転生ペンギン

大石或和

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第一章.転生、ペンギンになる

覚悟

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 日光が燦々と照りつけるこの戦場と化した大地に、魔王軍幹部ザリアスは君臨した。
 ペンガの攻撃から危機一髪で生存した魔族たちを蹂躙し、圧倒する姿は最強の武人とでも言えようか。
 ペンガとレインの息の根を止めるべく、【固有結界】を展開し逃げ場を無くす。
 【固有結界】の出現と共に魔力が正常な流れを失う。
 ザリアスが所有する【固有結界】の効果は、魔力の完全排除とその場にいる者全員の監禁、及び特性の無効化。
 その効果故に、人間や魔王軍幹部からも一躍恐れられている要注意人物だ。
 欠点を挙げるとするならば、魔力を使わずとも戦闘が行える者に使用が限定されること。
 しかし、その効果は絶大だ。
 魔法での戦闘が普及しているこの世界で、並大抵の人間は対象出来ず討ち死にとなるだろう。
 さて、どうするものかと。

「──────────!!」

 レインが何かを伝えようとしているが、ペンガには全く聞き取る事が出来ない。
 厳密に言うと、一応話してはいるのだ。
 ペンガの未知の言語で。
 では何故こうなったのか。
 それはザリアスが発動させた【固有結界】のせいでペンガは特性の使用が出来なくなったからである。
 そのため、特性にあった【全言語翻訳】が機能しなくなり、会話をすることが不可能となった訳である。

「レイン、今なんて?」

「────!?──────!!」

 特性【全言語翻訳】は耳に入る言葉だけでなく、自身の発した言葉を相手が知らなければ、それさえも翻訳して伝える機能があるため、レインも同時に聞き取れない。
 連携が取れなくなった以上、もう一人で戦うしかなくなってしまった。
 とは言え、ただのペンガに何が出来る?
 物理攻撃しか出来ないペンギンが、真っ向勝負で魔王軍幹部に渡り合えるのか?
 否、そんな可能性は極めて低い。
 勝機はゼロに等しいだろう。
 それが理解できる頃には、ペンガの足は震えて一歩も動かす事が叶わなくなっていた。

(‥‥‥‥動かない!?どうして、どうしてだ。少女を助けて時は、簡単に動いたのに)

 彼を縛り付けるのは、何者でもない恐怖。
 特性によって無事を確保されていた異世界の短い生活の中で、死という文字を忘れかけていた事による恐怖の増幅。
 どう足掻いても改善される見込みは皆無で、諦めるしか無いようにも思えた。
 そう考える毎に。

──死にたくない。

 このように思えて仕方がない。
 一体自分が何の因果で転生したかなんて知らないが、なにもしないで死ぬなんて最悪としか言い様がない。
 しかし、幸運な事にこれはペンガの命だ。
 それ相応の覚悟があれば幾らでも変えることが出来る。
 足掻いて、足掻いて、足掻いて、その命を明日という先に辿り着かせるのであれば、必ず今日とは違う運命に行ける。
 なら、そうならば、そうであるのならば────

「────俺は、今の俺を諦めない!!」  

 意は決した。
 同時に、ペンガの覚悟に同調して何かの歯車は再び動き出す。
 今回はやけに速い。
 一歩、また一歩とペンガの足は動き出した。
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