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家族紹介:A
しおりを挟む姉兄兄私の順の兄弟がいる。姉をA、上の兄をB、下の兄をCとする。
Aは、一回り上のヒーロータイプ。
私が生まれる前、恐らく小学生の中学年位から全国的にも名を馳せた中学受験向けの塾へ通わされていた。何分、生まれる前の事なので理由は不明だが、恐らくは母の願望だろう。
Aが生まれて少しした頃、県内でもトップクラスと言われる私立中学が開設した。母は、そこに通わせるべく洗脳の如く、中学が見える道路から校舎をAに見せ「貴方が通うところよ」と言っていたらしい。
だが、Aが中学受験をさせられた当時、中学受験という概念は田舎にあまり浸透していなかった。そんな状況で中学受験を行う子供達は、本人の意思か否かは不明だが、真剣だ。Aにやる気はなかった。だが、母がキレる。怒るのではなくキレる。形式上の塾通いと中学受験をさせられ、結果的に異なる中学へ進学する事となった。
母の素晴らしい所は、洗脳の如くいっていた中学に入学できなかったからといって、私立中学への進学を諦めない。別の私立中学へ進学。Aも、受験勉強でまともに小学校の友人ができていたわけではなかったので良かったのかもしれないが、そもそも私立と公立を選択する自由はなかった。
といっても、比較的明るいAは中高は楽しく過ごしたらしい。
らしいなんて言うと他人事めいているが、私は殆ど小学受験を始める頃までの記憶がない。完全にないわけではなく、ポイント毎に印象的すぎる内容は覚えているけれど。
そして、問題の大学受験。
年が離れていて、まともに喋ってなかったにも関わらず、同じ血が流れていると感じた。考える事は一緒で、短大を志望したようだ。そもそも、やりたい事もなければ学力も高くない、強いて言うなら短大だろうか、位の提案。
しかし、母は認めない。
結果、Aは一浪し地元の国立大へ進学。高三のAは、先生から一念発起しなければ、と言われたのだが一年放棄と思うほどに浅学な人。しかし、そんなAも本来の意味通り一念発起し、無事に大学進学。
新しい不幸が幕開く。
大学生といえば?
飲み会、サークル、泊りがけの旅行、バイト…
色々とあるだろうけれど、父母は無駄に過保護だ。多分だけれど、子供全員が成人した今でも私達の事を小学生以下だと思っているんだろう。
Aが連絡をしたとしても、しなかったとしても、午後十一時までに帰ってこいという。帰ってこなければ鬼電、迎えに行く。電話に出なければ、二時三時、下手すると夜明けまで寝ずに待っている事も。
一回や二回ならばAも謝っただろうが、毎回そうなると次第に飲み会にも行きにくくなる。毎回、酔いも回ってテンションが上がってきた頃に、九割ギレの大人が乗り込んできて一人を連れ帰る。酔いもさめそうだ。
「そろそろ信用してくれてもいいのでは?」
Aの切実な願いに「信用できるわけがない」とぶった切る。
根拠などあるわけがない。信用も信頼も何もないのだから。
そんなAらは、恐らく普通に生きていれば自分に自信も持てただろうに、根拠のない否定をされ続けた末に就活は惨敗だった。
何でも、当時は売り手市場で大抵の人はすぐに採用が決まっていたらしい。
当時のAは既にうつ病になっていた。きっと最後の力を振り絞り、自分の異変に自分で気づいたAが通った病院は、母の意向で転院させられた。今以上にうつ病などの精神疾患に当たりが強い時代だった事もあり、母からすれば甘え以外の何でもなかったのかもしれない。
うつとインナーチャイルドによる積み重なった自己否定を、何かしらで覆い隠して掴みとった内定は、大学四年の年末。
当時の就活時代の話は、Aから後々聞いた。客観的に聞く分にはスゴく面白い。
母は、ある宗教家にのめり込んでいた。宗教家という表現が適しているのか分からないが、とにかく私の目には宗教家に映った。
一人大体二十~三十分だろうか、それ位の時間を一つの部屋で真ん中に仕切りをつけただけの空間で、話を聞くスペースと待合室で分けられた中で話を聞くわけだ。
話を聞く前後には、何かしらのお経を唱えたり、大幣で頭をはらわれたり、そういった儀式があった。
母は、Aの就活についても話した。「夏に決まる」「次の面接で決まる」そんな適当な事をいうが、母からすれば神託。
Aにその時期に受ける会社はないのかを詰問し、会社のパンフ等を宗教家によって作らされた仏壇に供える行為が何度もあったようだ。何せ面接の日程まで把握されており、当日の朝には「今日の面接で決まるから」なんて子供を信用して、というよりも宗教家の言葉を盲信して述べられればやる気も削がれる。
そんなこんなで、決まる事もなく時が過ぎ、何とか決まった会社は大手企業。やはりヒーローは違う。
今だからこそ思うものの、当時のAにそんな事を思う余力があるわけもなく、縋り付いた藁だ。入社式当日、Aは過呼吸を起こし途中で帰ってきた。
「ここしかない、もうここしかないんです。取り消しになりませんか?」人事に縋りながら帰路へついた話は、十年経った今聞いても胸が痛い。
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