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プロローグ

病弱な少年

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「かっこいいな……」

 テレビに映る存在に、僕は胸を躍らせた。

 鮮やかに血を操り悪人を成敗し、瀕死の人間にはそっと血を分け与え命を救う存在──血の君主。

 僕は一瞬でその存在の虜になった。

 僕も血を操り、格好良く人々を助けたい。そう強く心に願った。

 しかし目を移せば、そこにはベットに横たわる自分の体があった。

 僕は生まれつき病弱で、まともに動くことすらままならない。

 だから血の君主になりたいだなんて、本当に夢でしかなく、僕には虚しい願いなのだ。

「はあ……」

 僕はため息を吐いた。

 何度この虚しさを感じたかは、もう覚えていない。

 窓の外を見ると、先月は満開だった桜は既に大半が枯れてしまっていて、あと何枚かの花びらしか残されていない。

 もういっそのこと、花びらと一緒に死んでしまいたい。

 そう思うようになった。

 辛い。

 毎日ベッドの上で過ごすことが、僕にとっては耐えられない苦痛と化していた。

 僕もみんなのように外で走り回りたい。

 テレビで見たスポーツに全力で取り組んでみたい。

 そんな当たり前の願いでさえ、僕にはひとつたりとも叶いはしないのだ。

 なんで僕は生きているのだろうか。

 何のために僕は生かされているのだろうか。

 教えてくれよ。教えてくれよ、母さん。

       【その日の夜】

 僕は何かの物音で目を覚ました。

 消灯時間はとっくに過ぎていることが分かるし、何より起きたところですることはない。

 個別の病室であるのでテレビでも見ようかとも考えたが、イヤホンは繋がっていないのでそれはやめておこう。

 僕はおもむろに目を瞑る。

 しかし、一度起きてしまってすぐには眠ることができない。

「ダメだ……」

 何度試みようとも眠ることは出来ないようだ。

 諦めて天井でも眺めていよう。

 暫くすれば眠気もするだろう。

 体感時間で一時間ほど立った気がし、僕は時計に目をやる。けれども、時計が示す時間は十分ほどしか進んでいなかった。

「眠れないな」

 半ば眠ることを諦め、朝まで血の君主になったら何がしたいという想像をすることにした。

 その方が楽しいかもしれない。

 叶いはしないが、時間潰しにはなるだろう。

 と、考えていると静かにドアが開いた。

「看護婦さん?」

 僕はドアから近づく人影に問いかけた。

 多分看護婦さんであろうと、何の心配もしていなかったが、影が近づくと共に僕は目を見開くこととなった。

「だ、誰……?」

 そこにいたのは看護婦ではなく、ロングコートを着た見知らぬ老人であった。

 彼はおもむろにポケットからスマートフォンを取り出すと、ある動画を僕に見せた。

『ごめんね。お母さん、もう疲れちゃったの。ろくでなしの夫に、病院から動けない子。どっちの世話をするのも、もう限界。だからお母さん、もう全部終わりにしたいの』

 画面に映し出されているのは、明らかに自分の母親であり、最も信じていた筈の人。

 見間違えることなどない。だって、僕が一番愛を求めていた人なのだから。

「どうして?嘘だよね、母さん?」

 動画には続きがあった。

『だからこの人にお願いしたの。夫も子供も、どっちも殺して頂戴って。だから、お願い────』

 老人はもう片方の手で銃を握った。

 銃口は僕の脳天に向けられ、何一つの揺らぎはない。確実に僕を殺す気だ。

 やめて、やめてよ母さん。

 僕いい子にするよ。何でも言うこと聞くよ。

 だから、死んでなんて言わないでよ。

 僕は生きてちゃいけないの?

 嘘だよね?全部、嘘なんだよね?

 これは現実じゃない。夢だ。夢以外あり得ない。全部、僕の夢だ。

 こんな夢早く覚めてくれよ。

『────死んで』

 動画の終わりと同時に引き金は引かれ、発砲された弾丸は僕の頭を貫いた。

 痛い。体が焼けるように熱い。

 夢なんかじゃ無かった。全部、現実だった。

 あんなにも僕は信じていたのに、裏切られた。こうもあっさりと。情なんてなく。

 ああ、これは死んだな。

 溢れ出す血は止まる気配を見せず、僕の視界を赤く埋め尽くしていく。

 こんな時、血の君主だったらな。

 血を止めて、流れてしまった血は鮮やかに、あの老人を殺す武器に変えられたのに。

 今の僕じゃ何もできずにただ、死を待つだけだ。

 死にたいって思っていたけど、何もできずに死ぬとなると後悔しか生まれないや。

 やだな。この先僕はどうなるんだろうか。

 天国に行けるのかな、それとも地獄かな。

 どっちにしても、ここよりはいい場所か。

 もしも、もう一度人生が歩めるのなら、今度こそ血の君主になってみたい。あの存在のように、血を操って人を救いたいな。

 スローだった時間はあっという間に過ぎ去り、僕の脳内は思考能力を失う。

 次第に視界は黒く変わっていき、いつしか僕の意識は遠い何処かへと消えてしまっていた。
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