笑いが絶えない機能不全家族

四月一日

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中学受験

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私は元々ピアノを習っていた。

私が習いたいと言ったわけではなく、上三人が習っていたからという理由で。平均よりも高い身長、同様に指も長く、ピアノの先生はとても気に入ってくれていた。


といっても、やりたいわけではないものを毎週学校帰りに通わされ、ましてや練習をしなければいけない状況は小学生ながらに面倒だったように思う。

ピアノをやっていて楽しかったと思った記憶はない。そもそも記憶が殆どないので何とも言えないけれど。


小学六年六月

転機が訪れる。

「ピアノやめたい?」

母からの不意な問いだったような覚えがある。脈絡がないのはいつもの事なので気にしていないが、兎も角頷いた。

「ピアノやめてもいいから、受験勉強をしてね」

受験勉強。自分には大学まで無縁だと思っていた単語に戸惑いつつも、正直中学受験であれば落ちたとしても何らデメリットはないのではないか。はたと気づいたその事実に、了承の意を返した。

実際は返事が何方だろうと決定事項だったのだろうが、建前として本人の意思を尊重する形をとったのだ。

上の三人が通っていた塾に通うのだろうか、そう漠然と考えていた。どうやら金銭的困窮により私立中学への進学が危ぶまれていたようで、全国的にも名を馳せている中学受験の塾はそこそこの金額がするらしい。その為、最近出来たばかりで比較的お金がかからない塾へ通うことになった。


小学校はバスで通っており、家の近くではなく電車で三十分程の県内メインステーションからバスに乗っていた。

そのメインステーションから、徒歩五分程の塾だ。

本来は大学受験生向けがメインで、最近になって中学受験向けの塾を開講したらしく、私が入塾した時点でも同級生は四人。最終的に、一人は来なくなり計四人で勉強していた。


私が入った塾は多分緩々の分類に属すると思う。

週三、午後五時から午後七時までの二時間。確か二コマに分かれていた気がする。それだけ。

当時、同級生の四割は中学受験をする予定だった為、他の塾の様子を聞いてみると夜の九時まで勉強をしていたり、土日は模試があったり、私が想像していた以上にハードな実態があった。

しかし、何処か他人事だと思っていたし、何より、それ程までに勉強をしているから彼らは成績も優秀だったんだな、と素直に感じた。


流石に緩々の授業しかしてないとはいえ、夏が近づくと本格的に進学先に応じて先生の対応も変わってくる。

模試も二ヶ月に一度受けており、志望校などなかったが母の意向で県内の受験できる公立中学を基本的に志望校として提出していた。

想像の通り、模試の結果は惨憺たるもので、志望校合格どころの話ではない。

かといって、そんなことを言われても、別に受験がしたいわけでもない私のモチベーションが上がるわけでもない。

母だけが焦っていた。


夏休み。

本来なら楽しい休みの連日の筈だった。けれど、週五に増えた塾の講義。といっても午前中だけなので、わりかし軽い方ではあるけれど、どうせ早起きをして塾へ行くのであればそのまま涼しい空間で夏休みの宿題でも解いておこう。

実直な程に、夏休みの間中宿題を繰り返し解いた。

決して勉強をしたいと思っていたわけでも、受験合格を考えていたわけでもないけれど、少しずつ問題の答えが分かるようになっていく快感があった気がする。
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