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44【番外編】幸せのカタチたち

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暗黒龍を倒し、魔物が出てこない世界になったことにより、人々から魔力、加護やスキルが徐々になくなっていった。

前は使う事が出来た生活魔法も、使えなくなってくる。

それは地形にも変化をもたらした。

アンブシュアは火山の活動を停止し、むせ返るような暑さはなくなった。

カリフィネは吹雪く時期が短くなり、寒さも若干和らいでいると聞いた。

落ち着いたらカリフィネまでまた行ってみたいな。

魔力で動いていた家電製品を、電気で動くようにする為、風力発電をなんとか完成させ、またオルテュース商会へ持っていった。



「レーナお姉さま!いつもありがとうございます!もうかなり大きいお腹ですわねー!」



エマが出迎えてくれた。

当然マジックバックも使えない為、荷車に乗せている。風車ぐらい大きいものではない。

屋根に取り付ける扇風機くらいの大きさだ。



「そうなのー!もう大変なんだよー!下着も靴下も自分で履けないのー!」

「レーナ!そんなこと言わんでえぇ!」

「恥ずいやつぅ!」



今日のお供はカサトとエタン。

何とエタンは暗黒竜が抜けてから、髪と目が真っ青になってしまった!

だから今のエタンを見ても、誰も藍雷とは結びつけられないだろう。

それに性格も少し丸くなった。結構毒つくし噛み付く癖は治ってないけどね。



「マルセルにも挨拶していくねー」

「はい!レーナお姉さま、時間があれば工場にも寄って行ってくださいな!」

「了解ー♪」



エマの隣の店に向かう。

工場とは。シャンプーとリンス、石鹸、化粧水などを作っている所だ。

場所は家を買うときに見た、あの一軒家を立て直している。



「あ♡レーナ様♡」

「マルセルー!お昼ご飯だよー!」

「家から出て大丈夫なのですか?安静にしていた方が…」

「大丈夫だって!これぐらい動いた方がいいからー」



みんな過保護過ぎるんだよね。

触っちゃいけないものみたいにあたふたしてるし。

みんなより初産の私が余裕あるってどうなの?



「でも、今日も朝ごはんあんまり食べてないだろぉ?」

「うーん、食欲ないんだよね。もうそろそろ産まれるのかも?なーんて…」

「今日にでもか?!産婆に言って来ないと…!」

「え?ちょっ、まっ!」



静止の声も聞かず、カサトは足早に部屋を出て行ってしまった。まだ陣痛もきてないのに!

マルセルにお昼ご飯を渡し、後を追って出て行くもどこに行ったかわからない。

諦めた。



「…ま、家に返ってくるでしょ。エタン、行こ」

「お、おぉ…」



工場へ向かう事にする。

私の手を取って腰に手を添え、私と同じスピードで歩くエタンは、本当に変わったと感じた。



「俺様の子供…早く会いたいなぁ…」



と極上の笑みで話しかけてくるのだ。

こうしてたらイケメンで物凄くいい奴なのに。

他の夫たちとは仲良く出来ないんだよね。

負い目があるからかなぁ。ぼっちになりたがるんだよねぇ。



「一番目の子供が産まれたら、エタンとの二番目の子供はみんなの子供が産まれてからだからね?」

「わかってる…。ありがとう、一番に産んでくれて」



その笑みを他の夫たちにも向けなさいよ!絶対に仲良くなれるから!

そう言いたいけど、私だけの特権のようでまだ言い出せない。

子供が産まれたら言おうかなぁ。

工場に着き、ちゃんと作れているか見て回ったけれど問題もなく。

家に帰る途中で屋台に寄ってお土産を持って帰ってきた。



「レーナ!おかえり!」

「ただいまネージュ、ハルト!ちゃんと出来た?」

「レーナ様、お帰りなさいませ。ちゃんと出来ていましたよ。そろそろ収穫しても宜しいかと」

「そっかぁ!楽しみだな~」



ネージュが寄ってくる代わりに、エタンは離れてソファへ腰掛ける。

早く慣れればいいんだけど。

ちなみにネージュとハルトは家庭菜園に力を入れてくれている。

お土産をテーブルの上に広げ、緋色たちも呼ぼうと家から出ようとした所でカサトが帰ってきた。



「ぅわっ!」

「きゃ…ぅっ!?」



驚きでお腹が痛くなってきた。

その場に崩れてへたり込む。



「お腹…!いた…っ!」

「レーナ!部屋へ…!」



カサトが無理やり私を起こそうと腕を掴むけど、無理無理無理!無理ー!!その動きすら痛すぎる!



