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第1章人族編

10話

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~タツミ・ミモリside~

「くぅ、ぎゃあああぁぁぁ」

1人の青年が地下牢で悲鳴を上げていた。
それを眺めているカイゼル髭のおっさんはニヤニヤと笑っていた。
青年は、痛みに耐えつつもキッと睨みを効かせる。

「ふむ、反抗的な態度は治らずか。ならばミモリ殿の安否は要らないという事か」

その瞬間、四肢を繋ぎ止めていた鎖が右腕のみ弾け飛び鎖がカイゼル髭のおっさんへと向かう。

「ふんっ!」

すぐ脇に居た護衛がその鎖を剣で弾き飛ばした。

「ふふっ、平和な世界から来たと言っても流石は勇者という事か隷属の指輪を着けられても尚反抗出来る精神力や耐性力には目を見張る」

「御守に手出してみろ、この世界の人間全員ごろじでやるぅ」

軽く痙攣しつつも、視線はカイゼル髭のおっさんからは絶対に外さないタツミであった。


「ならばコスアマの国益になる様に動く事だな。明日は危険区域の魔物討伐予定だ。怠けたり逃げ出したりしたら分かってるな?」

そのまま地下牢を出て行き笑い声が聞こえた。

「クソが、クソがクソがァァァ」

タツミとミモリは召喚されて1週間程度でコスアマがおかしい事に気付き逃げ出そうとして失敗した。
そもそもレベル1の状態で基礎値の高い勇者と言えどレベル40を超えた兵士達には簡単に捕えられてしまった。

そこからは地獄だった。
隷属の指輪を着けられて死地に簡単に放り込まれる。
1週間に1度だけ御守と会えるがそれでも安全が確保出来るとは言えない状況だった。

タツミは今はレベル45まで上がっていてもまだ隷属の指輪に反抗出来ずに居た。
これが耐性力がカンストすれば従ってる振りをして奴らを皆殺しにして逃げ出そうと計画している為絶えず抗ってスキルを上げる為ずっと反抗していた。


~とある1つの部屋~

そこでは、出された食事にも手をつけず泣いている女の子が居た。

「タツミ君が苦しんでいる。どうしよう」
何度も何度も自分が足枷になっているんじゃないか?と考え死のうともしたが……

1週間に1度会えるタツミに
『お願いだから生きていてくれ。それだけが希望だ。お前が死んでしまったら俺は壊れてしまう』

と毎回言われ、情けない自分を酷く責める事しか出来なかった。

そんな時、ふと声が聴こえる……

「え?どなたですか?」

遠く途切れ途切れだったが何とか聞き取ろうと努力する

『サマナ……3人目の……召喚者に……た……なさい』

「え!?3人目の召喚者?だってあれは失敗したんじゃ……」

『彼の名……カ……さ……ザーザーブツン』

大事な部分が聞き取れずに切れてしまったが希望は少しだけ残った形となった。

それはこの世界に来る前に会話した女神の声だったからだ。

ミモリは手を合わせて拝んで心の中でお礼を言った。
『ありがとうございます。女神様』

~神界~

『うひゃー我が世界ながらクソだねぇ……』

酒を飲みながらツマミをボリボリと頬張り球体に映し出されるタツミとミモリの状況を見て呟く。

『それにしても、スキルを使わずにこの強さカナエはおかしいわね!って言うより精神性が異常だわ……』

もう1つの球体には火炎瓶もどきのカプサイシン爆弾を投げ喜々と笑っているカナエが映っていた。

『この子達本当に同じ世界から呼んだよね?しかも国も同じ筈なんだけどなー』

そう疑いたくなる程の違いだった。

女神の今の状況はタツミとミモリを心配する部分は女神だが……
傍から見たらおっさんの休日の晩餐だった。


お腹をボリボリかいて
『んーーーわかんない!後はミモリちゃんの貞操を護れる様に少し細工してカナエに任せよう!滅ぼされたら滅ぼされたでしょうがないっしょこんな国。我が世界ながらこんなゴミが生まれるとは思わんかった。あ!ちょうどいいや、ドワーフの国から神への献上品の酒届いたープハーっ最高ー!』

既に世界は終わっているのかもしれない……
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