われるだろうね」
顔を真っ青にしつつもコレットは何か目的の為に絶対屈しないという表情をしている。
「だから知識を得た君はもっと伸びるだろうからね。
目的の人を治すまでは全力で頑張って終わったら隠居でも守ってくれる人の近くに逃げ込む事だね」
そっか……と呟いてるコレット。
「私もっと頑張るねケビン!あ!さっきの資料は私も秘密にするよ。
あ!でも進級の為の研究はどうしよ」
「あ、なら冒険者の当たり前の情報を研究したら? カモフラージュにもなるし筋肉や肌の存在に触れても余り変わらないと思うよ?」
「あ!ありがとうそうするじゃあね!」
そう言ってコレットは走り出した。
走り去る後ろ姿を見て
「青春だなぁ。帰る場所ほぼ同じなのにね」
そう呟いた後、おっさんに声をかけて鳥の魔物を貰い金を払った。
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