「むり!ごめん!」



転移魔法で部屋のベッドへ飛んだ。

実は、私のスキルはまだまだなくなってなくて。

加護もあるし、職業も勇者と精霊女王のまま。

それでもみんなに合わせて普段は使わないようにしている。

ドタドタと足音が聞こえ、産婆さんだけが入ってきた。

産婆さんには後で記憶を消しておかないと。

魔法がまだ使えているのがわかったら、誰に言いふらすかわからないし。



「娘!今は産むことだけに集中しな!」



叱責されたので産むことだけに集中した。

初産と言う事もあって、時間が長くかかってしまった。

私のうめき声に、夫たちは部屋の外でやきもきしたと思う。

この世界では菌を入れない為に産婆以外の人は入れない。

10時間にも及ぶ出産で、出てきた子は赤髪の女のコだった。



「かみ…赤…っ!?」



ってことは、カサトとの子供?!



「娘!もうひと頑張りしな!」



へっ?

本当に、産婦人科があれば良かったと心から思った。

次にお腹から出てきた子は、藍色の髪の男の子だった!



「ふ、ふたごー?!」

「ふーっ、頑張ったね!娘!初めてで双子なんて奇跡だよ!」



一番目に産むという約束は、カサトとの約束だった。

暗黒龍には悪いけど、私はその事がもの凄く嬉しかった。

だけど、エタンとの子供なのに藍色なんて。

どうしてだろう?

でも今は自分にお疲れ様と言ってあげたい。

産婆に後の事を任せ、私は意識を手放した。



重い扉から開かれた、産婆が腕に抱いていたのは二人の子供。



「ほら、一番目に産まれた子だよ」



娘との約束で、一番目に産まれたのは藍色の子だとした。

何か理由があるんだろう。

青い髪をした男に抱かせる。



「娘は双子を産んだ。二番目に産まれた子だよ」



赤い髪の男にも抱かせてやる。

男たちは涙を流し、お互いを見て笑い合っていた。



「…幸せにしてあげな。この子達も、産んでくれた娘もな」

「あぁ、勿論や…」

「ありがとう…」

「夫がこんだけいるんだ。次もあたしを呼んでおくれ。娘がまだ魔法を使える事は、墓場まで持っていくからよ」



そう言って子供たちを受取り、細かい指示を出して部屋の中へ戻っていった。





赤毛の女のコにはルージュ、藍色の髪の男のコにはアンディと名付けた。



「ふふ、かーわいいー♡」



産まれた子供に罪はない。

勿論誰との子供だって愛情は変わらず注ぐ。



「母になったレーナ様の方が可愛いですよ」

「あー!ぼくが言おうとおもってたのにぃ!」

「こらネージュ!ルージュが起きるやろ!大声出すなや!」

「…アンディが起きるだろぉ、カサト…」



何があったかわからないけど、エタンがみんなに歩み寄れてて驚いた。

一番驚いたのは双子だったことだけど。



「可愛いねー♡」

「緋色のところは、まだかなぁ~?」

「ふぇっ?!」



真っ赤になる緋色が可愛い!

グリさんも視線を彷徨わせてるし、お似合いか!



「でもでも!次はドラコさんとの子供かなー?」

「うーん…みんなには悪いけど…正直もう産みたくない…」

「「「「「えぇっ?!」」」」」



気を取り直した緋色の言葉に爆弾発言をしてしまった私を、夫たちが泣きながら縋ってきたのですぐに前言撤回をした。

あぁ、一妻多夫がこんなにも大変だったとは。

受け入れた過去の自分を恨めしく思った。
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